第5話 明かりはツケたまま。

 お風呂から上がって、改めてご両親に挨拶しようと思っていたら。

「お嬢様、すみません。ご主人様たちが急用ができたとかで少し出かけられるそうです。」

「そうなの。」

「え?」

 てことは何かい。

 ここからリンゴと家で2人きっり。

「いや、使用人さんたちが居るからね。」

 と、興奮しそうになった僕にさくらから冷たいツッコミがありました。

「心でも読めるようになったのか。」

「違うわよ。読んだのは兄さんの表情。だって、いやらしい顔してたし。」

 そんな顔してない。と、思う。

 そこに、使用人と話していたリンゴがやって来た。

「先輩。どうやらお父様たちは急なお仕事で出かけられたみたいです。夕飯までには帰って来るらしいのですけど。」

「そうなのか。ははは、残念だなぁ。さくらのこともっと相談したかったのに。」

「うわ、棒読み。」

「ふふふ、それでは先輩、私の部屋に行きましょう。」

「お、おぉう。」



「先輩電気付けたままでいいんですか。」

「ん?リンゴは電気けした方がいい。」

「だって、そっちの方が臨場感があるというか、せっかくですし。」

「そうだな。リンゴが言うなら電気を消そう。」

「ありがとうございます。」

「お礼を言われることじゃないよ。だってここはリンゴの部屋なんだから、リンゴが好きにしていいんじゃないかな。」

「いえいえ、先輩の好きにしていいですよ。ほらリラックスして。準備は私がしますから。」

「そんな悪いよ。」

「いいからここに座って。」

「おふぅ。」

「どうですか。キモチイイでしょう。」

「うん。すごく気持ちがいい。」

「自慢のリクライニングソファなんですよ。」

「こんな贅沢な環境で映画を見れるなんて最高だよ。」

「それでも映画館には劣りますよ。」

「いやいや、自室にシアタールームがあるだけで驚きの贅沢ですよ。」

「だって、好きなんですもん。」


「あんたたち、前半のはわざとか?」


 ぼくはリンゴの自室に招かれたのだが、そこにあったコレクションの数々に驚かされた。

「まるでアニメショップみたいだ。」

 そんな感想が出るくらいに、彼女の部屋はグッツが飾られていた。

「へへへ、驚かれましたか。私オタク趣味が行き過ぎてると言われがちなんですけど。」

「いやいやいや、こんなのあこがれるばかりでうらやましいよ。」

「そうですか。」

「うわ、結構古いのもあるね。」

「そうなんですよ。お父様のコレクションも一部引き継ぎましたし、何より私雑食なんです。」

「なるほど、だからたまに古いネタとかも使うんだ。」

「ははは、お恥ずかしながら。」

 きゅぴ――――――ん。

「それでこれからナニをしようか。」

「うっわ、兄さんあからさま。」

 うるさいさくら。

 思春期の男子が彼女の部屋に入って期待しないわけがないだろう。頭ん中はバラ色なんだ。

「先輩。実は私もそう言うの期待してます。」

 何ですとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。

 清純なお嬢さま感のあるリンゴからそう言うこと言われると、ずっきゅ――――――ん。興奮しちゃうじゃない。

「でも残念ながら、お父様が出かけている間にそういうことしないようにって使用人たちに監視を命じたらしくて。」

「はい、分かりました。このバカ息子は黙らせます。」

「私も、私も初めて同年代の男性、――――彼氏を部屋に入れるのは初めてで、本当に期待していたんですよ。」

「うんわかったよ。」

 顔を赤らめて服の裾を掴んでくるリンゴに、今すぐ押し倒したいぐらいの可愛らしさがあって自分を押さえるのが大変でした。

「それでですね。この前のデートの続きっぽく映画を一緒に見ませんか。」

「いいね。」

「へへ、実は私の部屋にはシアタールームがあるのです。」

「マジで。すんごいお嬢さまじゃん。」

「昨年の誕生日におねだりしちゃった。」

「うん、そんな可愛らしく言われたらお義父さんならがんばっちゃうだろうね。」


 という訳で、先ほどの会話になるのだが、シアタールームは数人用の部屋で、体にフィットするソファのおっきいやつが付いたリクライニングソファがあった。しかもカップルサイズ。

 そこに座らされた僕はあまりの心地よさに動けなくなる。

「先輩。お菓子やジュースここに置いておきますね。」

 と、ぼくのわきにあるテーブルにジュースや何種類かのお菓子が置かれる。

 それから部屋を暗くして映画のセットが為される。

 リンゴがぼくの隣に座って、肩を寄せて来た。

 すると体のフィットするソファの柔らかさが体重を受け止めて変形して、ぼくたちはお互いから寄り添うように沈み込んで体がフィットした。

 なるほど、体がフィットするソファってこういう意味だったのか。と、ぼくは一つ大人になった。

 と、となりに座るリンゴがぼくに向かって口を突き出して、

「先輩、ジュースください。」

 と言ってきた。

「え、ジュースって一つしかないけど?」

 ぼくの脇にはボトルに入ったジュースが一本だけしかない。

「シェアですよシェアボトル。」

「あぁ、なるほどだから大きいんだ。」

 と、納得してぼくはボトルを掴んでストローをリンゴの口に含ませてあげた。

 ちゅーーーーーーーー、とジュースを啜りながらリンゴはリモコンを操作する。

「ところで何を見るの。」

「これです。」

 ストローから口を離したリンゴがディスクのパッケージを見せてくる。

「お、ノゲ0か。」

「またアニメかよ。」

 と、後ろで浮きながら寝そべっているさくらがツッコンで来る。

「コレ名作だよな。」

 しかし俺らはそのツッコミを無視して作品の談義をする。

「ぼくは作者の書下ろし入場特典が欲しくて6周しちゃたよ。」

「私もです。」

「ちょっと私を無視すんなよ。」

「さくらなんか見るたび毎回号泣してさ。」

「さくらさん可愛い。」

「ちょっ、ちょっと。」

「でもわかります。これは何度見ても泣けますよね。」

「う、うん――――。」

「それじゃあ始めますね。」

 そう言って再生ボタンを押すリンゴ。

 ぼくは何とはなしにジュースを口に運んで、―――――ほあっあ、これて間接キスじゃないか。

 いやいや、すでにキスを済ましたんだから気にすることじゃないだろう。

 でも、先ほどリンゴが口に含んだストローを口に含んで、中身のジュースを飲むわけだけど、………………これって、リンゴの唾液が混ざってるんだよね。

 そう考えるとフレンチキッスより間接キスの方がディープな気がしてくる。

 うぅ~、気になって映画に集中できるかな。


■■■


 リンゴside


 ふっふっふ、意識してる、意識してますよ。

 私の作戦大成功です。

 一つのボトルで間接キス、唾液が交換されるから前のキスよりより濃厚に感じてるはずです。

 現に先輩の顔は真っ赤になっています。

 ソファも特注のモノだけあって密着感が素晴らしい。

 さてさて、お父様の指示を受けた使用人のせいで最初の目的は果たせそうにありませんが、これはこれでいいモノですし、チャンスはまだまだありますからね。

 くふふふふ~、これは映画に集中できますかね。


■■■


「うおぉ~~~~ん、よかったよ~~。やっぱりこの映画は何度見ても泣ける。」

 ぼくがノゲ0で号泣している横でリンゴが感慨深げにつぶやく。

「ほんと、いい映画てなんどみてもいいものですよねぇ。」

「そのネタ、今の人に伝わるの。」

「本当に何歳だよ君。」

「先輩達だって理解できてる時点で人のこと言えないでしょう。」

 そりゃそうだ。

「それでこの後どうする。」

 さくらが鼻水をチンしながら聞いてくる。

 幽霊って鼻水とか出るんだ。と今更ながら思いつつ。

「本来はどういう予定だったの。」

 と、リンゴに聞いてみた。

「本来は陰陽道の基礎に触れてもらう予定でしたが、」

 やっぱりそおういうの狙てたんだ。

「お父様もお母様もいないのではできませんし。」

「リンゴが見てくれたりはしないの。」

「すみません先輩。私は式神を持たない半人前なので人に教えることはできないんですよ。」

 と、少し落ち込みがちに言うリンゴ。

「お祓いや占いなど基本は修めていますけど、なかなか式神が決まらなくて。」

 詳しくないが、もしかしたら本当はリンゴの年なら式神を持っていて然るべきなのかもしれない。

「ですので、今日はとことん遊び倒しましょう。」

 むんず、と両手を握り締めって気合を入れたリンゴが宣言する。

「まずはゲームです。」


 居心地のいいシアタールームでリンゴと2人でゲームをすることになった。

 機体のセットをするリンゴにさくらが訊ねる。

「それで何をするの?」

「格ゲーです。格ゲー。」

「格ゲーか、ぼくあんまり詳しくはないんだよな。なんてタイトル。」

「メルブラです。メルティブラッド・アクトレスアゲイン。」

「何それ。」

「知りませんか。格ゲーの一時代を築いた名作ですよ。」

「だからそんなに詳しくは無いよ。」

「先輩、FGOはやってますか。」

「うん、辰也に誘われてやってるよ。」

「じゃあその原作のフェイトステイナイトは。」

「プレイした。」

「面白かった?」

「面白かった。何度も死にながらクリア迄行った。」

「では、そのフェイトステイナイトを生み出したタイプムーンのキノコと武内が同人で出した月姫は知ってますか。」

「辰也の奴が「いつまでたってもリメイクが出ないんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。」て騒いでたやつ?」

「そうそれです。そっちのプレイは――――してないようですね。」

「だって、18禁のしか出てないんだし。」

「先輩、気にするな。エログロなんてものは料理で例えればスパイスのようなモノ。激辛とか苦みとかそういうやつ。お子様は注意してくださいって言っても好きな奴は何歳からでも食べれるものなの。お酒やたばこみたいに体壊さない。OK?」

「OK。」

「あとで月姫貸しますからプレイしてくださいね。それで、メルブラはその月姫のスピンオフ格ゲーです。」

「月姫のジャンルは?」

「フェイトステイナイトと同じ伝奇ビジュアルノベルです。」

「そのファンディスクか。」

「いえ、ファンディスクは別にあります。そっちはそっちでまた伝説ですけど。」

「なに、伝説の多いブランドなの。」

「FGOも現在進行形で伝説作っているでしょう。」

「ですね。」

「で、メルブラは格ゲーなんです。月姫の世界観とキャラを用いた2Dドット格ゲーなんです。」

「そこ重要?」

「重要ですよ。同人から始まりアーケード、コンシューマと移植を繰り返したヒット作。3Dに格ゲーが変化していった時代に2D横スク格闘の復権を果たした名作ですよ。」

「なるほど。」

「とりあえずプレイしてください。」

「分かった。」

 と、手渡されたコントローラーを見て、

「コレ、PS2じゃん。」

「そうですよ。もう10年も前の作品なんですから。」

「君ほんとにいくつ。」

「今は14歳の中学3年生です。」

「その頃4歳じゃん。」

「まぁ、種を明かせばもともとはお父様のコレクションだったものを私が引き継いだのです。」

「エロゲーのコレクションを娘にあげる父親とか。」

「すっっごくごねられましたが勝ち取りました。」

 お父さんが不憫すぎる。

「それにしてもてっきりPS5が出てくるかと思った。」

「ソフトが移植されてるならそっちにしますけど、移植されてない名作がいっぱいあるんですよ。」

「アレだね、レトロゲーってやつ。」

「PS2は現役です!」

「そ、そうか。」

「はい、私の中では、ですが。」

 というわけで、リンゴのおすすめソフトをでっかいスクリーンでプレイすることになった。



 どか、ばき、ザシュ、ズバ、ドドドドド。

「ちょっと、その剣投げてくる奴バランス可笑しくない。」

「そんなことはない。カレー先輩は第一作から変わらない完成されたヒロインなのです。」

「あだ名が謎過ぎる。」

「では手加減してコイツで行こう。」

「なんだその指人形みたいなのは。」

「アーケードの隠しキャラとして実装された歴代最弱キャラの実力、とくと見よ。」

「ぎゃぁぁぁ。目からビームとかロケットとかなんじゃこりゃああああああああああああああああ。」

「ははははははははははははははははははははははははは。」


 とか騒ぎながら格ゲーをプレイしたり、他にもレースゲームやすごろくゲームなんかも楽しんだ。

 その間にお昼ご飯も挟んだのだが、ゲームに夢中だったぼくらに気を利かせてかサンドイッチだった。

 しかしこれがまた美味しい。

 マスタードの刺激が素材の旨さを引き立てている。2人でペロリと平らげてしまう。

 ふとそこで気に名たことがある。

「そう言えばリンゴは初デートの時まで炭酸飲んだことなかったんだよな。」

「そうですよ。」

「じゃあ、洋食とかも慣れてないんじゃないかと思ったんだが。」

「そうですよ。よく気が付きましたね。あれからお母様に頼んで洋食やジャンクフードなんかも食べさせてもらってます。」

「良かったのか。典型的な箱入り娘って感じがするけど。そんな風にして。」

「ははは、お父様たちも気にしてたみたいですけど、厳しかった御爺様が亡くなってからは解禁されました。」

「いいのか、家訓とかあるんじゃないのか。」

「時代の流れに乗るのが優先です。古いだけだとこの業界生き残れそうになかったんですよ。」

「何か世知辛いな。」

 なんて話しながらゲームを進めていく。

 その中で、

「先輩、ウチのことで相談してもいいですか。」

「ん?ウチって陰陽道についてか。」

 ジュースを飲みながらリンゴからの頼みごとに耳を傾ける。

「ぼくは陰陽道とかマンガでしか知らないぞ。それで相談とかできないだろ。」

「いいんですよ、それで。身内同士ではすでに案は尽きてます。だから外の人に意見を聞きたいんです。」

「そう言うのならいいが。」

 なんだかこういうのには慣れてないというか、むしろ相談を聞いてもらう立場だったために戸惑いもあるが、せっかく彼女が頼って来てるんだから答えてあげたい。

「わかった。任せろ。さくらも何か意見があればどんどんいてやってくれ。」

「妹が?妹もそんなに知識は無いよ。」

「でも狐の知識とかあるんだろ。使えるかもしれないじゃん。」

「お、なるほどね。で~も~、タダじゃダメだよ。」

「何が望みだ。」

「妹もゲームしたい。それと晩御飯も食べたい。」

「分かった。俺の体を貸すから一緒に相談に乗ってくれ。」

「任せんしゃい。」

「ありがとうございます。先輩。さくらさん。」

「それでそれで悩みは何かな。」

 ぼくが体を貸すと約束したらぐいぐいと行くさくら。

 実は混ざりたかったのだろうか。

 お若い2人でごゆっくりとか言っときながら。


「私の家は平安時代から続く陰陽道の一派の中で23代続くそこそこの家格の家です。」

「23代っていつくらいからなんだ。」

「江戸の初期と言われています。」

「マジで名家なんだな。」

「お恥ずかしながらその24代目を継がなければならない私がいまだに半人前なのです。」

「それって、さっき言っていた式神が居ないというやつか。」

「そうです。簡易な人型を使った式は使えるのですが。」

 リンゴは手近にあった紙で奴さんを折ると手のひらの上に立てた。

 すると、奴さんはひとりでに歩き出してリンゴの手のひらから飛び降りてとことこ歩いてぼくの膝の上に昇って来た。

「こういうのではなくて、お父様が連れている塔鬼のような、高度な意識を持つ式神を持つことができていないのです。」

「その式神を持つ方法ってのは教えてもらえる。」

「はい。式神は本来は自然のエネルギーに形と意思を与えて一つの鬼として生み出すものです。中にはもともと自然から生まれた妖に名前を付けえて使役するという方法もあります。」

「お父さんたちが言っていたさくらみたいなのとかは。」

「邪道に当たります。本来使ってはいけないものですが、もしそれらに直面したら対処できるように一通りの知識は教えられています。」

「なるほどね、それでどうしたら式神が作れるかの案が欲しいというわけだ。」

「はい。」

「う~~~~ん。」

 ぼくは金田一耕助のように頭を掻きながら考える。

「まずは絵をかいてみるとか。」

「私絵が下手なんです。」

「ありゃりゃ。」

「つまりイメージを形に出来ないってわけよね。」

 さくらがそう言ってくる。

「はい、自然の力を集めても、それを一つの形として止めるのが出来ていないといわれました。」

「ならばすでに形あるものに名前を受けるやり方でもいいんじゃないかしら。って、もう試してるわよね。」

「はい、私に寄ってくる沢山の霊や妖なんかに名前を付けようとしましたが――――。」

「上手くいかなかったわけだ。」

「はい。」

「そうなのか。名前を付けるって簡単そうだけど。」

「う~ん、これは狐の知識だけど、妖とかって自意識がある時点で自分の名前を持っているのよ。その名前を変えさせて都合のいいように使役しようとするんだから簡単な話じゃないのよ。」

「なるほど。」

「はい、簡単に言いますと、いろいろ寄っては来ますけど誰もなついてくれないというのが現状です。」

「ふむふむ。ならば逆に考えて、何故うまくいかないかっていう原因に心当たりは。」

「え~~と、」

「言いづらいことなら無理に言わなくていいからな。」

「はい。ですがせっかく相談に乗っていただいてるのですから恥ずかしがっていられません。実は、私は厳しい御爺様のもとで修業を続けていましたが、そのある日、悪い鬼にさらわれてしまったことがあるんです。」

「え、さらわれたって。」

「幸いにも御爺様に助けていただいて怪我もなく済みましたが、どうやらその時の恐怖が深層意識に残ってしまっていて、イメージをかき乱したり、無意識に妖たちを威嚇してしまっているのではないのか、と考えています。」

「なるほど、それで式神が作れないいままだとどうなるんだ。」

「最悪我が家は廃業になります。」

「そこまで。」

「はい、跡取りの作れない家は管理している呪物や式神を放置してしまうようなものですから。たとえるなら飼育員の居ない動物園が猛獣を放置するうなものです。そんな危険なことはできないので家の財産ともども他の家に吸収されることになります。」

「それっていつまでに達成しなければならないの。」

「私が16の誕生日を迎えるまでです。」

「なかなか大ごとね。兄さんなにか案は出た。」

「………………一つだけ。」

「おおう、十分じゃないの。この短時間で出すとは兄さんもやるぅ。」

「ソレは何ですか。」

「さくらを使う。」

「…………はい?」

「あの、ソレはさくらさんを私の式神にするということですか。」

「そうしてもらっても構わないかな。」

 ぼくがさくらに聞いてみると。

「ちょっと待って兄さんは妹を売るの。」

「そういう訳じゃないよ。ねぇ、リンゴ。式神の契約って一生モノなの?」

「いいえ、その時々ですけど、たいがいは専属の式神を一生遣わします。」

「じゃあさ、さくらで式神の名前を付ける練習して式神に出来ないか試してみよう。そして改めて正式な式神が出来たらさくらとの契約は終わるって形はどうかな。」

「え~~~~。そっれって妹のメリットは~~~。」

「修行をするなら僕もここに通うことになる。そうすればさくらに身体を貸してリンゴの家のご飯を食べてもいい、っていうのはどうかな。」

「よーしやってやろう。さっそくやろう。」

「さくらさん、乗り気になってくれるのは嬉しいのですが修行はお父様かお母様が付いていなければなりませんので。」

「そうなの仕方ない。じゃあそれまで遊び倒しましょう。」

 そう言ってさくらはぼくの体に入り込んでさっそくゲームを始めたのだった。



「そうか。拓海君はリンゴの為に協力してくれるか。」

 夕方、帰ってきたリンゴのお父さんとお母さんに昼間3人で話し合った案を話した。

「さくらさんもありがとうございます。」

「いや、妹はご飯の為だし。」

 旭さんに頭を下げられて、さくらは照れたのかぶっきらぼうに返す。

「それより旭さん。」

「なんだい、お義父さんと呼んでくれてもいいんだよ。」

「気が早いですよ。あなた。」

「はは。それより、お体大丈夫ですか?」

 仕事から帰ってきた旭さんの体には出かける前はなかった数々の傷があった。

「ああ、こんなのかすり傷――――とまでは言わんが軽いもんだよ。」

 そう言われてぼくは逆に不安になる。

「もしかして仕事で妖怪退治でもしてきたんですか。」

「いや、今回は身内の恥ともいえることなんだが、悪い陰陽師を懲らしめに行ってたんだ。」

「悪い陰陽師って、漫画とかであるような外法に落ちて国家転覆とかを企む輩ですか。」

「流石にそこまで大きな悪じゃない。今回のは小遣い稼ぎに違法な呪術を行う輩の取り締まりだ。」

「違法な呪術。やはり陰陽師のギルド、陰陽寮が今も機能しているんですか。」

「陰陽寮をギルド言うんは斬新やの。そうじゃ。今も力を持つ陰陽師をまとめているのが陰陽寮だ。」

「あの~、ぼくが旭さんに弟子入りした場合はその陰陽寮に入らなきゃならないんですか。」

「いや、一応ウチから報告はするがフリーランスの霊能力者なんかもいることだし絶対ではない。ただ、陰陽寮は国の機関や。法律に書かれてへん事でも呪いまじない関連にはあそこが法になる。」

「なるほど。」

「拓海君が本格的に陰陽師を目指すなら修行も付けるし陰陽寮への紹介もする。けどまずは自分の身を守れるようにならないとダメだ。」

「自分の身を護る?」

「そうだよ。何にもなくても人は誰かに呪われることがある。事故みたいな祟りだってある。だからワシたち陰陽師の仕事がある。そんなのが現実だ。そんな中で一度狐に祟られて、しかもその結果がさくらさんの中途半端な状態、本来なら何かしらの霊障なり、妖怪に襲われるなり、悪い霊能力者に目を付けられるなりしていてもおかしくはなかったんだ。」

 そう言われてぼくはさくらの方を見る。

 しかし彼女はぶんぶんと首を横に振っていた。

 つまりこれまではそんなことはなかったということらしい。

「まぁ、これまで大丈夫だったのは運が良かっただけ、これからは分からないからウチで修行しろ。なんて突然言ったら詐欺師とあまり変わらないよね、って思っちゃうんだけど。」

「いいえ、そこまでは――――」

「まぁ、多少は思ってるんでしょ。」

「すみません。」

「いいんだよ、謝らなくて。それが普通なんだから。ほんとはね、最初に玄関で会った時の反応でどうしようか決めるつもりだったんだけど――――」

 さて、あの時鬼を見て僕はどうしたっけかな。

 ビックリはしたけど情けないことはしなかったはずだ。

「無意識かな。君はリンゴを守るように立っていたよ。」

 そう旭さんから言われてポカンとする。

 リンゴとさくらの顔を見ると、うんうんと頷き返された。

 そして僕がその時のことを客観的に思い出してみると。

「――――――――――――っ。」

 ぼんっ!と頭の中で音が聞こえたような気がした。

 多分僕の顔は真っ赤になっているはずだ。

 なにそれ、なにそれ、なにそれ。

 それじゃあまるで漫画の主人公みたいじゃん。

 とっさに女の子を守ろうと自然に体が動いちゃうなんて正義のヒーローか性格イケメン男子ぐらいじゃないの。

 ぼくがそんな行動をしていたなんて。

 しかもそれを見られていて、しかも彼女のお父さんに指摘されるなんて。

「―――――――――――――――――――――――――恥ずかしい。」

 ぼくが頭を抱えて天井を見上げていると。

「先輩。ワタシきゅんっと来て惚れ直しちゃいました。」

 止めを刺されました。ガクッ。



「少しは落ち着いたかな。」

「はい。」

 ぼくは恥ずかしさの余り頭に血が上ってのぼせてしまった。

 式神の塔鬼さんから冷たいお茶をもらってゆっくり飲んで落ち着いて来た。

「話を戻すけど、とっさに誰かをかばうよな君には身を護るためのすべを知っていてもらいたい。そう思うんだ。」

「はい。」

「素養がどれだけあるかにもよるけど、何処まで修めるかはやってみてから決めればいいし、どうだろう。」

 ぼくはお茶をもう一杯飲みながら考える。

 将来のこと。

 ぼくがなりたいもの。

 ぼくがしたいこと。

 今まで漠然としていて、確かな導の無かったことに今一つの道が示されている。

「旭さん。一ついいですか。」

「なんだね。」

「ぼくが陰陽道の道に進めば、さくらを取り戻せますか?」

「………………断言はできない。それが陰陽道に関わることで達成できるというならば、今ここでワシが実際にしてあげるだろう。」

「そうですよね。」

「だが、手掛かりが手に入らないとも言い切れない。」

「………………。」

 ぼくは黙って続きを聞く。

「さくらさんの状態は最初に言ったように、禁忌の式神に大変酷似している。それでいながら式神としては不完全で、かつ幽霊でもない。かといって妖怪などの気配も薄い。狐の怨霊と言うのも元はもう自意識もないほどだったのかもしれない。ゆえにさくらさんは今の状態が不自然なほどでありながら、何故か安定している。この安定を崩せばあるいはとも思うが、その場合はどのように転ぶか、コント―ロール出来ないと最悪消えてしまうことになる。だから式神の訓練なんかしないでそのままの方がいいかもしれない。」

「…………ですが、いつまでもこのままの保証もない。ですよね。」

「その通りだ。ワシができるのは助言だけ。決めるのは君とさくらさんだ。」

「ならばします。ぼくは陰陽師の修行をします。いえ、させてください。」

「いいのかい。そんな簡単に決めてしまって。」

「もちろんです。この2年間、さくらとぼくは2人で明かりの無い道を歩いて来たようなものなんです。そこに一筋の光明が見えたのが今日です。この明かりを消したくない。この明かりをつけたままで居たい。だから僕は修行をしたいです。」

「なるほど、明かりをつけたままで居たいか。ならばワシは君に陰陽道の知識と技を授けよう。少し厳しめに行くぞ。」

 旭さんはそう言ってくれた。


 その後、夕飯となったがこれまた豪勢なごはんだった。

 ぼく自身もしっかり味わったが、途中からさくらに代わって彼女にも楽しんでもらえた。

 しかし、リンゴはさくらに餌付けするのが楽しいのか、はたまた自分の食べる量を基準にしているのかさくらに食べえさせ過ぎである。

 つまり僕が食べ過ぎだということだ。

 元に戻った時僕のお腹はパンパンだった。

 ぼくは与えられた部屋に戻って布団の上に横になって休んでいた。

 あぁ~、このままじゃ牛か豚になってしまう。

 そう思っていると。

「せんぱ~い、おじゃましま~す。」

 部屋にリンゴが尋ねて来た。

「いやいや、もう結構遅い時間だよ。こんな時間に男の部屋に来ちゃダメじゃないか。」

「大丈夫ですよ。先輩ですから。」

「いや、ぼくだって男なんですよ。」

「分かってますよ。先輩なら襲われてもいいっていうだけですから。」

 よくないだろ。

 恋人って言ってもまだ未婚だし、何より僕たちはどちらも結婚できない年齢だ。

「……ねぇ、妹は席外した方がいい。」

「変な気を使わなくていい。」

 ぼくがさくらに文句を言っていると。

 すっすっす、とリンゴがぼくの傍にい寄り添ってきた。

「ちょ、ちょっと、どうしたんだリンゴ。」

「ちょっと嫉妬しちゃてるだけです。」

「嫉妬?誰に。」

「さくらさんに。」

「妹に。大丈夫よ、妹は兄さんのこと異性として見てないから。」

、……ですよね。」

「……どうゆうことよ。」

「隠しても無駄です。本来のさくらさんは先輩のことが好きだったんでしょう。」

 ぼくはどきりとした。

 かつてのさくらがぼくと結婚するといっていたことは話していない。せいぜいがちょっとブラコン気味の妹だたと言っておいただけだった。

 だって、ぼくの妄想みたいに扱われてきたさくらがぼくのことを好きだといっているなんて言うのはなんだか恥ずかしかったからだ。

「だから、もしさくらさんが本来のさくらさん戻るなり、またそれに近づけばさくらさんは私のライバルになりますよね。」

「なるほど、それはあるかもしれないね。それで兄さんに自分のアピールに来たの。」

「はい。そこらへん気になりますから。」

 本当にぼくの彼女はアグレッシブだ。

「先輩、どうなんですか。」

「……正直なところを言うと、かつてのさくらはぼくと結婚すると言っていた。」

「やっぱり。」

「でもぼくは、ぼくは妹との結婚はないと考えていた。多分違う人と結婚するんだろうなと思っていたんだ。」

「それってさくらさんには言っていたんですか。」

「言っていたよ。」

「それでもですか。」

「それでも。」

「う~~ん、さくらさん怨霊になったりしませんよね。」

「本人目の前にして言うことかい。」

 さくらが不貞腐れるように言う。

「今の妹としてはそれはないといっておくよ。」

「そうですか、分かりました。では、私はさくらさんが先輩への思いを取り戻すか16歳になって結婚できるようになるまでは先輩とはプラトニックな関係を築きます。」

「16になったらヤルんだ。」

「流石に結婚できるようになったらヤリたいでしょう。」

「まぁ、それはしょうがないかな。ありがとうって言っておくよ。」

 何だろう。ぼくを置き去りに2人でそう言う会話されるといたたまれない。

 てかそれ迄預けですか、そうですか。

 一応僕にも性欲はあるんですよ。

「と、いう訳で、先輩♡」

 チュッ。

「今はキスで我慢してください。」

 それで丸め込まれるぼくだった。

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