第106話 マスク(8)

「……ん? あれ? あなた~。それは~、紙マスク~?」


 山田瞬と大島のおじさんの会話を、後方で大人しく聞いていた、おさん狐さまの艶やかな唇が開いて──。こんな台詞が漏れてくるから。


 彼女の夫になったばかりの山田瞬も正直驚愕をしながら後ろを振り返り。


「うん、そうだよ~。おさん~。紙マスクだけれど~? おさんも、紙マスクを知っているの~?」と。


 他人が聞けば大変に失礼な台詞を山田瞬はおさん狐さまへと訊ねるのだよ。


 すると? おさん狐さま……からではなく。


 売り場の台を挟んで、二人の目の前に立つ大島のおじさんから。


「山田君~。奥さんに対して、少々失礼ではないのか? 今時紙マスクを知らない人など、この世界の何処に行っても知らない人などいないと思うぞ?」と。


 大島のおじさんは、二人の出逢いと、おさん狐さまの素性を知らないから。不満のある顔色と声色とを駆使して、山田瞬へと不満を告げてきたのだが。


 その言葉を聞き、山田瞬の今日から新妻さまになったばかりの、おさん狐さまの口から再度言葉が放たれる。


「私(わたくし)は去年の大晦日の前日まで海外の秘境と呼ばれる地域でボランティア活動をしていたのですよ~。でッ、また、そのことを十分承知している家の主人ですから~。私(わたくし)に紙マスクを知っている~? と、訊ねたのだと思います~? 特に海外の秘境の地など~。日本のドラッグストアーのように~。マスクの種類や品揃えがあるわけでもないので~。家のひとは、私(わたくし)に気を遣ってくれて~。訪ねてくれたのだと思います~」と。


 おさん狐さまは大変に嬉しそうに、大島のおじさんへと告げ説明をするのだよ。


 ついでに彼女は、自身の夫の二の腕に、自身の腕を絡め『フフフ~』と妖艶な笑み──。妖狐らしく甘えながら説明をする。


 自分の大事な宝物を怒らないでと、言わんばかりの様子でさぁ~。


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