気づいたら秒で生き残る
気がついたら、四郎、リインカ、オタクは、第二の異世界ダイニノにいた。
異世界ダイニノの、宇宙空間に。
「やはりな」
転移寸前に、しっかりアルクビエレ・ドライブによって
「ちょ何これ!?」女神はパニックで無重力空間をじたばたしながら問う。「なんでこんなとこに転移してんの?」
「の前に貴様はなぜ生身で生き、音の伝わる媒体のない真空で話しができている?」
「神だからよ!」元も子もないことを言い掛けたリインカは、いちおう付加する。「……あと、前にあんたに掛かった移動系とかの魔法の影響も受けるって解説したでしょ。補助系も同じ。物理的な形だろうと、原料はユニークスキルだから効果だけ備わるの」
「また後付け臭いが、面倒だから納得しといてやろう」
「で。ど、どうして宇宙に移動してるのよ!」
「自分で述べたろう。〝元世界の宇宙とだいたい同じ異世界のどこかに移動する〟とな」
かくして呆気にとられる女神をよそに、錬金術師は巨大ガス惑星の縞模様を背景に説明を始めた。
「元世界での宇宙構成要素は当初の試算でもダークエネルギーが72.8%、
どこかの星に移動したとしても目当ての異世界とも限らん。地球型惑星でも大部分が地中、あるいは海や空の場合もある。僅かな地表に無事着地できることなどまずない。もちろん、この宇宙服には耐水性や耐熱性やパラシュートといった備えも追加したが。ともかく、ふと気がついたら偶然なぜか安全な地表に出るなんてまずありえん、あるなら十中八九何者かの関与を疑うべきだな」
恒星の光に照らされながら語る四郎は、さながら神のようであった。
一方、本物の女神リインカはポカンとしながらも思うのだった。
(……じゃあ、意図的に異世界へ転移させながら宇宙空間にほっぽり出した自分たち
「ところで」
そこで周囲を見回しながら、少年は無遠慮な問いを投げる。
「あのオタクはどうしたんだ。生身で宇宙空間にいようものなら、体液が沸騰し水蒸気が噴出して身体は風船のように膨らみ破裂して死ぬ」
「きゃー! グロいのやめてぇ!」
と耳を塞ぐ少女
をよそに四郎は続ける。
「――などというのは昔の空想だが。いずれにせよ意識を失い酸素の枯渇でやがて死亡、その後身体に変化が起きてくるが。……の前に、おまえの後ろに浮かんでいる物体はなんだ?」
指をさす四郎。
耳を塞いでいたのに、言われて恐る恐る振り返る女神。というか音が伝わらないはずの真空中で会話が成立してる時点で単なるポーズにしかなりようがなかったのだが、ともかく背後に彼女が見たのは。
無数の小惑星に混じって浮遊する、十字架の描かれた等身大の棺桶だった。
「……そうだった。今回は転移者が死ぬほどのダメージ受けると棺桶になる異世界だったわ」
思い出したように言及するリインカに、すかさず科学者はツッコむ。
「なるのか、入るんでなく? しかもキリスト教式のものに」
「なるのか入ってるのか知らないけど、ここの異世界の教会では棺桶の死体連れてけば神父が生き返らせることができるそうよ」
「十字架の件には答えてない上に、ずいぶんと特定の異世界に寄った設定だな」
「と、とにかく勝負はあったわね」当然のように女神はスルーする。「ごめんね、今度はちゃんと目的地の星に転移するから。魔王を倒して終わりにしましょう」
「はあ」
宇宙服の中で溜め息を一つ。
様々なツッコみどころはあるも、オタクを死なせたままも可哀想なので四郎も渋々進めることにした。
「わたしたちの助力を請うからには、その魔王とやらもやはり元転界の神なのだろう?」
「あ、はは。そう、やっぱり姉さんみたいに異世界管理の力を扱ううちに悪用もできることに気づいちゃった類ね」
「いずれ転界自体にメスを入れた方がいいかもしれんな。おまえもだらしないし、神々自体がろくでもなさそうだ。……人も同じか」
確かにそうであった。
元世界でも悪徳政治家やら汚職警察官やら破廉恥教師やら、ちゃんとしなければならない立場なのにろくでもない人物はいた。ダイイチノでも同様、王族や貴族にも腐敗が蔓延っている。四郎もできる限りは正したいが、普段はユニークスキルもないので限界がある。
元世界でのある種の伝承のように、そんな人を作ったのが神なら転界の神々も似たようなものなのかもしれない。
落ち込みそうになった思考を頭を振って払い、気を取り直して少年は問うた。
「で、ダイニノの魔王の実力は?」
リインカは宇宙空間を羽ばたきながら遊泳して、棺桶を捕まえると答える。
「姉さんと比べたらずっと弱いわね。下位神出身だし、全力の一撃でも大陸を消し去れるくらいよ」
彼女の姉ネーションは中位神だったという。
なかなかチートな話をしているようだが、前回の魔王が最大火力で宇宙を一つ消せたことを考慮すれば納得の評価だった。なにせ、やろうとすれば四郎は一撃で宇宙を100億個滅ぼせるのだから。
従って、彼は軽く感想を洩らした。
「弱いな」
このあと、魔王はめちゃくちゃ簡単に倒された。
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