第40話 聖剣と勇者


《昔、とある魔王が世界の半分を支配していた。まあいわば原初の魔王だね。

その魔王は領地の支配を繰り返し、どんどん世界を征服しようとしていた。とはいえ別に支配しても悪いことにはならなかった。生き物の生活は特に変化はなかった。逆に支配を受けて潤った場所などもある。

しかし、その支配を良しとしなかった国もあった。それらは主に人間の国々だったが、特にとある帝国は絶対に支配を許さなかった。

その国は圧政を強いていて、多くの国民は魔王の支配にすがろうとしていた。

為政者はそれが許せなかった。

そこに、魔王に対抗しうる力を授かった人間が現れる。…原初の勇者だ。

帝国は勇者を使い、魔王の支配から逃れようとした。

時には魔王との戦争に発展した。

その折に勇者は天から一振の剣を授かった。

その剣を手にした勇者は、魔王にも止められなかった。

自身が何者よりも強くなり、同時に何者よりも他者を傷つける存在となった勇者は、それが怖くて堪らなくなった。

魔王が居なくなったことで帝国は勇者を捨て、それに怒った国民により帝国は滅ぶが、そんなことを気にせず1人、呪いから逃れるように勇者はその剣で自分を刺した。

…こうして、原初の勇者は死んで行った。

しかしそれが聖剣に、人格のようなものを生成させたのだ。

勇者が悩みを抱いたように、もうこの剣で誰かが悩まないようにと、勇者が祈ったことで生まれた意思だ。

それからずっと、ボクは存在している。》


な、なんて過去だ…。

じゃあ君は、その勇者が生んだ人格ってことなのか?

《まあそんな感じだよ。剣の使用者が何か激しく悩んだ時、その使用者の別人格のような形で現れるようになっている。だから声も似ているし、君の考えることがわかるんだ。》

なるほど…

君はずっと昔から存在しているんだね。

《そうだよ。…そんなことより、君はこれからこの力を使いこなさなくちゃいけない。ボクはいつだって今みたいにすぐに手を貸せるわけじゃないんだ。だから君は1人で戦えるようになってくれ。》

…ボクがあんな風に戦えるのかな。

《あれは君の力なんだから、ちゃんとできないと。もし君が力不足なために、魔王やその仲間を失うことになっても後悔しないと言えるかい?

あの時決めたんだろ、魔王レインと理想を叶えると。》


聖剣の言うことは全く正しかった。

そうだ。ボクは1人で、自分の力を使えるようにならないと。

《やっと分かってくれたかい。君はちょっと臆病すぎる。もっと勇者らしく堂々としていなよ。》

う、うん…。できるだけ頑張るよ。

《そうかい。…それじゃあボクはしばらく君の中にいるから、何か用がある時は呼んでくれよ。》

え、ええ?

ボクの中にいるの?

《まあねー。1回目覚めたらしばらく戻れないんだよ。だから半分貸してくれ。》

そういうことはもっと早く言ってよ…。


そうして、意識は自身の体に戻り、ネルはハッとしてエルフやミスナ達をレインの街まで運んで行った。(途中遭遇したマダラや隠密部隊と共に)

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