第11話 魔王パレス

その街は怒号や悲鳴で溢れていた。勇者かと思ったが魔物の軍勢が攻め込んで来ていた。これでは負けるのは街の者達の方だとすぐに理解できた。軍勢は約5万。魔物が隊列を成している。対して街の方は…あれ?あの角に和装…気づかなかったけどここは鬼人オーガの街じゃないか。こんなところにこんなデカい街があるなんて知らなかった。

《ここは中立地区です。そして軍勢はどうやらマスターの次に若い魔王、パレスによるものと推測されます。軍勢は皆アンデッドです。》

アンデッドなのになんで昼間に外歩けんだろ。魔王がそういうスキル持ってるとかかな。

しかしなんでこんな無害そうな街に魔王が進行して来たんだろう。中立地区奪いに来たのか?そしたらなんかかわいそうだな…。よし。虚飾スキル、偽装開始。


「ラース、俺は鬼人オーガの手助けに入ろうと思う。お前はどう思う?」

「レイン様の望むままにいたします。レイン様がお助けに入られるのなら僭越ながら私も手助けに入りましょう。」

「ありがとう、頼りにしている。」


いくぞ!と言って森を飛び出した。


鬼人オーガの指揮官、カミラは焦っていた。

どう考えても勝ち目がない。

アンデッドなど所詮、鬼人オーガの足元にも及ばない。だがあれは違う。あれは魔王軍だ。それも5万の軍勢。こちらは戦える鬼人オーガが1000体。これでは、どうにも…。

そう思ったその時だった。


「加勢させてもらう!鬼人オーガ達よ!」


そう言って街の警戒網を易々と潜り抜けて街に入ってきた銀髪の魔人の男性とメイド服の女性。なんでメイド服?指揮官はまずそう思った。


「俺の名はレイン。新たに魔王となった者だ!」


レイン…!ここ100年程魔王が誕生しなかったが最近になって新たに生まれたというあの魔王か!

本当に加勢してくれるというならば、思ってもみない戦力だ。


「た、助かります!ありがたく助力をお受けします!」



さて、どうやら加勢は承諾してくれたようだ。あまりにも都合がいいがこの魔物達倒したら真なる魔王になれるのだろうか?

《イエス、約5万の敵対する魂は十分に条件を満たしていると言えます。》

そうか、よかった。


「アンデッドを操る将に問う!なぜこの街を襲うか理由を聞かせてもらえるか!」


めっちゃデカい声で言った。コピーしていた飛行のスキルで飛びながら叫んでるし魔力で爆音くらいに煩くしてるので聞こえてるとは思うが…。(ちなみにラースは地上で鬼人オーガ達と共闘している)

それにもしこの街がとんでもなく悪いことしていてそれに対する魔王の制裁とかだったら止めるべきじゃないだろうし、一応確認しておかなくてはならない、侵攻の理由を。

すると敵の方からなんか飛んでくる奴がいた。全体的に赤色っぽくて髪は整っている。どことなく貴族っぽい嫌な雰囲気を感じる男だ。とりあえずラティル、分析してみてくれ。

《イエス、魔素量が隠匿されていません。魔王級です。容姿と魔素から推測するに魔王パレスで間違いありません。》

抗議にでも来たのか?一応警戒しておこう。

すると魔王パレスは俺の目の前まで来て浮遊したまま止まった。そして語りかけてくる。


「貴様が、矮小なる魔物の分際で魔王を名乗っているという男ですか。」


は?ケンカ売ってんのかこいつ?


「俺はレインだ。そういうあんたは魔王パレスでよろしいか?」

「ほう、このワタシを知りますか。まあそれも当然のこと。それで、なぜ貴様のような矮小な存在がここにいるのです?」

「そこら辺の森を歩いてたら爆発が見えたのでね、様子を見に来た。それで、なぜあんたはこの街に攻撃を仕掛けている?」

「貴様のようなゴミに教える必要はない、がまあいいでしょう。ここは中立地区。しかも資源が豊富にある。これを見逃すことは出来ないでしょう。この街さえ潰せばここら一帯の資源は私の物になるのですから!」

「…そんな理由でこの街に住まう者達を襲おうとしているのか?」

「そんな理由?おかしなことを。利益を求めるために戦をすることの、何が間違いなのです?その利益のために礎となる戦士もまた誉れというもの。まあワタシの軍の戦士は皆既に死んでいますがね。」


そう言って笑っていた。そんな理由なのか。そんな理由で、あの絶望を、無関係の民達に強いると言うのか。

一瞬でも正しき制裁の為かと思った自分が悔しい。

いつもは穏やかを貫き通しているつもりの俺だが、無辜の民を傷付けようとする悪意だけは許せない。本気でブチ切れそうになっていた。


「わかった、では俺は鬼人オーガの軍勢に付かせてもらう。文句は聞かん。」

「文句など、ゴミの塊にゴミが増えたくらいでは掃除の面倒臭さがほんの少し変わったくらいのもの。別に構いませんよ、お好きにどうぞ。ではワタシは戻らせてもら───」


戻らせてもらいます、そう奴が言い終わる前に既に決着は着いていた。

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