第9話 真実と別れ

竜帝と俺は帰り、ラースも加えて話し合いになった。竜帝は全てを話すとか言ってたけどなんの事なんだか。


「突然だがレインよ、魔物はどのようにして子孫を残すか知っているか?」

「もちろんだ。互いの魔力を融合させ、出来たものを魔力だまりに数日置く、だろ?」

「そうだ。これは儀式のため何度も容易く行うことは禁忌とされている。せいぜい5回程度までしか許されていない。増えすぎないための世界の法だ。だがここで、1つ疑問が生じる。」

「疑問?」

「人間も魔力を持っている。ならば人間とでも魔力の融合は可能なのではないか。」


…確かにそうだ。人間も魔力を有しているのだから、人間の子供を作る行為とは違って魔力があれば誰でも出来てしまう。


「そこで我は最強種が1匹である竜帝として、我が子孫を残すことを決めた。それも人間とだ。」

「ちょっと待て、なぜ人間とに限定したんだ?それに人間は魔物と見るや襲ってくる野蛮な者ら。そんな者と儀式をするなんてとても無理だと思うぞ。」

「まあ確かにそうだな、普通に考えれば無理だ。だが最強を残さねばならぬ故人間とでなくてはならなかったのだ。」

「…どういうことだ?」

「…ある日、この世界に災厄が訪れることを知った。人間の、友が教えてくれたのだ。だが人間の王やその側近どもは魔王だなんだとそれしか言わぬらしくてな、その友は災厄は人間の側に訪れると言うのにだ。」

「…その人間の友は、予言者か何かか?そして人間の王たちに口添えできる立ち位置なのか?」

「そうだ。彼の者は“美徳系”という特別なシリーズのエクストラユニークスキルを持つ聖女なのだ。勇者や聖女はそう言った“美徳系”のスキルを持っているものがほとんどだと言われている。魔王に対抗するために用意された人間の猛者共よ。そう、そしてその聖女は人間だけでは災厄に打ち勝てぬ故魔王共とも手を組まねばならぬと我に伝えた。」

「まあそう言う存在がいるのは分かったけど、なんでジジイに伝えたんだ?」

「ジジイって言うな!だが良い質問だ。それはその頃我は最強の魔王の側近であったからだ。」

「最強の魔王?」

「うむ、暴食の魔王ロードディザスターと呼ばれる魔王、グラス様だ。ちなみに現在なお最強の魔王だぞ。」

「魔王に仕えていたのか、そりゃまあジジイは強いしな。不思議じゃない。」

「それでその聖女は人間と魔物に魂の違いは無いとか言い出して最終的に我と友になったのだ。今考えてもバカみたいな話だな。

そして我はその聖女の言を信じ魔王様に進言してみると『ならば貴様の手で最強の駒を用意してみせよ』とか無茶振りされて色々模索している内に美徳の血と最強種の魔物の血でできる子供は最強に決まってるというまたバカみたいな意見が出て結局それで儀式をして子を為したのだ。」

「なんか…むちゃくちゃだな…。」

「レイン様、お茶でございます。ゼロス様もどうぞ。」


長話になるとふんだラースがお茶をいれてくれたようだ。だが会話に参加するつもりはないらしい。


「おう、さすがはガレトのメイドだ。気が利く。」

「竜帝様にお褒め頂くとは恐悦至極にございます。」

「この素晴らしい態度、レインにも見習ってほしいものだ。」


ガレト。俺の父だ。そういえば交流あったとか言ってたな。


「それで続きは?」

「そうそう、子を為したのはいいが魔が混じっては人間界では生きていけないだろうし、かと言って竜帝が子を育てるというのもまた滑稽に思えてな、その子供を信頼のおける男のもとへ預けたのだ。」

「自分らで生み出した子供をその後どうするか考えてなかったのかよ…。」

「ぐっ、まあそういうこともあろう。この頃魔王軍を老衰により退いた我だが、とにかくその男のもとで子は育っていった。だがある日その男の街は滅び生き残ったその子供はこの世の絶望を知ってしまったかのような顔をしていた。そして我はなんということをしてしまったのかと気づいた。最強の駒を用意するために生み出したと言っても子は子。生命に対する冒涜をしたようにも思えた。精根尽き果てたような顔の子供はそれでも強くなることを祈った。だから我はそのためならなんでも力を尽くそうと決意したのだ。」


途中からもしかして、と思っていた。ラースも少し困惑したような顔をしていた。


「我はな、もう時間がなかった。魔素が漏れ出ているのは老衰によるものだ。死へと向かっていることが易く理解できた。ならばせめて、自身の子の願いを叶えてやりたいと思った。お前はよく言っていたな、『勇者をぶっ倒す』と。それがぶっ殺すとかだったらさすがに止めようかと思っていたがぶっ倒すならいいかなと。例え盟友の仇でもな。そして限界が来る前に終わらせねばと思った。お前の修行の10年は我の寿命だ。それが尽きたらお前は終われぬまま勇者に挑むことになる。それはならぬと思った。だから10年を限界とした。」

「ジジイ…やっぱりお前の子って…それに限界とかって……」

「だがな、とんでもなくきかん坊だったわ。竜帝たる我をジジイとか言うし。毎日手を焼かされたわい。」

「悪かったな」


やや半ギレで言ってしまった。高齢者はいたわらないと。


「そしてお前の中に眠る卵もどんどん成長していくのを感じた。最強が生まれようとしていることに罪悪感を感じずにはいられなかった。」

「卵?」

「魔王の卵。勇者が現れたあの日感じた違和感は紛れもなくそれの気配だ。皮肉なものだ。自分の子が滅亡の淵に立たされ魔王の卵を会得した事が、元の自分の達成目標だったとは。だがお前は強くなることを願った。そして十分な力と知識は与えた。お前の心次第でお前はもう魔王になれてしまう。」

「俺が…魔王に…?!」


できるのかそんなこと、老いぼれ竜帝にも勝てない俺が魔王なんかに…。


「自分と、我と、そして全ての仲間を信じよ。それだけでない。散っていった汚れなき命を拾い自身の魂とせよ。それで、お前は魔王に、勇者と対峙する存在になれる。」

「俺が、魔王に…。」


隣のラースは表情を変えずに聞いている。もしかしたらもう知っていたのかもしれない。


「わかった。俺は全てを背負って魔王となろう。もう…あんな悲劇は起こさせない。」

「…よく、言った。だが敵は敵だ。それを理解しないとお前は死ぬ。分かっているな?」

「ああ。絶対無辜の民が死ななくてもいい世界にしてみせる。」

「…。」


竜帝は満足した。自分の子供が成長するということがこんなに嬉しいことだったとは知らなかった。でもこの時間とも、もう別れだ。


「お前を魔王化させよう。魔王化に必要なものは純粋なエネルギー。つまり強大な力そのもの。生命の魂でも、生み出された強大な魔力でも、信仰深きものによる祈りでも。とにかく大量のエネルギーが必要なのだ。」

「エネルギーなんてないぞ、どこにそんなものがある。」

「節穴か?おるだろう、目の前に。強大なエネルギーの塊が。」

「…………!!」


死ぬ気、なのかこいつ。俺に魔力や神力をぶっ込む気だろ!


「おい!そんなことしたらジジイ死ぬだろうが!」

「もう数日もしたら死ぬ。だったらその力、有効に使った方がいいだろう?超強いドラゴンゾンビになって街襲うよりマシだわ。」

「そんな冗談言ってる場合じゃねえだろ!俺はもう何も失いたくないんだ、どうにかなんねえのか!」


「無限図書館」は反応しなかった。老衰で死ぬ運命にある者を改変する手立てを知るにはこの図書館の知識じゃ物足りない。


「クソッ…どうすることも…出来ないのか…!」

「さあ、魔王化だ。とは言えこれは真なる魔王化とは違う。そのうちお前も真なる魔王化を体験するだろう。では、ゆくぞ…」

「ジジイ!おい待てこら!勝手に進めてんじゃねえ!」

「ラース、そなたの飯は美味かった。これからもこのバカレインを支えてあげてくれ。」

「承知致しました、竜帝ゼロス様!」


ラースは少し涙ぐんでいた。10年お世話になった相手だ。当然である。


「レイン、お前はもっと強くなる。最強の駒になどなるな。お前は自由だ。自身と共に往く仲間のためにその力を振るうのだぞ。そして何かあったら、暴食の魔王様を頼るといい。では、またな。」

「うるせぇ…ジジイ…」


泣きじゃくっていた。こんなのが魔王になるのか。自分でも笑えてしまう。だが…


「今までありがとう、ジジイ。どこ行っても、あんたらしく元気でやれよ!」


泣いてばかりいられない。旅立つ者を送り出すには、笑顔でないと。


涙を流しながらくしゃっとした笑顔をする我が子を見て、竜帝は心から幸せになった。


そして──────。

一筋の眩い光となった竜帝はレインに向かって突き進む。それを浴びたレインは…。


───────────────────


温かかった。

とても心地よかった。

そして身体中を何かが流れるのを感じる。

と、共に声がする。


─────ユニークスキル「偽」はエクストラユニークスキル「虚飾ノ罪コキュートス」に進化しました。

続いてユニークスキル「無限図書館」はエクストラユニークスキル「智恵ノ徳エデン」に進化しました。

続いてユニークスキル「竜帝の怒槌ゼロス」を獲得しました。

続いて…………


それはなかなか鳴り止まなくて、煩くて途中から聞くのを止めた。


《ター……スター………マスター!聞こえてますか?!》


ガバッと起き上がった。

目の前にはラースがいて、竜帝の屋敷があって……。

竜帝……、そうだ、あいつの力で魔王になったんだった。

感謝、しないとな……。


「ありがとう、もう1人の父よ……。」

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