第8話 合格

こうなると分かっていた。分かっていたがこれしか道はなかった。だから止まらない。そのために、ここまで来たのだから!

ユニークスキル「偽」発動!

その途端体が黒い霧に覆われて一瞬にしてその姿に為る。これまで出会った最強の魔物。そう、「竜帝ゼロス」に。

竜帝の姿をした俺にジジイは驚かなかった。もしかすると既にこのユニークスキルのことを知っていたのかもしれない。

だがそれはどうでもいいこと、今はこの戦いに本気を出すのみ!

スキル「ドラゴンブレス」を繰り出す。それも最大出力で。


「ほう。」


そう一言呟くと竜帝は最大出力でユニークスキル「竜帝の怒槌ゼロスバースト」を放つ。ドラゴンブレスの数段上を行くスキルなので、当然レインは火力不足で負ける。だがそれはレインも知っていた事。最大出力で放ったのは囮。もう1つの「無限図書館」の知識で作ったオリジナルの魔法式を展開していることを1秒でも長く悟られないようにするため。放つための条件は最適。これが多分最後のチャンス。ここで全力を放つことでちょっとでも食らわせてやるのだ。


「魔法式、展開終了。光線破壊魔法“神の怒槌マグナ”発射準備完了。」


俺がそう言うと竜帝は空を見上げた。気づいたようだ。大規模も大規模な破壊魔法の準備が完了したことに。

すると竜帝はユニークスキル「神竜覇気」で防御結界を展開しドラゴンブレスも打ち砕く。だがやや遅かった。レインはこの魔法を全身に浴びせようとしていたわけではなかった。


「“神の怒槌マグナ”発射!」


その声と同時にレンズのような役割を担う魔法陣が太陽光を収束し、幾重もの魔法陣(レンズ)によって凶悪な光線へと変わって竜帝の覇気とぶつかり合う。雲より高いこの場所では最高威力を発揮する魔法だった。


「まだまだだぞレインッ!」


竜帝はそう言うと光線を覇気で完全に弾き消滅させる。激しい衝撃波が周囲を覆う。そしてレインの光線と共に竜帝の覇気も消え失せる。レインはそこを狙っていた。


「転移!」

「なぬっ?!」


レインの貼っていた魔法陣は合計13枚。12枚が先程の大規模魔法でもう1枚は結界の中に貼った転移用魔法陣。元の姿に瞬時に戻り、剣を取り転移する。あらかじめ「無限図書館」で知っていた、蛇のような姿の黄金竜である竜帝の弱点、顔の真後ろに。


「もらった!」

「おのれ!レインめ!」


だが最後のその剣は、竜帝には当たらなかった。

ガキィンと音を出し、剣が弾かれた。


「うおっ、剣が!」


そうなることを知っていたかのような顔をして、竜帝はレインの前に移動する。


「ふぅ、ここまで追い込んでくるとは思わなんだ。よくやったな、レインよ。合格だ。」


神格に阻まれたのだ。古代龍は神のような存在。竜帝がその格を解除しない限り神殺しや神格を砕く術を持たない者は彼を傷つけられない。竜帝はそれを知っていて勝負したのだ。


「チッ、負けちまったじゃねーか。修行が足りなかったか。」

「いや修行というより神格を砕く術がないと我には勝てんということだ。ガッハッハッ」

「一生勝てねーじゃねん!それか神殺しか魔王になれとでも(魔王には神格を砕ける者もいると聞く)?!」


すると竜帝は静かに遠くを見つめ、目を閉じた。


「いや、これはお前の勝ちのようなものだ。元から決めていたことだし、全てを話すとしよう。」

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