第34話 絶望の目醒め

目が醒めた。と同時に理解した。

なるほど、どうやら失敗しなかったようだ。

さっきまで目を開けていた僕は一瞬前の僕。

即ち数百か数千年前の僕。

初めてにしては、上出来。


“それ”は、息をするように能力を使った。

能力により展開された闇は、目覚めた狂気を閉じ込めた。



顕現したのは悪。

そしてそれは“何か”の存在そのもの。

為らざる者の正体。

無限に等しい、この世に2つだけの闇。


その変わらない力に、“何か”は闇で顔を綻ばす。


「はは ははは ははははは!」


抑えられなくなった悦びと歪みが“何か”の笑いを加速させる。


「ははははははは ははははははははははは!」


闇の中で1人、反響なき笑いをあげる。

そしてしばらく続いたそれは、突如“何か”の意思で止められた。


「おかしくてたまらない…生き返るってこういう気分なのか!ははははは!」


狂気、とさえ言えよう。


何か、もとい彼は、狂気から生み出された闇なのだ。


ああ、素晴らしい。



ようやく止まった笑いは、闇をとても静かな空間へと塗り替え、まるで嵐の前のような不気味さを演出していた。


彼の中に、感動の次に訪れたのは憎しみだった。

憎い、憎い。自分を殺した奴らが憎い。

あいつらは、あいつらだけは僕が…


「憎い…憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いっ!」


絶対に、殺してやる。

赤と黒の、あいつら。


「うん、そうだそうしよう。それじゃあ手始めに…」


狂気的に思考が定まらない彼は、しかし唯一解とも言える絶対の理を1つ持った。

必ず奴らを殺す。


目が醒め、笑い、憎み、そしてまた笑う。

彼は今、自分の力で憎い相手を殺す姿を想像し、その光景に笑いが止められなかった。

楽しみだ…とても楽しみ。


そして感じた高揚を育てるように、まるで土に種をまくように右手を構える。

ニヤける顔の歪みを必死に堪え、変わらぬ詠唱で研ぎ澄ました。


「──さあ始めよう。僕の楽しい狂喜劇。

はは…ははは!狂え狂え全ての生命えさども!絶望の朝日が顔を出す!

権能アドミン!『黒き豊穣へ捧ぐ死歌シュブ・ニグラス』!」




その日、世界に放たれた。

混沌と絶望の、最悪の種が。

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