第13話:おっぱいエンパイア

「中三の夏休みなのに、俺は一体何をしているのだろう?」


 受験生なのに美術部の部活動に力を入れざる得なくなった俺。

 まぁ、それはいい。部活動と言っても週に二回ぐらいだし、俺たちの無実(まぁ実際はどちゃくその有罪なのだが)を証明するためにも必要だ。

 

 が、普通の絵なら描けると思っていた天野さんが実はガチの印象派で、これはどげんかせんといかんと話し合った結果、俺たちは海へ行くこととなった。

 もうこの時点で何が何だか分からないが、天野さんに言われるがまま彼女の知り合いらしい人の漁船に乗せてもらい、穴場のビーチにでも連れて行ってもらえるのかなと思いきや丸一日かけて太平洋をさすらった挙句、南海の孤島へと連れてこられたとあっては混乱もここに極まれりである。

 

 そして今、俺が何をしているかと言うと……。

 

「いくぞー、そーれ!」

「よし、任せろ!」

「トスあげますよ、先輩」

「行くぜ、スーパーバイシクルアターーーーック!」


 とある孤島のプライベートビーチで、巨乳な女の子たちとビーチバレーなんぞをやっていたりする。

 受験? 美術部? なにそれ美味しいの?

  

          ☆

 

「実はお爺ちゃんが南の島を持ってるんですよ」


 海へ行きましょうと提案してきた天野さんが、その意図を説明してくれた。

 つまりその島の光景は絶景である。あそこなら天野さんの感性にもビンビン訴えてくるから、とても素敵な絵が描ける。しかも泊まるのは親戚の家だから、お金は気にしなくていい。何日でも滞在オッケー、これなら部活動も遊びもみんな大満足!


「いや、でも可愛い孫娘が男を連れて行きたいなんて、お爺さん許してくれないんじゃないか?」

「大丈夫です。お爺ちゃん、私には甘いですから」

「そうは言ってもなぁ」

「それに親戚みんな女の子ばかりなので、たまには若い男の子がいた方がお爺ちゃんも喜ぶと思います」


 そういうもんかなぁ。

 なんとも不安は残るが、天野さんがどうしてもというので付いていったら。

 

「ガハハ! よう来た、しずく! おうおう、またおっぱいが大きくなったのォ!」

「おじいちゃん、ただいま!」

「あ、あの、お邪魔、します……」

「あ? なんじゃ、そいつは?」

「え?」

「やだなぁ、部活の先輩を連れていくって言ったよね?」

「それは聞いとったが……女じゃなくて男じゃと?」


 ちょっとぉ、天野さん!? 一番肝心なところが全然伝わってなかったみたいなんですけどォォォォ!?

 

「あらぁ、しずくちゃん、しばらく見ないうちにまた大きくなったわねぇ」

「おばあちゃん!」


 俄かに緊迫感の高まる玄関口。

 が、そこへ突如現れたその人が、一瞬にして俺の視線を奪ってしまった。

 

 外国人だ。それだけでも驚きなのに。

 

 若い!

 てか、でけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

 

 天然の金髪に青い目をした美人外国人というだけでも凄いのに、見た目はまるで30代(実際は既に還暦を迎えているらしい)、そしてそのおっぱいの大きさときたら……なんだこれ、胸に地球をふたつくっつけてるの?

 

 羽音さんのにも驚いたけれど、これはもはや惑星だ。おっぱい惑星、ここに爆誕!

 

「サンマリー! 聞いとくれ、しずくがどこぞの馬の骨とも分からぬ男を連れてきよった!」

「あらあら、いいじゃないですか。しずくだってもうお年頃なのですからボーイフレンドのひとりやふたりぐらい」

「じゃが、しずくはまだ中一じゃぞ!」


 やりあうふたりを俺はぼーとして眺める。主にサンマリーさんのおっぱいに焦点を当ててガン見して

 てか、サンマリーさんって言うのか。となると、先ほどの表現は改めねばならない。地球などと失礼なことを言った。そのおっぱいはまさに太陽サン! 膨大なエネルギーを絶えず放射し、今も俺たち(の身体の一部を)を熱くする真っ赤な太陽だ!!

 

「おい、小僧」

「……え?」

「何を腑抜けておる。ちょっとこっちへ来い」


 あ、マズイ。

 すっかりサンマリーさんのおっぱいの虜になっていたら、爺さんが怖い顔で睨んできた。

 そして俺の返事を待たず腕を握られると、凄まじい力で屋敷の廊下の奥へと引きずられてしまった。

 

「小僧、今からふたつ質問をするから慎重に答えるんじゃ」


 返答次第によってはサメの餌になるぞと、とある一室へ俺を連れ込んだ爺さんが凄んでくる。

 

「まずひとつめ。小僧、しずくの胸を揉んだことがあるのか?」

「は?」


 おい、またか。天野さんちの血族は初対面の男の子に必ずこの質問をしなくてはならないっていう義務でもあるのか?

 女性陣のおっぱいといい、この人たちにはいつも驚かされてばかりです。


「しずくのおっぱいを揉んだのか、正直に答えい!」

「いや、揉んだことないです」

「本当か?」

「本当です! 揉むどころか触ったことすらありません」


 まぁ、何度も見てはいるけどな、天野さんの生おっぱい。

 

「ふむ。では次じゃ。小僧、おっぱいは好きか?」

「はい?」

「おなごのおっぱいは好きか、と訊いておる。さっき見とったじゃろ!? うちのワイフの、サンマリーのおっぱいをガン見しておったじゃろ!」


 ヤバっ。やっぱりバレてた!

 

「正直に答えい! しずくやサンマリーのおっぱいは好きか、小僧!?」

「大好きですっ!」


 爺さんの迫力に思わず言ってしまった。

 ええい、こうなったら仕方ない!

 

「おっぱい、大好きです! 天野さんの成長期真っ只中のおっぱいも大好きだけど、サンマリーさんのアレは一体なんなんスか!? もはや人類の宝! 人間国宝! ミスおっぱいユニバース! メトロポリタン美術館に展示して、未来永劫守るべき一品! どうぞ大切になさってください!!!」


 ああもうやけくそに滅茶苦茶だ。サメよ、喜べ。今夜は御馳走だぞ。

 

「……ふっふっふ。小僧、チビだがなかなか分かっておるではないか」

「へ?」

「ワシもサンマリーのおっぱいこそがまさに世界の起源であり、人類が未来へ残すべき宝だと思っとる。だからサンマリーと多くの子を作り、その遺伝子を次の世代へと受け継がせていった!」

「そ、そうか! 天野さんのあの巨乳はサンマリーさんの遺伝子の賜物……」

「その通り! そして小僧よ、サンマリーの遺伝子を受け継いだ者はしずくだけじゃないぞ。これからお盆過ぎまでどんどんワシの孫たちが里帰りしてきよる。そしてこの島はひと夏のおっぱいアイランドとなるのじゃ!」

「おっぱいアイランド!」

「ふふふ、これも何かの縁じゃな。同じおっぱい愛好者として、小僧にもおっぱいアイランドを楽しませてやろう」

  

          ☆

 

「はーい、21対16で優勝はしずく&俊輔君チームに決定!」

「よっしゃー!」

「やりましたね、先輩!」


 ビキニ姿の天野さんとハイタッチを交わす。

 見た目も爽やかな水玉模様のビキニからはち切れそうなおっぱいがぷるるんと震えた。

 

「あー、もう。今年も優勝出来ると思ってたのに―!」

「まさかしずくがそんな手に出るとは思うとらんかったよー」


 ネットの向こう側で、天野さんの従姉妹である陽葵ひなたさんと泉水いずみさんが悔しげに地団駄を踏む。


 陽葵さんはトップスが黒で、ボトムスがホットパンツという水着からも分かるように、いかにもスポーツを得意としているお姉さまだ。

 大学生ということもあって、おっぱいがでかい。

 

 一方、泉水さんは大阪のお嬢様学校に通っているそうで、水着もワンピースのいかにもお上品っぽいものを着ている。

 が、サンマリーさんの遺伝子を一番色濃く受け継いだみたいで、おっぱいの大きさは天野さんや瑞穂さんを遥かに凌駕している。

 

「てかお爺ちゃん、オトコ連れてくるなんてアリなの!?」

「俊輔君はしずくの彼氏ではなく、部活の先輩だからの。特別に許したんじゃ」

「しずく、中学では美術部に入ったってっとらんかった? でもその子、背が低いわりには身体能力エゲつなかったで? ビーチバレーやのにボールをほとんど足で器用に蹴っとったし」

「先輩はサッカーがめちゃくちゃ上手なんですよ」

「そんなのがなんで美術部なんかに入ってんのよッ!?」

「あはははは」


 とりあえず笑って胡麻化す。

 最近はクラブチームでの活動がメインで、学校の部活は適当な文化部を選ぶ奴も少なくはない。。

 とは言え、俺はそのクラブチームから落ちこぼれた身だ。それを説明するのは何ともカッコ悪いし、聞いた相手もきっと気まずいだろう。

 

 だからこんな時は笑って胡麻化すに限る。

 それにほら、勝者の余裕っぷりも見せつけられるし?

 

 いや、でもみんな結構強くて焦ったわ。

 十人以上集まった天野さんの従姉妹たちと、二人一組でのビーチバレーをやると聞いた時は正直ナメてた。

 みんな天野さんに負けず劣らずに立派なものをお持ちで、それがたゆんたゆん揺れる様を想像するだけで顔がにやけてしまいそうだった。

 

 それが実際に始まってみると、あまりの本気マジっぷりに驚いた。ぶっちゃけ、ひいた。

 聞けばなんでも優勝者チームにはお小遣いとして5万円が与えられるらしい。さらに優勝後に行われるお爺さん&サンマリーさんペアに勝てば、賞金はなんと倍! 

 だから天野さんを始めとして従姉妹たちはみんなバレー経験者なのだそうな。

 

 本気すぎだろ、あんたたち!

 

 あー、暑くなってからも自主トレをさぼらずにやっておいてよかったよかった。

 

「くっくっく、今年はまた面白い戦いになりそうじゃのう。なぁ、サンマリーや」

「そうですねぇ。しずくちゃん、俊輔君、どうぞお手柔らかにね」


 孫娘たちに砂を掛けられ埋まっていた爺さんが気合を入れて立ち上がると同時に、試合の審判をしていたサンマリーさんが着こんでいたパーカーのチャックを下ろす。

 

「え? ちょ、それは!」


 思わず生唾をごくりと飲み込んでしまった。

 

「きゃあ! サンマリーおばちゃん、だいたーん!」

「マイクロビキニって、絶対お爺ちゃんの趣味でしょー!」

「こんな60代なんておらへんてー」


 周りが歓声をあげるも、全く耳に入ってこなかった。

 しゅ、しゅごい。ほとんどヒモみたいな水着がサンマリーさんの大事なところだけを辛うじて隠している。

 え、これで今からビーチバレーやるの? そんなのポロリもあるよどころじゃねぇ! ポロリしかねぇよ!

 

 来てよかった……ホント、来てよかった。

 でも俺って何のためにここに来たんだっけか?

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