第39話 ネルと英雄剣


ネルのエクストラユニークスキル「正義ノ徳アヴァロン」の複合スキル、断罪の聖剣による攻撃だ。正確にはスキルを付与した斬撃によるもの、だが。

これは大罪系スキルの効果を受けなくなると共に自身に悪属性特攻を付与するというものだ。

悪漢達には悪属性が付与されていた。それもそのはず、悪属性は犯罪者などにはだいたい付いているからだ。


だがそれだけで屈強な男たちを目視出来ないほどの一瞬で倒せるのだろうか。

否、おそらく今のネルにはそれほどの力はない。確かにネルは覚醒した勇者として、世界でも類を見ない力を持っている。今回もミスナ達に注意を払っていなければたかだか人間の密猟者程度、相手にならなかっただろう。

それでも、あの凄まじい剣閃は今のネルにはできない技だ。出来るとしたらカミナ程の剣の使い手かそれに並びうるレインのような特異な力を持つ者だけだろう。

ではなぜ、ネルにそのようなことができたのか。

答えは簡単である。

ネルが勇者で、手に持っているものが聖剣カノンだからだ。

原初の勇者のみが手にしたというこの聖剣には、他の剣にはない1つの特異な点がある。

この剣は使い手を選ぶが、剣に選ばれた勇者のみが聖剣を所持している時に限り発動可能な、いわば聖剣のスキルが存在する。

それが「英雄剣カノン」である。

これは聖剣カノンに付随するスキルで、先程の条件を満たした時のみ、聖剣に最高切断権が付与されるというものだ。

最高切断権とは、他の要素に邪魔をされずに物質を切断する力、である。

例えばどれだけ硬い物質でも、それが他の剣では絶対に切れない物でも、この力が付与されている剣では切れてしまう。

これがどれだけ危険なものか、誰もがわかるだろう。それゆえか、聖剣カノンに認められた勇者は少ないのだ。




知らなかった。

ボクに、いやこの聖剣にそんな力があったなんて…。

《さて勇者ネル、ボクは約束通りこの場を納めた。危うかった君や仲間たちの命を助けてあげた。》

…そうだね。

《今の君じゃ出来なかった。だから仕方なくボクがやった。…でもそうじゃない。それじゃいけない。

ボクは聖剣。勇者じゃない。

だからこれからは君がやらなくちゃいけない。》

…そう、そうだ。

君は、一体何なんだ?この聖剣に宿る精霊とか?

《…違うな。聖剣そのもの。…いや、それも少し違う。

覚醒勇者となった時、君は思った。

自分は人間と魔物が争った時。例えば魔王レインと自分のいた王国が争うことになった時…果たしてその時、どちらかについて、どちらかに剣を向けられるのか、と。》

……。


言わずもがな、それはネルの悩みそのものであった。

自分は人間。それでも人間だけでなく全ての生命のために正義を遂行したい。それはレインと目指す理想のため。

だが、現状はやはり難しい。

どちらかの心持ちが変わっても、どちらの意識が変わらないことにはどうにもならない。

先程の密猟者がいい例だ。

今まで世界が出来なかったことを、自分がどうこうして変わるものなのか、そう思っていた。


《そう、その悩みから生まれたのがボク。君の別の人格?みたいなもの。》

え?ボクが悩んだから生まれた人格?

《正確には、その悩みが作り出した人格を聖剣に宿したもの。》

…ん?どういうこと?全然わからないんだけど。

《まあそうだろうね…。じゃあちょっと長くなるけど、昔話から。》


それを導入として、別人格?は聖剣と勇者にまつわる話を始めた。

…できることなら、早く体を返してほしい。

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