第23話 戦後


星魔導師は去っていった。

実に嵐のような男だった。

仇であった勇者は(許してなんていないが)帰そうと思っていたのにまさかの国王命令で勇者一行を元から殺す予定だったらしいし、色々終わったかと思うと国王は国交を開くつもりだと言っていくし、最後に大爆弾───ネルが少女である事実を告げて帰っていった。テロリストみたいな男だ。

間違いない、あいつと関わると面倒なことになる。

正直、王国に今のところ敵対意識はないらしいしネルは別にここにいてもいいらしいし、なんか都合が良くて釈然としない。しないけど人間の国と国交を開くことの意味はとても大きい。

平和の実現に1歩近づいたように思えた。


俺は戦後処理に追われていた。

どうやら人間達はゲリラ的に外壁から侵入したようでラース達の方でも一悶着あったようだ。

でもさすがは悪魔将アークデーモンだな。弱体化されてもしっかり住民を守り通したようだ。後で褒美をあげよう。アルスも元から持っていたらしいエクストラユニークで応戦したと聞く。神獣は魔物ではなく聖なる存在らしいので結界は効果がなかったようだ。

今は戦時中の幹部や住民達の行動を把握して、これからのために何か活かせないか反省会をしている。もしこの侵攻でこちらに犠牲が出ていたらのんびり反省会なんてしていられなかったかもしれない。今後そうならないための反省会だ。

どうやら幹部達はみんな戦闘していたようで皆口々に語っていた。

その中に街の住民を増やし、様々な魔物の集う街にしようという意見があった。住民が増えると防衛も強化される、という考えらしい。今でも結構大きな街だが、一応魔王領だから国まで発展させなければいけない。この案は慎重に悩んでおこう。


会議という名の反省会が終わるとネルが俺の後をちょこちょこついてきた。


「レイン、お団子食べに行こ!」


…出会って数日なのにずいぶん懐かれたものだ。見た目がいいので全然嫌な気はしないけど。

そうだな、ちょっと色々処理で疲れたし甘いものでも食べに行くか。


「わかった、じゃあ着替えてくるから待っていてくれ。」

「うん!あ、そうだ。せっかくだしボクあの着物着ていこうかな!」

「それは良い。じゃあ着替え終わったら館の外に集合しよう。」

「おっけい!」


ネルはしばらく魔王殿住まいになった。幹部達や街の住民達は嫌な顔をせずに認めてくれた。ネルではないとは言え勇者に殺されかけた者もいるだろうに…。みんな器が大きいんだな。


館の外でネルを待っていると、鬼神キジンのカミナと出会った。

…そういえば最近のゴタゴタで手合わせの約束を果たせていなかったな、今度ちゃんと相手をしてあげよう。


「レイン様、会議お疲れ様です。…大変でしたね、色々。」

「そうだな、お前達は死にかけた者も多いと言っていたし、今後のことも考えちゃんと隊をまとめて育成しておこう。」

「はい、かくいう自分も死ぬかと思いました。人間達に遅れをとってしまい、自分の修行不足を感じます…。」


真面目な奴だな、ほとんど聖魔法結界のせいなんだから、実力不足ではないと思うけど。

とんでもない美少年のカミナが悔しそうな顔になっていた。余程悔しかったんだな。


「そうだ、修行不足と言えばまだお前と手合わせ出来ていないな。明日はどうだ?もし忙しかったら別の日でも構わないが。」

「覚えていてくださったのですね…では明日空いていますので明日でよろしくお願いします。」

「おう、それと今回の会議で議題に出ていた住民を増やす件だが…俺は正直前向きに検討している。住民が増えたらその分、武士モノノフの数も増えるだろうから、後から入って来たやつに追い越されないように、きっちり稽古するよう武士モノノフの隊員に伝えておいてくれ。」

「了解しました。では自分はこれで。」


とんでもない美少年だ。しかも中身が真面目で戦闘もかなりできる。ハイスペックすぎて何か負けた気分になる。

でも他の幹部達と比べたら、ちょっと壁を感じるな。俺カミナに嫌われてるのかな。

そんなことを考えていたら扉の開く音と共にネルが出てきた。


「おまたせ!…どれくらい待ってた?」

「いや、俺もちょうどさっき出てきた所だ。気にするな。」

「そっか、よかった。…それで、どうかな?着物着るの時間かかっちゃったけど…。」

「うん、やはり似合っているな。ネルのイメージにちょうどいい。」


するとネルは優しく笑う。今までのパアッとした笑い方だけでなく、こんな風に笑ったりもできるんだな。


「えへへ、よかった……。じゃあ、いこっか」

「そうだな」


穏やかな風を受けながら、俺達は街の大通りに向かった。

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