第12話 圧倒

時は少し遡る。そんな浅はかな理由だったとは、と俺は少しキレそうになっていた。だが思考加速を発動し、冷静にラティルに指示を出す。

ラティル、あのスキルを使う。俺が使ったんじゃ照準がブレて街に被害が及ぶかもしれない。照準は任せたぞ。

《イエス、了解しました。照準展開。起動術式展開。スキル放射準備完了。いつでも行けます、マスター!》


そして奴が戻らせてもらいます、と言い終わる前に、それを発射した。

ユニークスキル「竜帝の怒槌ゼロス」、そして光線破壊魔法「神の怒槌マグナ」。

上空から大地が割れたんじゃないかと思わせる轟音と共に竜帝の形をした雷のような物が何柱も降り注ぐ。それは、神に等しき竜帝の怒り。それに加えて天からのえげつない魔光線で全てを焼き尽くす。これこそが一方的な蹂躙であった。

魔王軍は一瞬にして壊滅した。


「な、なん…いま、なにを…?」


ユニークスキルの威力じゃねえだろこれ。

魔王パレスも口をパクパクさせている。余程驚いたんだろうな。

でもアンデッド軍ならすぐ復活させられそうなものだが…。

そしてしばらく空中で静止していたが、思考が追いついたのかこちらを睨み、こう言い放つ。


「ま、まぐれであんな雷落としていい気になるんじゃないぞ!そもそもこんなゴミが魔王になんてなれるわけがない!運ばかりで全て上手くいってるだけの分際で!」


何を言ってるんださっきから。

ふと下を見るとラースや鬼人オーガ達は残党を狩っていた。あれなら殲滅もすぐだろうな。


「ここで死ね!英智の魔術!

蘇兵不滅の呪ネクロン・マリオネット!」


ラティル、いけるか?

《イエス、当然なのです!》

ラティルの超分析と神速演算で攻撃の軌道が見える。どうやら何体もアンデッドを出して数で俺を倒そうとしているだけのようだ。もしかしてそれしか出来ないのか?もっとこう、攻撃魔法とか使ってくるかと思ったが…。

《マスター、上空に術式展開を確認!虚像回避を推奨します!》


「バカめ!くらえ!風竜の爪エアラルクロー!」


今だ、虚像回避!

使った瞬間、スーッと俺の身体はどんどん透過していき俺は魔王パレスの背後に現れる。


「今度はこっちの番だ!発射、麻痺毒!」


プシューと煙状の麻痺毒が周囲を覆う。俺はもちろん麻痺毒をコピーした時にスキルと一緒に耐性もコピーしているから効かない。魔物は体内に毒などの状態異常にする何かを有してるものも当然いるので、そういう魔物はその異常に対する耐性を獲得しているのだ。耐性がないと自身の体内の毒などで溶けてしまうので、当然と言えば当然だ。


煙がはれるとそこには動きが取れなくなった魔王パレスがいた。

ラティル、こいつ倒してもいいのか?

《イエス、倒しても問題ありませんが蘇生する可能性が高いです。蘇生対策に呪縛のスキルもコピーで用意してあります。》

そんなのもあったな、正直あの時はビビったよ。呪いの土蜘蛛というデカい魔物に呪縛スキルで動けなくされて危うく殺される所だった。そのタイミングで耐性を得ることが有効だと気づき、おかげで呪耐性を獲得できたのだ。

よし、じゃあ呪縛のスキルを使用して蘇生を封印だ。こんな悪いやつがぽんぽん生き返ったら死人が増えるばかりだ。

というか戦いの時もそうだったが、敵に対しての道徳感が薄れている気がする。アンデッドだったから、というのもあるかもしれないけど、俺ってこんなに冷酷なやつだっけか。

《イエス、魔王種は生命への尊さを薄く感じてしまう時があるようです。特に敵に関してはそれが強く現れているのかと思われます!》

なるほど、魔王の性ってやつか。博愛主義の俺とは正反対だ。だがまあ博愛主義とは言え仇を忘れたわけじゃない。必ずあの勇者はぶっ倒すのだ。

その前に、こいつなんとかするか。


「おい、お前。魔王なんだろ、そんな麻痺毒くらいで動けなくなるなんて情けないぞ。」

「おの、れ…矮小なる魔物の…分際で…小汚いマネを…」

「確かに小汚いことしたけどお前が無辜の民を害そうとしたのが悪いだろ。何か、言い残すことはあるか。」

「…ふ、また蘇り…復讐してやる…」

「…反省したら麻痺を解いて帰してやろうと思ったのに。それに蘇りは発動しないぞ。まあいいか、それじゃあな。」


空間魔法の亜空間倉庫から剣を取り出し魔核を一突きした。すると魔王パレスだったものは絶叫した後灰になってサラサラと消えていった。

それと同時にアンデッド兵も灰になって消えた。


案外あっさりしたものだった。魔王ってこんな弱いのかな。

《ノー、それは違います。魔王パレスが特別に弱かったものと推測されます。》

地上に降りると鬼人オーガ達は泣いて喜び、俺は鬼人オーガ達に崇められてしまった。

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