第15話 情報系Vtuber はやて丸。

情報系Vtuber。


 リアルでの時事ネタやネットの情報をVtuberがわかりやすく解説したり視聴者と意見を述べたりするのを主な配信としているVtuberのジャンルなんだけど、私にメッセージを送ってきたこのはやて丸というVtuberさんは、他の情報系Vtuberさんとは違い一つの情報だけを発信している。それが「個人的オススメのVtuberさんにインタビュー」というものだ。


 はやて丸さん個人が面白い、もっと皆に知ってもらいたいと思ったVtuberにインタビューし、質問攻めにしてはそのVtuberの魅力を引き出そうというものだった。何人かのVtuberが彼女のインタビューを受けたらしく、ほぼ全員がインタビュー後に視聴者と登録者がそれなりに増えている。ただ、はやて丸さんは個人勢らしく、企業勢の人気なVtuberさん達にはなかなかインタビュー出来ないらしい。現状、インタビューを受けたほとんどが新規のVtuber達である。まぁ、いわゆる新規Vtuber救済配信というわけだ。私もその対象になったらしい。


 救済配信とは言うが、実際そう言っているのは彼女を深く知らない人達だけらしい。彼女の配信の視聴者はなかなか手厳しく上から目線の者が多いというのが過去のインタビュー動画を見てわかった。インタビューを受けた相手が伸びるか伸びないかのコメントは当たり前で、配信が終わった後には専用スレッドで採点したりなんかもしてるらしい。


 専用スレで点数を付けられるのは流石に怖いなぁ……と思ったんだけど、その後も調べたら採点はするけど最終的には満場一致で「まぁ悪くはない」という意見に辿り着くらしい。めちゃくちゃに批判することはないが、かと言って物凄くヨイショする人達でもない。要はツンデレである。なので仮に否定的なコメントがあったとしても全否定してるわけではないので、インタビューを受けたVtuberは良くも悪くも受けてよかったと答えている。確かに、過去のインタビュー配信はどれも荒れる様子もなく、終始楽しそうな配信だった。


 ちなみにだが、視聴者は先輩、配信者のはやて丸は皆の後輩という立ち位置らしい。はやて丸本人は学校の新聞部のノリでやっているとの事。視聴者もそれを理解しているのか、配信の雰囲気は基本放課後の部活動みたいな感じらしい。ちょっと面白そう。


 さてさて、そんなインタビューという名のコラボの招待が来たんだが、どうしようか。

 内容的には視聴者と登録者アップという大きなメリットが付いてくる。

 デメリットとしては視聴者さんの批判的なコメント。

 そしてはやて丸さんの質問攻めに上手く答えれるかなんだよなぁ。

 前者はある程度精神力あるから問題はないはず。多分。

 問題は後者なんだよね。


 実はこのはやて丸さんの質問攻め、物凄く多いらしい。

 「〇〇なんでスか?」と質問して「うーんそうですねぇ」と言って答えようとしたら「あと〇〇なんでスよね?」と続けて質問してくるらしく、一つ一つに答えようものならだいぶ頭の回転力が必要らしい。どうやらはやて丸さんはじっとしていられない体質という設定らしく、興奮して質問攻めをする後輩を先輩という名の視聴者さん達が落ち着かせるという流れが王道なんだとか。

 

 その配信のノリと彼女のテンションに果たしてついていけるのだろうか。

 そこがすんごい悩みどころ。さてどうしましょ。

 まぁこういう時は定番のあの人ですよ。

 ということで、我が友を召喚!



 「助けてサキえもーん」


 「ど、どうしたの雹夜くーん。……こ、これでいいかしら?」


 「うん満足した。ありがとう」


 「雹くんが喜んでくれるならいいけど……それで、本題は何かしら?」


 「んーと、情報系Vtuberのはやて丸さんって知ってます?」


 「はやて丸さん……?名前は知っているけど私は関わった事ないわね」


 「名前は知ってたんですね」


 「同期のVtuberさんが何人かインタビューを受けたのは知っているけど……それがどうかしたの?」


 「そのはやて丸さんからインタビュー受けませんかというお誘いが」


 「あら、ということは、コラボになるのかしら?」


 「うーん、多分。サキさんはどう思います?コラボ」


 正直、私的には一番最初にコラボを誘ってくれたサキさんを差し置いて他の人とコラボするのも気が引けるんだよね。あんな事言っておいて他の人とは簡単にコラボするんかーいと責められたら何も言えないし。サキさんが嫌って言ったら今回は断ろう。実はそんな気持ちで聞いてみたりしていた。


 

 「私?良いと思うわよ」


 「……いいんですか?俺が言うのもアレですけど、サキさんが一番最初にコラボしたかったかなって思ってたり」


 「確かにそうね。本当は雹くんの一番最初のコラボ相手になれたら凄く嬉しい」


 「けどそのインタビューによって雹くんの声がいろんな人に知られるなら、私は全然構わないし応援するわ」


 「私にとって雹くんはとても大切な人だけど……友達として、1人のファンとして、応援したいの」


 こういう真面目なサキさんの言葉は、おっさんとはまた違った勇気をくれる。

 私って本当に、良い友達に恵まれてるんだなぁと思った。

 

 「……うん、ファンの1人にそう言われちゃ、やるしかないかな」


 「ふふ、インタビュー配信楽しみにしてるわね」


 「はーい。とりあえず、はやて丸さんに返事返しておこうか」


 





 「……ということで、インタビュー受けることにしたよ。おっさん」


 「ほぉ、そんな展開になるとはな」


 別の日。

 おっさんと2人でゲームをしながら私はインタビュー配信の話をした。


 「俺もびっくりだよ。なんか、トントン拍子で進んでてちょっと怖くなってきたな」


 「まぁ今までが今までじゃったからのぉ。キミが警戒するのもよくわかる」


 「……まぁね」


 ポチポチとコントローラーを弄る音だけが静かに響く。

 おっさんも俺も、少しだけ黙ってしまった。

 でもすぐに、おっさんが喋りだした。


 「でも大丈夫じゃ。インタビュー配信も、今応援してくれてる人達も、キミ自身が勝ち取った物じゃよ。この先何が起きても、何があっても、キミをわかってくれる人達は出てくる。応援してくれる人も出てくる。キミは自分の思うままにやっていけばいいんじゃよ」


 「例え今応援してる人が皆手のひら返したとしても。例えキミが世間から批判の的にされたとしても。俺だけは味方する。俺だけは支えてやる。だから好きにやりなさい。その為にVtuberをさせたんだからの」


 おっさんは昔からこうだ。どんな事があっても、いつも私を支えてくれた。

 めちゃくちゃ怒られた事もあるし、それがキッカケで喧嘩した事だってある。

 でも最後には私の隣にいて、頭を撫でるように言葉をかけてくれる。

 ほんと、感謝してもしきれないよ。



 「……ありがとな。おっさん」


 「いやいや。キミが楽しそうにやってるならそれだけで満足じゃよ」


 おっさんは何も求めない。ただ、私が楽しければそれでいい。それがおっさんのいつもの言葉。返しきれない多くの感謝。

 それでも、つい言葉にしてしまう「ありがとう」の言葉。誰にでも言える言葉。でもいつだって、その言葉が勇気をくれる。



 「……ほんとありがとね」


 「ういうい」


 「それとおっさん、もう一つ、このステージが始まった時から言いたかった事があるんだ」


 「ん?なんじゃい、もう感謝の言葉はいらんぞ」


 「はは、大丈夫。もう言わないよ。俺が言いたいのは」



 

 さて、ここで突然だが。

 

 実は私達が今やっているゲームはゾンビゲームとして有名なあの四人協力プレイが出来るゲーム。そう、Left○Deadである。このゲームを簡単に説明すると、走るゾンビの集団を撃退しつつセーフゾーンに逃げてステージクリアを目指すという内容だ。基本四人プレイヤーでやるが、おっさんとは暇つぶしに何度もやってるので基本2人プレイヤーの2人NPCで遊んでいる。


 そして今私達はそのセーフゾーンの近くまで来ながら話をしていて、おっさんのありがたい言葉を聞いてる間私は先にセーフゾーンにゴールしていたのだ。そしてこのセーフゾーンに入るには分厚い扉を開けなければならない。この扉、システム上はボタン一つで簡単に開くのだが、誰かが扉の前に立つと開かなくなるという仕様がある。


 先にゴールした私。そして続いてゾンビの集団を倒しながらセーフゾーンの目の間までやってくるおっさん。私はこのステージが始まった時からずっとやろうと思っていたそれを実行した。


 おっさんが開けようとする扉の前に立ち、そして開けなくする。


 「……あれ?」


 「おっさん」



「ごめん、ここで死んでくれ」




 カチカチカチとひたすらボタンを連打するおっさんに私は笑う。


 「ちょ!き、キミ!?開かないんだけど!?」


 「ごめん、必要な犠牲なんだ」


 「いやいや!このステージにそんなギミックないよね!?」


 「ごめん、必要な犠牲なんだ」


 「さっきの流れでこれはおかしいよね!?普通感動の場面だよキミぃぃぃぃ!?」


 「ごめん、ひつような」


 「いいから開けんかいっ!!!あ、あかん!死ぬぅぅ!!」


 仕方ないので開けてあげました。

 いやぁ、久々におっさんの焦る様子が見れて楽しかったぜ。





 ちなみに次のステージでやり返されました。


 「ちょ、ムリムリムリムリ!!開けろおっさん!!」


 「ん~?聞こえんなぁ~?」


 「バカヤロー!俺こういうの駄目なんだって!ホラーはいいけど走るゾンビは駄目なんだって!」


 「いやぁ、キミの焦る様子はいつ見ても楽しいなぁ」


 「くそ、そういえば似た者同士だったの忘れてた……うわぁぁぁ、おっさん!!死ぬぅぅぅぅ!!」


 

 あまりの怖さに思わずメニュー画面を開いて抜けました。

 その後2人で仲良くクリアしました。

 僕達仲良し。喧嘩しない。




 

 「やぁやぁ初めましてッス!雹夜さんに会えて光栄っスよー!」


 「初めまして。ありがとうございます。私もはやて丸さんに会えて嬉しいです」


 

 インタビュー配信が三日後に迫った今日。

 私は打ち合わせという事ではやて丸さんと初めて通話をした。

 元気で活発な女の子を想像させるような声は、よくよく聞いてみると少しダルそうな雰囲気も出していた。語尾が特殊で後輩っぽいキャラ……なるほど、これは確かに人気のありそうな人だ。イラストも少しロリっぽいし、声も幼い感じが少し残っている。


 「いやぁ、インタビューの参考にいくつか動画拝見したっスけど、本当に良い声してるっスねぇー!」


 「そうですか?自分では全然わからないですけどね」

 

 「でも皆さん褒めてくれて、本当に嬉しいですよ」


 「わたしも雹夜さんの声好きっスよー!なんだか頭がふわふわするっス!」



 うん?それはそれで大丈夫なのだろうか?

 私の声、段々クスリみたいになってない?本当に大丈夫?


 「あー……ありがとうございます?」


 「では早速打ち合わせするっス!あ、多分長くなるので休憩したかったら言って欲しいっス!」


 「わかりました。宜しくお願いします」


 「宜しくおねがいしますっス!」


 配信ではやて丸さん個人がする質問の事前確認。

 視聴者さんから集めた質問箱の仕分け。

 禁止ワードや配信上のルール確認。

 機材トラブルなどが起きた際の繋ぎコーナーなどなど。

 恐らく私の配信よりも喋ったんじゃないだろうかと思えるくらい、その日は2人で話し合った。




 ――そして、その日がやってくる。






 【情報系Vtuberはやて丸のインタビュー配信 ゲスト 紅雹夜さん】



 配信開始30分前。


 待機視聴者数、5000人突破。 

 



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