第3話 初デートにツキもの。
「オン、アビラウンケンハラソワカ~~~。」
デートの待ち合わせの駅前に行く途中でお坊さんを見かけた。
托鉢僧、だったかな。
たまたま目についたので5円玉を寄付した。
そして、ぼくは30分前に待ち合わせ場所に到着した。
そしたらリンゴも道の向こうからやって来たところだった。
「あら、早いですね先輩。」
「リンゴこそ早いじゃないか。」
「いえ、今来たところですよ。」
「うん、見てた見てた。」
「ところでその服、可愛いね。」
ぼくはこれでもデートには予習をしてきた。
だから、女の子には服をほめてあげるべきだって理解している。
もちろんさりげなくだ。さりげなあ~くリンゴの姿を観察してみる。
うん、普通に可愛い。
夏物の薄い生地の白いワンピースが露出が多くて色っぽいんだけど、その下に、7分袖のインナーと膝上のスパッツを履いているのである。
どちらも黒くてピチッっと肌に張り付く素材で、露出を押さえてかつ冷え対策にもなっている。
春になって温かくなっているけど、夕方なんかは冷えるのでなかなかいいコーデだと思う。
てか、シルエットが透けて見えるワンピースに、ピチッとしたスポーティーなインナーのコーデは春と言わずエロチックで可愛いと思う。
特にこれだと、彼女の小柄で細いフェミニンな魅力と、大人顔負けのロマン的物体の相乗効果がすごい。
後、小物入れだろうピンク色のポシェットを下げているけど、パイスラッシュは反則だと思います。
見下ろすと彼女のオッパイが目に入っちゃうので視線は上に向けているけど足元の白いパンプスもチェックしてるよ。
花のワンポイントが可愛かった。
「ありがとうございます。先輩も私服、格好いいですよ。」
褒めてもらえた。
ちょっと照れる。
「でも、コレは自分で選んだんじゃなくて、初デートってことでコーデしてもらったものなんだ。」
誤解なきように言っておく。
普段のぼくはそんなにセンスは良くない。
これも女性に選んで貰たものだ。
「あっ、妹さんに選んでもらったものっですか。」
「え⁉」
「実は私も昨日はショッピングモールに来てまして、そこで先輩をお見かけしたんです。ふふふ、妹さん小さいのに先輩の手を引っ張って可愛らしかたですわ。」
「…………。」
言いづらい。
言いづらいけど、ここははっきりと言っておくべきだろう。今後のぼくたちの関係の為にも。
「なぁ、リンゴ。」
ぼくの顔は青くなっていたんだろう。
リンゴが心配そうに見上げてくる。
「実はな、……実は昨日ショッピングモールには――――母さんと来ていたんだ。」
「……え?」
「だから、昨日リンゴが見たっていう小さな女の子はぼくの母さんなんだ。」
「……え、えええええええええええええええ~~~~~~~。」
はっきり言っておこう、ぼくに服を選ぶセンスはない。
だから初デートが親バレした時点でこうなるのは予想できた。
「何ですか、初デートが明日なんて聞いてませんよ。」
「そりゃあバレたのが昨日なんだから。」
「ソレはそうですけど。」
母さんはぼくの手を引いてズンズンとショッピングモールの中を歩いていく。
「それで、いつから付き合い始めたんですか。」
「えっと、……
「あら、まさにほやほやですね。で、きっかけは。」
「えっと、一目ぼれ。」
「……それって、どっちから。」
「彼女の方からだけど。」
そう答えたとたん、母さんはぼくの手を放して考え込みだした。
「……実はダメ専。服はダサイほうがいい。」
「一応制服姿だったけど。」
「いつ惚れたかは聞いたの。」
「一応。入学式でたまたまさくらを見ていた時を見られていたらしくて。」
「なるほど、つまりかなりの乙女チックな娘とみました。ならばやはり服装は重要ですよ。さぁ、格好よくなりましょう。」
その後、母さんに引っ張られていろんな試着をさせられた。
「ざっとこんなもんですね。」
額をぬぐって宣言する母さん。
ぼくはというと、紺の丸襟シャツに黒のジャケット、ジャケットと同じパンツにシンプルなベルト、靴も新調された。
「こんな感じでいいのか。」
「清潔感を出しながらもシックに目立たないようにすることで拓海本来の素材を活かしました。」
「まあ、これなら僕も悪い気はしない。」
「それでは次は美容室ですよ。」
「え?」
「さあ、レッツゴー。」
てな感じで、昨日は1日中母さんに引っ張りまわされた。
「てなことがあってだな。」
「なるほど、今日の先輩の恰好良さはお母さまあってこそなのですね。」
「まぁそういう訳だ。」
「なるほど。あれがお母さまとはなかなかのミラクル。」
「あまり母さんを巻き込まない方向でお願いしたいけど。」
「分かっていますわ。それより、今日はさくらさんはどちらに?」
「その―――――――ひとめぼれです。私と付き合ってください。」
リンゴからそのような告白を受けた時、ぼくはうさん臭さで断る気マンマンだった。
「いいじゃない。可愛い子だしとりあえず付き合いなさいよ。」
何だそれは。どこのチャラ男の意見だ。
ぼくにそんなリア充みたいなことができるわけないだろう。
ぼくが言葉に出来ない文句をさくらに向けてえいると、
「どこのどなたか知らないですけど、もっと言ってください。」
はい?
「あの、リンゴちゃんだったけ。」
「リンゴと呼び捨てにしてください。その方が親密度が高い気がします。」
「じゃあリンゴ。」
「はい。」
それはリンゴから告白された時の話だ。
「リンゴはもしかして見えてるの?」
そう言って、ぼくは傍に浮いていたさくらに指を指した。
「もちろん見えていますよ。そっちらの狐との混じり物でしたら。」
夕日、黄昏時と言われる赤から紺色に代わる時間帯に、リンゴという少女は超常的な顔でぼくを見つめて来た。
「そういう先輩こそ見えていないのですか?」
そう言われえて僕の視線は彷徨う。
先ほど締まった扉の向こう。
給水塔のうえ。
屋上の端。
そこに見える、目を逸らしていたものに視線が吸い寄せられてしまう。
「やっぱり先輩も見えていますよね。」
「……………。」
さくらがこうなってから見えるようになったもの、それをリンゴも見えているというのだ。
「ぼくに告白して来たのはそれが理由か。」
僕が強めの言葉で言えば、
「いえ、一目ぼれなのは本当です。」
と、照れながら答えて来た。
何この可愛い反応。
「あの、私ってこれのせいで友達もいなくて、でも先輩を見かけたけた時ビビッと来たんです。」
何を言っているんだろうこの子は。
「先輩は、先輩にもついてるから惚れました。私と付き合ってください。」
ぼくの頭は茫然とした。
今まで、誰もさくらのことは見えてなかった。
だが、この少女は見えているのだ。
「……いいかなさくら。」
「いいんじゃないかな。兄さんの好きにしなさい。」
さくらにそう言われて、ぼくは彼女に答えたのだ。
「ぼくと付き合ってください。」
っと。
「さくらならデートの邪魔はしないといって離れていたけど。」
ぼくがそう答えると、リンゴはぷくーと頬を膨らませて怒りをあらわにする。
「なんですかそれ。それではまるで私がさくらさんを邪魔者扱いしてるみたいじゃないですか。」
と、リンゴは本気で怒っている。
「先輩。さくらさんの場所は分かりますか。」
「あぁ、分かるけど。」
「では迎えに行きますよ。」
本当に、ぼくの彼女はアグレッシブだ。
「でぇ~、妹同伴の初デートになる訳。」
と、文句を言うさくらだが、それにリンゴは一歩も譲らない。
「当たり前です。私と先輩が付き合う切っ掛けはさくらさんなんですよ。」
「そんな大層なものじゃないでしょう。」
あの後すぐに近くをふらふらしていたさくらを捕まえた僕らは手近な喫茶店「朝日」にごやっかいになっている。
店内には店のマスター以外には誰もいない。
はたから見たらリンゴが誰もいない席に話しかけているように見える。
それをマスターはいぶかしげることなくカップを磨いている。
そもそも、店に入った時に既に「3名様ですね。」と確認をとられているし、お冷と御絞も3つ出て来た。
まさか駅前の繁華街から外れたこんな場所に、見える喫茶店が存在するなんて。
常連になりそう。
ここは居心地がいい。
だって、リンゴについてくる奴が入ってこない。
わきまえているのだ。
「てか、それで言うとまるで妹目当てで兄さんと付き合ったみたいじゃない。」
「そんなことありません。これは友達のお兄さんにひと目ぼれして付き合い始めたのと同じようなものなだけです。」
リンゴちゃんが大きな声で力説する。
ぼくが迷惑にならないかとマスターの方を見ると。
「ふっ。」
と、サングラスを光らせて僕に含み笑いしてきた。
いや、いいならいいけど、何を察した。
ぼくの前にはブラックコーヒーと紅茶が置かれている。
コーヒーが僕の注文で、紅茶がさくらの注文だ。
マスター、何処まで察しているんだ。
「でも、妹が一緒だと迷惑じゃないの。」
「そんなことありませんわ、これから一緒に生きていくんです。迷惑なはずないです。」
そう言ってリンゴは注文したメロンソーダを飲む。
「でも、エッチの時とか妹が居たら困るでしょ。」
「ごふっ!」
リンゴは飲んでいたメロンソーダを吹き出した。
「ほら見なさい。」
「……なんですか、このしゅわしゅわ。」
「え?そっち。」
どうやらリンゴは炭酸を飲んだことが無かったようだ。
「ま、まぁ、炭酸も飲んだことないお嬢さまにとっては信じられないだろうけど、恋人になったらエッチな事もするんだぞ。そんなときに妹が居たらいやでしょ。」
さくらが顔を赤くしてリンゴを諭す。
「見られながらッていいかも。」
「以外にも乗りき!」
ぼくは御免なんだけど。
「あ、さくらさんが先輩に乗り移ったら先輩何もできないんですよね。」
「そうだけど。」
「なら疑似NTRプレイが出来ますね。」
「ね。じゃない。ぼくにNTR耐性は無いよ。」
「そうなんですか。」
「貴方思った以上にアグレッシブね。」
さくらが慄きながらつぶやく。
「はっ、貴方、今日やるつもりじゃ。」
「はい。今日は勝負下着です。」
「ぶぅぅぅぅぅ~~~~~~~~~~~~。」
今度はぼくがコーヒーを吹き出した。
「やるわね。」
「ヤルのはデートの最後です。」
「上手いこと言うじゃない。炭酸も飲んだことないくせに。」
「ふふん。」
お嬢さまが何言ってるんだ。
ぼくがカウンターに布巾を借りに言ったら、マスターにサングラスを光らせながら親指を立てられた。
察するな。
そう思っていたら親指を人差し指と中指の間に差し込んできた。
前言撤回。
この店には二度と来ない。
結局、デートには桜が付いてくることになった。
「ついてこないと私、先輩を食べちゃいますよ。」
と言われて折れたようだ。
「それで、結局、デートは何処に行くのよ。」
さくらの問いにリンゴは、「聞いてないんですか。」と、答える。
僕等は今、喫茶店を出て目的地に向かっている。
場所は駅前のショッピングモールに入っている映画館である。
「初デートで映画館か。なんか近場すぎて安直な感じ。」
さくらはぼくらのプランにダメ出しをしてくる。
しかし、
「付き合い始めての初デート。しかも付き合い始めて1週間も経ってないんだぞ。そんな大それたデートができるか。」
「ソレもそうね。」
「近場の方が最初は安心できますし、映画の後はお互いを知るために近くをぶらぶらしながらショッピングなどです。」
リンゴがさくらに笑顔で答える。
「先輩のことやさくらさんのことをここで知って行けたらいいなぁ、と思ってます。」
「最初から妹同伴の計画か。」
とぶつくさ言っているけど、さくらの顔はまんざらでもないようだった。
「それで、映画は何を見るつもりなの?」
ここで2人の趣味の違いとかがあらわになったりするんだぞ。と言ってニヤニヤしながら僕たちの選んだ映画を聞いてくるさくら。
「「この素晴らしい異世界に祝福を‼~紅蓮の劫火伝説~」」
「アニメかよ。」
とさくらがツッコンでくる。
良いじゃないかアニメ。
リンゴとデート先を検討してた時には、
「ねぇ、先輩。デートは映画館とかいいんじゃないですか。」
土曜日の放課後。
土曜日で半日授業で本当なら家に帰っているところなのだが、今日はリンゴとの明日のデートの打ち合わせに学校に残っていた。
周りには誰もいない図書室。
何故かさくらも席を外している。
もしかしたらリンゴについてくる奴らを追っ払ってくれているのかもしれない。
「映画館か。悪くはないけど見るモノによっては趣味の違いが出ちゃうと思うんだよな。」
「そうですねぇ~。こういうのは2人で一緒に楽しめなければ大変ですよね。」
「そうそう。ところでぇ~、今って何が公開されているんだろうな~。」
「言われてみれば~、私も全然チェックしてなかったです~。」
という訳で、2人っで今何が公開されているかを調べてみた。
「あ、今ってアニメなんかもやてるんだ~。」
「わ~、アニメの映画とかありますよ先輩。」
ぼくとリンゴのセリフがかぶった。
ていうかあからさまじゃないか。
「リンゴはアニメとか見るんだ。」
「先輩はアニメとか見ます?」
また被った。
「「…………。」」
しばし2人で沈黙したのち、
「それじゃあ日曜日のデートは映画でこれを見るってことでいいかな。」
「えぇ、異論はありません。」
僕たちは何となく気まずい思いをしながらも、お互いに納得のデートプランを用意した。
「てなことがあったんだよ。」
「おいおいおいおい、何か?2人共アニメ映画を見たくて初デートに映画館を選んだのかよ。」
ぼくの説明を聞いたさくらが「アリかこんなの?」ってツッコミを入れてくる。
「別にいいじゃないか。2人の趣味が合うのが分かったんだから。」
「そうですね。私もこういう話が先輩とできるのはもっと仲良くなってからだと思っていましたから。」
「リンゴ。」
「先輩。」
「はいはいはい、早くもバカップル感を出してるんじゃないよ。」
さくらが頭をガシガシ掻きながらため息をつく。
「趣味が合うのはいいことだけど、大丈夫なのか。」
「大丈夫って何がだよ。」
「アニメ好きってことはカップリング論争で揉めたりしないのか。」
「カップルだけに。」
「先輩、それ面白い。」
「別にダジャレで言ったわけじゃない。」
そんなことを言ってくるさくらをなだめながら目的地の近くまで僕たちはやって得来た。
僕たちの住むのは自然が豊かな地方都市である。
その為に駅前には大きなショッピングモール「ZEON」が建っており、中には映画館などの娯楽施設やファッションやインテリアのお店、また数多くの飲食店も並んでいて、周辺の住人だけでなく遠くからも足を運ぶ人が居るスポットでもある。
その「ZEON」の映画館への入り口たるエレベータに乗り込んだ僕たち。
休日というだけあって人ではそこそこ多いのでさくらとの会話はいったんやめる。
「ねえ、先輩。」
人の多いエレベーターの中なだけあって、リンゴの体が密着してきていて、お腹のあたりに柔らかい大質量を感じる。
だがそこで興奮しないように気を付けながらリンゴに顔を向ける。視線を下に向ければ上目遣いのリンゴの顔がある。
その顔の下には圧迫されて形を変えた男のロマンがあり、谷間が見えてしまっていた。
ぼくはそれに気づかないふりをしながらリンゴに返す。
「どうした。」
「先輩はカプ論で私のこと嫌いになったりしますか。」
「ソレは無いな。」
ぼくはきっぱりと答えた。
「意見の違いで喧嘩になることもあるかも知れないけど、それで人を嫌いになることはないと思う。」
「そうですか。」
「だから気にせず議論しよう。」
ぼくがそう言ったところでエレベータが映画館のある階に到着して扉が開いた。
「暗いから気を付けて。」
僕たちは席を予約していたので券売機に並ばずに予約発券機で入場チケットを発券してから売店に向かった。
「先輩は今日見る「このすば‼」だったらどのカップリングが一押しですか。」
さっそくリンゴがカップリング話を持ち掛けて来た。
「やっぱり主人公の「イトウ カズマ」と爆撃魔法使い「めぐっち」のカップリングだな。」
「やっぱりそうですよね。」
「てか、この劇場版を見に来てるのはみんな「めぐっち」派じゃないのか。」
「それ言えてます。」
「てか、リンゴは「めぐっち」のどこが好きなんだ。」
「ソレはもちろん、全霊をかけて爆撃魔法を極めんとする頑張り屋なところです。」
「分かる~。」
「あとは爆撃魔法を放つときにパンツが見えちゃうところとか好きですね。」
「お、おぉう。」
「あっ、先輩たら、女の子がパンチら好きって変だと思いましたね。」
「いや、そんなことないぞ。身近にもそういうやついるし。」
「ちょっと、ばらさないでよ。」
さくらが頭を叩いてくる。
そんな風に話しながら売店を見いて回っていると。
「あら、「めぐっち」のアクリルキーホルダー。」
「これはまたきわどい。」
リンゴが手に取ったのは「めぐっち」がトレードマークの三角帽子以外には下着か水着分からないようなきわどい衣装だけを着たデザインのアクリルキーホルダーだった。
「最後の一個、これは買いですね。いやぁ~、お腹が色っぽい。」
「「アグネス」や「アックア」の方はいいのか。」
「お金に余裕があれば欲しいところですが、残念ながら他にもほしいのがあるので我慢です。」
「奢ろうか?」
「ははは、先輩より私の方がお金持ちですよ。」
グサリ!と来た。
「あぁ、先輩。あっ、そうだ。先輩、グッズはいいので代わりにポップコーン奢ってください。」
「……ははは、ありがとうね。」
「先輩。お礼を言うのは私の方ですよ。だから元気出してください。」
どんな小っちゃいって言われようと男の子には意地があるんだよ。
その後、売店でグッズの会計を終えた僕たちはフード類の売店にやって来ていた。
「先輩、先輩。コーンポタージュ味のポップコーンてどんな味がするんでしょう。」
「う~ん、たぶんトウモロコシの味がするはずだよ。」
「へぇえ~。そうなんだ。じゃあ私はキャラメル味で。」
「ぼくは塩だな。」
そう2人っで話していたら、
「ふふふ、アンタ達には冒険心が足りないわね。」
さくらがそんなことを言ってきた。
「……何が欲しいんだ?」
さくらの分のポップコーンと僕の分と2つ買うのはもったいないので一応さくらの意見を聞いてやる。
「妹はあの四川麻辣ホットポップコーンがいい。」
さくらは中のポップコーンだけじゃなくて機械までもが赤くてらてら輝いているヤツを指さした。
「却下。」
「何でさ。リンゴちゃんには奢ってあげて妹には何も無し。」
「普通のモノならいい。だがイロモノはダメだ。」
「イロモノじゃないよ。ただの激辛商品だよ。」
「真っ赤に染まった激辛商品がイロモノじゃなかったら何がイロモノだ。」
「え~と、レインボー?」
「ね~よ、言っただろ。激辛は無しだ。前に食った後に入れ替わってぼくが悶絶したのを忘れたのか。」
「入れ替わらなければいいんだよ。」
「激辛は痛みだ。お前が食べても体が付いてこないと強制的に戻される。だからダメ。」
「ふふふ、仲がいいですね。」
僕たちのやり取りを見いていたリンゴがそんな風に笑って茶化している。
「実は、私は激辛料理が得意なんです。今度さくらさんに御馳走しますね。」
「本当。」
「やめてくれ。」
とりあえず、普通のポップコーンを買っている間に入場時間になったので僕たちは上映スクリーンに向かった。
「ぎゃあああああああああああああああ。辛いいいいいいいいいいい。」
という叫び声がロビーから聞こえてきたが、どっかのバカがチャレンジ商品に挑んっで爆死したらしい。
劇場では静かにしてほしいものだ。
「いや~、いい映画でしたね。」
「そうだな。作画もよかったし、劇場版のアレンジもよかった。」
「ですよね、ですよね。ふふん。それで先輩の印象に残った場面てどこですか。」
映画館から出って、ショッピングモールに移動した僕たちは人混みから離れてから映画の感想を言い合う。
「やっぱりあそこかな。「当ててんのよ。」って言ったところ。」
「ほほーう。なるほど。」
腰を曲げて前かがみになりながら僕に訊ねていたリンゴはにやりと笑うと。
「えいっ。」
と、ぼくの腕に抱き着いて来た。
「ちょっ、リンゴその――――」
「えいえい、どうですか。」
「どうですかって、その当たってるんだけど。」
「当ててんのよ。」
リンゴは映画のセリフを真似するように口調を変えてそう言った。
「へへ~、先輩テレてます。カワイイ~。」
「くぅ。」
仕方ないじゃないか。
エレベータの中でお腹に押し付けられた感触でも、お腹いっぱいになるくらいなのに、今は腕を挟むようにリンゴのロマンが僕の腕にやわらかい感触を与えてくる。
「素直に言って良いんですよ。柔らかいのがキモチイイ~って、それとも、先輩は固い方がいいですか。」
「いや、固いものを押し当てられる趣味はない。」
「ならば素直に喜んでください。」
「そうは言われてもな。」
「いいじゃないですか。ほらほら。彼女のオッパイですよ。触ってもいいオッパイですよ。」
「いやいや、付き合ってすぐにそんなことするのはよくないだろ。」
「なんて清く正しい交際をしていても分かれるカップルは分かれますし、やることやっていても純愛を貫き添い遂げるカップルもいます。折角彼女が許可してるんですからさわなきゃ損久。」
「ビッチか。」
「あ痛っ。」
リンゴはさくらに頭を叩かれてぼくの腕を離した。
ちょっと残念な気もしたけどそこは秘密だ。
「流石にやり過ぎよ。もうちょっと節度を守りなさい。」
「はーい。じゃぁ普通に手をつなぐのはいいでしょ。」
「ほう、ドア・イン・ザ・フェイスかしら。」
「そこまでのつもりはありませんよ。」
「まぁいいわ。手くらいならいかがわしくもないしね。」
「やった。」
と言て、リンゴはまた腕に抱き着いて来た。
「って、こら。」
「それでこの後はどうするの。」
さくらが僕たちに訊ねてくる。
「やっぱりお昼ごはんかな。」
ぼくがスマホで時間を確認するとそれくらいの時間だった。
「先輩食べたいものってありますか?」
「あ~、食べたいものね。」
「もしくは好きなモノ。」
「そう言われるとね――――ラーメンかな。」
ぼくがそう答えると。
「おいおい、初デートでお昼にラーメンを選ぶとか馬鹿じゃないのか。」
「いいですね。私もラーメン好きです。」
「なぬ!」
ぼくをディスってくれていたさくらだが、リンゴのセリフでむしろ逆にディスられてしまっていた。
「先輩。この辺りのおすすめのお店ってありますか。」
「あるけど。……このお店なんだけど。」
ぼくはリンゴにそのお店のサイトを見せてみた。
「いいですねすごくおいしそうです。ここにしましょう。」
「うん、リンゴがイイならここにしようか。」
マジでコレが通るとか。
「っしゃっせぇ。2名様ご案内。ご注文お決まりっすかぁ。」
「ぼくは特性豚骨野菜肉マシマシで。」
「私は濃厚鶏白湯大盛り肉ダブル野菜ガッツのニンニクマシマシで。」
「「マジで。」」
ぼくと店員が驚いているとリンゴは気にするそぶりを見せない。どころか、
「先輩はニンニク嫌いですか。」
「……いや、好きだけど。」
「ならば先輩もニンニク増しで行きましょう。すみません。豚骨もニンニク増しで。」
「かしこまりー。注文以上でいいですか?」
むしろ注文異常だろ。
「いやいやいいの、初デートにニンニク臭させて。」
「別に2人共ニンニク食べてたら同じじゃないですか。キスしてもどっちの匂いか分かりませんて。」
「そうかもしれないけど。」
「ファーストキスはニンニクの味ですね。」
「なんかロマンがない。」
「てか、貴方、初デートでキスまで行くつもりなの。」
さくらが僕に代わってツッコんでくれる。
「狙ってはいます。」
ぼくの彼女はかなりアグレシブだった。
「さてさて、御飯が来るまで折角ですし趣味の話をしましょう。」
ラーメン屋のテーブルについて注文を待っている間にリンゴがそう提案してきた。
「趣味って言うと?」
「マンガやアニメ、ライトノベルにゲームです。」
「リンゴってそっちの趣味なんだ。」
「先輩だって好きでしょう。」
もちろん好きだ。
てかさくらが好きで僕もハマることになった方なんだが。
「ですよねですよね。お2人共そうだってえ分りますよ。」
「まあ、一緒にアニメ映画を見た仲だし。」
「実は私って友だちが少ないんですけど、少ない友達もアニメとかの話ってあんまりできないんです。ですから先輩、お互いに遠慮なくオタク会話しましょう。」
「構わないぞ。」
「……いいのぉ~。こういうのってカプ論で喧嘩になったりするとか聞くけど。」
「私、リバもNTRもいける口です。」
ぼくの彼女はアグレッシブを通り越して変態だった。
「先輩は何処までなら許せますか。」
「ぼくはまぁ、解釈違いはさくらともよくなるし許容範囲だけど、NTRはダメです。」
「なるほどなるほど、さくらさんは?」
「右に同じ。」
「いいですね。これは結構話せそうですね。」
「一応ここ外だからね。加減はしようね。」
「合点承知の助。」
「……君何歳だよ。」
「今年で15歳になる中学3年生です。」
「その割に古いネタを知ってるんだな。」
「R18ネタもいけます。」
「それこそ外ではやめようね。」
「OK牧場。」
そんな漫才みたいなことをしていたら注文したラーメンがやって来た。
「こちら特性豚骨野菜肉マシマシニンニク増しになりやーす。」
ぼくの前には結構な大盛りの野菜の器が置かれた。
男の子だしこれくらいは食べるほうだ。
だが、
「こちらが濃厚鶏白湯大盛り肉ダブル野菜ガッツのニンニクマシマシになりまやーす。」
リンゴの前に置かれた器を見て唖然とする。
「……ナニその野菜の量。」
「これですか。これがガッツです。」
「……ガッツ?」
聞いたことのない単位?だ。
「マシマシのさらに上。ガッツのバフが掛かってないと耐えられない致命的量。それがガッツです。」
「……それ食べれるの?」
「もちろんですよ。でなければ頼みません。」
笑顔のリンゴの顔は余裕だった。
「こいつマジだわ。」
さくらもドン引きしていた。
ぼくの彼女は色々盛ってくる。キャラとか飯とか。
「いただきまーす。ってそうだ先輩。」
いただきますと言って僕も食べようとしたところをリンゴが聞いて来た。
「先輩って激辛はいけるほうですか?」
「……人並みには。」
「私は大好きなんですよ。今度付き合ってください。」
そう言えば言っていたな。ここに激辛も盛るのか。侮れない。
ずるずると必死にラーメンを食べる僕の前で、リンゴは上品にラーメンを啜っている。
しかしその勢いは吸引力の変わらない掃除器みたいなものだった。
しかも、
「先輩のアニメバイブルは何ですか。」
平気で会話を挟んでくる余裕ぷり。
「う、うん……んっ、ごっくん。えっと、「スクライド」かな。」
「お、いいですね。男の子の教科書。先輩もやっぱりカッコいいのに憧れますか。」
「ソレはもちろん。「意地があるんだよ、男の子には!」ってところかな。」
「あのシーンいいですよね。何回も見ちゃいます。」
「リンゴはどんなアニメが好きなんだ。」
「そうですねぇ~。「無限のリヴァイアス」とか。」
「ぶっ。」
危うく噴き出すところだった。
「ソレはネタとして言ってんの。」
「いいえ、普通に好きですよ。というか、その反応からして先輩も見てますね。」
「見た。というか見てしまったというか。」
「その評価からすると合いませんでしたか?」
リンゴの箸はよどみなく進むがぼくの箸はちょっと止まってしまう。
「いや面白かったことは面白かったんだけど、その、しんどい。」
「分かります。落ち込んでるときに見るとすごく感情移入できるんですよ。」
そんな楽しみ方はぼくには無理だ。
SF、ヒューマンドラマとしては傑作なのだが、中高生には重すぎる展開なのである。
でも見て損はなかった。そう言える作品である。
「ずるずる、ぷはぁ~、ご馳走様。……先輩はもうすこしかかります?」
「ん?あぁ、もう食べ終わるよ。どうかしたか。」
「いや、まだ時間がかかるなら空揚げでも頼もうかなぁ~、って思って。」
まだ食うのかよ。
その後、ラーメン屋を後にした僕たちはアニメの話に花を咲かせながらショッピングモールでウインドウショッピングを楽しんだ。
てか、服とか見ながらでも基本アニメの話ばかりしていた。
そんな中で特に盛り上がったのは、
「先輩はHGとMGどっちが好きですか?」
「ぼくはMGだな。」
「やっぱり。どこら辺が好きですか。」
「でっかくてパーツが多いところかな。」
「そうですよね~。」
おもちゃ屋さんでプラモデルの話で盛り上がったりもした。
「好きな
「ケンプファー。」
とぼくが答えれば彼女は、
「ズゴック。」
「Eじゃないほう。」
「Eじゃないほうです。」
と話が通じる。
さくら以外にはこういう話が出来なかったのですごく楽しかった。
「ヒルドルブはリアルロボットとしては欠陥があったかもしれないですけど、デザインとしては最高にかっこいいと思うんですよ。」
「分かるぞ。ああいう機体のほうががぜん燃える。」
結局、一年戦争の話だけでおもちゃ屋に1時間も滞在した。
0083・スターダストメモリーについては後日語り合うことになった。
他にも本屋では服は買わないのにラノベやコミックは買うというオタクカップルらしい買い物をしたり。
ちょっと変わり種だけど大手チェーンの喫茶店のカプチーノやらなんかを買って旅行代理店の前にあるソファで休憩しながらパンフレットを眺めてどこに旅行に行きたいかなどを話したり。
初めてのデートながら計画と言えるのは最初の映画だけであったにもかかわらず、ぼくは楽しむことができた。
リンゴも楽しんでくれただろうか。
そう気になったぼくは夕日に染まった帰り道、別れ際に聞いてみた。
「リンゴは今日のデート楽しかった?」
彼女は笑顔で、
「はぁあ、キモ。今後一切付きまとわないでくれる!」
「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
ぼくは胸を押さえて崩れ落ちた。
「先輩、気を確かに。今のは他所のカップルの言葉が漏れ聞こえただけです。私が言ったんじゃないですよ。」
分かっている。
分かっているけど構えていたところにドンピシャで来られたので流れ弾を食らってしまったのだ。
「ちょっとそこのカップル。私たちはカップルじゃないわよ。この男がしつこく付きまとってきたからはっきりとフッタだけよ。」
リンゴに手を貸してもらいながら僕が立ち上がると、そう叫んだ女性が僕たちの方に寄ってきた。
ちなみに男性は完全に置き去りだ。
「あら、何処のカップルかと思ったら谷口さんじゃない。久しぶり。」
「お久しぶりです。高橋さん。」
「ねぇ、貴方。まさかこの男と付き合ってるの?」
高橋と呼ばれた女は挨拶もそこそこにぼくのことに話題を移す。
どうせディスられるんでしょう。分かってます。
「ええ、こちらの藤宮先輩とお付き合いしてます。」
「マジ?」
ほらね、さぁ始まるぞ。
「マジです。」
「なるほど。何か弱みを握られて脅されているのね。」
おい。
さすがにそれはひどくないか。
「ご心配どうも。ですが知っての通り私はそんなにやわじゃありません。」
「そう。ならいいんだけど。へぇ~、貴方はこういうのが好みなんだ。」
「一目ぼれでした。」
「ソレはおめでとさん。でもいいの、家の人には理解してもらえる?」
「そこは上手くやります。」
「そう。ならば私が言うこともないわね。仕事がバッティングしない限りは仲良くしたいですし。」
「私もです。」
「それじゃあお邪魔しました。」
そう言って高橋という女は去っていった。
フラれた男を残して。
しかし、この後にも高橋との因縁のような関係が続くとは思いもよらなかった。
「それで先輩。」
「ん。」
「先の返事ですけど、今日はすっごく楽しかったです。」
「うん、良かった。ぼくも楽しかったから、楽しんでもらえて嬉しいよ。」
「ふふふふ。おかしいの。告白したのもデートに誘ったのも私からなのに、先輩が気を使ってどうするんですか。」
「ハハハ、そうだな。でも言っただろ。「意地があんだよ、男の子には。」てね。」
「それじゃあ次のデートは先輩から誘ってください。」
「分かった。」
「待ってますからね。あまり待たせないでくださいよ。」
「善処します。」
「それじゃあ今日はお別れですね。」
「送ってこうか。」
「大丈夫です。迎えが来てますから。」
「そうか。ならここまでだな。」
「先輩離れたくない。っていったらどうしますか。」
「捉まえて見せるかな。」
そう言ったところでリンゴが僕の胸に飛び込んできて……
「――――へへ、ニンニク味。」
「え?今。」
「狙ってるって言ったでしょ。それでは先輩、さくらさんまた明日。」
そう言って彼女は帰っていった。
後には呆けるぼくとあきれ顔のさくら、そしてフラれた男が残された。
「さて、今日の反省会。」
さくらがピコハンをもって僕を見下ろしてくる。
デートから帰ってすぐのことである。
「やっぱりこれ必要?」
ピコン。
「まずは最後にしたキスの感想を言いなさい。」
「単にぼくをいじりたいだけじゃないのか。」
「そうよ。」
「ハッキリと言いやがった。」
「で、で、どうだったのよ。キスは。初めてのチュウは。」
「いや、軽く触れただけだからチュウってほどじゃなかったけど。」
「それでも何かあるでしょう。」
「女の子の唇ってやわらかいんだね。あと――――」
「あと。」
「やっぱりニンニクの匂いがした。」
「やっぱりかぁぁ。アンタたち何してんのよ。」
「お付き合いです。」
多分にニンニクマシマシな関係ではあるだろうが。
まあ、それでも初デートは上手くいったと思う。
「このバカチンが。」
ピコン。
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