第5話

あの日の花火も、こんなに大きかったのかな…。


俺は、花火を見上げる。


「そういえば、望美ちゃんは花火大会見に行くって言ってたなぁ」

はるかがポツリとつぶやいた。

以前聞いた名前だな。あのコンクールに出てた、たしかタケルくんの一つ上の…


「この辺りでは割とおっきな花火大会なんだろ、そりゃ高校生にもなりゃ、友達とかデートとかで行くんじゃね?」

「そうね、みんな楽しんでるかなぁ」


高校生のデートといえば、花火大会はテッパンだ。

これを逃すなんて、男としては終わってる。

あの時の俺も、そんな風に思ってお前を誘ったな。


「思い出すな、花火大会…」

「圭吾…」


はるかが睨む。

ハイハイ、生徒の前、ね。


「あの、本選で会ったタケルくんも花火大会行ってるんじゃない?」

「何も聞いてないけど、行ってるかもね」


はるかは無表情。

そう、別にはるかは、タケルくんに恋愛感情なんて抱いてないだろう。


彼の一方的な恋慕。


「結構イケメンだったし、彼女と行ってるかもしんねーな。ファンらしき女の子たちがホールをウロウロしてたし」


俺のような正統派のモテるタイプではないだろうが、ああいう細くて繊細なタイプの男子高校生は一定の需要があるだろう。

美人系の女子が1人、あといかにもファンです、って感じの女子も4人くらい見かけていた。


「え?そうなの?」

「気付いてなかったの?お前、本当にそういうのニブイな~」

「うるさいわね」


はるかは、こういった恋愛ネタは本当にニブい。

いまだにこのあたりは変わらないようだ。


「…それこそ、彼、似合うんじゃないの?ノクターン。ショパンのとかさ」


正直、あのエオリアン・ハープと田園ではロマン派の深みは感じなかったが、そのあとに送ってもらったラフマニノフの音の絵の演奏動画は目をみはるものがあった。


「うん、来年あたり選曲するつもり」

「だよな、あれは弾けるよな、難易度の高いノクターンでも弾ける」


何番のノクターンを弾かせるだろう?


「なんかピアノ弾きたくなってきたな~」

「そうね、弾く?」

「弾くか!」


俺たちはレッスン室に戻り、連弾を始める。

まずは、ハンガリー舞曲から。


よく大学時代に一緒に演奏した曲だ。


「お前、思ったより酔っぱらってるな。音、ふにゃふにゃじゃねーか」

「うーーーん、楽譜もぼやける~~~~」

「おい!ちゃんと弾けよ」


外では花火が連続して上がる音が聴こえる。


はるかとピアノを弾くのはいつぶりだろう。

横で楽しそうに演奏する彼女は、あの頃とひとつも変わらないのに…。


俺たちの進む道は、どんどん離れていくようだ。

それを選んだのは、お前だったのか、俺だったのか…

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