part2 これからの事
事情聴取を終えた舞、心咲、椋子の三人は、カラオケに行く事を中止して、帰宅する事となった。
二人を家まで送った舞は、その足で真っ直ぐ帰宅した。
着ていた服を全て洗濯機に突っ込み洗濯を始め、シャワーを適当に浴びた。
二階の自室に向かい、下着と肌着を着て、一階のキッチンへ。そうして、冷蔵庫から湿布を二枚取り出した。
舞は一旦湿布をシンクに置くと、全周青あざになっている右腕の二の腕を、恐る恐る掴んだ。
「痛っ……」
掴んだ場所から鈍痛が広がり、舞は反射で手を離した。
「ウィリアム、これ骨にヒビ入ってたり、折れたりとかしてないよね?」
〈ああ、それは大丈夫。ヒビも骨折もない。保証する〉
「そっか。前みたいに、すぐ治ったりしないのかな……」
ぼやきながら、舞は湿布を手に取った。
〈噛み潰されたのに全周青アザで済んでいるから、治癒が始まっている、という認識で合っているとは思うんだけどね〉
「ん……まあ、ここ以外、ケガもないし、そうなのかもね」
シャワー中に確認した際、二の腕以外の外傷は見つからなかった。ウィリアムに頼んで背中も確認したが、切り傷や、ガラスの破片が刺さっている、という事もなかった。
「本格的に半袖とかノースリーブの服着るようになる前に、元に戻ればいいんだけど……」
舞は湿布を二枚使って、二の腕を覆うように貼った。
「まあ、これで様子見かな……」
舞は、ふと気になった事をウィリアムに聞く事にした。
「そうだ、ウィリアムはさ、これからどうするの?」
〈これから?〉
ウィリアムに聞き返され、舞は頷いた。
「だって、倒せたじゃない。ヴェノンコーヴィル」
〈うん、舞のおかげだよ。ありがとう〉
「ん……どういたしまして。でさ、怪獣倒せたって事は、この星には用事がなくなったじゃない?」
ウィリアムは数秒黙り、短く返した。
〈そうなるね〉
「つまり、私と身体を共有しなくても、良くなった訳で……帰らなくていいの?」
〈帰る……舞、僕達は命を共有しているんだよ?〉
「もちろん覚えてるよ。えっとね、何が聞きたいかっていうと……私の命、まだなくなったまま?」
舞の質問に、ウィリアムはかなり困っている様子で答える。
〈まだというか……僕の知る限りだけど、生物が単体で自分用の命を新しく創る事は出来ないんだよ。不老不死であっても、原子レベルで霧散してから再生出来ても、命は一個だけ〉
舞は首を傾げ、少し考え、
「ん……例えばさ、命を固形化して、外側から追加する事は出来る?」
〈僕の故郷では研究が進められていたけど、完成にはまだまだかかるらしいよ〉
「そっかあ、凄いんだね、ウィリアムの故郷」
〈そうなの?〉
「そうなの」
言いながら、舞は湿布のフィルムをゴミ箱に捨てた。
「話は少し変わるんだけど、もし私達が分離したらどうなるの?」
〈……たぶん、あの時の続きが始まるだけだと思う。舞は死ぬし、僕は消滅する〉
「あー……やっぱり?」
〈……離れたいの?〉
舞は首を大きく振って否定した。
「まさか! 死にたくないし、死んで欲しくないもの」
〈舞……〉
舞はソファへと歩いて行き、どかりと座った。テレビは付けず、液晶に歪んで映る自分を、その内にいるウィリアムを見つめる。
「ただ、これからどうしようかなって。勉強とか、心咲と椋と遊んだりとか、やりたい事いっぱいあるけど、そっちじゃなくてさ」
息を吐いて力を抜き、背もたれに身体を預ける。
〈これから、か……考えた事、なかったな〉
「いっぱいいっぱいっぽかったもんね、ウィリアム」
〈お互い様だよ、たぶん〉
「そうかな? ……そうかも」
二人は、ふふふ、と笑った。
「まあ、どうあっても明日は来るし、少しずつ考えていこう。二人で」
〈うん、そうだね〉
舞は、よいしょ、と呟きながら立ち上がった。
「と、いう事で……まずは夕飯どうするかだけど」
〈ん、オムライスの再挑戦をするって話じゃなかったっけ?〉
それを聞いて、舞は心底残念そうに答える。
「あー、戦わなければやりたかったんだけどね。だから、それ以外で」
〈時間があまりかからないもの?〉
「そうそう」
ウィリアムは少し考えて、
〈……カップ麺とか〉
その提案を聞いて、舞は左手の指を鳴らした。
「天才。チリトマトにしよう。デスソース多めで」
〈えっ、大丈夫なの、それ?〉
ウィリアムと出会った翌日の昼、舞は同じようなメニューで『雑に昼食を済ませつつ自分の身体が香辛料にどこまで耐えられるのかチャレンジ』を決行し、結果大敗北を喫したのだ。
ウィリアムはそれを思い出し、不安そうに言った。
「ふっふっふ、再挑戦よ再挑戦」
〈というか、流石に夕食には早くない? まだ六時だよ?〉
「え?」
舞が時計に目を遣ると、丁度六時になったばかりだった。『夕焼け小焼け』のチャイムが、外から流れ着いた。
「あ、ほんとだわ。んー、じゃあ、一時間後にするとして」
〈食べる事は決定事項なんだね……〉
「まあねぇ~」
〈心配だなあ……止めはしないけどさ〉
「まあ見てなってば。今回は秘策があるから」
舞はそう言って、キッチンに向かい、冷蔵庫を開けた。
〈秘策?〉
「牛乳よ、牛乳。辛いモノ食べるならお茶より牛乳のがいい、らしいよ?」
〈らしいって、それ大丈夫なの?〉
「ネットで見かけただけだからね。実践すりゃ分かるでしょ」
舞はそう言って『4.5』と書かれた2リットル牛乳パックを左手で持ち上げたのだが、
「……ん?」
〈どうかした?〉
「やたら軽い……」
舞は怪訝そうな表情で言い、牛乳パックの中を覗いた。おおよそコップ一杯分しか残っていなかった。
〈……そういえば、朝食の時に何杯も飲んでなかった?〉
「あ」
舞はすっかり忘れていたらしく、牛乳パックを戻し、額に手を当てた。
「妙にお腹が緩かった理由、それかぁ……」
舞は呟き、冷蔵庫の扉を閉じた。
〈……舞?〉
「しょうがない、買いに行く」
舞は、肩を落として言った。
丁度その時、洗濯が終わった事を知らせるアラームが遠くから聞こえてきた。
「……先に、洗濯物干してからね」
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