第31話 過去の災厄
大広間から少し歩いて、俺達は1つの扉の前にたどり着いた。古代遺跡にありそうな外見の扉だった。
ミスナは重厚そうなその扉を開けると「こちらです。」と告げて扉の先へ向かった。
そこは下へ続く螺旋階段となっていて、さっきまでとは全く違う暗めの雰囲気を醸し出している。
暗さの中に仄かな明かりが灯る階段をしばらく降りると、またしても大量の本棚と机と椅子があった。
その机には1冊の赤い本が置かれていて、ミスナはそれを手に取ってこちらに振り返る。
「この本に過去の災厄のことが書かれていました。」
ミスナは単調的にそう言って、その本から知り得た事を語り出した。
俺はそれに一瞬驚いたが黙ってその話を聞き続けた。
「過去の災厄──1柱の邪神が下界に降り世界を半壊させた出来事です。
その邪神は呪いを司る神で、世界中に呪いをばらまきました。人や魔物は感染すると5日も持たずに死に至り、魔法やスキルでの回復も効果がなかったようです。
神々は事態の沈静化のためにその邪神の討伐を始めました。しかし呪いで死んだ魂を吸収した邪神はとても強力で、並の神では太刀打ち出来ませんでした。
そこで最高神である全天神は自身の次に力のある神に討伐を依頼しました。──緋天神と夜堕神です。緋天神は自身の化身たる神竜と共に、夜堕神は単体で邪神と戦ったそうです。その末に、緋天神の神竜は邪神により最後の呪いを受けますが、なんとか討伐に成功しました。
というのがここに記された歴史です。」
世界を半壊させる災厄…。
緋天神と夜堕神がいなかったらこの世界は滅んでいたかもしれないな。
…というか夜堕神ってどこかで聞いたことあるような…。
《イエス、神竜ネヴィルスですね。》
やっぱりか、あいつは本当に強いんだな。
さっき敵対されなくてよかった、本当に。
「それで、その過去の災厄の話がどうしたんだ?なぜ俺達にそれを言う?」
するとミスナは保たれている覇気のない顔から少し強ばったような表情になった。
「…ここには、その災厄が復活すると予言があります。」
…やはりか。聖女の予言と同じだ。災厄が再び顕れようとしている。それが邪神とは知らなかったが。
ネルは驚いていたが俺は災厄が来ることを知っていたので大して驚かなかった。しかし災厄が世界を半壊させたというのは驚いた。災厄を止めるために聖女と竜帝が生み出したのが俺だ。俺には災厄を止める義務がある。
「…そうか、俺はその災厄を止めないといけない。そのために生み出されたのだからな。」
「レイン…災厄と戦うの?」
「ああ、俺とお前の理想のためにも、この世界は破壊させない。」
やっと災厄について1歩前進した。戦力もまだまだ足りないし、何もかもが足りていない。
「…やはり、あなた達が…」
ミスナは仏頂面に戻り、どこか遠くを見るように俺を見ていた。そして何か決めたように頷いた。
「…正直、魔物はともかく人間のために戦うのは嫌ですが、私にはあなた達を手助けする義務があります。それが受け継がれてきた意思なので、仕方なく助力します。」
それは願ってもない話だった。今は少しでも戦力が多い方がいい。
「手伝ってくれるのか、戦力が圧倒的に足りないから助かる。」
「この世界樹の書架も自由に閲覧してください。あまり人間には見せたくないですが…」
やはり人間は嫌いなようだ。あまり他人の事情をどうこう言いたくないが、今後仲間となる以上は、ネルもいるし聞いておかなければいけないだろう。なぜそこまで人間を嫌うのか、と。
「あまり聞かない方がいいとは思うが、ミスナはなぜそんなに人間が嫌いなのだ?」
「……。言っても仕方のないことですよ。」
「仲間となるのだ、禍根は残したくない。」
ミスナは目を閉じて、何かを思い出すように語り出した。
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