第5話 4
咲さんは三十二歳。仕事でもプライベートでもスカートが似合う女性だ。
着替えた咲さんが出てきて目に入ったのは青系のチェック柄。キルト・スカートだと判別できた。俺はまだ女性物は勉強中で、店にはイヤリングなどの小物やスカーフしか置けていない。そのうち女性物の服が置けたら素敵だと思う。
そして上半身に注目。白地のシャツに黒字で『INPACT』とプリントされている胸のロゴを見て、その場所にあるはずの起伏が緩やかなのを確認した。
なぜその文字にしたんだろう?
「なによ。どうせ胸は無いわよ」
どうやら俺の視線はそこに行っていたらしく、ジト目で自虐的になってしまう咲さん。ここはあえてスルーしよう。
「着替えて落ち着きましたか?」
「・・・まぁいいわ。で、これからどうするわけ?」
「これからアイシャさんを社長のところに連れて行こうと思います。このままじゃ出掛けられないので、コーデお任せしてもいいですか?」
「えっ?そういう流れでいいの?アイシャちゃん」
「はい。ハルト様がそうおっしゃるなら」
「様って・・・ハルくんこの子に何したのかな〜?」
眉を釣り上げて疑いの目で俺を見てくる咲さん。
いや、ちょっとコスプレ漫才してただけなんですけどね。まだそれ続くのか。
「ハルくんがコーデ考えた方が今後のためになると思うよ?うーん。こんだけ素材が良いと地味めのほうが良いかも・・・」
そう言いながらアイシャさんの前髪をずらして顔を覗き込む咲さん。そうやってさりげなく髪を触っちゃう感じが俺には真似できなさそうだ。
「あっ、ほんとにズラじゃないのね」
「確かめてたのはそこですか」
「疑っては無かったけどさ。んー、この長い髪も目立つよねぇ。店にある帽子で隠そうか」
まるでスタイリストのように色んな角度からアイシャさんを眺める咲さん。そして金髪を束ねようとした咲さんの手が止まる。
「うわー、コルセットの締め方が半端ない・・・」
「コルセットってバレリーナの人がしてるアレですか?」
「その言い方、服職人としてどうかと思うよ?」
ですよねー。
「すみません。女性物はまだ勉強中でして・・・」
「ゴスロリ系とか見たことぐらいあるでしょ?」
えっ、なぜゴスロリなんだ?
「あー。俺、足元に目が行くのでわからないっす・・・」
「ええええ!?ハルくんの厚底フェチそこで発揮するの!?」
そう、何を隠そう俺は厚底靴大好き人間である。ちなみに最近のマイブームは厚底ハイヒールを作ることだ。あの煌びやかな黒と重厚感がたまらない。
おっと脱線してしまった。
そして咲さんと話しながらアイシャさんのコルセットの締め付けが緩くなってきてきた時だ。
アイシャさんの体に異変が起こった。
ーーーボン!
「「は?」」
俺と咲さんの声が綺麗に重なる。
そしてその変化とは、目の前のアイシャさんがスレンダー美少女から巨乳美少女に変身した姿だった。
「やっと、たくさんお話しできますね」
そんなデカイものを無理やりコルセットに押し込めていたのだから、解放された彼女の、まさにその胸のつっかえが取れたような声はとても澄んでいて、
「ここから先は見てはダメですよ、ハルト様」
優しく諭された俺はその言葉の意味を数秒後に飲み込み、顔を背けてトイレにダッシュしたのであった。
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