第9話 かみツキ。

「ありとあらゆることが科学で解決するこの平成の世に~~~~。」


「もう令和だぞ。」


 見ている奴からヤジが飛ぶ。


「人々は彼を陰陽師と呼ぶ。」


「悪霊退散、悪霊退散~~~~~~。」


「超常現象困った~時は~~~~~~。」


「相談しましょう陰陽師、徹子~~~~。」


「ぎゃはははははははははははは。」


―――――――――――――――


 場所は駅前の繁華街であった。

 学生たちがその本分である勉学を終えて、放課後という自由時間を満喫しているときのことだった。


「成仏しろよ!」


 とあるカラオケボックスの一室でその一言が響いたのだった。

「ははははははははははは、なんで今どきレッツゴー陰陽師なんだよ。」

 大笑いするのは臼井辰也。

 学校の制服の上からパーカーを着た放課後スタイルでカラオケに遊びにきていたのである。

「ふん、今度リンゴとカラオケでデュエットしようと思ってな、その練習だ。」

 今しがた熱唱したぼくが辰也にそう返しながらメロンソーダを口に含む。

 ジャジャン!。

「おっ、92点。結構いい点数じゃないか。」

「くっ、これではまだまだだ。」

「これでもかよ。何でそんなに入れ込むんだ。」

「彼女のレッツゴー陰陽師はすごく上手いんだ。」

「それって家が陰陽師だからか。」

「いや、豪血寺一族のファンだから。」

「そっち。」

 辰也が驚いて手に持てたトリからを落とし掛けた。

「格ゲー、マジ鬼強い。」

「マジかよ。お前も格ゲー下手ではないだろう。」

「そうなんだけどね。リンゴ、意外とマジのゲーマーなんだとよ。」

「どれくらいだよ。」

「FPSならCod派。プロジェクトディーバならエクストラ決めれる。他にもSEKIROUのトロコンもしてるとか。」

「マジか~。俺には無理だな。付き合いきれん。」

「まあ、こっちにも同じスペックを求めてこないので助かるがな。」

「ソレは重畳。」


 今日は、最近リンゴにかまけてばかりだったから、唯一の友人とひさしぶりに遊びに来たのである。

 リンゴも誘おうかとも思ったが辰也が怯えてしまうし、それでリンゴが気を利かせて辞退してくれた。

 持つべきものは友人より彼女じゃねぇ。

 と言ったら辰也が泣きそうな顔をしていた。

「なんか話を聞く限り、彼女というより友人みたいだな。」

「そうか?」

「女子力低そう。」

「今度チクっておくな。」

「やめてください。マジで後生ですから。」

「なら人の彼女をdisるなよ。」

「べつにディスってるわけじゃねーよ。ただ、オタクっぽい感じじゃん。友達とかも少なそうだし。」

「それは確かに。友達とか紹介されたことが無いな。」

「そういうところが女子力低そうだって言ってるだけだよ。」

 ぼくはピザを一切れ口に運びながら辰也のセリフを考える。

「コミュ力が高そうではないけど陰キャではないし、デートの時のファッションは可愛かったぜ。」

「ほ~う。お前の好みに合ってたのか。」

「あぁ、健康的な姿態とフェミニンな衣装でテンション爆上げだたぜえ。」

「いいな~。俺も彼女が欲しい。」

 辰也は天井を仰いでそうのたまう。

「誰か好きな人はいるのか。」

「好きっていうか、憧れの人はいるぜ。」

「ほ~う、誰だよ。」

「B組の高橋さん。」

 ちょいとばかし考えてみる。

「ほ~う、誰だよ。」

「ちょ、おいおいおいおい。」

 辰也は身を乗り出して詰め寄って来る。

「B組の高橋さんを知らないのか。」

「――なんか、このやり取り前にもしたような気がする。」

「そうかもな。だって学校で高橋さんを知らないのはたぶんお前ぐらいだぞ。」

「なに、現役アイドルかなんかか。」

「一応学園のアイドルではある。」

「一応か。」

「非公式だからな。ファンクラブもあるぞ。」

「どこのラブコメ時空だよ。」

「たぶんウチの学校に結城リトが居るんじゃないか。」

「トラブルは御免だぞ。」

「冗談はさておき。」

 辰也は姿勢を正して話始める。

「まず高橋さんは学年主席の才女だ。」

「ほうほう。」

「さらに、黒髪ロングの正統派美少女。」

「なるほど。」

「物事ははっきり口にする。ちょっと毒舌な強気娘。」

「ん?」

 なんか心当たりが。

「突撃してフラれた男は数知れず、ついたあだ名は「置き去り姫。」まさに高嶺の花。」

「ああぁ~、思い出した。そいつ知ってるは。」

「はぁ~。どういうことだよ。」

「いやな、リンゴとの初デートの時に会ったわ。」

「どういうシチュで。」

「いやな、男をフッテルときの毒舌の流れ弾にぼくが当たったんだよ。」

「なんだよそれ。」

「ぼくが悶絶してるところを話しかけられてな、どうやらリンゴの知り合いらしかったが、同じ学校だったのか。」

「あぁ、その程度か。お前がモテモテじゃなくてよかったぜ。」

「ぼくにはリンゴしかないよ。」

 本当はもう1人、さくらが居るが。

「それより歌おうぜ。次は辰也が歌え。笑ってやるから。」

「そうかよならばバラライカを替え歌で行くぜ。」

「ぎゃー、男に走る気かよ。」

「喰らえ。「やらないか!」。」

「ぎゃあああああああ。」



「はぁああああああああ、歌った歌った。」

「あぁ、喉がガラガラだぜ。」

 カラオケボックスを後にして辰也と帰路につく。

「千本桜で100点出すのは無理だな。」

「マジあれはムリゲーだわ。はははは。」

「おい、あんまりはしゃっぐなよ。結構遅くなっちまったし、下手すりゃ補導されかねん。」

 ぼくが辰也に注意すると。

「おっとすまん。久しぶりに楽しっかったしな。」

 と素直に謝る辰也。

「で、お前はこれからどうするんだ。」

 そう聞いてくる辰也にぼくは素直に答える。

「ちょと進路を決めたから早めの就活だ。」

「彼女の家を継ぐのか。」

「それに近いな。」

「じゃぁ、これからはあんまり遊べないか。」

「こっちが落ち着く頃は今度はそっちが進路で忙しいくなるぞ。」

「だよなぁ~。あ~、進路どうするかなぁ~。」

 高校に入学したばかりで進路に悩ませるのはぼくのせいだろう。そこはすまんと謝っておく。


 ♪~~~~~♬


 と話していたらスマホに着信があった。

「お、リンゴからだ。」

「彼女からのラブコールか。それに出たら死亡フラグだぞ。」

「茶化すなよ。――はい。どうしたリンゴ。」

「先輩!今どこにいますか!」

 スマホからリンゴの切羽詰まった声が聞こえて来た。


 ■■■


 リンゴside


 私は家に帰って来てからシアタールームでゲームをしていた。

 先輩が友人の薄い先輩と遊ぶというので今日は1人の下校でした。

 ポテチをかじりながらコーラを流し込む。

 付いて行けばよかった。

 今更ながらそう思う。

「いえいえいえ、私は理解のある彼女ですのよ。友人に嫉妬などしません。」

 でもちょっと寂しい。

「はぁ~、先輩今どうしてるかなぁ~。」

 わたしは「真・豪血寺一族~煩悩解放~」をプレイしながら彼氏のことを思う。

 我ながら乙女チックだなぁ~、と思うが、こればかりは本気で惚れた弱みだろ。

 今日はお父様もお母様も仕事でお出かけ。

 ――――しちゃおうかな?

 そう思った私は家の家政婦や執事に今日はもう寝るから部屋に近づかないように言おうとした。


 ――――――――――バチッン!


「っ!」

 その時、先輩の家に仕掛けた結界の依り代が砕け散った。

 何者かに結界が破られたのだ。

 私はすぐさまスマホを取って先輩に連絡する。

 プルルルルルルル。

 プルルルルルルル。

 コール時間が待ち遠しい。

 先輩は今日カラオケに行くと言ていたし、もしまだカラオケに居たらスマホのコール音に気が付かないかもしれない。

 かちゃ、という音がした。

 スマホ同士なのにいまだに繋がる時の音はかちゃという音なのは仕様なのか、はたまた人の錯覚なのだろうか。


「はい。どうしたリンゴ。」


「先輩!今どこにいますか!」

 自分が焦っているのが分かる。

 先輩がスマホに出たのだからまだ最悪には至っていない。

 だが、どれだけ猶予があるか。

「何処て、今カラオケからの帰り道。駅前の公園の前だよ。」

 そこは時間によっては人通りが無くなる場所。

「先輩、周りに人道りは?」

「人?人ならいっぱいいるけど。」

 ホッとため息をつく。

「お、おい。拓海。」

 そこに先輩の友人の薄い先輩の声が聞こえて来た。

「何でここ、虚無僧ばかりいるんだ。」


「っ!先輩今すぐそこから逃げてください!」


「は、何言って―――――ブッン!」

 私はすぐに飛び出した。

「堤、車を出しなさい。」

「――はっ。」

 私は手早く準備をしながらお父様たちに連絡を取る。

「どうしたリンゴ。」

「ネズミが動きました。先輩の家と駅前。私は先輩の方に向かいますので家の方にはお父様達が行ってください。」

「――分かった。決して無理はするな。」

「分かってますわ。」

 無理をするな?

 無理ですわね。

 だから私は無理をしないことにする。

 最悪に備えた装備で身を固める。

「お嬢さま行先は。」

「駅前の公園前。戦闘も視野に入れなさい。」

「ははぁ。」

 敵は動いた。

 ならば私たちも容赦はしない。



 先輩の家と駅前のカラオケボックスの間にある駅前の公園と言えば「お頭公園」だろう。

 何でも処刑場のさらし首が並べられた場所と言われ、心霊スポットとしても有名な場所である。

 とは言え、地元の人は気にせずに近道として利用している場所でもあった。

 そして公園の傍に来ると簡易的な結界が張られていた。

「お嬢様。公園内から――――」

「構いません。突っ込みなさい。」

 相手も人払いぐらいしてるだろう。

 壊した柵などは捕まえたヤツにでも請求すればいい。

 

 ドガシャーン!

 

 と音を立てて公園に突入する。

 騒ぎのする方へそのまま車で突っ込むと、

「アレは――――。」

 何人かの虚無僧と青白い光を纏った大きな獣が対峙していた。

 私は虚無僧の方に突撃させる。

 虚無僧たちは飛びのき距離を取りながら、手裏剣や独鈷杵どっこしょと呼ばれる、仏教などで使われる法具であり武器でもあるものを投げつけて来た。


 ドガ、ガス、ズド。


 と音を立てて、車体や窓にぶつかって来る。

 だが、ライフル弾も通さない車体には傷こそつくが食い込まずにはじき返す。

 私は虚無僧の居るほうとは逆のドアから飛び出した。

 そして獣と対峙した。

 獣の高さは2mくらい。

 眉がクリっとしたのが愛嬌のある狐顔。

 それを見上げる。

「さくらさんですよね。」

 牙をむき、敵意を込めた目で虚無僧を睨みつけていた狐の目が、私の問いかけでこちらを向いた。

「リンゴか、こんな体なのによく妹だと分かったな。」

 さくらさんの体は白い毛皮に覆われた4本の尻尾がある狐だった。

 頭の高さは2mほど、頭からお尻までが4mくらいの半透明の体をして居る。

 その体にはするどい爪や牙があり、

「っ!リンゴ後ろ。」


「セーマン派の娘が何するものぞ!」


 虚無僧の一人が車を踏み台にして飛びかかってきた。

 虚無僧は錫杖に仕込まれていた刃を抜きざまに襲い掛かって来る。

「邪魔です。」

 私は振り向きざまに家から持ってきた拳銃の引き金を引く。


 ドン!ドン!バァン!


「ぐはぁ~~~。」

 銃弾を食らった虚無僧はドサリと地面に落ちて動かなくなる。

「……りんご、お前それは――――。」

「安心してください。陰陽術で作った非殺傷性の呪弾ですから。」

「何でもありか陰陽師。」

「そう言うさくらさんだって狐に変身なんかして、しかも結構ざっくり行ってますよね。」

「そこは怒れる妹パワーだ。」

「ふ~~~~~~~~~~~ん、なるほど。なほど。――――そこの野良犬ども、先輩に何してくれちゃったんですか。」

 私ができる限りのコワモテで睨みつけてやると。

「くっ、何というプレッシャー。」

「こ奴ただ者ではないぞ。」

「絶対に何人か殺っているぞ。」

 と三匹残った野良犬、もとい、虚無僧がのたまう。

 おう。おう。おう。

 言ってくれるじゃないですか、うら若きJCお嬢さまに向かって、まるで殺し屋に睨まれたような反応とはいかがなものか。

「くっ、致し方ない。ここは引くぞ。」

「歳三たちはどうします。」

「捨て置け。足手まといになるくらいなら自決するくらいの気概はあるはずだ。」

 おっと?

 思った以上にきな臭いぞ。

 リーダー各の虚無僧が地面に何かを投げつけると、ボフン!と煙が立ち上った。

 その煙の向こうで虚無僧が離脱するのを感じられた。

「忍者か何かかしら。」

 さくらさんがそうつぶやく。

「虚無僧の中身が忍者なんてのはよくある事ですよ。」

「んな時代錯誤な。」

「この現代において虚無僧とかイカレてます。」

「陰陽師が何を言う。」

「それで先輩は――――。」

 そう聞こうとしたら、

「うっ、うぅ。」

 近くの芝生からうめき声が聞こえてきました。

 覗いて見ると、先輩の唯一の友達である薄い先輩が倒れていました。

「……それで、先輩はどうしたのですか。」

「無視しないでよ。」

 ガバリと起き上がって薄い先輩が怒鳴る。

「いえ、元気そうで何より。」

「うっ、痛たたたた~。」

「ソレで先輩はどうしたのですか。簡潔に答えなさい。」

「少しは心配してくれえよ~。」

 わたしが胸ぐらをつかんで訊ねていると、倒れていた虚無僧たちを踏ん地場っていた堤がやって来た。

「お嬢様、どうやらあばらが折れているようです。乱暴はやめてください。」

「そうなの。意外と根性あるじゃない。泣き叫ばないの?」

「すっごく泣きそうです。」

 仕方ないので薄い先輩は堤に任せて、私はさくらさんと話をすることにした。

「それで、先輩はどうしたの。」

「攫われたわ。」

 私の奥歯がギリッと鳴った。

「どういう状況だったのです。」

「カラオケからの帰り道、公園を歩いていたらいきなりワゴン車が突っ込んできて。」

「公園に車で突っ込むとかなんて非常識な。」

 どの口で言いますか。と聞こえてきますが無視ですわ。

「それでワゴン車から何人かの虚無僧たちが現れて、兄さんを車に連れ込んで行ったわ。」

「先輩をかどわかすとは許すまじ。」

「そん時、辰也が抵抗して殴られていたのよ。」

「で?」

「で?って、本当に興味が薄いな。まぁ、妹も妹で抵抗しようとしたら注連縄しめなわみたいなので縛られちゃって。」

「あぁ、この辺りに散らばってるっやつですか。」

「そう。っで、うおぉぉぉぉぉぉぉぉ、と気合入れて抵抗したら狐の姿になって縄がちぎれたのよ。」

「そこで変身したのですか。」

「けど、そうこうしているうちに兄さんを乗せた車が走って行っちゃって、追いかけようとしたんだけどさっきの奴らが邪魔してきて、戦ってるところにリンゴが来たのよ。」

「なるほど。やってくれましたね。」

「ところで、電話からあんまり時間たってないけど。」

「法定速度です♡」

「嘘つけ。」


「ところでさくらさん。」

「ん?」

「このままでもお父様たちが先輩を助けてくれると思います。」

「それで、」

「私たちは何もしなくてもいいかもしれません。ですが――――このまま指を咥えているだけでいいと思いますか。」

「いいやぁ、妹は1人でも行くよ。」

「もちろん私もです。」

 私とさくらさんは目を合わせて見つめ合う。

「お嬢さままさか。」

「堤は薄い先輩を見ていてください。私たちは先輩を追いかけます。」

 そう言って、私はさくらさんに手を差し出す。

「さくらさん、契約いいですか。」

「もちろん。」

 出来る確信があった。

 私に恐怖はない。

 それよりも攫われた先輩が心配だった。

 意味も分からず攫われる恐怖は私にも覚えがある。

 だからこそ、今は恐怖より怒りがあった。

 さくらさんが頭を下げて来たのでその額に手を乗せる。

 まばゆい光が瞬いて、私の手の甲に契約の証が浮かび上がった。


 ■■■


 ぼくはカラオケの帰り道、突然襲われて車に乗せられた。

「ん~~。ん~~~。」

 目隠しをされて轡をかまされた。

「おい、暴れるんじゃねぇ。」

 耳元で野太い男の声がした。

 ゾクリと恐怖感がお尻から這い上がって来た。

 それで抵抗が緩んだ隙に手足が拘束されてしまった。

「おい、狐の方はどうなった。」

 さくらのことか?

「どうやら邪魔が入って失敗したようです。」

「ちっ、まぁいい、本命が達成されたらそれでいい。」

 どうやらさくらは無事のようだが、ぼくが無事で済むのだろうか。

 本命って言ってたし何かされるんだろうな。

 痛くないといいけど。

 それからしばらくして、車がどこかに到着したのかエンジンが切られた。

「よし、運び出せ。丁重にな。」

 その、野太い男の声がしたらぼくの体が何者かに抱きかかえられた。

 正直、誰に抱かれてるか分からないのは気持ちが悪い。

 しかし、抵抗は許されず、ぼくはどこかに運び込まれた。

 そこで甘い匂いがした。

 そして、固い台か何かの上に寝かされた。

 ここから何をされるのだろうか。

 びくびくしながら構えていると、

「おい、アレを持ってこい。」

「はい。」

 野太い男たちの声が聞こえる。

 アレってなに、僕これから何されるの。

 そう思っていると足の拘束が解かれた。――――と思ったら、足を開くように拘束された。

 手も頭の上で拘束されて、完全に生贄スタイルじゃないですか。

 怖い。怖い。怖い。

 何が待ってるの。

 そう怯えていると、

 

 ジャラン。


 と鎖の音が聞こえて来た。

 鎖の音は徐々に近づいてきて――――、

「ん~~~~、ん~~~~~~~。」

 何かがぼくの股の間に入り込んできた。

 誰、なに、これなに、いやだ。何されるの。

 恐怖がぼくの思考を染め上げる。

「ん”~~~~~。」

 股の間の何かはもぞもぞと動くと、


 カチャカチャ。


 ぼくの股間に手を這わせて、ベルトの金具を外そうとしていた。

「ん”~~~~~。ん”~~~~~~~~~。」

 必死に叫ぼうとするぼくに耳元からあの野太い男の声が聞こえた。

「へっへっへ、今から何されるか分からんのも可愛そうだから、目隠しは外してやるよ。」

 と、嗜虐的な声が耳朶を打つ。

「ほら、せいぜい楽しみな。」

 そうして僕の目隠しと轡が外された。

 目に入ってきたのは薄暗い工場か何かの高い天井だった。

 その天井と僕の間に神社で見かける紙がピロピロした縄が円形に下がっていた。

 そして何人もの男たちがぼくを見下ろしている。

 本当に何かの生贄の場所みたいだった。

 モゾモゾ、と股間に這いずる感触でぼくの意識は引っ張られた。

 頭を動かして股間を見ると、――――そこにあったのは赤と黒だった。

 黒いのは髪の毛で、赤いのは瞳と着物だった。

 ぼくの股間には赤い着物を着た子供がうずくまっていた。

 いや、――うずくまっていたというより潜り込んでいた。という方が正しい。

 髪はおかっぱで目は酔っぱらったように蕩けていた。

 角度が悪いので背の高さは分からないが、たぶん10歳前後の子供だと思う。

 しかし普通の子供では無くて、額に2本の角が生えていた。

 鬼。

 見るのは初めてではないが、こうして触れ合うのは初めてだった。

 まして、その鬼の手がぼくの股間をまさぐっているのだから驚きで思考がフリーズしてしまった。

「あ~、や~と外れた。」

 その鬼は口から熱いと息を吐きながらぼくのベルトを外してしまった。

「な、なに――を。」

「ん~~~?」

 そこで初めて鬼の目がぼくの方を向いて目があった。

 ドクン。

「はじめましいてお兄ちゃん。ぼくはマガツって言います。」

 熱い吐息と蕩ける言の葉で紡がれる自己紹介。

 その間にもぼくの体は熱くなっていき。

「あは~。大きく成って来たぁ~。」

 男の子か女の子かもわからない子供にまさっぐられてぼくの股間が反応してしまった。

 いや、股間を触られた感触だけじゃない。

 鬼のまなざしを見た時から。

 否、ここに運び込まれた時に感じた甘い匂いでも、ぼくは興奮している。

「なにこれ、君は一体。」

「だから僕は凶だよ~。」

「へへっ、兄ちゃんよ。おとなしく楽しんどきな。そうしたら無事に帰れるからよぉ~。」

 野太い声でぼくを見下ろす男がそう答えた。

 嘘だ?

 ぼくの足の間にいる鬼よりも、よっぽどこの男たちの方が邪悪な気配をして居る。

 大人しくしていても無事に帰れはしないだろう。

 だけど、今のぼくにはどうすることもできない。

「んっ、くぅ――。」

 甘い刺激にぼくの意識は下半身に引っ張られる。

 見るとぼくのズボンと下着はずり下ろされて息子が外に出ていった。

「あは―――っ。」

 鬼は蕩けた顔で喜び、男たちは下卑た笑いを浮かべる。

 「この状況で起つとは変態だな。」「なかなかのご立派様じゃないか。」と聞こえてくる。

 そんな胸クソ悪い笑い声にも、しかし反応できない。鬼の手がぼくの息子を掴んだからだ。

「くあぁ!」

 遠慮のないその手ツキにぼくの口から声がこぼれる。

「あっ、ごめん。痛かった。」

「ハァ――、ハァ――。」

「違うよな。気持ちよかったんだろ。」

 心配する鬼に男がゲラゲラ笑いながら答える。

「キモチイイの?」

「そうだよな。だからもっと触ってあげなさい。」

「うん、分かった。」

 鬼の白魚のような指がぼくの息子の上で踊る。

「あっ、あぁ――――。」

 遠慮のない無邪気な指い使い。

 その刺激と男たちの視線による辱めはぼくを昂らせる。

「あはっ、ビックンビックンしてる。フフ――あ~ん。」

 鬼は八重歯の見える口を大きく開けてぼくの息子を丸のみにしようと―――――。

「あ~~、だめだだめだ。そっちじゃないだろ。やるのはあっちだ。」

 男が何やら言っている。

「ハァ、ハァ、ハァ。」

「ん~~?そうだった。やるならこっちだったね。」

 鬼はそう言うとぼくの腰の上にまたがって来た。

 そして帯を締めてる紐を引っ張って勢いよく着物を脱いだ。

 着物の下には下着をつけいていないのできれいな肌が丸見えになっていた。

 女の子だったんだ。

 そうぼんやりと思う。

 色白できめ細かい白い肌、胸は小さく控えめでお腹がポッコリした子供のような体型。

 そして始めて見る女性器。

 それは薄い本に描かれえいるように一本の筋だった。

 鬼が自らその筋を開くと、ツーーーと温かい汁がぼくの息子の上に垂れて来た。

 まてまてまてまて、ソレはヤバイて。まじで――――

「よし、小僧がイクのに合わせて門を開くぞ。」

 男たちが何やら呪文を唱え始める。

 ぼくの息子が鬼にパックンとしょされる瞬間――――


 ズガシャアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 工場の扉が内側にはじけ飛んだ。


 ■■■


 ???side


 家に帰る途中だった。

「あら、ドーマン派が何かやらかしたらしいわね。」

 陰陽師の互助組織のニュースサイトに特報が流れていた。

「しかも一般人の拉致ですか。って、ウチの学校の生徒?なんか気になるわね。」

 そうつぶやきながら車の外を眺めていると。

「ん⁉」

 車の間、歩行者の頭上を大きな獣が走り抜けていくのが見えた。

 しかし、それらは普通の人には見えていなかった。

 つまり霊的なモノである。

 陰陽師にとってはなじみ深い式神だから驚くことではないはずなのだが――。

「今のは谷口リンゴさん。あの子式神を手に入れたの。」

 そう笑った。

 その顔が窓に映っていた。

 私、高橋五葉はそれは嬉しそうだった。


 ■■■


 リンゴside


 私の体には今さくらさんが宿っている。

 先輩のように取り憑かれたわけでは無い。

 陰陽術の1つ。

 神降ろし。または、神憑きと呼ばれる術である。

 式神や精霊を自身の体に憑依させて、自身の体を人から外れたモノへと昇華する奥義である。

 私は他の細かい操作は自身がないけど、これだけは使いこなせる自信があった。

 だから、式神の契約を交わしたさくらさんを私に宿して、先輩をさらった輩を追いかけることにした。

 堤には止められた。

 後でお母様に怒られるだろう。

 本来この術はリスクの高いものなのだ

 しかし、さくらさんとは今は心が一つになっている。

 そして私の体はとても丈夫なのだ。

 夜の街を駆け抜ける。車のスピ-ドを凌ぐ速さだ。

 さくらさんの鼻が先輩の匂いを嗅ぎつけた。

 もうすぐそこだ。

 町はずれの廃工場。そこがやつらのねぐらか。


 ズガシャアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 扉を蹴破り中に入り込むと、怪しい儀式をする男達と、――――――――今にも先輩とつながりそうになってる鬼が居た。


 ■■■


「貴様ら~~~~~~~、なあ~~にい~~をぉ~~さらしてくえとんじゃぁ~~~。」

 扉を蹴破って現れたモノは、まさに怨霊と言うべきものだった。

 青白いオーラを纏った人とも獣ともつかない姿をして目をらんらんと輝かしては、ここにいるもの皆食い殺してやるぞ。という殺気を放っていた。

「ええい後一歩のところで、セーマン派の手先か。」

 男たちがぼくから離れてその獣との戦闘に移っていった。


「狡い詐欺師程度が何晒しとんじゃぁぁぁぁぁ!。」

「我等を詐欺師と一緒にするな。我等には貴様ら愚民の犬に成り下がったものにはわからぬ大志があるのだ。」

「知るかあああああああ、先輩に手を出して無事で済むと思うなよおおおおおおおお!」


 先輩?

 アレの中身はリンゴか。

 それじゃあ側はさくらか。

 何か知らないが、2人が協力してすごい力を手に入れたっぽい。

 多数の男達を相手に激しいバトルを展開していた。

 そして、俺達を見張る男達もバトルに総出になっているので見張ってるやつがいない。

「………………………………。」

「…………………………………………。」

「なあ君。」

「ん?ぼくのこと。」

「そう君だ。」

「君じゃなくて凶だよ。」

「マガツ?可愛くないな。マッチーて呼んでいいか。」

「それぼくの名前。」

「そんなもんだ。」

「そう、じゃあボクはこれからマッチーだ。ヨロシクね。ご主人様。」

「ご主人様?」

 ぼくが首を傾げていると。

「それでご主人様。続きする?」

「続きって、何をしようとしてたのか分かっているのか。」

「うん。ご主人様のこれを――あれ?やらかくなってる。」

「あぁ。萎えちゃったんだよ。」

「またコシコシすれば硬くなる?」

「しなくていい。それよりこの手足を縛ってるロープを解いてくれないか。」

「お安い御用だよ。」

 シャキイーン。と、マッチーの爪が伸びて。

「ちょま――。」

 シュパンシュパンと音を立ててロープが切れる。

 体を起こして手首などの調子を確かめえていると、裸のままのマッチーが気になった。だから服を着せようとしたら――。


 じゃらり。


 マッチーの足首に鎖が巻かれていた。

 あの男たちの仕業か。

 外せないかと思い鎖に触ると。

 パリーンと簡単に鎖は砕けてしまった。

「あれ?なんか簡単に砕けたぞ。」

「おお~。ご主人様すごいんだぞ。奴らの縛りを簡単に外しちゃったぞ。」

「いや、ぼくは何も――――。」

 してない。そう言おうとしたところで、ドガシャア―――ンと音が響いた。

 どうやらリンゴたちのバトルが決着が付いたようだ。

 見れば予想どうり決着が付いていた。

 まぁ、最初に見た優勢ぶりからリンゴたちが勝つと思っていたが、実際に男たちが倒れてリンゴたちの無事を見るとホッとした。


「ええ~い。ここまでか引くぞ。無事な奴はついてこい。凶こっちへ来い。」

 立ち上がったリーダー格の男が叫び、男たちが逃げ出そうとしているが、

「べぇぇぇぇぇ、誰が付いて行くか。ぼくはマッチー。ご主人様といるんだい。」

 と、マッチーは男を拒否して僕にしがみついて来た。

「なに~。まさかヨモツマガツに名前を付けたのか。ちぃぃぃ、これだから祢津家の血筋は。――いい。もう引くぞ。」

 男はそう言ってどこかに去って行った。


「先輩無事ですか。」

「ああ、何とか。」

 リンゴはさくらとの合体みたいなのを解いて僕に駆け寄ってくる。

 そのうしろを人の姿に戻ったさくらが付いてくる。

「シャアアアアア。何者だオマエたち。」

「私は先輩の彼女ですよ。」

「妹は妹だ。」

「ご主人様の味方か!」

「そうですよ。そう言う貴方は何者ですか。てかさっきのあれは何なんですか。」

「ぼくはマッチーだ。ご主人様が名前をくれた。」

「あ、あぁ~。なるほどです。」

「それでアレとは何だ。」

「そうです。なんで先輩とセ〇ス寸前だったのですか。」

 そこ、もっとオブラートに包もうか。

「?ああ、まぐわいか。アレはあの男たちに言われて仕方なく。」

「ふむ、貴方自身の意思じゃないんですね。」

「ああ、無理やりやらされた。でも今はご主人様が望むなら喜んでやるぞ。」

「しなくていい。てか先輩が望んだ時にするのは私です。」

「なにお~。ぼくだってご主人様の為に出来るんだぞ。」


 わいわい、ガミガミ。


 と騒がしくなってしまった。

「何がどうなったんだ。」

「とりあえず、兄さんが天然のたらしだってことよ。」

 と、さくらに不名誉な称号を付けられた。

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