第2話:後輩が全裸になりまして

 なんだこれ?

 なんだこれ!?

 なんだこれぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?

 

『美術部では部員同士によるヌードデッサンを行いたいと思っています。現在部員は俺ひとりなんでよろしく! あ、あとホモはお断りだからな!』


 部活紹介で俺は確かにそう言った。

 でもそれは俺がこれまでと同じくひとり静かに放課後を過ごしたいからであって、決して本気でヌードデッサンをしたいわけじゃない。

 実際、今日も俺以外誰もいない美術室で何もかも忘れて絵を描くつもりだった。

 

 それが何故か今、ふたつ年下とはいえ同年代の女の子が服を全部脱ぎ捨て、あろうことか素っ裸になった姿を前に鉛筆を握っている。

 おまけに女の子は手を後ろに回してお尻で組み、大きすぎる胸も、股間も隠そうとしない。

 つまり全て丸見え。女の子の裸なんてネットで見飽きているのに、実際に目の前に現れたそれはとんでもない現実感を持って俺を圧倒してきた。

  

「あ、あの先輩、早く描いてもらえると助かるんですけど……」

「そ、そうだな。分かった、10分で描く」


 ぼうっと見惚れてしまっていたから、声を掛けられて少し慌ててしまった。

 すっかり忘れてたけど、ここって学校なんだよな。

 まぁ、旧校舎には人がほとんど来ない上に旧美術室は3階にあるから、俺たちがこんなことをしていてもまず誰にも見つかるはずがない。

 だけどやっぱりこの状況は色々とマズい。もし見つかったら身の破滅は免れないし、そもそもの話、俺がいつまで我慢できるかも全くもって自信がない。

 

 ええい、こうなったら早く描き終えてしまおう。

 いや、別に描く必要はないかもしれないけど、その、せっかくだし……な。

 

 さて、デッサンの基本はなんだろうか?

 そう、対象をよく観察することだ。じいいいいいとよく見つめて、その情報をしっかり掴むことだ。

 てなわけで、さっきから困惑しつつも思春期の欲望に負けて見てしまっていたわけだけど、よし決めた、これは芸術なんだからしっかり見るぞ。

 

 じいいいいいいいいいいいいいいいいい。

 じいいいいいいいいい。

 じいいいいい。

 じじじいいいぃぃぃ…………。

 

 あ、やべ、また見惚れてた。

 

 でもスゲェよ。女体、マジでスゲェ!

 なんだよその肌、怪我の跡どころかシミひとつねぇ! 毛も生えてなくてツルツルだし、めっちゃスベスベしてそう!

 それに体の丸みは一体なんなのそれ? キュベレイ? キュベレイなの? 俺たちなんてザクみたいにカクカクしてるのにズルいぞ!

 

 そしてそしてやっぱり女体の神秘と言えば、みなさん、おまたせしました、おっぱい様の登場です!

 この前まで小学生だったとは思えない巨大すぎる膨らみは、もはや崇拝の対象にさえなってしまいそうな存在感がある。拝みたい。柏手かしわでを打ちたい。二拝二拍子一拝して揉ませてほしい。お願いだから。

 加えて真っ白な身体の中で唯一その頂点に桜色のぽっちを持ってくる神の御業ときたらもう……まさに女神ビーナスの誕生だ!

 

「せ、先輩、あの、さっきから見てばっかりで手が止まってますけど……?」 

「はっ!? い、いや、これはデッサンの基本は観察にありなわけで、決してヤらしい気持ちでガン見していたわけじゃないんだ!」


 や、やばい、さすがにこれは言い訳臭かったか?

 

「ご、ごめんなさい! そうだったんですね! 私、何も知らなくてつい」

「はは、気にすんな。じゃあそろそろ本当にちゃんと描くから」


 よっしゃ、セーフ! 天野さん、いい子すぎる!

 もしここで疑われて近づかれたら、俺のアレが緊急事態になっているのがバレちまうところだったぜ。

 うん、もうじっくり天野さんの裸を堪能、もとい対象物を確認した。そろそろ描き始めよう。

 

 俺はスケッチブックに鉛筆を走らせて、天野さんの身体を丹念に写し取っていった。

 普段は勝手気ままにやってきたので、こんなにしっかり対象を観察して描いたのは久しぶりだ。ましてやヌードデッサンなんて言うまでもなく初めて。そのわりには結構上手く描けたと思う。力を入れたのは勿論おっぱいのふくらみです!

 

 身体が描けたので、次は顔だ。

 視線を上げる。当たり前だけど、天野さんと目があった。

 だけどその当たり前を何故かふたりとも意識してなくて、どちらかともなく「あっ」と小さく声を上げると、お互いに顔を背けてしまった。

 

 おおう、天野さん、顔がめっちゃ真っ赤だったぞ。てか、俺もそうなのか?

 やばいな。これまで出来るだけ考えないようにしようとしてたけど、俺たち今とんでもないことをしてるぞ!

 うん、やっぱりここは早く終わらせてしまおう。

 顔はもうさっきまでの記憶を頼りに描き上げてしまい、最後に細かな部分を修正するために再び天野さんの身体へ目を向ける。

 

 さっきまで気が付かなかったけれど、その体は小刻みに震えていた。

 

 

 

「……描けたぞ」


 早く描かなきゃと思いつつも、結局は持ち時間の10分をフルに使ってしまった。

 ちょっと観察に時間をかけすぎたのと、とある部分をどうするべきかで考えてしまったのと、あとはまぁ俺の体の一部に発動された緊急事態宣言がある程度解除されるのを待っていたからだ。

 なお、解除手段の般若心経は今も継続中。

 

「あ、あの、見せてもらっていいですか?」

「色即是空……空即是うわっ!?」


 目を瞑って般若心経を唱えていると、突然近くから声をかけられたので驚いた。

 見ると天野さんが隣に立って、俺の描いたスケッチを覗き込んでいた。

 おいおい、俺はまだオッケーを出してないのに勝手に見るのはマナー違反、って、天野さん、なんでまだ裸なの!?

 

 文句を言おうとするも、目に飛び込んできた天野さんのでかすぎる横乳がぽよんと揺れる様に思わず言葉も、そして煩悩を吹き飛ばすはずの般若心経すらも一瞬にしてその効力を失った。

 ああ、すごい。距離を置いた状態でもその大きさは圧倒的だったけれど、今や視界のほとんどが占められていて、もうおっぱいのことしか考えられなくなってしまった。

 

 気付けば、いつのまにか手が天野さんのおっぱいへと向かおうとしている……。

 

「あ、あの先輩!」

「うわああ、ごめん! ほんの出来心だったんだ、許してくれ!」

「え? なんのことですか?」


 きょとんとする天野さん&おっぱい。


「それよりも先輩、これ、描きかけじゃないですか」

「へ?」

「だってほら、股間の部分が真っ白ですもん」


 いや、それはほら、君っておっぱいはそんなに大きいのに、下はまだ年相応だから……。

 てか、ぶっちゃけまだ生えてないから、そんなのをしっかり描いてしまったら……。

 

「もしかしてよく見えませんでした? だったらほらここでよく見てください!」


 そう言うと天野さんは両手を腰に置いて、股間を突き出してきた!

 

「うわぁぁぁぁ! ちょっと天野さん、ストップ! ストップーーーーーー!」


 突然のことに驚いて思わず手で隠そうとする。

 ……自分の目じゃなくて、その、つまりはその天野さんのあそこを。

 

「ふひゃあ!?」


 が、俺の手よりも早く、天野さんは可愛らしい悲鳴を上げると慌てて自分の股間を両手で隠した。

 なんだろう、さっきの丸見え状態よりそっちの方がエロく感じる。それに挙動があまりに早くて大きかったので、おっぱいが今度はぶるるんと激しく揺れた。当然、俺の目がしばしそちらに釘付けになる。

  

 おかげで天野さんがアホ毛をうみょんうみょんと混乱したように揺らしながら、涙目でこちらを見つめているのに気が付くのが遅れてしまった。


「あ、ごめんつい。って、ち、違うんだ、さっきのはその、女の子がそんなところを見せちゃいけないと思って」

「は、はい……すみません、私こそつい夢中になると周りが見えなくなっちゃう性格で」


 うん、それはすっごくよく分かる。いきなり脱ぎだしたのもアレだけど、それ以上にさっきのはもっと驚いた。


「えっと、股間が手付かずなのは、そういう女の子の大切なところは描いちゃダメだと思って」

「あ、そうだったんですね。すみません……」

「いや、最初に言えば良かったな。俺こそすまん」


 というわけでここはお互い水に流そう、と思ったんだけど。


「すみません、すみません、すみません! あっ……」


 不意に天野さんの身体がぶるっと震えた。

 

「どうした? っておいまさか……?」

「ご、ごめんなさい。さっきまで緊張してたので気が付かなかったんですけど、私……」

「トイレは廊下を出て右だ。早く!」

「はい!」

「おいおいおい、ちょっと待て! まさかすっぽんぽんのまま部屋を出るつもりか!?」

「む、無理です! 着替えてたら、オシッコ漏れちゃうぅ!」


 そう言って天野さんはお尻丸見えの後ろ姿を俺の脳裏に焼き付けさせて、一目散に美術室を出て行った。

 旧校舎、しかも三階にわざわざやってくる人はいないと思うけど、学校の廊下を真っ裸の女の子が股間を押さえてダッシュするってそれなんてエロ漫画?

 

「……と、とりあえず俺も今のうちに行っとくか」


 まぁ、俺の方は別に尿意はないんだけどな。

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