第7話 3人でツクろう。
晩御飯を用意するのに大事なことは何なのか?
「先輩は何だと思いますか。」
「やる気かな?」
「先輩はご飯を食べたくないのですか。」
「そりゃ、食べたいさ。そのうえで準備に必要なのはやる気だと思う。」
「それで何を嫌がってるのですか。」
「そんなの決まっている――――さくらが食べるってことはぼくは何もできないじゃないか。」
まぁ、そうなるよな。
彼女が家にお泊りに来て両親が不在(途中退場)だったら彼女の手料理が食べれるものだろう。
しかし、そこには僕の妹が居るのだ。
両親には見えない幽霊か妖怪みたいな妹が。
「兄さん、今妹のこと妖怪だと思ったでしょ。」
「……お前はいつからぼくの心が読めるようになったんだ。」
「心を読むんじゃないのよ。こういうのは思考を読むの。」
「名言風に言うのはいいが首を絞めるのはやめてくれないか。」
「ふふふ、仲がいいですね。それより、材料を買いに行きましょう。」
「「は~~い。」」
という訳でぼくはさくらに身体を貸すことになった。
つまり彼女との共同作業的イベントも実際は見てるだけになるのだ。
そんなことになっりながらもリンゴとさくらは2人で近所のスーパーに買い出しに出かけたのだった。
ぼくの家の近所にはコープがある。
コープとは生産組合のことだ。
消費者だった主婦たちの力が合わさってできた生産者と消費者をつなぐ組合。
我ら庶民の心強い味方である。
「それでカレーの具材は何にしますか。」
「そうですねぇ。――――伊勢海老なんてどうですか。」
「近所のスーパーにはそんなもん売ってねーよ。」
「そうなのですか。ではアワビにしましょう。」
「それもね~わ!」
リンゴのボケにさくらがツッコミに回っている。
こんな機会めったに見れない。
何か良かった~~~~。
「兄さんは兄さんで、なんか変なところで満足感持てるし。」
「しかし。伊勢海老もアワビもないとは、コープ、まだまだですね。もっと力を見せてほしいものです。」
「庶民はそんなモノめったに食べないから仕入れても売れないんだよ。てかシーフードカレーにでもするつもりだったのかよ。」
「そうですけど。」
「――――兄さんて肉の方が好きなんだぜ。」
と、何故か勝ち誇るようにニヤニヤしながらさくらが言った。
「む、なるほど。さくらさんはよくわかっていますね。」
「そうだろうそうだろう。」
と、いう訳で2人はまずスーパーの肉売り場に向かう。
「やはりここは牛ですよね。」
「それは間違てないけど、それ焼き肉用。」
「ではこちらですか。」
「サイコロステーキか、そっれならまぁ。」
とかさくらも言い出す。
「もったいないだろう。ここは切り落としでいいよ。」
「なっ、兄さんそれは妥協しすぎ。」
「そうですよ。お金の心配はしないでください。」
リンゴよ。ブラックカードを持ってそんなこと言わないで。
あと、2人共勘違いしている様だからこの際ハッキリ言っておこう。
「いいか2人共、ぼくはカレーライスよりハヤシライス派なんだ。」
「「な、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇ。」」
2人は驚愕しているが分かってくれたようだ。
「……まさかこの期に及んで――ハヤシライスだと。」
「そんな今までのやり取りは何だったのですか。」
とそこで2人がカッと目を見開いて叫ぶ。
「「そもそもカレーとハヤシを比べんな。」」
すごい剣幕だった。
「カレーはカレー、ハヤシはハヤシだろうが一緒にすんな。」
「そうっです。今日はカレーにすると決めたのです。ならば、ハヤシごときが出てこないでください。」
2人の気迫に呑まれそうになるぼくだった。
だが。
だが、聞き捨てならないセリフがあった。
「――――ハヤシごときだと。ハヤシごときと言ったか~~。」
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
ぼくの内側から強い力があふれ出しってるのが分かる。
「バッ――――馬鹿なああああああ。ハヤシごときでこれほどの戦闘能力を出すなんて。なにいいいいいいいいいい、まだ上がるだとおおおおおおおおおおお。」
「おのれ、ハヤシいごときがああああああああああああ、はっ、しまった。身体の主導権がアアアアアアアアアアア!」
ぼくは体の主導権をさくらから奪い返して2人に告げる。
「今日の晩御飯はハヤシライスだ。」
「「……はい。」」
とまぁ、晩御飯で大事なのはやる気なのである。
という訳で、
さくらとリンゴの買い物はすぐに終了して僕とリンゴの買い物に代わった。
まあ、はたから見たら変わりはないだろう。
たまたま、霊能力者がこの場を見ていない限りは分からないはずだ。
「あらあら、見てください先輩。あんなところにドドリアさんが売っていますわ。」
「ははは、ドリアンがスーパーに売ってるわけないだろ。売っていても買わん。」
「ぶ~、いけず。」
「ソレはいいので晩御飯の材料を買うぞ。」
「じゃあこれとこれと――――。」
「値段を気にしろ。」
「先輩こそお金のことは気にしないでください。」
ブラックカードを持つリンゴにぼくは言ってやっる。
「施しは受けん。」
「いいえ、施しではないです。私が1人前と認められなければ他所の家にとられるんですから、もっと使いっ切ってやりましょう。」
「もっと、前向きな努力をしようぜ。」
とりあえず、リンゴのお金は使わないい方向で話はつき、ごく普通のハヤシライスを作ることになった。
「牛肉の切り落としに、――――ニンジン、ジャガイモ、玉ねぎと、あとは――――ルーですね。」
「何言ってんだ。あとホールトマトとバジル、それにチーズだ。」
「こだわる気マンマンじゃないですか。」
「は?――――なにいってんだ、基本だろ。」
「基本はルーの箱に書いてある材料で作るものでしょう。」
「わかってないなぁ――――ハヤシにはトマトだろ。ル-の説明は邪道だろうが。」
「先輩、ハヤシライスの話になってから人が変わりすぎですよ。」
「ハヤシライスを生み出した全国3000万の林さんに敬意を払って作らなくて何がハヤシライスだ。」
「ハヤシライスの誕生に係わった林さんは1人ですよ。あと、ハヤシライスのルーの箱に書かれている通りに作ればみんなハヤシライスですよ。」
「ビヴァ、ハヤシライス。」
「はぁ~、先輩が正気を失た時はどうしようかと思いましたが、無事に買い物を済ませられました。」
「おいおい、まさか本当に買い物1つであんなに正気を失う訳ないだろう。」
と、ちょっとしたジョークに、愚痴を言うリンゴにぼくが謝ているのに、全然機嫌を直してくれない。
「ほれ、あ~ん。」
「……あ~ん。」
ぼくはスーパーで買ったアイスを1匙リンゴの口へと運ぶ。
すると、ぼくが入れたアイスよりも大きくリンゴの頬が膨らんだ。
「先輩はからかい過ぎなんです。」
「そう言うリンゴこそ必要以上に世間知らずを演じただろう。」
「う、やっぱりわかりますか。」
「わかるさ。炭酸はマジでそのあと勉強しただろ。」
「そこまでわかりますか。」
「一応な。」
「――――分かると思いますが、私は学校で浮いています。」
それもわかっている。
「お金持ちの世間知らず。そう言えるでしょうが、私は小さい頃祖父のもとで修行をしていたのでそれが行き過ぎていました。」
スパルタな爺さんだったらしい。
学校すら休ませて山ごもりをさせてい居たらしい。
「加えて、私は人には見えないものが見えていました。」
そんなことを周りに言えばどういう扱いを受けるかはぼく自身、身をもって知っている。
「幸いにも私の両親は見える人でしたから、家ではさほど苦労はしませんでした。――――でも先輩は。」
「あぁ~。なんか苦労ってあったけさくら。」
「いつも一緒だから、兄さんの自慰のたびに妹がいたたまれなかったことかな。」
「少しは離れられんだから気を利かせや。」
「あっ、やっぱり先輩もするんですか。」
「リンゴはしないのか。」
「先輩、それ、セクハラですよ。」
「ならば君も聞かないでくれ。」
「えぇ~、彼女としては彼氏の性癖には答たいのですが。」
「そんな気は使わなくていい。」
「彼女がつかむべき彼氏の3つの袋の内、胃袋と玉袋で残り1つは何でしたっけ?」
「知るか。てかホントに何歳だよ君は。」
「14歳のぴちぴちJCです。」
てへぺろって感じに笑ってごまかすリンゴだが、
「まぁ、実際先輩の苦労も同じですよね。」
と、真面目な顔で語られる。
「敵、おおくなかったですか?」
同年代の相手に敵と称するようになるのがどれほどか、ぼくにはわかる。
奴らは敵だ。
殺してやりたいほどの敵になる。
それが、人とは違うものが見えるものの他人であろう。
…………
……………………
愚痴を言ってもしょうがない。
ただ、分かってくれる人が恋しいだけだ。
「先輩も理解せず否定から入る輩は嫌いでしょう。」
「あぁ。――だから君もハヤシライスを食え。」
「あれ~~~。」
リンゴは予想と違う返しが来たことにリスみたいな顔になっていた。
いいんだこれで。
世間で浮いていても大切なものがあるから。
しかし――――
さて、家に帰ってきてさっそく夕ご飯の用意をする。
ぼくがエプロンを用意してると――――。
「リンゴと。」
「さくらの。」
「「ワクワクcooking。」」
と2人で何やらポーズを決めていた。
リンゴは母さんのエプロンを付けてもらっている。
が、
小柄な母さんのフリルのついたピンクのエプロンはリンゴの胸部装甲によって形をゆがめてなんだか卑猥になてしまっている。
なんと言うか、コスプレみたいになっている。
対してさくらは、かっぽう着姿に化けていた。
長い白髪も頭の上でまとめられていて、なんだか田舎のおばあちゃんみたいになっている。
「2人共、今のはなんだ?」
ぼくは2人の謎ポーズに疑問を口にする。
なんだか料理番組みたいなことなのに、同時に日曜日の朝にやってる女児向けの変身ヒロインモノのアニメのポーズみたいなのを決めているようでもあった。
「今のはお約束と言うやつです。」
「兄さん、とある運命律においては料理をする時ああいうことをしなければならないようにされているのです。」
「そうか、よく分からんが大変だな。」
「たいへんだな。じゃないよ兄さん。」
「なに、まさかボクもしなければならないのか。」
「いえ、しなくて結構。兄さんがしてもキモいだけです。」
「キモイゆうな。ならなんなんだ。」
「女の子2人がエプロン姿で台所に立っているのだからやるべきことがあるでしょう。」
「ふむ。」
ぼくはしばし考えて。
2人の腰をぎゅっと抱き寄せて、
「どっちから食べちゃうか迷うな。」
と耳元でささやいた。
ドカ、バキ、ボカ。
「エプロン姿をほめろって言ってるのよ。誰が口説けと言った。」
「軽いジョークじゃないか。」
怒れるさくらと照れているリンゴが倒れている僕から見た限り、リンゴは満更でもない顔をして居るし、さくらの顔も怒りとは別に赤くなっているように見える。
ならばいいじゃん、これくらいのからかい。
「くそう、兄さんのキモイセリフが耳にこびりついて離れない。」
「キモイ言うなって。」
「先輩、私はもう一回やってもらいたいです。」
「よおし、お安い御用だ。」
「ハイハイ、遊んでないで晩御飯作るわよ。」
「「はーい。」」
「なによ。急に素直になったわね。」
「それは、ねぇ、先輩。」
「うん、おばあちゃんの言うことはちゃんと聞かなきゃダメっだもんね。」
「誰がおばあちゃんだ。」
「「きゃぁ~~。」」
とかやって、なかなか始まらなかったのだった。
とは言え、その後はちゃんと夕飯づくりをした。
ぼくとしても、あんだけハヤシライスについてネタをかました手前、ちゃんとした料理になる様に真面目に調理をした。
さくらは見てるだけしかできないのでぼくとリンゴでの作業となった。
2人の共同作業となった。
なんかいい言葉なのでもう一回行っておく。
2人の共同作業となった。
リンゴにはまずはお米を炊いてもらうことにした。
その間にぼくは野菜の下処理を行う。
そして、肉を炒めて野菜を炒めて、鍋に入れたら水を入れて火にかける。
鍋には少量のコンソメも入れておく。
具材に火が通ったら一度冷ました方が美味しくなるのだが、今回は時間が時間なので省略してしまう。
一度火を消してから、ハヤシライスのルーを入れて、火を付けてからトマトとバジルとチーズを加える。
これで出来上がり。
後は炊けたご飯にかけてテーブルに運べば良し。
何の問題もなく無事に晩御飯が完成した。
「うーむ、なんだかつまらないわね。」
とかさくらは言ってくれるが、変なドラマ性を出して食べられないものができるよりかはいいんじゃないのかとぼくは思う。
「面白さより美味しさが重要だろ。」
「ソレもそうね。それじゃあいただきましょうか。」
そう言ってさくらはぼくの中に入ってこようとする。
「待て待て待て。ハヤシライスはぼくが食べる。」
「なにぃ~。カレーだったっら妹のものだったのに。」
「カレーでも夕飯はぼくが食べる。」
「何でよ。」
「お前昼にうどん食っただろう。てか、最近はさくらのお方がご飯食べてるじゃん。ぼくにも食わせろ。」
あの一人だけ後ろに立ってみんながご飯を食べるのを見てるだけなのはかなり寂しいものなのだ。
だからさくらがご飯を食べたがるのは分かるが、ぼくだってゆずってばっかりはつらいのだ。
「兄さんのケチ~~。」
「半分やるから我慢しろ。」
「ならば先に妹に食べさせてよ。レディーファーストでしょ。」
「お前食い過ぎるじゃん。ぼくの分残さないじゃん。」
「兄さんの方こそ。この前のカツオのたたき全部食べたじゃん。」
「アレは謝っただろ。根に持つなよ。」
「あのお2人とも喧嘩はやめってください。なんでしたら私の分を分けますから。」
「きゃ~、リンゴちゃんやっさし~。」
「待て、さくら。」
「何よ。」
「良~く考えるんだ、リンゴの食べる量を。」
「あっ。」
「この中で一番食べえるリンゴのモノを取ってどうする。ましてリンゴはお客さんだぞ。好きなだけ食べさせてあげないと。」
「そうだったわね。」
「待ってください。それだとわたしが一番食い意地が張ってるみたいじゃないですか。」
「「そうじゃないの?」」
「そんなこと――――」
ぐうううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。
「―――そんなことないですよぅ。」
リンゴの語尾が尻すぼみしていった。
さすがに女の子として恥ずかしいのだろう。
ぼくとさくらは聞かなかったことにして、大盛りのハヤシライスをリンゴに差し出したのだった。
「変な気は使わないでください。……食べますけど。」
そうして夕食を3人で食べた。
■■■
リンゴside
「それじゃあリンゴ、先にお風呂に入りなよ。」
そう愛すべき恋人に言われるのはなんだか大人になった気がして気持ちがいいモノだ。
しかし、この後に大人の階段を上る予定はない。
そう決めた。
自分で決めたのだ。
だから、彼女に声をかける。
「さっくらちゃ~~~~~ん。お風呂一緒に入ろう。」
「ん?いや、妹は風呂に入る意味がないのだが。」
「いいじゃんいいじゃん。こういうのは気分だよ。」
「こら引っ付くな。なんなんだ。今朝からベタベタしてくるが。」
フッフッフッ、これこそさくらさんのお姉ちゃんになっちゃえ計画です。
先輩にはさくらさんが戻って来るか結婚できるまではプラトニックな関係を築くと宣言していい人ぶりましたが、今のうちにさくらさんにお姉ちゃんという認識を刷り込んでおこうという、我ながらせこい作戦です。
小っちゃいといいたければ言うといいです。
恋する乙女は手段を択ばないものなのです。
という訳で、今朝からさくらさんとのコミュニケーションをとっているわけですよ。
「私ならさくらさんに触れるから背中流せるよ。」
「おおぉう、ん?それなら昨日してほしかったぞ。折角なら大きなお風呂でしてほしいものだ。」
うっ、言われてみればそうだ。でも昨日は先輩とのお風呂にテンション上げてたから気づかなかった。
「ごめんなさーい。昨日は先輩とのお風呂に夢中になっちゃってた。」
「正直なヤツだな。」
「ここで嘘ついってどうするんですか。」
「ソレもそうだな。」
と、いう訳でさくらさんの案内で先輩のお家のお風呂にやってきました。
お客さんなのだからしょうがないのだけど、先にお風呂を進められてしまったので先輩の残り香を堪能できないのが残念です。
そこ、ヘンタイとか言わない。
エッチを我慢するんだからこれくらい許されます。
「よいしょ。」
「それ。」
ぽん。
ぽん。です。
私が脱衣所でブラジャーを外していたらさくらさんは忍者が変身するみたいに素っ裸になりました。
「ん?どうしたの。」
私の前に張りのあるさくらさんのオッパイがたゆたっている。
恥じらいはないのだろうか。
ならば私もバスタをるはなし。
勢いよくブラジャーを取り払って自慢のオッパイをさくらさんに見せつける。
「いえ、さくらさんの着替えは簡単そうでうらやましいな~と。」
「そう。妹は普通に着替えた記憶がないからわかんないけど。むしろ、妹からしたらリンゴの胸の方が羨ましいな。」
「これですか?」
さて、ここはかまととぶるべきか、いなここは――――
「へへ、実は大切に育てただけあって自慢のオッパイなんですよ。」
「いや、髪の毛じゃないんだから育てるって……」
「そんなことないですよ。しっかりと体を鍛えたうえで脂肪をたっぷりとって脂肪を育てようとしたら胸に行くんです。」
※注、あくまで個人の感想です。
「そんなものか、今の妹だと脂肪は兄さんに行くからね。」
やれやれ、とさくらさんが言ってるうちにパンツを下げて足から抜く。
脱いだ下着は脱いだシャツの下に――――いつもなら入れるが、ここは1番天辺に置いておこう。
先輩が反応してくれたら御の字だ。
さくらさんと2人で浴室に入る。
「うあわぁぁぁぁぁ。せま~~~~~い。」
なんて私は言わない。
世間知らずな私だが一般家庭のお風呂がどれくらいかは知っている。
むしろ先輩のお家は広い方じゃないですか。
そう思いながら、
「ささ、さくらさん座ってください。」
「へ?」
「へ、じゃありません。背中流しますって言ったじゃないですか。ほらほら早く座って。」
「わっわ、ちょっと。」
私はさくらさんの手を引いて洗い場の鏡の前にさくらさんを座らせる。
鏡にはさくらさんの姿が映っているが、これは普通の人にも見えるのだろうか?
先輩に訊ねてみよう。
「まずは頭から洗いましょうか。」
「えっ。頭も洗うの。」
「頭は触られたくないですか?狐耳が付いてますもんね。」
「いや、別に嫌という訳じゃないけど。」
「じゃぁ、洗っちゃいますね。」
そう言ってまずはさくらさんの髪をシャワーで湿らせる。
うっわ、きめ細か。
お昼に食べた稲庭うどんも透き通った綺麗な麵だったけど、これはまた違う美しさだわ。
白い髪が水気を含んでバスルームの明かりを反射するから銀髪みたいにキラキラしてるのだ。
てかピクピクって、さくらさんの狐耳がピクピクして水を弾き飛ばそうとしてるのが可愛らしい。
「ん?」
「どうしましたさくらさん。熱かったすか。」
「いや、温度はちょうどいい。だが、お湯に濡れている……だと。」
「それはそうですよ。シャワーを浴びせているんですよ。」
「いや、そうじゃなくってな。――――」
■■■
「先輩、せんぱ~~~い。」
ぼくが食器を洗っているとお風呂場からリンゴの切羽詰まったような声が聞こえて来た。
「先輩、早く、早くきてくださ~~~~~い。」
「なんだ何があった。」
すわ、Gでも出てしまったか、と思いながら脱衣所に駆け込むと――――。
「見てください。これ見てください。」
そう叫びながら素っ裸のリンゴが同じく素っ裸のさくらの手を引いて飛び出してきた。
さくらの方はかろうじて片手で胸を隠しているが、リンゴの方はもろ見えだった。
「ちょっ……おま――――」
「見てください。見てください、先輩。」
「見てくださいって。お前それは見せちゃ駄目じゃないのか。プラトニックは何処に行った。」
「へ?」
リンゴは疑問符を頭に浮かべながら首を傾げる。
ぼくはかろうじて下は見ないうちに目を逸らすことができた。
「リンゴ、裸。裸のまんまだから。」
そう言うさくらの声が聞こえる。
「へ?」
そえっでリンゴは自分の恰好に気が付いたのだろう。
しばしの沈黙が続いて――――
「まっ、見せちゃたものは仕方ないですね。先輩も気にせず好きに見てください。」
「痴女か!」
「露出狂か!」
さくらと僕のセリフが放たれるも、リンゴはあっけらかんと、
「いやぁ、先輩だけですよ。異性に裸見せてもいいと思えるのは。これがお父様ならぶっ飛ばしてます。」
ぼく相手にもちょっとは恥じらってほしい。
「で、コレです。これ。見てほしいのは。」
とりあえずリンゴとさくらにはバスタオルを巻いてもらった。
しかし、
デカいリンゴの胸はバスタオルではパツパツで今にもこぼれそうで気になっちゃいます。
「先輩、そっちが気になるならあとっでいっぱい見せてあげますから今はこっちを見てくっださい。」
後で――――いっぱい?
いやいや変な妄想するな。
それより、
「さくらさんの髪どうなってますか。」
「濡れてるな。それがどうした。」
「そう。濡れてるのです。さくらさんに言わせれば雨でも塗れなかったのだそうですよ。」
「ん!」
そこでピンッときた。
そうだよ。さくらは雨にも負けず、風にも負けないヘアスタイルを維持してきたはずだ。
なのにそれが濡れている。
「これはさくらが望んだことか。」
「ん~ん。」
さくらは首を横に振って否定する。
「と言うことは――――」
「これは私がかけたシャワーだからすり抜けずに濡れたのです。」
「つまり、」
「つまり、私の霊力なら触るだけじゃない、さくらさんが何かに触れるようにすることもできるということです。」
僕たちにとってうれしい発見があったがそれはソレ、素っ裸な2人には改めてお風呂に入ってもらった。
さすがにあのままで話すわけにはいかない。
色々と、――――その大きいと言うか大きくなるというか……。
ともあれ2人にはお風呂に入ってもらって洗い物を済ませてしまう。
それと、客間の確認も済ませる。
母さんたちが用意してくれてるはずだけど念のためだ。
もし布団が無かったらボクのベットでリンゴに寝てもらうことになる。
一応言っておくが、その際ぼくはリビングのソファーで寝るつもりだ。
うん。
客間の布団は問題ない。
せっかくだしこのまま敷いておこう。
ぼくが布団を敷き終わってリビングに戻ると、少ししてリンゴたちがお風呂から上がってきた。
「せんぱ~い。お風呂ありがとうございました。」
「いえいえ、お風呂狭くなかった。」
「問題ないですよ。むしろウチのお風呂が大きすぎるんですよ。」
そう言うリンゴは淡いピンクの可愛らしいパジャマを着ていた。
「先輩、私は今から髪を乾かしますから先輩もお風呂入って来てください。お話はそれからしましょう。」
ドライヤーを持ったリンゴがそう言いリビングのコンセントに差すと、
「妹が乾かしてやろう。」
「ほんと。ありがとう。」
と、さくらがリンゴの髪を乾かしてあげていた。
2人の仲が良くなっていくのに嬉しい気持ちになりながらお風呂へと向かう。
「なっ――――――、こ、これは――――。」
脱衣かごの天辺。
そこに燦然と輝く純白の布が置かれていた。
そうパンツとブラである。
誰のか――――は言うまでもないだろう。
今、この家でお風呂に入ったのはさくらとリンゴの2人。
そして、さくらの自己申告では履いてないらしい。
ならばこれはリンゴのパンツとブラ以外ありえないはずだ。
てか、こんな理由を並べ立てなくてもこれがリンゴのパンツとブラ以外ありえないのは分かり切っている。
だが、
普通はここには無いはずなのだ。
彼氏の家にお泊りでも初めてなら下着とかは持ち帰って自分の家で洗うはず。――――――多分。
なのにそれを脱衣かごに置いておくなんて。
しかも一番天辺に。
―――――――――――――――――あぁ、これは罠だ。
リンゴが仕掛けたお茶目ないたずらだろう。
これを僕が手に取るか覗いているに違いない。
という訳で振り返ってみる。
「………………………………………………………………。」
覗いてなかった。
ってことはこれは単なる天然か、――――さくらのアレで度忘れしているだけかもしれない。
いいや、
気にせずお風呂入ろう。
ぼくは衣服を脱いでそれを脱衣かごへ――――
そこでハタと気づく。
彼女の下着の上に自分の服を置くのが何かエロイ、と言うことに。
ぼくはしばし固まってしまった。
この後、お風呂に入っても――残り湯が~~~~~。と、妄想を膨らましたりして煩悩が止まりませんでした。
何だろう。
昨日以上にテンパっちゃうぞ。
お風呂から上がってリビングに行くと。
さくらとリンゴが何かを覗き込んでいた。
「何してんだ。」
と、ぼくも覗き込んでみると、
「折紙?」
何故か折紙の鶴がいくつか転がっていた。
「あ、先輩お帰りなさい。」
「風呂から上がってお帰りなさいは変じゃないか。」
「そうでしょうか?行って、帰って来る。だからお帰りなさいでいいと思います。」
「ん、一理あるかな。」
「でしょでしょ。」
「それで、なんで折紙なんかやってんの。」
「先輩がゆっくりお風呂に浸かっている間にお母様に連絡したんですよ。」
そう言ってリンゴには似合わないような真っ黒なスマホを見せてくれる。
「そうしたら母さんが折紙で式神つくりの練習法を教えてくれました。」
「そうなのか。――――ん?なぁ、修行はお父さんかお母さんのもとでないとダメじゃなかったのか。」
「ええ、だから母さんの式神が来ています。ほら。」
リンゴが指さす方を見れば、窓際に一匹のフクロウ?ミミズク?詳しくは分からないがそれ系の鳥が止まっていた。
「全然気が付かなかった。」
「そりゃぁ連絡用の他に偵察なんかもする式神らしいですから、簡単に気付かないですよ。」
「なるほどな。」
と、納得していたら――――
「夜分に失礼しています。拓海さん。」
と、そのフクロウ――フクロウにしておこう。――が喋りはじめた。
「あ、お義母さんですか。」
「柚子で構いませんよ。」
「では柚子さんで。」
「はい。」
「しかし、やっぱり陰陽師ならスマホより式神で会話するんですね。」
「いえいえ、そこはケースバイケースです。今回は監督も含んるためですわ。」
「なるほど。それで、なんで折紙をやっているのですか。」
「折紙は式神創りの基本ですよ。」
「ですがリンゴは基本はできると言ってましたが。」
「リンゴはね。ですがさくらさんはそうではないでしょう。」
「そうですね。でもさくらが式神を創る必要があるんですか。」
ぼくが柚子さんと話している間もさくらは折紙を必死に折ろうとしていた。
「話は伺っています。さくらさんがリンゴの霊力を通すとモノに触れるということは。そのうえで折紙の練習です。」
「はぁ。」
正直要領を得ない。
「これはさくらさんに実体のない今の体を実体化させるための最初の足掛かりにもなります。」
「えっ、さくらが実体化できるんですか。」
「がんばれば。まずは今の体で物に触ることを経験してもらう必要があります。それにはリンゴの霊力が必要でしょう。リンゴもさくらさんが折り紙を折りやすいように霊力を扱うことで実体のない式神を形作るための訓練になります。」
「なるほど。それで折紙なのは。」
「何かを形作るのが訓練の肝です。粘土でも良いのですが片付けが大変でしょうから。」
「ははは、確かに。」
それで納得いった。
確か陰陽師は紙で作った人形を簡易の式神にするらしい。
それを実体のないさくらが作ることでさくらとリンゴの足りない部分を鍛えようということなのだろう。
「ところで、拓海さんのご両親は?」
「ちょっと自爆した父さんが母さんへの愛を証明しようと頑張ってます。」
「は……はぁ?いえ、まあ愛の証明は大事でしょう。」
「ですよね。」
「できれば今度挨拶に伺いたいのですが。」
「それならウチが行くべきではないですか?」
「いえいえ、告白したのはリンゴからでしょう。ならばこちらが挨拶に向かうのが筋ですよ。」
「そういうものですか。」
「切っ掛けを作った方がうかがうものですよ。」
なるほど。
いつか役に立ちそうだし憶えておこう。
「ウチの親にはいつがいいか聞いておきますが、都合のいい日は。」
「それでしたら――――」
「それで、あれってぼくが混じってもいいのでしょうか。」
「拓海さんが?そうですね。本来は霊力を感じられるようにしてからですが、拓海さんはすでにさくらさんには触れるのですよね。」
「はい。」
「それならこれはどうですか。」
という柚子さんの提案でぼくはさくらを後ろから抱きしめるように、さくらの両手を手に取っっていた。
「ううぅ~、なんか変な感じ。いつも兄さんに取り憑く時と逆転しているような。」
と、さくらは微妙に落ち着きをなくしているが、
「こういう風に霊体のさくらさんを操る感覚をつかんでおくことが拓海さんの修行になります。と言うか、式神とは人の手を動かして折り紙を折るのが制御の基本的な感覚です。」
「ロボットのアームを動かす練習みたいなもんですか。」
「そんなところです。いきなりその為のプロブラムを理解したり組んだりできないようなものです。」
「なるほど。まずは制御能力。それから制作能力なんですね。」
「そうです。作るだけ作って制御できないのが一番の問題になりますからね。」
柚子さんのその言葉を聞きながらぼくはさくらごしの折紙を折っていく。
「あら、拓海さん巧いじゃないですか。これならリンゴより先に式神を創れちゃいそうですね。」
「にゃんですと。先輩。陰陽道では私の方が先輩なんですよ。」
「そうだな。ちょっとややこしいが。」
だが、リンゴにも譲れないプライドというものがあるのだろう。
「次は私。さくらさん次は私とやりましょう。」
「え~。折紙飽きて来た。」
と愚痴を言い出すさくらに。
「それならゲームのコントローラーではできないのかな。」
「「「!」」」
2人と1匹がぼくの方を勢いよく見てくる。
「先輩それはナイスアイディアですよ。」
「うんうん。いいんじゃないかしら。」
「それなら妹もやる気が出るぞ。」
と、ぼくの思い付きでなんかみんなノリノリになっている。
「それじゃあさくらさん早速やりましょう。仁王2とSEKIROUどっちをやりますか。」
「まて、ソレはどちらもまだ自力でクリアできてない。」
「私はクリアしましたよ。SEKIROUはトロコンです。」
「化け物か!それならアーマドコアの方で。」
「そっちも十分むずいですよ。」
「何、1人が機体制御、もう一人がカメラと攻撃を担う。」
「リアル複座式だと。貴様天才か。」
と盛り上がる2人。
「ねぇ、拓海君はSEKIROUクリア済み?」
「未プレイです。見てるだけでした。」
「私と一緒ね。私もやってみようかしら。」
「後悔するとこしか目に浮かばない。」
その日はみんなでSEKIROUをプレイして悲鳴を上げたのだった。
「うーん。もう朝か。」
ぼくは自分のベットで目を覚ました。
それはいい。
そこまでは良い。
しかし僕のベットにリンゴとさくらと柚子さんのフクロウが一緒に寝ていたことだ。
一番下に下敷きになっているぼくはどうにか抜け出そうともがくが、
「う、うぅ~~~ん。」
それがみんなを起こすきっかけになてしまった。
「な、なんでみんなぼくのベットで寝てるんだよ。」
「そりゃぁ眠たくなったから兄さんの所に。」
と、さくら。
「私は何処で寝たらいいか分からなかったのでさくらさんの後に付いて行って。」
と、リンゴ。
先に客室を案内しなかったぼくが悪い。
「私はリンゴに付いて行ったの。」
と、柚子さん。
家に帰れ。
まぁ、こんな状態も何だし皆で起き上がってリビングに向かう。
「あら、おはよう。拓海。」
「おはよう拓海。昨晩はお楽しみだったようだな。」
リビングではぼくの両親が迎えてくれた。
時計を見れば10時、帰って来ててもおかしくはない。
しかし、
リビングに降りてくるところはまるでぼくとリンゴが2人で二階のぼくの自室から降りてきたように見えるだろう。
さくらは見えてない。
フクロウはノーカン。
どんな誤解をされてるかは分かり切っている。
しかし、
台所で朝食の用意を始める母さんは肌が艶々していて、テーブルで新聞を読む父さんは若干やつれていた。
「どうやらお楽しみは向こうもみたいですね。」
リンゴの言葉に朝帰りした両親にツッコム気力もわかなかった。
さくらを取り戻す前に新しい妹弟が出来ちゃいそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます