第30話 世界樹の護り手


目の前の神竜は、俺に語りかけてきた。

次は逃さんとか物騒なことを言いながら、こちらを睥睨していた。

これ…話返せばいいのか?


「やっぱりさっきの暗闇の結界はお前のだったのか。急に周りが暗くなるからかなり驚いたぞ、今度からは事前に予告してくれ。」

「フン、貴様の言うことなど聞かん!…だがまあいい。神へのその不遜な態度も、貴様の血ならば納得がいく。…よかろう、今後は奇襲でなく正面から向かってやる。」

「俺の血…?」


聖女や竜帝に関係のあるやつなんだろうか。だとしたら俺の知りたいことを色々知っているかもしれない。

というか、見た目の荘厳さに比べて中身はとても神の威厳を感じない。声も少年っぽいし敵対しているこの状況の割にとてもフレンドリーな感じまでする。

ネルやあの精霊?もポカーンとしてるぞ多分。

すると神竜ネヴィルスはシュッとまた霧を纏い、今度は一瞬で紺色の髪の少年のような姿に変身する。整った顔立ちに澄んだ瞳、少年じみた体躯と額には黒いひし形が連結したカチューシャ?のようなもの。見れば見るほど不思議である。

ネヴィルスは急に変身したかと思うと突如振り返り、後ろに立ち尽くしていた精霊?に話しかけた。


「ミスナ、一応言っておくがこの者らは殺してはならない対象だ。オレはさっきそこの魔王にちょっかいをかけたが、神の決定によりこの者らは殺してはならない。」

「なっ…?!災厄かもしれない存在を生かすのですか?!」

「災厄?何を言っている、こいつらは災厄ではないぞ。神たるオレが保証する。」

「っ…!そんな…じゃあ魔王と勇者がただ手を組んでいるだけと…?」

「そうだな、そのような所も懐かしさを感じる。他の者がやらないようなバカみたいなことをしているあたり、特にな。」

「………人間と魔物が手を組むなど…」


ミスナと呼ばれた精霊?はいっそう恨めしそうな表情でこちらを睨む。

だが俺達はさっきから会話についていけていないので、睨まれてもどうしようもない。


「…冷静さを欠きました。ではそこの魔王と人間はここへ何をしに?」


精霊?は落ち着きを取り戻して俺達に話しかける。もう竜に敵対意思は無さそうだし、やっと本題に入れそうだ。

それにしてもネヴィルスに攻撃されていたら瞬殺だっただろう。一安心である。


「俺とネルは近くの街で過ごしているが、どうにもこの巨大な樹が気になって仕方がないのだ。突然見えるようになって放っておくわけにもいかないし、ここにはその謎を解明するために来た。」

「…!」


俺が目的を告げると、精霊?は何か驚いた表情をしてからやや不満そうな顔になった。


「…そうですか、あなた達が。…少し不服ですがこちらへどうぞ。世界樹を案内します。」


俺とネルはお互い何が何だか分からずに見合い、とりあえず精霊?についていくことにした。


書架で埋め尽くされた壁と、真っ直ぐのびる廊下。その道中で精霊?はここの説明を始めた。


「まず私は世界樹の護り手エレメントフェアリーのミスナと申します。代々この世界樹を護ってきた家系の末裔です。この世界樹から外へは1度しか出た事がありません。

…私のことはこれくらいに、特に語ることはありませんので。ここからは世界樹についてお話しします。


…世界樹の中は基本的に神話の時代から続く莫大な知識が詰め込まれた図書館になっています。歴史に関することや、魔法に関することなど様々…。その知識が悪用されないように守護を務めるのが私達の使命です。


そもそも世界樹とは何なのか、ということですが、正確には私も分かりません。それほど謎の多いものなのです。ただ1つ語られていることは、神話の時代の産物である、と。


世界樹を外から観測できる者はほとんどいません。私のスキルで存在確認を遮蔽しているからです。それを超えて世界樹を見られるのは、ある程度の神格を持つ者くらいです。

…あなた達は私のスキルを看破するくらいの神格を所有しているのでしょう。


私からお話しすることは、ここで一区切りです。何か質問などは?」


ミスナは道中ずっと語っていて、そして俺はそれをずっと聞いていたが全く整理が追いついていない。

そもそも世界樹の護り手エレメントフェアリーって何だ?

《エレメントフェアリーはドライアドの最上位種と言われています。私の知る中ではここ数百年、存在が確認されていませんでした。》

種族名なのか…。しかもかなり珍しい種族ということだよな。

そして彼女の話によればここはあの巨大な樹──世界樹の中なのか。樹の中に巨大な図書館って、どうなってるんだ?

《神話の産物と言っていましたので、神が作った施設なのかもしれません。》

神の創造に常識は通用しない、か。

まあそこはいい。だが最後だ。

俺に神格があるってどういうことだ?

《…それに関しては私からお伝えすることはありません…》

ん?ラティルも分からないのか、じゃあ彼女に聞いてみようか。

《……。》


「1ついいか?」

「なんでしょう。」

「ネルは勇者、つまり星(神)の意思に選定された者だから神格はあるかもしれないが、なぜ俺にもあるんだ?俺は神になった覚えはないぞ。」

「…それは、私にも分かりません。あなたの出自のことを私が知るはずもないのです。」

「……それもそうだ…」


当然か。俺でも未だに自分の生まれについて分かっていないことがあるのに他人が知っているはずない。


「…ボクも1ついいかな?」

「……なんですか。」

「さっき災厄がどうって言ってたけど、それはどういうことなの?」

「それはこれから話します。」


ミスナは渋った顔をしてネルに答える。

…やはり、俺が聞いた時とネルが聞いた時で明らかに対応が違う。人間がとことん嫌いなのだろう。

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