第2話 白色宇宙
そうこうしてるうちに、宇宙船のワープ準備ができた。
銀色のひよこまんじゅう型宇宙船には、胴体の部分を取り巻くリング状の回転翼がある。
ひよこがサーカスの火の輪をくぐってる途中に見えるけど、この回転翼が高速で回ると準備完了。
操舵室の全面から見える景色が歪んだ。
点在する星々が蜃気楼のようにゆらゆらととらえどころが無くなり、光るゴムが伸びたり縮んだりした。
僕より年上で、いかにも気難しそうな職人肌の男子パイロットが、合図を出した。
「いつでもワープできるぞ」
僕は号令をかける。
「よし、ワープ!」
「テメェに言ったんじゃねぇ!」
「……はい」
僕は怒鳴り声で首を引っ込めて恥ずかしくなり黙る。
パイロットが「副キャプテン、号令をかけてくれ」と合図を出すと、側でインドラが「ワープ開始」と号令をかけた。
その後、操舵室に乗る僕達クルーが蜃気楼に吸い寄せられ、目の前が灯りを消したように真っ暗になった。
ワープ成功。
特殊相対性理論の裏技を利用したワープだ。
宇宙船を取り巻く回転翼が毎秒1億回転して、宇宙船の周りの重力や空間を歪めて粘土のように変形させると、船が歪めた空間で作られた泡に包まれる。
これにより相対性理論の不都合から逃れて、何光年先の宇宙空間までひとっ飛び。
トンネルのような暗い亜空間を抜けた先は、光に包まれ目が焼かれたように痛い。
恒星の光に眼球を当てられたわけじゃない。
宇宙が一面、雪のような真っ白な景色だった。
「なんだコレ? 宇宙が白い」
インドラのご講説が始まる。
「この一帯は他の宙域とは性質が違います。我々はオル・
まるで乳白色に染めるミルクの海を潜行している気分になる。
僕のなんでどうしてが止まらない。
「なんで宇宙が白いの?」
「光の三原色からなる自然のトリックです」
「えっと、三原色は……」
「赤、青、緑の光源で複数の色を作る手法です。この宙域は太陽が二つあり、青が青色超巨星。もう一つが黄色い太陽、黄色超巨星の二色を合わせて白い宇宙空間を形成しています」
「二色? 三つ目がないけど?」
「光の色は赤と緑を合わせると黄色になります。この太陽系では、すでに二色を足した黄色の光が存在し、そこへ光の青が混ざり三色の集合色。白い光になります」
「不思議だなぁ」
「ですが光は物体に当たって反射しなければ輝きを写し出すことはできません。地球に届く太陽の光は大気を青く染めるのに、地球から太陽までの間の空間が暗闇なのが宇宙の自然です」
「じゃぁ、どうして光るの?」
「答えはこの宙域に充満するガスやチリに当たって、光を反射し二つ太陽の光源を写しています。しかもこの宙域だけガスが密集して濃度が高くなり流体となっています」
「流体? 何それ」
「水蒸気や煙が密室などで濃度が高くなると気体と液体が合わさったような状態になります。レーザーを霧に当てると光の筋が浮き出るのに近いです」
「あ〜、解りやすいかも」
「ですが恒星が二つある分、この一帯の温度は地球が属する太陽系の倍の温度になります。宇宙船に事故が起きれば100人のクルーは絶命します」
とんでもなく怖いことを冷静に言うな?
フロントガラスにはミルクの海に浮かんだような、巨大な目玉があった。
中央は吸い込まれそうな漆黒の球体。
その周辺は雲が激しく渦を巻いていて、竜巻を天空から見ているような気分だ。
珍事なのは球体の周辺がネオンのように眩しく輝いている。
宇宙素人の僕でも、一目で解った。
「あれが、ブラックホール?」
「ホールには4つの種類があり、その内の一つ、回転力を持ったカー・ブラックホールです」
「光も吸い込むのに、なんか光ってるよね?」
「ホールの回転で吸い寄せられたガスが中心の引っ張る重力と遠心力の排斥力に押し出される力で均衡を保ち、ホールにまとわりついている状態、”降着円盤”です。宙域が白いおかげでホールが肉眼でも見てとれます」
とりあえず疑問を言えばインドラが解説してくれるから助かる。
ただ話す前に大抵、ため息を吐いてから解説を始めるので、恐縮だ。
「あのホールが吸い寄せてガスを密集させ周辺を流体へ変えています。なのでガスを吸い尽くせば、この白色はいずれ消えてしまい暗闇に閉ざされます。貴重な光景です」
ここまでの疑問がすんなり解決してきた。
というより、キャプテンの僕に現地に来てまで、何も教えてくれない。
すごい嫌われてる。
聞くのがちょっと怖いけど聞くしかない。
「どうやって惑星をサルベージするの? さすがに200メートルの宇宙船が惑星を引き上げるって、風船一つで高層ビルを引き抜くようなものでしょ」
「ブラックホール情報パラドックスです」
「ブラックホール……じょーほー……何?」
「ホールは何もかも吸い取るだけではなく、ホールから外へ放出される物もあります。熱です。ホールの外周は吸引されるガスやチリで擦れ熱を生み出し、その熱はホールに取り込まれることなく外へ逃げて行きます。ホーキング輻射と呼ばれる物です」
何で説明する度、専門用語が増えていくんだ?
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