第22話 七星の黒


「それじゃあ僕は帰るけど、この死体は全部持って帰るね〜。」

「構わない、ここにあっても処理が面倒だ。」


すると星魔導師は大規模空間魔法を展開して死んだ兵達を回収する。あの魔法…あれも究極星魔法だろう。何個究極魔法持ってるんだよ…。

《イエス、星魔導師クロノスは七星の黒セプテット・ブラックと呼ばれる魔導師です。美徳スキルの所有と究極星魔法を7つ使えることから現状最強の人間と思われます。1度魔王グラスとも戦ったことがあるようですが、3日間戦い続けた結果両者退却により引き分けとなったようです!》

ガチガチの最強じゃないか。

最強の魔王と互角ってことだろ?やばいなそれ。しかも究極星魔法7つって…。

《星魔法は通常魔法の10倍優れていると言われています。使用できるのは星に認められた者だけなので他者のコピー能力などでも真似はできません。》

ただでさえ通常魔法の10倍強力な星魔法の究極魔法を7つ使えるってことか。それに加えて美徳スキルね…。

いや、勝てるやついるの?それ。


「じゃあ、僕は帰るから。またね〜ネル、それに魔王レイン。」


そう言って杖で転移しようとする星魔導師。

ん?いやまてまて。


「ネルは連れて帰らないのか?」

「え?だってネル、ここにいたいでしょ?すっかり魔王にご執心のようだし。大丈夫、僕が王を説得するさ。」

「え?」

「ちょっ、師匠!」


ネルの顔が過去最大に赤くなる。…そんなに想ってくれるのは嬉しいが、男同士だしな…。

それを見て星魔導師は飄々と喋り出す。


「ネルは神の傑作のような美少女だし、そんな子に好かれるなんて、よかったね魔王レイン。もちろん皮肉だけどね!」

「!師匠、それはまだ…!」

「…!ありゃ、それは済まなかった…。ちょっと喋りすぎちゃったか。」

「美少女…?確かに見た目はそれくらい綺麗だけど…男じゃないのか?」

「あー……。うん、あー………。よし、じゃあまたね!」

「おい待てや。」


転移で逃げようとした星魔導師の腕を掴む。

未だに頭の中を困惑が走って治まらない。整理がつかないんだけど。

ネルが…女?

いや、まず俺の前で偽装できるとは思えない。


「もう…師匠…。…あのね、レイン。黙っててごめんなさい。……実はボク、女なんだ。いつか言おうと思ってたんだけど…」

「そ、そうか…女…だったのか…」


嘘をついていない。ではどういうことだ?

偽装でもないし、でも女というのは事実だし。


「いや〜僕の幻想魔法でちょちょいっと上書きしてね。勇者が女性と知れると色々面倒なんだよ。だから僕が究極魔法の星幻想魔法で誤魔化してたわけ。」


…なるほどな、偽装じゃないなら嘘ではないから見抜けない。

じゃあ試着室で着替える時や浴場付近でのあのセリフは自分が女であることを隠すためだったってことか。


「まあそれはわかった。別にネルが男だろうと女だろうと急に嫌ったりはしない。安心しろ。」

「…そっか、よかった。嫌われたらどうしようってちょっと怖かったんだ。」

「言っただろ?理解してやるって。そんなことで嫌うようでは友として失格だ。」

「…うん、ありがとう。」

「あ〜、じゃあネル、もう上書きは解除しても大丈夫かい?解除したところで周りの認識以外特に何か変わる訳じゃないんだけどね。」

「…はい、師匠。ボクはもう、ボクを理解してくれる大事な人に出会えました。ずっと守ってくれるそうなので女と知られても構わないです!」


ちょ、そういう意味で言ったんじゃないんだけど…。

ネルが男だと思ってたから言えていたが女の人にそのように言うことは色々まずい。ずっと一緒にいるとかそういう意味で言ったわけじゃない。


「そうかいそうかい。弟子が成長するって嬉しいなぁ〜!歳もとってみるものだね!

…それで魔王レイン?僕のかわいい弟子に何かしたら許さないよ?一応言っておくけど保護者代理の僕は認めないからね?」

「お、おう…心に留めておこう。」

「ちょっと師匠!やめてくださいってそういうの!」


ひとしきり騒いだら、呪いでも宿っていそうな目付きをこちらに向けながら星魔導師は帰っていった。本当に騒がしい、嵐のような男だった。

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