第79話 新年早々縁起の良い? 狐と狸の化かしあい?(1)

「さぁ~。いらっしゃい~!」


 う~ん、相変わらず聞こえてくるね~。物の怪の御老体……ではなく。普通の男性(おひと)でした御老体はね。


 でも? 今年九十二歳になるのに、この普通の人とは思えない程の高らかな声音からくる掛け声は、五味の市へと向かうお客さま達の急ぎ足が一時的でも停止──。


 岡山県備前市五味の市の、名物人物の一人『ちくわのおじさん』こと、坪田御老へと振り向かせ──。凝視させるほどだから、常人以上……。我らが坪田御老体のことをおさん狐さまのように物の怪だと呼ぶのは、仕方がないことだと思う。


 だって御老体は、今年2020年で九十二歳になるのに。自身の持つ二本の足でしっかりと立ち──。


 その上、五味の市の店内へと入り、出る、お客さまの流れをしっかりと見て──。


 御老体自身が、川のように流れるお客さま達へと掛けた『いらっしゃい~!』の呼び込みの声に反応した人達を瞬時に悟り。


 そのお客さま達へと手を振り──。自身の御店に飾ってあるゲン担ぎの、金色の招き猫のように。自身の呼び込みに反応をしたお客さま達招いていくのだよ。


 自身の販売をしている商品……。ちくわと牡蠣の佃煮が売れ切れるまで……。

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