第2話 タダノとマメジ
「ただいま戻りました」
プアールは、冷たくなった手をこすりながら配送センターの事務室のドアをくぐった。
「コラ! プアール! 配送にどれだけ時間をかけているんだ! 注文受けたら即配達! 5秒以内のお届けが、この第二配送センターの掟だ!」
男の怒鳴り声が響いた。
この声の主、第二配送センター配達課タダノ課長その人である。
年のころは40歳ぐらいだろうか。
ほっそりとした角ばった顔。
頭は全く整える気がないのかボサボサ髪が逆立っている。
だが、その頂点は無残なハゲである。
いいところなんて一つもない。
そのおかげで、いまだに独り身である。
そう、年齢イコール彼女いない歴の痛いオッサンなのである。
唯一の長所は、眉毛が太いと言ったところか。
「イイじゃないですか、少しぐらい。今日はクリスマスで雪なんですよ」
「この大馬鹿野郎が! お前の気のゆるみが、他のメンバーの足を引っ張るんだよ!」
「だって、私だけママチャリなんですよ! ママチャリ!」
「ママチャリなんか関係ない! 要は気合じゃ! 気合! 気合が足らんのじゃ!」
「それならバイク買ってくださいよ!」
「お前、免許ないだろうが!」
うっ
「もうこんな仕事やめてやる!」
「やめて済むと思っているのか! このバカが! お前の作業は誰が引き継ぐんだ! お前には責任感と言うものがないのか! はい! 減給!」
「そんなぁぁ」
――やめてやるか……
タダノはふと過去の事を思い出した。
――あいつも、さっさと辞めていればよかったのにな……
タダノは、megazonが創立された15年ほど前に中途採用された。
その時の同期にマメジという男がいた。
マメジもまた中途採用であったため、二人は気が合った。
そして、配属先も同じ第9営業部であった。
第9営業部は、megazonに新たに出店する顧客を見つけてくる部署である。
二人は毎日徹夜で顧客のもとに足を運んでいた。
その当時のmegazonは、創立間もなく、何もかもがうまくいっていなかった。
その中でも、配送関係は最悪の部類。
配送時につぶれているは、まだ序の口。
クリスマス商品がお正月に届いた。
男の子用を頼んだのに犬用が届いたなどなど言い出したらきりがない。
お客さんのためを思うタダノとマメジは正直に話して営業する。
都合の悪いことも包み隠さず説明していた。
問題点はきっと自分たちが改善します! megazonを顧客第一にしてみせます! その熱意にほだされて、タダノの営業成績はうなぎのぼりであった。
しかし、押しの弱いマメジは成績が一向に上がらない。
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