第33話 帰宅道中


俺達は世界樹の外まで戻って来ていた。

あの後ドライアドが現れ再び外までの転移門を開いてくれ、今後は自由に訪れてもいいとの旨を伝えて消えた。

ネルは親に怒られた後の子供のように静かになってしまい、仕方がないので俺が手を引いて連れてきた。


外に出た俺達が街まで戻ろうと歩き出すと、目の前に黒い霧を纏いながらネヴィルスが少年の姿で現れ、俺達に語りかけてきた。


「帰るのか」

「…すぐまた来るけどな。」

「…ミスナは普段落ち着いているが、やはり親を殺した人間が許せなくてな…。外に出ることもなかったし、今まで他人と話す機会がなかったんだ。だからまあなんだ、嫌ったりしないでくれ…」

「…優しいんだな、お前。」


ネヴィルスは少し寂しそうな顔で肩を透かす。


「オレは普段は命令の遂行しかしないんだがな…他人の世話焼きなんてもってのほかだ。なのになぜかそうさせられる。魂が動く。…お前のせいかもしれないな。」

「俺の?」

「…いや、この話はいい。それより次に来る時は決闘の相手になれ、神命令だ」

「適当な神様だな。…わかった、こちらに勝ち目があるとは思えないけど、俺の修行にもなるだろうし。」

「…感謝する。ではまた会おう。」


ネヴィルスはそれだけを告げて霧の中に消えた。彼としてもミスナを放っておけないのだろう。命令を遂行するだけとか言っていたが、とてもいい奴じゃないか。


俺達はネヴィルスと別れると、来た道を戻るように歩き出した。




大量の本で埋め尽くされた部屋の中、1人の少女ミスナは落ち込んでいた。

外から来た他人と話すのは初めてだったのに、その魔物に激しく怒りをぶつけてしまったのだ。落ち着いてから、嫌われていないだろうかと急に心配になり出した。人間の勇者はともかく、魔王にキレてなだめられ、帰られてしまった。

何も知らないくせに、と自分と同じ境遇にある者に言ったことがどれだけ悔やむべきことか。


「もう、私は何をしているのです…」


先程から何度も繰り返すその言葉は暗い部屋に静かな残響をもたらす。

自分に文句も言いたくなる。もっと落ち着いて話をしたかったのに。災厄のことだけでなく、外の世界のことも色々聞いてみたかったのに。

全て、自分の失敗で終わってしまった。

次に彼らがやって来た時、どんな顔をして会えばいいのだろう。


「でも、優しそうな魔王ひとだったのです…。怒ったこと、許してくれるかな…」


ちゃんと謝ろう。そして今度は色々お話ししよう。ミスナは静かにそう決めた。




ネルは道中も静かに後ろをついてきている。

握った手は離さず、何か喋る様子もなく。

同じ人間として、ミスナの言っていた人間の所業が許せなかったのだろうか。

本当に正義感の強いやつだ。

だが勇者という立場にあるのなら、守るべき人間がどういうものなのか、知っているべきだ。良い面も悪い面も、知って初めて守るべきものを見極める必要がある。悪行を散々行った人間も守ると言うのなら、それは勇者としての意思だ。誰も口を挟むべきではない。


俺達はそのまま森を抜け街に近付いたあたりで食料調達の狩猟部隊とはち合わせた。狩猟部隊の面々は大物の牛型魔物を捕らえたようで、自慢を聞きながら一緒に街へ帰っていった。

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