第2話あめの日

今日も変わらず青い空。バケツの天使が通ります。


「なんにもなくて、つまんない」

バケツの中には水がたっぷり入っています。天使は山を越えると、一面田畑の広がる農村を見つけました。天使はちょうどいいとばかりに、バケツの中身をばしゃりと撒きました。

「今日のおしごと、これで終わり」

天使はそういうと、バケツの中身を貰うため天国へと飛んでいきました。


はたして、水を撒かれた農村では雨が降ったのです。

そこでは、何日も何日も雨が降らずに田畑は渇れ果てていました。偶然ではありますが、バケツの天使が水を撒いたことで農村に潤いが訪れたのです。

人々は言いました。

「恵みの雨が降り注いだ」

空を仰ぎ、人々は感謝をしましたとさ。




今日は雨が降る風が強い空。バケツの天使が通ります。


バケツの中には水がたっぷり入っています。

「これじゃあ、どこに撒いても変わらないね」

天使はそう言って、真下に向かってバケツをひっくり返しました。大量の水が一気に地上へと落ちていきました。

「早くおうちへ帰ろう」

そう言って天使は天国へと飛んでいきました。


はたして、水が落ちていった地上では大雨が降り注いでいました。

何日も何日も止まない雨が降り注いでいた地上では、留まりきれない水が川やダム、堤防を乗り越えて人々に襲いかかっていたのです。

人々は悲鳴をあげて逃げ惑い、呑み込もうとする水から生き延びようと必死でした。しかし、そこへ天使が大量の水をぶちまけたため、人々の住む町は激流に押し流されてしまったのです。

流される直前、ある人はこう言いました。

「不幸が降り注いだ」

次の一瞬後、もうそこには誰もいませんでした。止まない雨を呪う人も、降り注いだ不幸を嘆く人も、命が消えることに恐怖する人も、そんな人々の住んでいた町も。もう、そこにはありませんでした。

すべては水に流されてしまったのです。

「あんなところに町なんてあったっけ」

数年後には誰かが呟くのでしょう。不幸が降り注いだ雨の日でしたとさ。




今日も変わらず晴れの空。バケツの天使が通ります。


バケツの中にはずっしりぎっしりキャンディたち。赤、青、黄色、緑にオレンジ。色とりどりの丸いキャンディたちが入っています。

「今日はここかぁ」

天使はそう言ってざっかざっかとキャンディを地上へ降らせます。最後の1個は遠くへぽい。


はたして、地上へは甘い雨が降り注いだのです。

地上では毎日毎日懲りもせずに銃を撃って戦争ごっこが続きます。大人たちは躍起になって隣の国の資源を手に入れようと、自国の資源を無駄に使います。食べ物も飲み物も着る物も住む所も、全てを削ってくだらない「戦力」へと変えられていきました。国民は腹を空かせ、子供たちはそんな大人たちを見て育ったため誰も「お腹がすいた」「おかしが食べたい」などと言うこともできませんでした。兵隊さんはこんな戦争を早く終わらせたくて、毎日毎日終わらない戦地へと足を足を運ぶしかありませんでした。国のお偉いさんは「これが正しい」と笑います。

ああ、なんてバカらしい戦争ごっこ。本当は誰も命を脅かしてなどいないのに、自らの欲によって自分の首を絞めているのです。

そんな地上へぽつりと、いえ、こつりとキャンディが降りだしました。

誰もが驚きました。

ある子どもが降ってきたキャンディを口に入れ「あまぁい」と笑顔で言いました。子どもたちは次々とキャンディを口の中へ入れ、甘い甘いと笑顔になります。ある大人がキャンディを口に入れ、初めて口にした甘いキャンディに驚き「あまい」と涙を流しました。

誰もが天使の降らせたキャンディを口に入れ、手を止めて笑いました。

いくら銃を撃っても、我慢をしても手に入れることのできなかったものが、気紛れなバケツの天使によって空から降り注いだのです。


人々は気づくのでしょうか。自分達が欲しかったもののために「戦争ごっこ」は本当に必要であったのか。


銃声の止んだ地上を見下ろしながら天使は呟きます。

「こんなキャンディ一つで争いが終われるんだったら、どれだけ簡単だろうね」

天使は天国へと飛んでいきましたとさ。




かくてあめの日。時に恵みを、時に不幸を、時に飴を降らせるバケツの天使でありました。


今日は何が降るのでしょうか。

明日は何を神様は与えるのでしょうか。

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