第6話

付き合うことになって、俺はこれでもかと言うくらいに、はるかちゃんとの付き合いをオープンにした。


「はるかちゃん、帰ろ」


放課後、俺が隣のクラスのはるかちゃんを迎えに行くのは日課だ。


「はるか、北山くん迎えにきたよ〜!いいなぁ」

「北山くん、今日もカッコいいね」


俺は話しかけやすい男子らしい。

思い返せば、女の子に告白されたのは小学4年生の時。

それ以来、ひっきりなしにモテ街道をまっしぐらだ。


「ありがとう。でも俺、はるかちゃん一筋だから」

「知ってる〜!毎度のことだけど!」

「そうそう、入学式で一目惚れ!」


今日も不機嫌そうなはるかちゃんが、俺の方に歩いてくる。


「圭吾くん、帰るよ」

「カバン持つよ?」

「いいわよ、自分のカバンくらい持てる」


そして、俺たちのいつもの会話。


付き合って2ヶ月経っても、はるかちゃんはカバンを持たせてくれない。

何でもしてあげたいのに、全然頼ってくれないし、心も開いてくれない日々が続いていた。


「だいたいね、ピアノ専攻トップの演奏成績の圭吾くんに、私のカバンなんて持たせてるのを見られたら、先生たちに何言われるか分からないでしょ」


「そんなの関係ないよ。彼女に重いものなんて持たせたくないと思うの、普通じゃない?」


「分からないな…」


はるかちゃんは、付き合うってよく分からないと言っていた通り、女子としてはどうかと思う感覚の持ち主だった。

普通の女子なら喜ぶだろうことも、全然喜んでくれない。


正直、中学までは告白されても、恋愛とかお付き合いは「ピアノと比べて興味がないもの」としか思えなかった。

可愛い女子はあまたにいても、可愛いと思うだけで対して興味を持てなかったのに、なぜかはるかちゃんには電撃的な一目惚れをし、チャンスを得た瞬間にゴリゴリに押して「彼氏」という立場をゲットした。


可愛らしいその姿に一目惚れしたはずなのに、はるかちゃんと付き合いだして、女子らしい外見を裏切るその感覚も、俺には好ましいものに思えた。

俺が苦手だろう、いわゆる『女子らしいベタベタ感』もなく、話もサバサバしていたからだ。


「ねぇ、本当に遠回りになるから駅まで来なくていいんだよ?」


学校から最寄りの駅までの10分は、そんなはるかちゃんの横で話ができる大切な時間だ。


「登下校くらい一緒にいさせてよ。クラスも違うし、休みもなんだかんだでデートしてくれないんだからさ」


そう、きっと俺の方がよっぽど女子っぽい。

これまでそんなつもりはなかったけど、好きな女の子と少しでも一緒にいたいと、寮と反対の駅まで歩き、はるかちゃんを駅までの送り届けてから寮に帰る生活。

朝も、寮から学校を通り過ぎて駅に行き、はるかちゃんと落ち合って学校に向かう。


「私といて楽しい?」

「楽しいよ。その『ブスっ』とした顔のはるかちゃんの顔も好き」


「…なによそれ、変態?」

「はいはい、はるかちゃんの彼氏は変態ですよ」


それを聞いて、さらにぶすーっとするはるかちゃんも可愛くて仕方なかった。


ーーー


今、コンクール会場で楽しそうに話す男子高校生を見て、お前は、あの時の俺を思い出したりするのだろうかーーー


俺は、彼のお前を見る瞳を見て、あの頃の自分を思い出すよ。

あの眼差しは、当時の俺と同じだからだ。


じっと2人の姿を遠くから見つめ続ける。

男子高校生は大笑いし、はるかも何か楽しそうだ。

まるで、じゃれ合うような2人…


演奏時間が近づいてきたのか、男子高校生がはるかから離れて歩き出す。


ーーあ…


俺の視線に気付いたのか、ふと男子高校生が振り返り、俺と一瞬目が合う。


怯むことなく見つめ返すと、彼は何事もなかったかのように、目線を外し歩いていってしまった。


タケルくん。

君が一歩も二歩もリードだ。


何しろ君は恋愛を抜きにしたって、はるかが選んだ人間なのだから。

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