第8話 膝をツク。
ぼくは不器用な方だ。
だから誰かを好きになるとか嫌いになるとかの違いが分からない。
好きになるか、――――興味がないか、だ。
好きの対義語は無関心。という言葉があるがあれは至言だと思う。
興味のない相手には色がないのだ。
まっくろくろすけの影法師。
あぁ、ぼくの中ではそれらには名前がない。
違いも分からない。
皆、一緒くただ。
そんなまっくろくろすけに色が付く。
色が付いたあなたは誰?
色があるから名前が付く。
元から名前があろうと、ぼくの中ではそう言うものだ。
名前が付いたら顔ができる。
特別になるのだ。
特別になって初めて好き嫌いの感情が生まれる。
それらは全部別々で、比べることができない。
なのにその中に”特別”が生まれる。
真っ白な君と。
ピンク色の君。
比べられるはずないのに、比べなければならないような気がする。
どちらか片方を選ばなければならない時、
ぼくはどっちを選ぶのだろう。
――――――――――――――――――――――――――――
「どうだ?」
ぼくは唯一と言える友達に感想を聞いた。
「なるほど、書き出しとしては悪くない。――――だが、いきなりこんなものを持ってきて読んでくれと言われた時の俺の気持ちが分かるか。」
「ドキドキした?」
「アホか。ラブレターだったらその場で破り捨ててるところだ。」
「ひどいな。」
「男が男からラブレター貰ったら十中八九そうすると思うぞ。」
我が友人である辰也はお前もそうだろ。と、尋ねてくる。
「ぼくがお前からラブレターをもらったら、返事には剃刀を入れるな。」
「だろ。」
「だが、これはラブレターではない。」
「だから余計に意味が分からないんだが。」
「ぼくも意味はよく分かってない。ただ、ある人から将来黒歴史になるような自分の世界観を書いて友人に読んでもらえと言われたんだ。」
「なにそれ、何の罰ゲーム。」
「修行らしい。」
「修行って、作家か声優の修行か。」
「いや、陰陽道だ。」
「……はっ?陰陽道。」
ゴールデンウィークが終わり、ぼくは友人の辰也を屋上に呼び出して黒歴史の書き出しを読んでもらっていた。
そうするのも彼女であるリンゴのお母さんからの修行として課せられたミッションであるからだ。
「実はぼくの彼女の実家が陰陽師だったんだ。」
「知ってるよそれくらい。谷口リンゴの母親と言えばテレビでも有名な美人過ぎる霊能力者、谷口柚子だろ。」
「そうなのか。」
「知らないのかよ。」
「ぼくグラビアとかゴシップってあんま興味ないし。」
「そういやお前は2次専だったな。」
「youチューブの御カルト部はよく見るからクロネコさんは知ってるけど。」
「ああ、あのヨガマスターの。むしろあの人はテレビには出ないよな。」
「ぶっちゃけすぎるからね。そこが好きなんだけど。」
「まあそれで言うと、クロネコさんがマニア系だとすると、谷口柚子はメジャーのスターっていえる霊能力者だな。」
「だから家もあんなに大きかったんだ。」
「おまえ、ホントに彼女の家にお泊りしたんだ。」
「翌日にはリンゴがウチに泊まりに来たぜ。」
「羨ましいヤローだぜ。それでどうだったわけだよ。」
「どうだったって、お前が想像しているようないやらしいことはなかったぜ。」
「そっちじゃねーよ。谷口リンゴに手を出すと呪が降りかかるっていう恐ろしい方だよ。」
「あぁ、そっちね。あんなの噂だよ。お父さんが鬼だっただけだよ。」
「なに、アレか。「娘は貴様にはやらーん。」ってやつ。」
「いや、むしろ「娘をよろしくお願いします。」って言われた。」
「なに、じゃあ結婚とかするのか。」
「その可能性は高いな。」
「なんだよそれ~。じゃあちゃんと式には呼べよ。」
「それだとぼくの友人席にはお前が1人でポツン、だぞ。」
「もうちょっと友達作れよ。」
「お前に言われたくはない。」
と、友人とじゃれながらミッションをこなした。
「ところでコレ、拓海からは俺は何色に見えてるんだ。」
「どどめ色。」
「何でじゃい。」
キーンコーンカーンコーン
どぱぁん!
「せんぱ~い、帰りましょう。」
相変わらずのリンゴの吶喊に最早みんな慣れたモノ。
「なんだぁ~、今日はまた一段と気合が入ってるじゃない。」
「あ、先輩の友人の……引っ付きムシ先輩。」
「おお~~~~~い、彼氏の唯一の友達に引っ付きムシはしつれいじゃないか~~。お前もなんか言ってやってくれ。」
「いいよそれで。」
「拓海~~~~~。」
「だってそれで辰也の何かが変わる訳でもないだろう。」
「(きゅんっ)拓海。」
「あの~、先輩。彼女の前で男を口説かないでください。」
「え?そんなつもりじゃ――。辰也はどう言おうと引っ付きムシと変わらないって言いたかっただけだぞ。」
「拓海~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。」
「冗談ジョーダン。怒るなよ。」
ムンクの叫びみたいになっていた辰也の肩を叩いて落ち着かせる。
「それで今日はどんな用事だ。嬢ちゃん。」
「変な呼び方しないでください。谷口って呼んでください。」
「分かった。代わりに俺のことは臼井って呼んでくれ。」
「分かりました。薄い先輩。」
「……なんか今、ニュアンスがおかしくなかったか?」
「そんなことはどうでもいいです。それよりも今日はウチの両親が先輩のご両親に御挨拶に伺う日です。なので早く帰りましょう先輩。」
「何お前それって。」
「言いたいことは分かるが、いいだろ。恋愛はそれぞれのペースでやっても。」
「まぁ、法に触れなけりゃな。ぶっちゃければ高校生で結婚しても、学校に妊娠した状態で通うのも法律を守っていたら文句言う方がおかしい話だけどな。」
「まて、まるでフリみたいじゃないか。」
「べっつに~。拓海のやりたいようにやりなよ~。あ~、俺も彼女が欲しい。」
友人の言い分には言いたいこともあるが――。
「先輩。はやく~。」
「リンゴ、このタイミングでそれは誤解を招きかねない。」
「ほら、彼女からのおねだりだ。早くイッテやれ。」
辰也から背中を叩かれて仕方ないとリンゴと一緒に教室を後にする。
教室を後にした僕たちは学園の駐車場に向かう。
そこには今日はリンゴの御迎えの車が待っていた。
執事の――――、
「堤です。」
が、扉を開けて迎えてくれる。
「やぁ、お勤めご苦労様。」
中ではリンゴの両親の旭さんと柚子さんが待っていた。
「お父様、お母さまお待たせしました。」
「こんにちはです。旭さん。柚子さん。」
「拓海君、そんなに硬くならないでもっと気さくにしてくれたまえ。」
と、旭さんが言ってくれる。
「あら、貴方たらさっきまでガチガチに硬くなってそわそわしてたのに。」
「柚子さん。それは言わない約束。」
と、柚子さんにからかわれてたじたじの旭さん。
しかし何と言うか――――。
「余裕があるわね。」
さくらがぼくにしがみ付くことなく座席にふんぞり返って言う。
さくらはこの数日間のリンゴとの修行である程度物に触れるようになったのである。そのため、こうして車にも普通に乗れるようになったのであった。
「流石に冗談を言い合えるだけの大人よね。」
「さくらさん。そんなからかってあげないでください。さっきまでのこの人の様子を見てたでしょう。」
今日の授業はさくらは同席せず、旭さんたちと一緒に待機していた。
「柚子っちこそ男のプライドを尊重してあげなあいよ。」
なんだかその間に仲良くなっていたようだ。
とか何とか云ってる間に車は発進していた。
さすがは高級車。
2回目ながらその滑らかな走りだしには驚かされる。
スムーズに走る車で通学路を行くのはなかなか新鮮だたりもする。
「あっ、シートベルトしてない。」
「大丈夫です。外からは見えてません。」
という執事さんの言葉に、
「そう言うことじゃないでしょう。事故になったら――――。」
「安心してください。この車は特別製です。乗客をしっかり守ります。」
ぼくは黙ってシートベルトを閉めた。
「なんと信用して――――って、旦那様達も。」
「堤、君だってシートベルトしてるじゃないか。」
「わたくしは運転席なので――。」
「いいじゃないですか。安全第一ですよ。」
そういう訳で、安全運転でぼくの家に向かった。
「ほぉう、ここが拓海君の家か。」
旭さんがぼくの家を見上げながらつぶやく。
「小さい家ですがどうぞ。」
「いやいや、家の大きさを比べるのは無粋だよ。」
と、リンゴみたいなことを言う旭さんたちを家に招く。
「む!」
「これは。」
そしたらまたもや玄関で土下座している両親が居た。
「またか。」
と、両親にツッコミを入れようとしたら――
「はは~~。」
「って、こっちも。」
うちの両親の奇行を見た旭さん達も玄関のかまち前で土下座を始めてしまった。
「兄さん、これどうすんの。」
ぼくに聞くな。
「とりあえずワタシの両親のケツは私が蹴っておきますね。」
「じゃぁぼくの両親のケツはぼくが蹴っておくよ。」
「「せ~~~~の。」」
「「「「アッアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!」」」」
スパ~~~~~~~~~ン!という子気味良い音が住宅街に響いた。
「うぅ~~~~~~~~~。まだお尻がひりひりする~~~~。ひどいよ拓海~~~~~~~。」
お尻を押さえながら文句を言う母さんにぼくが文句を言いたい。
「だからあんな迎え方をするなって前にも言っただろ。」
「だが、相手は彼女さんのご両親なんだぞ。」
と、こっちも尻を押さえながら文句を言う父さん。
「それで客に土下座させてどうする。」
「う、それは本当にすまない。」
そう謝るうちの両親。
「いえ、わきまえていないのはこちらも同じ。拓海君。ご両親をそんなに責めないで。」
と、こちらも尻を押さえたリンゴの両親。
なんと言うか、ウチの2人よりダメージが大きそうだ。
「いあや~~。リンゴちゃんの蹴り、フォームも完璧ですごい勢いだったからね。そりゃぁ痛いよ。」
なんてのほほんと言うさくらだが、リンゴの脚力を考えるとなかなかシャレにならなさそうだった。
という訳で、両親の顔合わせは尻の痛みを共有するところから始まった。
そんなこんなで始まった両親の挨拶だが、問題もなく進んでいたようだった。
―――――――――のだが。
「あの、失礼ですが、お母さんはテレビで見かける――――。」
と、ぼくの母さんが辰也の言っていたことに踏み込んできた。
「はい。たまにテレビにも出させていただいている谷口柚子です。」
「それって、やっぱり霊能力者の。」
「はいそうです。」
「……………………。」
「……………………。」
ぼくの両親は黙り込む。
そりゃそうだ。
息子が彼女を作ったはいいが、その親が霊能力者だという胡散臭いものだと普通の親なら納得できないものだろう。
「…………あのな母さん。」
「あの!。」
母さんが突然強い口調で話し始めた。
「霊能力者さんならこの子が言っていた妹が見えているのですか!」
「はい。見えてます。旦那も娘も霊能力がありますからさくらさんのことは見えてます。」
「―――――――っ、本当ですか。」
父さんが絞り出すように尋ねる。
「私達のことはともかく、息子さんは信じてやってください。」
旭さんが父さんに諭すように語る。
「でも………………。でも…………。それだと私たちは息子を信じなかったばかりか、娘の存在を忘れて否定していることになる。」
「父さん…………。」
「それはご両親が悪いわけではありません。大丈夫です。娘と拓海君がさくらさんを取り戻すために力を合わせています。」
「……………………。」
「……………………。」
黙り込む母さんと父さんに。
「なぁ、信じてくれ。荒唐無稽な話かもしれないけど、ぼくはやっとさくらを救う方法の足掛かりを得られたんだ。…………親として、信じて見守ってくれねぇかな。」
「………………拓海。」
「そうね。…………私たちが拓海を信じないでどうするの。」
正直笑いをこらえるのが大変だった。
当のさくらが母さんたちの後ろで「勝訴」の紙を掲げてピースサインをかましてやがるのだ。
今すぐ殴りてぇ。
しかし、リンゴの両親の挨拶は上手くいった。
これからのぼくが霊能力者として修行することを両親に伝えられたのである。
「ちょ~~~~と待って、霊能力者。」
母さんが頭を抱えながら問い返してくる。
「正確には陰陽師ね。」
「いやいやいや、拓海のこと信じるとは言ったけど、陰陽師?」
「進路が陰陽師なんてありえないだろう。」
「正確には宮内庁の陰陽寮を目指すので、国家公務員です。」
「「え、えぇぇぇえぇえっぇえ。」」
母さんたちがむせながら驚く。
「柚子さんはテレビにも出演して有名ですが、ワシは宮内庁に勤めている現役です。」
「そう言うのって大学とかは。」
「ウチの推薦が通りますよ。今どきのブラック企業より健全だと自負してます。」
「そ、そうですか。」
「卯月さんこそ事務員なんかで紹介してもらった方がいいんじゃないかしら。」
父さんの会社ってブラックなの。と、初めて気にしたものだ。
そんなこんなを話しながらすき焼きを食って両親の挨拶はすんだのだった。
「それじゃあ、先輩。今日は失礼しました。」
「そんなことはないさ。」
「さくらさん、ちゃんと取り戻せるといいですね。」
「あまり気負うなよ。」
「分かってますよ。」
そう言って玄関前で別れの挨拶をする。
「キス—―――してもいいですか。」
「もちろん。」
皆にバレないようにコッソリとキスをする。
もしも、
もしも僕が白い女の子とピンクの女の子のどちらかを選ばなければならない時が来ても、ぼくが選ぶ子は決まっている。
■■■
リンゴside
キスの名残を唇に感じながら両親と共に先輩の家から帰る。
その幸せな時間にお父様が口を開く。
「リンゴ、分かっているだろうね。」
「分かっていますわ。」
私は吐き捨てるように答えた。
「リンゴがどう思っていようと奴らは待ってくれない。我々はやるべきことをしなければならないのだ。」
そんなことは分かっている。
谷口の家が存続する為にも、私はやらなくてはならない。
さくらさんを先輩の元に戻すことではなく。
さくらさんを私のモノにする事が必要なのです。
……………………
………………………………
そんなこと、分かっているのに――――
■■■
リンゴたちを見送った後、ぼくは唇に残る感触を確かめるようにそこに触れてみた。
「なに乙女みたいなことやってんのよ。」
「っ―――!別にいいだろ。」
背後から急にさくらに声をかけられて驚いた。
今振り返れば赤くなった顔を見られるかもしれない。
だから振り返らずに頬を夜風にさらしながらさくらに話しかける。
「なぁ、――あれでよかったんだよな。」
「何が。」
「母さんたちに陰陽道とか――――あとさくらのこととか、話しちゃってよかったんだよな。」
「さあってね。今からでも交際に反対されたり、また病院に連れていかれたりするかもしれないわよ。」
「まじかよ。」
「母さんたち、兄さんと話したいことがあるみたいで、さっきからリビングで待ってるわよ。」
「気づかなかったことにして部屋に帰ってもいいかな。」
「その時は母さんが部屋に突撃かましてくるわよ。」
「だよねぇ~。行かなきゃならないか。」
ぼくはため息を一つついて家の中に戻った。
「拓海。」
リビングに入るとテーブルに父さんと母さんが並んで座っていた。
その表情は硬く、何かを決意したようだった。
「なに?」
「少し話がある。座りなさい。」
そう言われて、ぼくは黙って父さんの対面に腰を下ろした。
母さんたちは黙ったままですぐには口を開かなかった。
「――――その、な、何から話せばいいやら。」
父さんが目を逸らしながら話し始める。
そんな父さんを見て母さんがぼくの目をしっかりと見つめて聞いて来た。
「ねぇ、その妹。さくらは今もここにいるの?」
「いや、眠いから先に寝るって言って部屋に戻ってった。」
「え、あぁ、そうなの。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…………あの、拓海がからかってる、て訳じゃないのよね。」
「ぼくがからかっているというより、ぼくがからかわれている感じかな。」
「つまりこういう空気になるって分かってて寝に行ったのか。」
「そういうやつです。」
「あの、さくらは父さんと桃さんの子供なんだよね。」
桃とは父さんの前妻、ぼくのホントの父の妹で、つまりは叔母さんだ。
「そうですよ。さくらは父さんと叔母さんの子供で、ぼくの義理の妹です。」
「そうか。――――ははは、何処で育て方を間違えたのかな。」
「いや、さくらが今のさくらになった時に性格も若干変わったから、育て方の問題じゃないよ。」
「うん。だとしてもね。…………ねぇ、さくらは今幽霊みたいになっているのかい。」
「そこに狐が混じっているけど。」
「狐?」
「さくらが言うには僕に取り憑いてた狐。
「祟っていた……って、まさか。」
「そう、ぼくの父さんの事故や叔母さんの病気、それと僕の病気が狐のせいだってさくらは言っていた。」
「はぁ………………。いや、信じるって決めたんだ。ソレでその狐がどうなったんだ。」
「そこはさくら本人も覚えてないそうだ。ただ、さくらの記憶に狐の記憶が少し混じっているような物らしい。」
「狐がまた祟ったりはしないのか。拓海は大丈夫なのか。」
「狐の自我はもうないらしい。ぼくの体は……さくらが取り憑いてご飯を食べ過ぎるのがたまに苦しいぐらいかな。」
「……ごはん。」
「あっ、そっか~。拓海がたまに食べ過ぎてうんうんうなってるのってさくらちゃんに身体を貸した後だったんだ~。」
ポムッ、と手を叩いて母さんが得心いったという顔をした。
「幽霊みたいなのにご飯を食べたりするんだ。」
「ぼくの体を使ってだけどね。さくらは食欲も睡眠欲も、あと性欲もちゃんとある。」
「せ――――性欲って、お前たち何をして。」
「たまにエロ本買って来いってせがまれる。」
「なるほど~。で、巨乳ものは拓海の趣味?」
「ぶっ、母さん何でそれを。」
「なるほどなるほど。やっぱりこの前のリンゴちゃんのどこが好きって聞いた時の「リンゴのデカパイが好きだああああ。」て叫んでたのは本気だったんだね。」
あ~、あ~、あ~。と言って母さんのセリフを遮ろうとするが虚しい抵抗にすぎず、ぼくの恥ずかしいセリフをリピートされる。
「てか一部改変されてない。」
「拓海ったら巨乳ものとロリモノを持ってるからてっきり雑食かと思ってたのよ。」
「そこは雑食だけど、てか雑食の何が悪い。」
「そうなの。いやぁ、雑食だと創作物で満足しちゃうかと心配してたのよ。」
「いらん心配すんな。」
「いらなくはないわ。孫の顔が見れるかどうかの問題よ。」
「あの~~~~~。親子でそう言う話をするのはどうかと、父さん思うんだけど。」
「ソレもそうね。」
「ソレもこれも父さんが性欲って聞いて変な想像するから。」
「父さんのせいなの。」
「まあそんな風にふざけられるなら心配するほどでもないのかな。」
ぼくがそう言うと両親はちょっと困ったような顔をしながら顔を見合わせてから僕に打ち明けて来た。
「実はな、拓海がそのさくらを隠すように話しているのには気づいていたんだ。」
「え。」
「最初は病気のせいでおかしくなっちゃったんだと思っていたことだったけど、拓海がそう思われないように私たちに隠れて話をしてるのを見てなんだかあなたに信用してないように感じてしまったの。」
「そんなことない。」
「分かってる。分かってなかったのは父さん達の方だ。」
父さんと母さんは手を互いに握り合ってぼくと話をして居る。
その手は若干震えていた。
「この世にはまだ解明されてないことがたくさんある。そうでなければ桃さんの病気も拓海の病気も原因不明なんて言われずに治してもらえたはずなんだ。」
「だからね、だから私たちは必ずしも私たちが正しいモノじゃないと考えを改めることにしたの。」
「もう一度、拓海が私たちを頼ってくれるのを待っていたんだ。」
「それがこんなことになるなんて思いもしなかったけどね。」
「谷口さんには嫉妬しちゃうな。」
「……さくらのこと、信じてくれるの?」
「あぁ、拓海のことを、そして、娘のことを信じたい。」
「今更だけど、私たちも仲間に入れて。」
ぼくの目からは涙が出て来た。
ずっと両親に隠し事をしていたことがつらかった。
隠し事をしなければいけないことがつらかった。
さくらのことを信じてもらえないのがつらかった。
さくらの居場所がないのがつらかった。
だけど――――
だけど、これからは母さんたちにさくらのことを話せるのだ。
嬉しかった。
それがほんとにうれしかった。
ぼくは2階に上がってさくらを叩き起こして父さんと母さんの前に連れていった。
今からでもたくさんさくらの話をしよう。
「いや、妹普通に寝たいんだけど。」
空気読めや。
それから父さん達にさくらのことを色々話した。
ぼくが通訳になってさくらと父さんが話をしたりもした。
さくらの小さい頃の話を聞いて父さんにも思い当たることがあったらしく、さくらのことは全部忘れられてるわけじゃないことが分かった。
「拓海、さくらは今なんて言ってる。」
「眠い。まだ話すなら夜食が食べたい。とか言ってる。」
そう言うと母さんが、
「お夜食。お茶漬けなら用意できるわよ。食べる?」
「食べるってさ。」
という訳で、夜食にお茶漬けを3人で食べた。
「というか、ご飯を食べる時にはさくらが拓海の体に入ってるんだよね。」
「そうだよ~。」
ピスピスとお箸をカチャカチャさせてるさくら。
行儀が悪い。
「それなら最初からそうして話せば良かったんじゃないのか。」
「それだと兄さんだけが仲間外れになるじゃん。」
嘘つけ。
単に寝ぼけ眼だっただけだろうが。
「なんと、さくらは兄思いなのだなぁ~。」
親バカか。
いや、親バカだったな。
ぼくがさくらとは結婚しないと言ったときは、「さくらのどこが不満なんだぁ~。」とか叫んでいたし。
それでも数年ぶりの親子の会話だ。
感慨深いものがあるな。
「ところで父さん。この前母さんとは何回ぐらいやったの?」
「ぶっ!」
「いやぁん。」
さくらの言葉に父さんはお茶漬けを吹き出し、母さんはまんざらでもないように照れている。
「ごほごほ、なんてことを聞くんだ。」
「いや、兄さんとリンゴがいたすときの離れてい居る時の参考にでもなればと。」
余計な気を遣うなと言ってるだろ。
「そ、そういうものには若さというものっがあってだね。」
父さんも真面目に答えるな。
「あら、父さんもなかなかの持続力じゃないですか。」
「ソレは母さんが若いから無理をしてだね。」
やめてくれ。
さくらの話をしていたのになんで両親の性事情について聞かなきゃならない。
「兄さん、うるさい。」
「拓海はなんて。」
「父さんの回数と比べんな。だってさ。」
言ってな~~い。
「そうか。拓海は絶倫なんだ。」
そんなことは言ってな~い。
■■■
リンゴside
そうなんだ。先輩って絶倫なんだ。
何回くらいするんだろう。私耐えられるかな?
先輩の家の事情が心配で盗聴――――げふん、げふん。伝言の術を施した結界で聞き耳を立てっていましたが、どうやらご両親とはうまくいたようです。
良かった良かった。
これで先輩は公然と陰陽術の修行が出来ますね。
急がないと。
問題は私の家だけではありません。
先輩とさくらさんの血も厄介なものだったみたいですからね。
それについては今、お父様とお母様が対応に当たってくれてますが、なんだかきな臭いことになってるようです。
うぅ~。
こういう時半人前の自分が恨めしいですわ。
もし先輩がピンチになっても、私が1人前なら颯爽と助けに行けるはずですのに。
そこはさくらさんとの修行次第ですかね。
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