第13話 真なる魔王

次の日、俺は鬼人オーガの長に呼び出され街の会議場の広間にいた。

数分遅れてやって来た長は恐ろしいくらい遅刻を詫びていた。長老とかかと思っていたがすごい短い髪のおっさんだった。

そして話を聞くと、この街の主になってほしいというのだ。確かに俺はまだ国を持ってないしここは中立地区だからちょうどよくはあるけど…。

中立地区を強襲して資源を獲得しようとしていた奴を倒しただけに少し気が進まなかった。

一時保留ということにして長と別れて街の西側に向けて歩き出す。

美しい自然。竜帝の住んでいたあの森を思い出す。鬼人オーガの子供達が湖で水浴びをしていた。

普通の、街だな。

鬼人オーガは和の物を好む。装備服装も和風なものばかりだし、街並みも和風そのもの。いっそここの主になって和風魔王にでもなろうかと思った。


「レイン様、この街を拠点にされるおつもりですか?」

「悩んでいるよ、ラースはここをどう思う?」

「そうですね……。良くも悪くも、普通の街。そのようにしか見えません。」

「俺もそうだ。もし俺がこの街を拠点としたらここは魔王の領土になる。ぽっと出の俺みたいな魔王じゃ色んな所から目を付けられる。他の魔王にも勇者達にも、未だ知らない他の敵からもそうかもしれない。そこに、こんな普通の街を巻き込んでもいいのか、とそう思わざるを得ない。」


目の前で笑っている子供達の笑顔を、俺の決定1つで消し去ってしまうかもしれない。そう思うと迂闊に拠点にするなんて言えない。


「いずれにせよ、私は主であるレイン様に従います。」

爽やかな顔をして、子供達を眺めるラース。悪魔って、そんな美しい笑い方が出来るんだな…。


数時間後。

再び長と向かい合っている。

決心をしたからだ。


「問うが、俺がこの街を拠点にした時、それはこの街も狙われるかもしれないという事。俺はもしかすると悪逆の魔王かもしれない。俺の一言でこの街から全ての笑いが消えるかもしれない。本当にそれでも良いのか。それでもなお俺の支配を受けると言うか。」

「もちろんでこざいます。これは街の者全ての意思。必ずや貴方様は我々を良い方に導いてくださります。我々は、貴方様以上に相応しき主を知りませぬ。」

「そう、か…………。」


まあそう言うとは思っていたが、体裁が必要なのだ。


「これよりこの街の民は全て俺の民、この街の支配は俺にのみ許されたものと知れ!この街は魔王レインの国である!」

「ははぁっ!我らが主、魔王レイン様!」


《マスター、この支配によりこの街の民全てが魔王の配下となりました。つきましては真なる魔王への覚醒に移行したく存じます。》

そうだったな、すっかり忘れてたよ。


「長。民達に告げよ、今宵は宴とするとな。そして長、お前を鬼族長オーガロードに任命する。これからも長として働くがよい。」

「ははぁっ!」


長は働き者だな。彼にはしばらく長の地位をキープしてもらおう。

よし、ラティル、覚醒を始めてくれ。

《イエス、マスター。了解なのです!》


進化はこうパパっと終わるものかと思っていた。しばらく静かに続けられる感じだったみたいで結局数時間かかった。俺自身は能力は10倍近く変わったが、スキルに目立った変化はない。最も色濃く進化の影響を受けたのはラースではなかろうか。悪魔から悪魔将アークデーモンに種族進化していた。

元から綺麗だったがとんでもない美人になった。若返ったようにすら見える。

鬼人オーガ達もだいたいみんな進化したようだった。戦闘力があまりない街の民達も含めた約1万の鬼人が進化した。単騎の魔物としてもかなり強い鬼人オーガが進化って…。

男性の鬼人オーガ鬼兵ツワモノに、女性の鬼人オーガ鬼術娘ジュツキという知らない進化を遂げていた。中でも衛兵隊達の進化は凄まじく、鬼神キジンに進化した強者もいたくらいだ。

どうして自分も知らない進化をしたんだろうか。ラティル、何か知ってる?

《イエス、マスター。魔物の進化は謎が多いと言われていますが、自身が願ったものや主が願った姿に為りやすいと言われています!》

ほう、つまりこの進化は彼らか俺が望んだものなのか。魔王の街に住まう者となったわけだし、先の戦を経て強くなりたいと願ったのだろうか。それにみんな人型に近いのは俺が半人で人型魔物であることに由来するのかもしれない。


宴ではかなり飲み食いし、この街のことも色々聞けた。みんな突如やってきた恐ろしき魔王に怯えているのかと思ったら案外そうでもなくかなりラフに接してくれる。こちらとしてはその方がやりやすくていい。


次の日、鍛冶屋に行ってみた。宴で超腕利きの鍛冶師がいると聞いたからだ。


「おじゃましまーす。」

「ん?おお、魔王様じゃねーか、なんだい?武器の買い求めかい?魔王様のおめがねにかなうといいんだがなぁ」


いかにも鍛冶師って感じの服装の鬼人オーガが出てきた。鍛冶屋は音が出るので街の中央から少し離れた森林地帯にある。だがそれでも街の住民はここに武器を買いに来る。他の街から取り寄せた武器を売っている店もあるらしいがこちらの方が間違いないようだ。それほどに腕は確かなのだろう。


「ちょっとオーダーメイドを頼みたいのだよ。」

「オーダーメイドか、主武装か?それとも鎧とかか?」

「武器を頼む。この街の者達の刀を見ていたら欲しくなってしまった。金属はこちらの提供で、ということでどうだろう。」

「ふむぅ、その金属にもよるがもちろんやってみるさ。かつてねぇでけぇ客だからな。ガッハッハ」

「お、ありがたい。じゃあこれを…」


そう言って亜空間倉庫から取り出したのは超硬いでお馴染みの昆虫型魔物から取れる最高に硬い部位。鍛冶師が泣くレベルで硬い。


「おいおいこいつはキングヘラクレスの角じゃねーか!くぅー鍛冶師泣かせを持ってくるとは全く楽しい魔王様だぜ!」

「あ、ちょっと待ってくれ。これに俺の魔力を流し込むことで…よしできた。」

「ぬぉ?!こいつは魔鉱どころかオリハルコンを超える強力な素材になりそうだぞ。だがもちろん…」

「製作レベルがバカみたいに上がった、だろ?その為に君に頼んでるんだ、頑張ってくれたまえよ!」

「おうよ!大金用意して待っときな!」


俺は鍛冶屋を後にした。

あの鍛冶師め、相当面白い奴だったな。

さて次は、と。大通りの隣の道に佇む店。まあまあの客足らしいが素晴らしい1品を作れると聞く。


「おじゃましまーす。」

「いらっしゃいま…って魔王様!どうしてこんな店に?」

「うむ、君に用があってねー。」


なんかオカマみたいな見た目してるがキャラは全然濃くない。これはこれで面白い。


「どうやら自身のスキルを付与することのできる道具を作れるらしいじゃないか!」

「あら、それ聞いちゃったのね〜。バレちゃ仕方ない。そうよ、私は作ろうとすればスキルエンチャントのできる道具を作り出せるわ。」


おっと、キャラ薄そうとか思ったら普通に見た目通りだったー。でもその道具を作れるのはありがたい。どうやらその道具は消費魔力を減らしてスキルを発動できるらしいからな。虚飾による偽装スキルは偽装する度にバカでかい魔力を持って行かれるので少しでも軽減できるなら道具に付与して使いたい。


「まあ知ってると思うけど〜、攻撃スキルはセット出来ないから気をつけてね〜?」

「うむ、それは大丈夫だ。承知している。」

「そぉ〜お、じゃあどんなデザインがいいか聞いてもいい?」

「んーそうだなー…。鬼の容姿を持つ鬼人(オーガ)達を見てたらそういうのも良さそうだと思えてきたし、よしじゃあ、こんなのはどうだ?」


そう言って紙にデザインを描く。鬼の角のようなものが2本。目の部分をくり抜いた、目の下辺りまで顔の上半分を覆うようにしてデザインされた仮面。偽装と言ったらやはり仮面でなくては。名前をそうだな───。“偽りの仮面”とかかっこいいんじゃないか?


「あらいいわね、このデザインで進めてみましょ、でも大丈夫?大きさも大きさだしちょっと高くなるわよ?魔王様相手でも商売は商売だからね。」

「分かっているとも、気にしないでいい。」

「じゃあできたら連絡するわ、また来てね〜」


ここの店主も面白い奴だったな。それにしても空間魔法の応用で大量の魔物の死骸を亜空間に放り込んでいたのがここで生きるとはな。

空間魔法は習得条件をラティルに教えてもらい、何度か試しているうちに出来るようになった。

大量の死骸を街の納品屋に売ったら結構な額になったので、今は少し小金持ちなのだ。

魔物の街はどこも同じ貨幣制度らしく、金銀銅と白金貨からなる。もちろん白金貨が最も高い価値を有しており、金貨の数倍の価値があるとか。


「レイン様、ここにいらっしゃったのですか。」

「おお、ラースか。」


ラースは今でもメイドをやっている。鬼術娘ジュツキの数人がラースの元へ弟子入りしたと聞いたのでそのうちメイド隊でも出来るのだろう。


安定にはまだ程遠いが少しずつ街を拡張するように指示してあるし、資源回収部隊も毎日ちゃんと仕事をしている。このまま地盤を固めていずれはあの勇者を…。そして聖女…俺の生みの片親であるその人物にも会ってみたい。会って、竜帝の最後を伝えたい。

色々やりたいこと、やらなければならないことがあるが、まずは1つずつ、地道に消化していこう。


───────────────────


「へえ!それは面白そうだ!ワタシ、行ってみようかな!」

「そのうち我も向かうとしよう…」


話し合う2人は新たな魔王の誕生に興味を馳せていた。最弱な上にうるさいだけだった魔王パレスが消えて真なる魔王にのし上がったという知らせに、その2人はそれぞれの興味が向いていた。

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