第109話 マスク(11)

 というか?


 今日の朝車内で、おさん狐さまに『浮気は許さぬ!』と、釘を刺された怒号を吐かれたから、二度目だな……。


 でッ、一度の交わりで子ができたと告げられれば。


 男ならば誰であろうとこんな感じで、声を大にして叫びたい衝動に駆られると思うのだが?


 彼は学生時代から『山田は大変に良い人だ~!』で、異性の間で通っている人物だから。いくら、おさん狐さまが自分の妻だとしても。他人が聞けば、『責任感も情もない。酷い男だ~』と、思われる台詞を。


 それも? 声を大にして叫ぶような、情け容赦のない台詞を吐くことなどできないので。


 彼は、台詞が喉元まできたところで。自身のお口にチャック──!


『ジ~ッ』と、音を出しながら閉じてしまう。


 でッ、その後は、自身の二の腕に、新妻さまらしく。他人の目など気にしないで。自分の腕を絡めながら寄り添い甘えてくる妖艶妖狐の奥さまの方へと凝視──!


『おさん~。本当にできちゃったの~?』


 と、でも言いたい様子の顔で。おさん狐さまを凝視するのだよ。


 すると彼女は~?


『コクン』と、頷くのだ。


 相変わらず自身の雪のような色をした頬を桜色に染めながら。


 となれば?


 山田瞬の脳裏では、自然とこんな感じの思案が始まり出すのだよ。


(おさんが俺の許にきてくれたのは、新年の初夢、夢見の後だよね~?)


 と、思うのだよ。


 う~ん、でも~? 彼の思案は、未だ収まらない。


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