第86話 新年早々縁起の良い? 狐と狸の化かしあい?(8)

 また二人の販売ブースのお裾分けを頂いているのは。今のように、焼き串を焼く『ぶち』の店主ばかりでない。


 先程から二人の売り場の通路を挟んだ横の売り場で、長蛇の列を見て呆然としていた坪田御老体なのだが。少しばかり時間(とき)が経てば我に返る。


 そして我に返れば御老体は、百戦錬磨の強者へと変化──。


 他所の売り場で油を売る、娘さんへと。


「おぉ~い。戻ってこい~」


 と、声を大にして叫び、呼ぶのだよ。


 自分達の売り場に戻るようにとね。


 だから声をかけられた娘さんは苦笑い。


「爺さんが戻れと呼んでいるから戻るね」と。


 仲良く雑談をしていた花屋の女店主に告げて慌てて、自身の売り場へと戻る。


 でッ、自身の娘が売り場に戻る様子を横目で見ながら、百戦錬磨の強者は、戦闘態勢──。


 若い二人には負けぬといった鬼気迫る勢いで──。


 おさん狐さまから、優しい厄除けの念のこもった『新年早々縁起の良い商品』を受け取ったお客さま達に対して。



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