第13話 ボイスの販売、始めました。

「むぅ……ぜんっぜん思いつかん」



 前々から言われていたボイス販売、そろそろ考えてもいいかなと思い手を出したものの、どういうのを出せばいいのか全くわからん。睡眠ボイスがいいんだけど、流石に今まで借りていた童話サイトから使うわけにはいかないし、かと言って自分で物語を作れるほど想像豊かではない。音読が駄目ならセリフにするのもありだけど、これもまた睡眠用のセリフなんて思いつかない。


 というか、睡眠用セリフって何?「おやすみベイビー」とか囁やけばいいの?いやまぁそれで寝れるなら別にいいけどさ。もうちょい自然な感じがいいよね。どうせやるなら。あと恥ずかしくないやつ。これ大事ね。



 販売に関してはおっさんが全部やってくれるそうでとても助かった。しかし、セリフや音読に関してはパスされた。おっさんもそういうのは難しいらしい。いや出来るらしけど、内容聞いたらR18全開だったのでやめました。まだBANされたくないです。「そのうち販売すればいいじゃない」とおっさんは笑ってたけど需要はないです。……いやないよ?サキさんもネタで言ってるだけで実際は求めてないからね。オイラ知ってるよ。



 ……サキさんか、いろいろやべーところはあるけど基本は良い人だし、参考になる事いっぱい教えてくれるんだよなぁ。彼女に聞いてみようか?一応欲しいと言ってくれてたし、本人にどういうのが欲しいか聞いたほうが早いかもしれないなぁ。ちょいと不安はあるけど、まぁ大丈夫でしょ。なんだかんだサキさん信頼してるし。




 「ということで聞きにきました」


 「えっと、私でいいのかしら……?」


 夜。いつものように「雑談しませんか?」と誘ってくれたサキさんに私は遠慮なく聞いてみた。


 「サキさんしか聞ける相手いませんから。何かアドバイスありませんか?」


 「そうね……実はね?」


 通話越しにカチカチと音を鳴らすサキさん。

 少しして、一つのファイルが私のPCに送られてきた。


 「お?」


 「実は、親戚に絵本作家さんがいるの。何度か見させてもらって、私なりに書いてみたんだけど……どうかしら?」


 そこにはサキさんが書いたという物語がいくつか入っていた。

 凄いなこれ、普通に面白い。


 「凄いです。普通に面白いし、ウルッとくる物語もありますね」


 「本業の方と比べたら全然だけど……気に入ってくれたら嬉しいわ」


 「めちゃくちゃいいですよこれ。いいんですか?俺が貰って」


 「元々誰かに読んでほしかったから気にしなくていいわ」


 「ほほう、サキさんにもそういう相手がいるのですな?ニヤニヤ」


 「あら、残念だけど雹くんが思っているような相手はいないわよ?」


 「あらま残念。でも気になりますなぁ、その相手」


 「ふふ、言わないとわからないかしら?」


 「……あーー……他にどんな作品あるのかなーっと」


 「ふふ」


 うーむ、いい感じに弄ばれた気がする。くやちぃ。




 「……うん?」


 「あら、どうしたの?」


 「……」


 「雹くん?大丈夫?」


 


 「……ドM少女赤ずきんとドSオオカミさんとのイケナイ関係」



 「あっ」


 「……」


 「えっと……あのね、雹くん」


 「……」


 「ち、違うのよ?参考資料なの、そう、資料よ!私が書いたわけじゃないの」


 「……ドM少女赤ずきん 名前 サキ」


 「あっ」


 「ドSオオカミ 名前 ヒョウヤ」


 「あのね、あの」


 「あっはっはっは……おつかれでーす」


 「ま」


 通話終了。 

 さて、これらを参考にしつつどうするか決めるか。

 とりあえずこれはゴミ箱にぽーい。

 ……それはそれで可哀想なので、それだけ送り返してあげました。

 ついでに採点もしておいてあげた。優しいなぁ。






 「ぜんっぜん決まらない」


 「そ、そうなの?」


 あれからサキさんに貰った作品を一つずつ見ていった。どれもこれも良い作品で素晴らしくて音読に関しては解決した。問題はセリフボイス。おっさんが「この際そっちも売っておこう」と言い出したのだ。おっさん曰く両方販売することで大きく変わる、とのこと。そこまで売れなくてもいいんだけど、まぁお金は必要だし。流石に歳が歳なのでそろそろ稼いでおかないとやばい。いざとなったらおっさんの家に来いとは言われてるけどそれは最終手段にしたいからなぁ。なので仕方なくそれも売り出す事にした。が、案の定セリフが浮かばない。どうしましょ。


 「セリフボイスなんて何を言えばいいのさー無理だよぉぉぉ」


 「荒れてるわね……」


 「あー……サキさん」


 「うん?」


 「俺にどんな事言ってほしいですか」


 「え?」


 サキさんが困惑する。そりゃそうか。

 でももう他に考えられないんだよなぁ。


 「この際なんでもいいですよ。考えるの疲れたので」


 「急に言われると困るわね……」


 「なんでもいいですよ。いつもみたいなのでも」

 

 「……本当に?」


 「ええ」


 何言われても驚きませんよ。

 今のオイラはそれくらい疲れてる。


 「そうねぇ……愛してるとかどうかしら?」


 「あれ、意外と無難?いやなかなか恥ずかしいセリフだけど」


 「雹くんのお友達は、多分女性層を狙っていると思うの。男性でも好きな人は買うでしょうけど、セリフボイスは特に異性の購入が多いの。音読ボイスで男女バランスよく、セリフボイスで不足している女性層をピンポイントに狙う。それがお友達の狙いなんじゃないかしら」


 「おぉ、おっさんはそんな事も考えてたのか」


 確かにおっさんならありえそう。

 あーみえて頭の中でいろんな事考えてるし。

 仕事も営業職って言ってたしなぁ。


 「雹くんの話を聞く限り相当凄い人なのね。流石は雹くんのお友達ね」


 「おっさんが凄いんだよなぁ。でも友達が褒められるのは嬉しい」


 「ふふ、羨ましいわね。……とにかく、女性層を狙ったセリフがいいかしらね」


 「女性層ねぇ。となると、やっぱりサキさんのを参考にするべきかな」


 「私のは参考にならないわよ。雹くんの声が聞ければそれでいいから」


 「んー……今回に関しては本当に参考にしたいので、もっと欲出していいですよ」


 「……引かれたら嫌だわ」


 「引かれる前提の言葉もどうかと思うけど……まぁ今回は気にしません。どんとこい」


 「うぅ……その、お疲れ様。とか、今日も頑張ったね。とか、かしら」


 「めちゃくちゃ普通だった。そういうのでいいの?」


 「普通……なのかしら?私はそう言われたら凄く嬉しいわね」


 「ふむ、まぁこれくらいなら全然いけるね」


 もっとぶっ飛んだの来ると思ってたけどね。

 遠慮してくれたのかな。


 「お疲れ様と頑張ったね、だね。おけおけ、そういう感じのを考えるか」


 「どうにかなりそうかしら?」


 「多分ね。ありがとうございますサキさん。また何かあったら相談していいですかね?」


 「全然いいわよ。私なんかでよければ」


 「ありがとう。あ、あとね、サキさん」


 「うん?」


 「私なんかじゃないよ。サキだから頼んだんだ。他の誰でもなく、友達のサキに」


 「え……?」


 「考えるの面倒とか言ってたけどさ。でもやる以上ちゃんと考えたいから話したんだ」


 「だから相談した。Vtuberとしてのサキさんじゃなく、友達のサキに」





 - 俺と友達になりませんか? -

 




 「だから、ありがとう。俺と友達になってくれて。おっさんとじゃ全然思いつかなかったし」


 「……本当は私の言葉なのに」

 

 「そうだっけ?忘れちった」

 

 「……あのね雹くん」


 「ん」


 「サキってもう一度言ってくれる?録音して宝物にするわ」


 「あっはっはっは」



 この人ほんとタダじゃ転ばねぇな。





 後日、無事ボイス販売完了。

 

 それから、一週間後。




 「ふわぁー……遂に売っちゃったなぁ、ボイス」


 

 ベッドの上でゴロゴロ転がりながらスマホを触る。

 私の朝はニュース速報を見てから始まるのじゃ。

 ポチポチと触っている時、スマホが鳴りだした。

 着信?あれ、おっさんじゃん。こんな朝から珍しい。



 「うぃーおはようー」


 「おう、おはようさん。いやー、計画通り上手くいったよ」


 「うん?なんだなんだ、仕事が上手くいったのか?おめでとう」


 「違う違う。キミのことじゃよ。SNSは見たじゃろ?」


 「SNS?俺やってないよ?」


 「あれ、サキさんにメッセージ送るために作ったんじゃないのか」


 「作ったけどあれ以降使ってないよ」


 元々メッセージ送るだけだったし。

 ディスコードになってからは一切触ってない。


 「ふむ、とりあえずSNS開いて検索欄からVtuber 睡眠ボイスと検索してみ」


 「へーい」


 おっさんに言われてSNSを開く。

 そんでVtuber 睡眠ボイスと検索しタッチする。


 「……おぉ」



 

 検索した先には、私の販売したボイスの感想で溢れていた。

 「よく寝れるようになった」「疲れがとれました」という感想。

 そして、圧倒的に多かったのが「初めて聞いたけどファンになりました」という女性からの感想だった。

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