気づいたら異世界

錬金術も秒で極める

 かつて魔王ネーションの脅威にさらされていた異世界ダイイチノ。その魔王を人知れず倒した四郎は、自身が最初に出現したハジマリノ村が属するサイショノ女王国じょおうこくに定住していた。


「安直なネーミングにも程があるだろう」

 などと文句を言いながらも。


 この世界を救うと了承した特典として転生の女神リインカから与えられたユニークスキルは役割の終了によって返却していたが、魔王と軍の幹部や有象無象の魔物達をまとめて倒したので、大量の経験値を獲得しレベルは99とカンストしていた。


「ゲーム世界ではなく異世界に来たはずだが、なぜレベルなぞという概念があるんだ」

 などと文句を言いながらも。


 ちなみに元が科学者だからか、転生したとき自動的に職業ジョブが化学の基礎ともされる錬金術師アルケミストにされたようで、それ系の魔法や技能スキルは全部憶えていた。

 彼はとりあえず仕事を探して冒険者ギルドに登録。宮廷魔術師募集の貼り紙を掲示板で見かけるや、バロック建築の王城に出向いて謁見の間で玉座の美人女王に跪き申し出たのだった。


「陛下、わたしは誰よりも上手くきんを作ってご覧にいれましょう」


 四郎が元いた世界では、公式には錬金術で金が生成されることはなかったが、ここでは魔法が実在するためかそれが可能だった。ましてやレベル99ともなればトップクラスだ。

 片手の指で足りるほどとはいえ、世界中を探せば上位の先輩錬金術師にはレベルでほぼ同等で、かつ経験で上回る人材もいたが、持ち前の科学で追い抜いた。

 卑金属から貴金属を生成することは、元世界でも原子物理学で理論的に可能だからだ。


「水銀の同位体に中性子線を照射し、原子核崩壊を起こせば金に変えられる。元世界では費用の方が膨大となって採算が合わないが、魔法で補う術を閃いた」


 そんな独白をしながら彼は実験で実現。即宮廷に採用されたのだった。

 もちろん、具体的にどうやったかは天才科学者である彼の専売特許で、同業者にも秘密。かくして、魔法だけでは生み出せず科学だけでは非効率的な黄金を彼だけが生め、魔王討伐後の半年で世界最高峰の錬金術師として名を馳せたのである。


 今や、サイショノ女王国の女王都じょおうとスタアトを見下ろす花畑に彩られたなだらかな丘の天辺に牧歌的な家を建て、王家御用達の宮廷錬金術師として悠々自適な生活を送っている。

 特に魔王軍との戦いで疲弊した人類文明の復興には何かとかねがいるので、彼は国の外交部を通じて世界中から頼りにされていた。


「おっ邪魔しまーす!」


 地下室。

 ランプと暖炉の照明に彩られ、錬金術に用いる様々な器具に囲まれながら机で新たな実験の記録を羊皮紙に羽根ペンとインクでしたためていた白衣の四郎の耳に、本当に邪魔な声が届いた。

 上の一階、玄関からのバカでかい声だ。そこに張った結界が許可して合鍵で入って来れるようにしているのは一人しかいなかった。


 元転生の下位女神、リインカである。

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