第6話
花火大会が終わり、迎えに来たタオくんのお母さんとタオくんを見送って、大人だけになった俺たちはもう少しだけ酒を飲んだ。
「あ~いい花火大会だった~!」
由紀子さんは、久々の日本と、お酒を満喫したようだ。
「ほんとね~もう一本ビール飲んじゃお!」
「あと一本だけだからな」
そう言いながら、はるかにビールを手渡す。
「なんだかんだ言って、やっぱり圭ちゃんははるかちゃんに甘いのよね」
「そりゃそうでしょ、大好きだった元カノですからね」
「ちょっと圭吾!あんた、さっきはタオくんの前であれこれ話して!!」
酔いが回って忘れているんじゃないかと思っていたことも、はるかは憶えているようだ。
「なんだよ、ホントのことだろ」
「ホントのことでも、生徒の前なのよ!空気読みなさいよ!
あんた、まさかタケルくんに変なこと言わなかったでしょうね?」
「…言ってたら、どうする?」
ピタッとはるかの動きが止まった。
「なに?お前が俺の元カノとか、言ったらマズかった?」
「圭吾…締める…」
そうか、俺たちの関係をタケルくんに話したら、はるか的にはマズいわけか。
まぁ、元カノとは言わず、それを匂わせるようなことは言っちゃったワケだけど。
これは、今後の取引に使えるかもしれないな。
「言ってねーよ。タケルくんだって、お前に対する態度、変わってなかっただろ?」
「変わってないわよ、っていうか、タケルくん、無表情なことが多いし、よく分からないのよ」
そういって、ビールを一気飲みする。
「でも、お前の前じゃ笑ったりしてるじゃん」
「うん。笑顔を見せてくれることもあるけど、よく分からないの。彼の本心が見えれば、きっともっといいレッスンができて、分かり合えると思うのに…」
そう言って、テーブルにもたれかかる。
「ふーん…」
なんだか、タケルくんの話になると面白くない展開になるな。
『分かり合う』なんて、生徒に使う言葉か?
しかも、相手は男子高校生だぞ。
分かり合ったって、きっとロクなことがない。
「はるかちゃん、飲みすぎよ。大丈夫?」
由紀子さんが、はるかの手からビールを取り上げる。
「もう、ここまで。全国大会に向けてのレッスンでストレスも溜まってるだろうけどね。圭ちゃん、はるかちゃんを2階まで連れてってあげて」
「はいはい、ほら、はるか、立てるか?」
「大丈夫よ、一人で行ける…」
そう言って立ち上がった途端によろける。
「酔っ払いは、たいていそう言うんだよ」
「酔っぱらってないもん…」
「あんまりワガママいうと、お姫様抱っこで連れてくぞ?」
「分かったわよ、腕持てばいいんでしょ?!」
酔っ払いの逆切れかよ。
はるかの体を支え、歩き出す。
「私、ここ片付けて家に戻るからね。玄関の鍵開けておくから、1階の客間で休んで。お布団はもう敷いてあるし」
「ありがとうございます」
今日は、由紀子さんの家の客間で眠ることになっている。
「分かってると思うけど、圭ちゃん、送り狼になったらだめよ」
「分かってますよ。俺、既婚者ですから」
「そうね」
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