第4話 3

深夜に電話することが失礼なのはわかっているのだが、急に心が直角に跳ねるようなそんな気持ちに呑まれた。なんだか学生の頃、夜に彼女に電話するようなそんな懐かしさに似ている。


だがそれは咲さんに対しての感情では無く、消去法的に目の前の彼女のせいなのだが。


ツーコール後、咲さんは出てくれた。


「咲さん、緊急事態です」


『どうしたの?』


「金髪の女の子を会社の犬小屋で拾いまして・・・」


『何を言ってるの?正気?』


正気って・・・。社長と同じ様なこと言うんだな、咲さんは。


「本当です。信じられないかもしれませんが」


『あー、もう今そっちに行くから。何もしないでね』


「あ、あと女の子の服を一式持ってきてくれませんか?」


『わかった』


何もしないでね、って失礼な人だ。なんか電話の感じだと俺が悪いことしたみたいな話し方だったので、少しだけ気分が悪くなった。


電話が終わったので、アイシャさんに向き直る。この子を見ながらの電話だと声が上擦りそうだったので、背を向けていたのだ。


アイシャさんは俺の携帯を珍しそうに見ていた。



ーーー


何もするなと言われてたので立ち尽くすこと数分後、窓に車のライトの光が入るのが見えて、咲さんが来てくれたんだと察知した。


「はい到着。ってうおっ。本当にいたし」


咲さんはアパレル系女らしからぬ緑の上下スウェット姿で現れた。髪はいつものポニーテールだが、眼鏡姿は見たことが無い。完全にオフの格好だった。


「えっ!?何この子可愛いじゃん!!天使じゃん!」


バッと素早くアイシャさんの手を取ると拝む様な動作を繰り返す咲さん。


俺もアイシャさんもポカーンとしてると、


「ねえ、ハルくん。この子養子にしちゃダメかな!?」


こちらに振り返りとんでもないことを口走ったのだった。


「いや、落ちついてくださいよ咲さん。咲さんはこの子知ってますか?」


「いんや?知らないよ?」


咲さんは首を横に振る。


「私の名前は津田咲だよ。あなたの名前は?」


「アイシャ=グランドベルと申します」


ニコッと笑ったアイシャさんに咲さんは尻餅をついてしまう。どうやら神々しい笑顔と純白のドレスにやられたらしい。


「き、着替えてくれば良かった・・・」


きっと、アパレル系女のプライドがズタズタになったのだろう。でも咲さん、こんな深夜にお洒落しなくてもいいんじゃないですかね?


「わたしを干物女みたいに見ないで!」


何も言ってないのに、咲さんは自分の荷物を持ってトイレへと行ってしまった。

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