第4話 お手ツキなしのお泊りイベント。
4月も終わりに近づき、学校にも慣れてきたころ。
キーンコーンカーンコーン
「起立、礼。」
バァン!
「センパーイ。」
こうやってぼくの彼女が教室に飛び込んでくるのにも皆慣れてきていた。
「今度のゴールデンウィーク、ウチに泊まりに来て下さ~~い。」
しかし相変わらずに爆弾を落として教室を騒然とするのは変わらなかった。
「おいおい、マイフレンドは早くも彼女とお泊りイベントですか。うらやましいな此畜生。」
お昼休みにご飯を食べながら彼女と話をしてから、教室に戻ってきたところを悪友の辰也に絡まれた。
「辰也、昼飯ギョーザだったろ。匂うから近づくな。」
「マジ。」
「ニンニク臭させたままだと女に嫌われるぞ。」
「どの口で言うか。」
さくらからツッコミが入ったが、これは僕たちが変わってるだけで普通は嫌われる。
あと、ぼく的にも男のニンニク臭い口を近付けられるのは生理的に嫌だ。
しきりにはー、はー、やって自分の息の匂いを嗅ごうとしている辰也を放っておいてぼくは自分の席に着く。
「はぁ~~。」
「黄昏てますな。」
そりゃそうだろう。と、さくらに目線で訴えてやる。
「って、拓海。そんなことよりお泊りの話くわしく聞かせろや。」
どうやら先生が来るまではぁはぁしてくれなかったようだ。
「そんなに知りたい。」
「知りたいに決まってるじゃんか。友達が俺を置いて先に大人の階段を上るかもしれないんだぞ。」
「ソレはない。」
「何でだよ。お前種なしか。」
あまりにも不名誉なことを言うから一発殴っておいた。
「そうじゃなくてな、その日、親が居るらしいんだよ。」
「……マジ?」
「マジで。」
ぼくは昼休みのリンゴとの会話を思い出す。
場所は屋上のベンチ。
あまり利用者の居ない場所なのは今ではカップル席と呼ばれている場所だからだろう。
昼休みに2人で屋上に行く姿を見られたらカップルだと噂を流されることになる。
というか、昨年まで女子高だったのにそんなスポットがあるんだ。
と思うが、今ではぼくら2人で貸し切りみたいになっている。
「はい、今日はどれを交換しますか。」
そう言ってリンゴは相変わらず豪勢なお弁当箱、いや、お重その物を差し出してくる。
「じゃあ今日はこの昆布巻きなんか貰おうかな。」
ぼくはそのお重からオカズを1品貰う。
「先輩、もしかして遠慮してます?」
「いや、普通に好きなんだけど。昆布巻き。」
「……意外と渋いですね。」
「それじゃあはい、お返し。」
僕たちはいつも一緒にお弁当を食べている。
その際、互いのお弁当からオカズを1品交換する約束になっている。
というのも、リンゴが僕にお弁当を作りたがっているらしいのだが、その量が半端ない。
しかもお嬢さまだけあって内容もお高そうなものばかりだった。
遠慮するなというのが無理な話であって、話し合った結果、お互いのオカズを交換することで双方納得したのである。
リンゴに言わせればぼくの家庭の味を学べる機会だと乗り気になっていた。
「それじゃあ、私このヒジキをもらっていいですか。」
「そっちも渋いの選ぶじゃないか。それじゃあどうぞ。」
「あーーーーーーーーーーー。」
「あのリンゴさん。」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
リンゴは目をつぶってひな鳥のように口を大きく開けて僕に向けてくる。
ボクからはリンゴの小っちゃくて可愛らしい歯並びの綺麗な歯が丸見えになっている。
それだけじゃない。
喉の奥も、可愛らしい喉チンコが「あーーーーー。」と声を出すたびに震えているのまで見えている。
おねだりされているのだ。
だが、その様がめちゃくちゃエロい。
「これはぼくに食べさせろと。」
「それくらいのサービスいいでしょう。」
なけなしの抵抗も却下された。
仕方ないのでぼくはヒジキをお箸でつまんで彼女のお口へとはこんで上げる。
「あむ。モグモグ。んっこく。……へへ、ごちそうさまです。」
あぁぁぁぁ、もうコイツ可愛ええええええなあああああ。
告白された時から可愛い娘だったが、初デートの帰りに不意打ちのキスをされてからぼくの中でのリンゴの可愛らしさが急上昇しているのだ。
まぁ、ファーストキスはニンニク味だったが。
そんなこんなで、日に日にリンゴからのスキンシップが過激になるのを拒めずに受け入れているわけだ。
しかし、それが面白くないのだろう人物が一人いる。
さくらだ。
「兄さんズルい。妹も美味しそうなご飯食べたい。」
とねだって来る。
それは決して兄を取られまいとする妹の嫉妬では無かったが、見せつけられるだけなのは耐えられないそうだ。
「仕方ない。さくら、ぼくに入ってご飯食べてもいいよ。」
「いいの。やった。」
嬉しそうに笑うさくらはしっぽをフリフリして、狐耳もピコピコしている。
「ただし、食べ過ぎるなよ。」
ぼくは一応注意しておく。
さくらは人の体だと思って加減を忘れることがあり、さくらが出ていった後にぼくが苦しむことが度々あるんだ。
一番ひどかったのは激辛か、かき氷のイッキ食いが同率だろう。
「それじゃあ、お邪魔しまーす。」
「うっっん。」
ずるりとさくらが僕の中に入ってくる感触がする。
そしてぼくは手足一本動かせなくなった。
「ねえねえ、リンゴちゃん。妹にもあーんやってほしいな。」
「いいですよ。こちらの卵焼きをおどうぞ。」
「あーん。」
と、ぼくの体で妹がぼくの彼女とイチャついているのをぼくは幽体離脱したみたいに背後から眺めていることしかできなかった。
「ふぅ。食べた食べた。それじゃあ兄さん戻るね。」
そう言ってさくらはぼくの体から抜け出して、ぼくは自分の体に戻った――――
「うっ、お腹が重い。ちょっと食い過ぎだぞ。」
「ごめんごめん。リンゴちゃんのお弁当が美味しかったから。」
「はい先輩お茶です。それと胃薬。」
リンゴがぼくにそう言って差し出してきたものを受けとって、胃に流し込む。
「用意が良いんだな。」
「こんなこともあろうかと、ってやつですよ。」
「ふー。」
「落ち着きましたか。」
「少しな。それでもう少し休みたいんだけど、その間にさっき言っていたお泊りについて説明してくれる。」
「はい。実は先輩にゴールデンウィークにウチに泊まりに来てほしいんですけど、ご予定は空いてますか。」
「大丈夫だよ。ゴールデンウィークはリンゴとデートしたいなと思ってたくらいだから。」
「良かった。では5月2日の土曜日にウチに泊まりに来てください。」
「えっと、本当に良いのか。」
その、こっちも色々期待しちゃうんだが。
良いのだろうか。
付き合て1か月足らずでそういうことをしても。
というか、リンゴはまだ中学生だ。手をだしたら犯罪になるんじゃないのか。
なんて僕が考えていたら、
「大丈夫です。その日は親は出かけずに家に居ますから。」
「…………はい?」
「その、――――実は先輩と付き合ってることが両親にバレてしまったんです。ソレで私が本気だと説得したのですが、ならば挨拶に連れて来いと。すみません、すみません。先輩を家の都合に巻き込んじゃって。」
「っていう訳なんだよ。」
と、お昼にあったこと(さくらについては省いて)辰也に話してやった。
「え、なに、お前もうご両親に御挨拶に行くの。結婚するの。」
「結婚はまだしないよ。てか18まで僕は結婚できないよ。」
「とか言って、18歳の誕生日が来たらその日のうちに結婚とかしそうじゃん。」
「誕生日が結婚記念日か。悪くないかも。」
「あぁ~、親友がドンドン先に行っちゃう~。」
「じゃあお前も彼女作れよ。」
「彼女募集しても誰も来ませんのや。」
「待ってるだけじゃなくて、自分からアプローチしてかなきゃ。」
「彼女から告白された奴が何を言うか。」
「ははは。」
「でも、誕生日が結婚記念日かぁ~。」
「それなら結婚記念日を忘れることも無いだろ。」
「そう言いながら、自分の誕生日を忘れるバカもいる。」
「ははは。」
「拓海、お前自分の誕生日憶えてるか。」
「え~~と、確か夏休み。」
「8月14日だよ。忘れんな。」
「お盆で縁起悪いんだよな。」
「そこは気にするのか。」
「あっ、つまりお盆に結婚するってことは、ご先祖様も参列するってことになるのか。」
「そう聞くとなんかめでたいな。」
そんなことを辰也と話していた。
しかし結婚か。
高校に入学したばかりで結婚の話とかされても実感が湧かない。
「何言ってんの。」
そうつぶやいたらさくらからツッコミが来た。
「18歳で結婚するなら、進路より先の話になるのよ。てか、兄さんは進路とか考えてるの。」
考えてません。
てか、なるほど。進路より結婚するかどうかの話の方が早くにやって来るんだ。
それこそ車の免許を取るのと同じ時期だ。
そして結婚するなら、それを前提にした進路を考えなければならない。
漠然と進学することを考えていたが、結婚するなら就職も必要になってくるかもしれない。
「兄さん、真面目に考えすぎ。」
誰かに相談できないかな。
「母さん、今度の5月2日ぼく泊まってくるから。」
家に帰ってからお泊りの日を母さんに告げておいた。
ご飯の用意とかあるし。
「辰也君の家。」
「そう。」
「……はん、それで騙せると思っているの。」
「は?」
「どうせ彼女の家でしょ~。1か月も経たずにお泊りなんて若い若い。ちゃんと避妊だけはしなさいよ。」
何を言ってくれてるんだこの母は。
事実ではあるが、いきなり息子をそういうやつ扱いするとは、自分の方がよっぽど若く見えるのに。
「そんなんじゃないよ。彼女の両親もいるし。」
「ふっ、語るに落ちたわね。」
「何?」
「彼女の家にお泊りだと認めたわよね。」
「し、しまったあああああああああああ。」
「ははは、まだまだ甘いぞ息子よ。―――――――って、向こうのご両親居るのおおおおおおお。」
余裕を見せていた母さんが驚きの声を上げた。
「なになになに、まさか結婚の御挨拶。娘さんを僕にくださいって言いに行くのおおお。」
「落ち着け母さん。」
「へぷっ。」
ぼくは母さんの脳天にチョップを入れて落ち着かせた。
「拓海が叩いたぁ~。」
涙目で母さんが訴えてくるけど、そんなに強くは叩いてないだろう。
「や~い、な~かせた~泣かせた~。兄~さんの親泣かせ~。」
さくらが茶化してくるが無視だ。
「母さん落ち着いて、ぼくはまだ結婚できる年齢じゃないよ。」
「うん?そうだね。そうだよね。……なのに両親のいる彼女の家にお泊りに行くの?」
「う”、うん。実は彼女の家、そこそこいいところなんだけど、その、付きあってるのがばれたらしくて、紹介しろ、ってことになって今度行くことに。」
「ずるい。」
「はい?」
「ずるいよ。ウチの方が先に親バレしてるのに彼女さんのところに先に挨拶に行くの。お母さんには彼女紹介してくれないの。」
「う”。」
「紹介してくれないの?」
「~~~~~~分かった。彼女と相談してみる。」
「わーい、やったぁ。」
年甲斐もなくはしゃいでくれちゃってまぁ。
「それじゃぁ明日はお泊りセットを買いに行かなきゃね。」
「え”、いや。女子じゃないんだから。」
「何をおっしゃるうさぎさん。」
うさぎさん?
「あれ、今の分からない?今のは「パタリロ」っていうアニメの―――――――。」
「はいはいはい。脱線はいいから。それでお泊りセットの買い出し?」
「そうよ、まさかいつものくたびれたスエットで行くつもり。」
確かに彼女のご両親に挨拶するなら身なりはきちっとしたい。
「と、いう訳で、明日は買いだしよ。」
「お~~~。」
それから数日、
やってきましたお泊りイベントの当日。
待ち合わせは駅前のロータリー。
でっかいリムジンでも来たらどうしようかとも思ったが、そこそこ普通の乗用車でのお迎えだった。
「お待たせしました先輩。」
窓からのぞくリンゴのお顔が、……あれ、後ろ向き?
「どうぞ藤宮様。」
運転席から降りた執事の――――
「
そう堤さん。
堤さんが後部座席の扉を開いてくれる。
中に入ると、普通の乗用車と言ったのが馬鹿らしくなるくらい広々としていた。
席も対面式で普通と言えない、完全に金持ちの高級車であった。
ぼくはリンゴの向かいに腰を下ろす。
そしてさくらがぼくの首に腕を回すようにしながら隣に座る。
「さくらさん。なんで先輩の首に腕を回してるんですか?」
いつもはそこまでさくらに当たりの強くないリンゴが若干頬を引きつらせながらさくらに問う。
「こうすれば車が走りだしても置いて行かれない。」
「ああ、なるほど、さくらさんは車に乗れないのですか。」
さくらの言葉を聞いて納得したのかリンゴがプレッシャーを押さえる。
あれ?今更になってさくらに嫉妬?
なんて思いもしたけど、問いただせる感じでもなかったので流すことにした。
「それでリンゴの家ってどこにあるの。」
「市外の山の手です。」
ちょっと遠くない。
道中の車内ではちょっと会話が途切れがちだった。
と、言うのも、ぼくもリンゴも緊張していたからであったのだが、それ以上に彼女の目の前で妹が彼氏の首に腕を回してる絵面にリンゴが話しかけづらかったのだろう。
そして、20分ほどかけて車は大きな屋敷の前までやって来た。
「……道場?」
車の中から屋敷の門を見ると達筆な文字で何とか道場と書かれていた。
「はい。私の家は道場を開いてまして、こちらはその道場です。家はこの奥になります。」
と言った家はそこからさらに車で数分かかる距離にあった。
「ここが私の家です。」
まさにお屋敷というたたずまいの家だった。
「何分古い家で申し訳ありません。」
いえいえ何をおっしゃるうさぎさん。
「大変立派なお屋敷じゃないですか。」
「そんな、お恥ずかしい。」
リンゴがしおらしい!
どうした何時ものアグレッシブは。
と、戸惑いながらも車を降りて門をくぐると。
「おかえりなさいませお嬢様。いらっしゃいませお客様。」
両脇にたくさんの女性が並んで頭を下げていた。
皆、旅館などで見いる着物姿だが、これがメイド服なら貴族をお出迎えするアニメのワンシーンの様だろう。
ちなみに、これが黒いスーツならヤクザのお出迎えシーンになっていただろう。
シャレにならないぐらいそんな感じ。
頭を下げ続ける女性たちの間を歩いて僕たちは玄関へとやって来た。
使用人らしき女性が扉を開けようとするものの、リンゴはそれを無視して自分で扉を開けた。
パッン!
「お父様、お母様。今帰りました。」
その威勢はまるで道場破りのようだった。
ところでこの子は静かに扉を開けることはできいないのだろうか?
玄関をくぐると、1組の男女に出迎えられた。
「おかえりなさい。リンゴちゃん。」
女性の方はたおやかな微笑みを浮かべる黒髪の着物の似合う人だった。
そして男性の方は、金髪のガタイのいいおっちゃんだった。
リンゴがイギリス人のクオーターならばこちらの男性がイギリス人のハーフと言うことなのだろう。
着物を着ているが筋肉がモリモリで似合っていない。
「それでえ、そちらの君がリンゴちゃんの彼氏くんかなぁ~。」
お父さんの背後に鬼が見える。
それはオーラとかそんなんじゃなくて、はっきりくっきりと、さくら以上にしっかりと見えちゃってる鬼が居る。
「先輩、すみません。驚かせてしまいましたか。」
「そりゃぁ、驚くよ。」
ぼくはかろうじてリンゴの後ろに隠れるような恥ずかしいことはせずに済んだ。
が、
足は震えている。
さくらが
「お父様、先輩を驚かせないように塔鬼は引込めておいてと言ったでしょう。」
「そうは言うがなリンゴちゃん。最初にメンチ切ってどんな男か見たかったんよ。」
「ですが、どうやらリンゴちゃんが言った通り、見えはるお方なようですな。」
「それでいてちゃんっと根性もある様やな。」
「そうでしょ。彼氏としてお眼鏡にかないましたか。」
「とりあえず、敷居をまたぐのは許しちゃる。ほれ、ついてまいれ。」
「ふふふ、どうぞこちらへ。玄関で立ち話も何ですやろ。お部屋ぁにご案内しますよって。」
お父さんの方は先に家の奥へと向かった。その後ろを鬼がぼくにぺこりとお辞儀して付いて行く。
もしかしたら、お眼鏡にかなわなければ玄関で追い返されていたのかもしれない。
「さぁ、先輩行きましょう。」
「うん。」
ぼくは覚悟を決めて、彼女のご両親に挨拶することにした。
「初めまして。リンゴさんとお付き合いさせていただいております、藤宮拓海といいます。よろしくお願いします。」
ぼくはリンゴの案内で通された客間について最初にそう挨拶をした。
「こちら、お土産のお菓子になります。」
「おうおう、固っ苦しいなぁ。」
「いえいえ、私はこういう礼儀正しい方が好みですよ。」
「なんや、さっそく柚子さんに気に入られよったんかいな。やるなぁわれ。」
「ははは……。」
部屋に通されてからは威嚇されることもなくフレンドリーに接してくれるお2人。
「ワシの名は
「私の名前は
と、リンゴのご両親から自己紹介があった。
お父さんの方は胡坐をかいて、お母さんの方はちょこんと可愛らしく正座をして自己紹介してくれた。
「ご主人様、お客様、お茶をご用意しました。」
そう言ってお茶を運んできたのはさっきの鬼だった。
身の丈2メートルはありそうな青鬼。
それが肩を狭めて
ぼくがそれを珍しげに眺めていると、
「彼は塔鬼と言ってお父様の式神です。」
「式神ってあの陰陽師が使うっていう。」
「はいそうですその式神です。」
ぼくの隣で正座しているリンゴが説明してくれる。
「詳しい話をする前に、先輩足を崩してください。」
「いや、でもご両親の前で。」
「いいんですよ。お父様だって胡坐をかいています。」
「いやそうはいっても。」
「拓海くん、遠慮はいらないよ。」
「……ではお言葉に甘えて。」
「あっ!」
「ひぃ。」
「すみませんお茶菓子用意するの忘れてまして。今ご用意しますね。」
そう言って青鬼は部屋を出ていく。
「っ、びっくりしたぁ。ってどうしたの。」
なんだかモニョモニョした顔をしているリンゴに問いかけてみれば、
「いえ、その、ビクッーってしている先輩が可愛らしくて。」
「そ、そうですか。恥ずかしいな。」
リンゴから目を逸らしてふと目に入ったのが、
「ふむ。」
「あらあら。」
と僕たちを見定めるご両親の顔だった。
お父さんの方は何かを納得したように、
お母さんの方はこれは面白いものを見つけたぞ、と言いたげな笑顔を浮かべていた。
「えっと……。」
ぼくなんかやらかしたかな?
そう心配になっていたが。
「それより拓海君、そちらの女性の紹介はしてくれないのかね。」
「へ?」
お父さんの視線の先にはさくらが居た。
「あ、先輩。お父様もお母様も見える人ですので。」
「あ、ああ、そうなのか。えっと、さくらは妹なんですけど妹じゃなくなったというか、狐がどうたらと――――。」
「拓海君、焦らなくていいよ。ゆっくりと順番に話してごらん。」
「はい。」
そう言われてぼくは一つ深呼吸してからさくらの紹介をした。
父が死んで両親の再婚で従妹のさくらが妹になった所から、ぼくが体調を崩してさくらが居なくなって、さくらのことを皆が憶えていなくて痕跡もなくなっていたこと、しかしさくらは幽霊みたいな姿になっていたことや、さくらが別人みたいになっていたことと狐の話も丁寧に、時にさくらからも補足してもらいながら紹介した。
「なるほどな。」
そう言ってお父さんは頷いた。――――って、ぼくは今更ながらリンゴのお父さんをお父さんと心の中で呼んでしまっている。
これではぼくの父さんと区別がつけづらい。
ここはお義父さんかな?
いやいやいやいやいや、ソレは気が早すぎるんじゃないだろうか。
もしポロリしちゃって「貴様にお義父さんと呼ばれる筋合いはないわ~~~!」て、必殺ちゃぶ台返しが来たら困る。
ならば名前か。
旭さんと呼んで失礼にならないだろうか。
本人に聞ければいいのだけれど話の腰を折るのははばかられる。
そうこう悩んでいると、
痛てて。
隣に座るさくらにお尻をつねられた。
どうやら違うことを考えていたことがばれたらしい。
さすがは妹。
「それでな拓海君。」
「はい。」
「気づいていると思うけどウチは陰陽師の家系だ。」
「はい。」
そりゃあ気づくさ、普通の家には鬼はいない。
あっ、いや鬼嫁とか鬼婆とかは居るか。
「それで、陰陽師として何かさくらについてわかることがあるのですか。」
「うむ、実はな。ワシが若い頃に見いた古い式神にさくらさんはよく似ている。」
「さくらが式神。」
「そのもの同じものというわけでは無いが、古い式神は人の子を生贄にして妖魔を式神に作り替えるって禁術があった。」
「なっ――!」
「勘違いしないでくれ。さくらさんが生贄になったと断言するわけじゃない。ただ、さくらさんを見る限り、相当に力を持った式神に見えるのだよ。」
「いきなりこんなこと言われて戸惑うかもしれないが、どうだい。ウチで陰陽道を学ばないかい。」
と、――――えーと、また何て呼べばいいか聞きそびれた。
とりあえず、リンゴのお父さんが言うにはこのまま中途半端に憑けているよりかは、ぼくに陰陽の何かし等の技術を持った方がいいのではと言ってくれた。
……
…………
………………
「ねえ兄さん。実は弟子を取るためにリンゴちゃんに嵌められたとか考えてない。」
ぼくとさくらはリンゴのご両親との挨拶を終えて客室へと案内されていた。
広々とした畳部屋。窓からお寺とかで見るような手の込んだ庭が見える。
「考えてないよそんな失礼な事。」
「じゃあ何を考えていたのよ。」
「いやさ、お義父さんと呼ぶべきか旭さんと呼ぶべきか、どっちで呼ぶのが正解なのかなって。」
「もしかしてずっとそんなの考えてたの。」
「悪いか。」
「妹が大事じゃないの。」
「大事だとも。ただ、こぉう喉に小骨が刺さったような気になり方が――――。」
「失礼します先輩。」
そこに襖を開けてリンゴがやって来た。
「先輩、何か不自由はありませんか。」
「ああ、大丈夫だよ。ていうかリンゴ着物に着替えたんだ可愛いよ。」
リンゴは薄い黄色の着物に着替えていた。
詳しい種類については分からないが、部屋の中で着るのに不便にならないような着物なのだが、花が描かれた着物はリンゴのお嬢様みたいな雰囲気とのマリアージュで可愛らしさがアップしていた。
「ありがとうございます。それで、何かありましたら私か塔鬼にでも遠慮なく申し付けてください。それと、今しがた聞こえてきましたが、両親のことは好きにお呼びください。名前でも――――お義父さん、お義母さんでも。」
リンゴはちょっと顔を赤らめながら言う。
「いや、流石に気が早くないかなと思って。」
「ならば名前で呼んであげてください。結構先輩のこと気に入っているようですよ。」
「そうなのか、あんな短い時間だったのに。」
「ふふふ、お父様もお母様も人を見る目は確かです。占いなんかもやっていますから。」
「そっか、陰陽師なんだっけ。」
「はい、「悪霊退散、悪霊退散。怨霊物の怪困った~時は。ドーマンセーマドーマンセーマン、すぐに呼びましょう陰陽師、レッツゴー!」の、陰陽師です。」
リンゴはそれはもうキレッキレの振りつけと共に歌って見いせた。
「「レッツゴー陰陽師」とか地味に古いな。」
「うそ。ニコニコ動画なら今でも現役ではないですか。」
そう言えばリンゴちゃんって友だち少ないって言てたし、そこら辺のコンテンツの更新が遅いのかもしれない。
かく言う僕も流行りすたりには疎いところがある。
「コホンそれは置いといて、お父様たちは先輩のことを気に入ってます。でなければ玄関で追い返していたはずですから。」
一目ぼれでぼくに告白してきたリンゴのご両親だけあって、第一印象で人を判断する家系なのだろうか。
「それよりも先輩――――。」
カッコ――――――ン。
何処からか鹿威しの音が聞こえてきて、周りに響く。
ぼくは今お風呂に入りに来ている。
「先輩、お風呂入りませんか?」
「え、まだお昼だよ。」
「実は家には露天風呂があるんですよ。」
「マジで。」
「お昼に一回入ってからゆっくり私の部屋で遊びましょう。」
というやり取りがあって、ぼくは彼女の家に来て1時間ほどでお風呂に入ることになった。
展開早くない?
「しかしこれまた豪勢なお風呂だねぇ~。」
さくらがプカプカ宙に浮かびながら、目の上に手でひさしを作って露天風呂を眺める。
確かにすごい。どこかのホテルの露天風呂のような和風の拵えがされた岩風呂だった。
洗い場も広くシャワーなんかもマイクロバブルシャワーらしい。
リンゴが説明してくれる。
「それでこっちが――――。」
「って、なんで一緒に入っているのリンゴちゃあ~~~~ん。」
「なんでって、ここは私の家で先輩はお客さんなんですよ。ならば家のものとしてちゃんと案内しないとダメでしょう。もし先輩が迷子になったら大変です。」
「迷子になるほど広いの、この家のお風呂は!」
「陰陽師の家のお風呂舐めたらだめですよ。異境異界の秘湯を自分家に作るぐらいでこそ、一流の陰陽師なんですから。」
「陰陽師ってそう言うものなの。てかこのお風呂日本じゃないの。」
「結界ってやつですね。谷口流望郷露天風呂結界ってところです。ジャグジーも付いてますよ。」
「神秘的なのかセレブリティなのかどっちかにして。」
「先輩、その二つは同立しますよ。てか先輩、水着は履いてないのですか。」
はっ、しまった。
普通に1人で入る(さくらが付いてくる)つもりだったから腰にはタオル1枚しかつけてない。
てかリンゴは?
「………………水着来てましたか。」
リンゴは桃色のワンピース水着を着ていた。
「あれ、先輩残念がってます。仕方ないですねー。私も脱ぎますよ。」
「いやいい、そんな無理に脱がなくていい。」
水着に収まっていてもリンゴのスイカは破壊力が抜群だというのに、それをさらに解放されたら我慢する自信が持てません。
「別に無理してませんよ。むしり先輩の方が無理してません。私が中学生なのは今年度いっぱいまでですよ。これを逃したら中学生の裸見れなくなっちゃいますよ。いいんですか?」
「どうして僕をその様にどうしても中学生の裸を見たがる男にしたがるんですか。」
「やっぱり先輩には女の子として見てもらいたいですから。」
「…………見てるよちゃんと女の子として。」
「ふっふ~ん、よかったです。先輩にそういう目で見てもらえて。」
「…………………………………………。」
「照れちゃってますね。それよりお背中おながししますね。」
「いやそこまでしてもらうのは――――。」
「ねぇねえぇ、兄さん。このお風呂妹でも入れる。」
とさくらがはしゃいだ声で報告してくる。
「あ、ウチのお風呂、霊泉なのでご霊体の方でも入れるんですよ。」
「ナニそのご老体みたいな言い方。」
「ってこら、さくら風呂ん中で泳ぐな。」
「えぇ~、いいじゃんこんなに広いんだから、少しぐらいはしゃいでも。」
あのスケスケ着物を脱ぎ捨てて裸で泳ぐさくらを叱るがどこ吹く風。
「いいじゃないですか。こんな機会なかったのでしょ。少しは目をつぶってあげてください。」
「いや、すっぽんぽんで泳がれたら少しどころか全力で目をつぶらなきゃならないんだが。」
「あらあら、仕方ないですから先輩は目をつぶって、お身体は私が洗って差し上げますから。どうぞこちらに。」
しかたないのだろうか、だが断る言い訳も思いつかずにぼくはリンゴに手を引かれて洗い場に腰を下ろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます