第6話 ニート歴10年のメンタルを舐めるな。
「起きたか?」
「んぇ……おふぁようございますはい」
着信音で目覚めた私はあくびをしながら電話に出る。寝起きの声ってかなり低くなるよね。ただでさえ低い声だからそりゃもうやばいですよ。初めて聞く人はすごいビックリする。でもおっさんとは長い付き合いだから普通に気にしてないようだ。
「おはよう。朝から悪いね」
「んゃ、大丈夫。……ごめんなぁ」
「しょうがない、とは正直言えない。けど起きてしまった事は仕方ない」
「うん……ごめん」
「……ぶはははは!」
「なんじゃい」
「いや、キミがちゃんと謝るなんてなぁと。昔から謝らなかったわけではないけど、反論せず最初に謝るのは初めてじゃないか?」
「あー……そうだね、多分。うん……ごめんね」
「やめろぃ。元々俺が持ち出した話だ。確かにキミにも問題はあったけど、でもキミだけの問題じゃない。俺の問題でもある。だから何度も謝るな。あと1人で抱え込むなよ?」
「うい」
「本当に大丈夫か?無理してないか?」
「してないよ。知ってるだろ?俺の性格」
「だからこそじゃよ。キミがいろいろ抱えてるのは知ってるぞ」
「あれま。まぁ、付き合い長いしね。バレるか」
「うむ。とりあえず、しばらくは配信はしないように。SNSも駄目だぞ」
「SNSはしてないから大丈夫。配信できないのも十分理解してる。いい機会だしランク上げに集中するわ」
「うむ、それがいい。絵師さんの事は心配するな。理解ある人だから」
「今度紹介してくれる?ちゃんとお礼言いたいし謝りたい」
「あー……まぁ考えとく」
「うん」
「それと、サキさんには早めに謝っておきなさい」
「もう謝ったよ」
「お、早いな。さすが。で?どうだった?」
時間は巻き戻り、問題の配信の終了後。
「あー……ルシエン兄貴……」
あまりのショックで配信を続ける気力がなくなり、私はサキさんにまともに反応できず配信を閉じた。ベッドに潜り込んでルシエン兄貴との思い出を振り返る。いや、ぶっちゃけそんなに思い出はないんだけどね?でも流石に死んだのはショックだわ。あのゲームもう出来ない。辛い。もうエンディングでいいじゃん。うん、私の中のオブリビオォンは無事終了した。いい作品だった。そんな事を思いながら寝ようとし、サッと起き上がる。
「……えーと、DMだっけ?送らないと」
ネットの世界を長く生きてきた私だが、SNSは一切弄らなかった。特定の人物を追っかけたいとか、何かを呟きたいとか、皆と何かを共有したいだとか、そういう気持ちが一切ない。必要が無いことはしない。聞かない。触らない。それで生きてきた。特に困ったことはない。何かを共有できる友達が居ないというところは致命的なんだと思う。けどまぁ、いいじゃない。そういう人がいたって。だって私はそれで今日まで生きてこれたんだから。無くても生きていけるなら、無理に触れなくていい。とはいえ仕事は大事だろ!と言われたらぐうの音も出ない。ごめんなさい。
さて、そんな偉そうな事言ったけど今回に関しては完全に必要なことだ。SNSを開いてアカウント作成を始める。名前は雹夜……では駄目だな。変にDM飛んできたら面倒だし。ネットの情報ってめちゃくちゃ早いから、今こうしてアカウント作成してる今も私の配信の内容があっちへこっちへと走り回ってるはずだ。なのでそれに関する名前や単語はきっとよくない。
んー……どうするかなぁ、名前。昔使ってた名前とかにしようかな?それとも全く関連のない名前にする?まぁサキさんへのDMだけに使うから使い捨てってことで、適当につけよう。ただし相手が不快にならない名前に。
いろいろ考えた結果一方通行になりました。いや、別に最近ハマってるアニメで好きなキャラだからとかじゃないよ?たまたまだよ?でも一度くらいセリフ叫んでみたいよね。私も言ってみたいわ。「立てよ三下ァァァ!!」って。まぁそれはいいとして、とりあえずサキさんのアカウントを探して……DM……あ、これ思ったけど、DM制限かけてるとかある?そういうシステムあったりする?どうしよ、そんなめんどくさいシステムあったらメッセージ送れないよなぁ。おっさんに聞いたほうがいいかなぁ?でもこの時間彼女とイチャイチャしてるとか言ってたしなぁ。いや本当に居るのか知らんけど。……どうにかなるだろう精神でやるしかないか。ヨシ!
⚠メッセージのやりとりについて⚠
元々ハー○ルン様にて投稿している作品なので、あちらで使っている特殊タグがこちらでは使えないので台本形式で進めさせて頂きます。気になった方はハー○ルン様で投稿してる七話を御覧ください。(違いはLINE風に編集されています)
一方通行(私)
サキさん(相手)
一方通行「こんばんは。急なDMすみません。信じてもらえないかもしれませんが、紅雹夜です。今日は本当にすみませんでした。せっかく来てくださったのに反応も出来ず、不快にさせてしまったと思います。言い訳はしません。今回の件は全て私の責任です。本当に、すみませんでした」
サキさん「すみません、少しバタバタしていて反応に遅れました。本当に雹夜さんでしょうか?」
お、返事来た。よかったぁ。
けど、問題はここからだよなぁ。
一方通行「はい、紅雹夜です。すみません、実はSNSを一切やっていなかったのでVtuber用のアカウントとか持ってないんです。急遽作ってメッセージ送らせていただきました」
サキさん「本当に雹夜さんですか?」
一方通行「本当です」
サキさん「……本当に?」
一方通行「本当です」
サキさん「……ごめんなさい。正直、少し信用できません」
ですよねぇ。そりゃそうよ。
いきなり知らない名前から「どうも雹夜です!」なんてDM送られてきたら怪しむよね。うん。さてどうしよう。詰んだぞ。
サキさん「本当に本人なら声を録音してください」
一方通行「DMって録音音声貼れるんですか?」
サキさん「貼れます。教えるので、そのとおりにやってください。変なもの送ったら通報しますので」
あー、そういえば下ネタ嫌いなんだっけ?DMで結構そういうの送られてきてるのかなぁ。それは嫌だなぁ。
サキさん「確認しました。……ごめんなさい」
一方通行「いえいえ。こちらこそいろいろ教えていただきありがとうございます」
サキさん「いえ……あの、」
一方通行「今日は本当にすみませんでした」
一方通行「あ、すみません、被っちゃいましたか?」
サキさん「大丈夫です」
サキさん「こちらこそごめんなさい。雹夜さんを困らせるつもりはありませんでした」
一方通行「こっちは大丈夫です。でもサキさんにご迷惑をおかけしてしまいました。本当にごめんなさい」
サキさん「迷惑なんて……あの」
一方通行「はい」
サキさん「……私の話を、聞いてくれませんか?」
一方通行「そういうことね……」
サキさん「信じてもらえないのはわかってます。でも」
一方通行「いや、信じますよ」
サキさん「え?」
一方通行「だって、こんな私の胡散臭そうなDMにもちゃんと反応してくれたじゃないですか」
サキさん「でも、それはちゃんと確認を取ったから……」
一方通行「そこを言われるとぐうの音も出ない……けど、信じますよ。僕は」
サキさん「何か確信があるのですか?」
一方通行「ないですよ?」
サキさん「……それでも信じると?」
一方通行「はい。なんの確信もないけど、とりあえず信じます」
サキさん「……損な性格だって言われません?」
一方通行「あれま、よくわかりましたね?」
サキさん「やっぱり。……あの」
サキさん「この件が落ち着いたら……私とコラボしませんか?」
一方通行「とても嬉しいですが、やめておきます。ごめんなさい」
「ハァァァァァァァァァァ!?」
「おぉ、耳キーンときた」
おっさんが画面の向こうでめちゃくちゃ叫んでる。久々に聞いたなぁ叫んでるの。
なんだっけ、好きなキャラのSSRが出た時も叫んでたよな。懐かしい。
「き、キミ、な、なんで断った!?」
「いやぁ、そういう流れではないかなぁと」
「いやいや!どう考えてもその流れじゃん!」
「そうかね?」
「しかもサキさん、そういうことでしょ!?明らかにキミに気があるってことじゃん!なんで断ったぁぁぁぁ!」
「んー、ごめん、秘密で」
「えぇぇぇぇ……なに、実は嫌だった?」
「そういうわけじゃないよ。こんな俺を誘ってくれたんだよ?めちゃくちゃ嬉しいよ。断ったら失礼だってのも十分理解してたし」
「……まぁ確かに、あの件があった次にコラボは早すぎるよなぁ」
「それだけじゃないんだけど、んー……ごめん、ちょっと言えない」
「ふむ。……まぁ何も問題ないならいいか。わかった、これ以上は聞かんよ」
「すまんな」
「ええんやで」
謹慎期間中。
「燃えてますなぁ」
ネットサーフィンしてた私だったが、あちこちで話題が出てる。もちろん私とサキさんの。やっぱり早いもんだなぁ。改めてネットって怖いなぁと感じた。感じつつ、適当に動画を見てみる。無論、その動画の内容も私とサキさんについてだ。謹慎中に知ったんだけど、どうやらV切り抜き勢なるものがいるらしい。
すごいね。勝手に編集してくれるのか。あ、でもこれって許可取ってないのかな?私はいいけどサキさんには取ってるのだろうか?まぁ無許可だろうなぁ。これ収益とか出たらそっちに流れるのかなぁ?いいなぁ。私の炎上で食う飯は美味いんだろうなぁ。食うならちゃんと良いもの食うんだぞ。
ちなみに動画のタイトルは「人気Vtuberサキ。無名Vtuberに挨拶するも「それどころじゃねぇ!!」と返される」だった。いや、これ良いタイトルだよね。こんなの皆気になって見に来ちゃうよ。というかめちゃくちゃ見てる人多いな。コメントもめちゃくちゃ多い。そんでほとんどが「雹夜◯ね」とか「こいつだけは許されない」とか「ニートが調子に乗るな」だった。ごめんなさい、反省はしてます。
そういえばMAD動画すら出来てるとは思わなかった。タイトルがシンプルに「それどころじゃねぇ!!」で見てみたらいろんなアニメのシーンやVtuberのシーンに私のあの音声が乗ってるというものだった。ごめん、正直笑った。この動画結構好きだわ。一応マイリストに登録しとこう。……さてと、今日もランク上げ頑張るか。
某掲示板
:紅雹夜、最後の配信から一ヶ月は経つ模様。
:もう配信しないだろコイツ。
:上手く逃げ切ったな。全然情報出てこなかったわ。
:絵師の情報もないよな。なんか出来すぎてね?
:SNSも無いし、配信上でも特定されるようなこと一切言ってないぞコイツ。
:実は元配信者とか?
:いや、それはないだろ。時々初歩的な事で事故ってるみたいだったし。
:サキさんはどう?
:あの人も何も反応しないよな。一応今回のことに関しては気にしてないってツイートしてたけど。
:口裏合わせたとか?
:実は身内とか。
:それは絶対ない。ある程度調べられてるし。
:やりすぎると犯罪だぞ。
:まぁ、サキさんにとってそれほど痛手ではないんでしょ。普通に人気増え続けてるし。
:他の新規Vtuberとの差すごいよな。
:尚、その人気のせいで同期の新規勢からオフ会にも呼ばれない模様。
:1人だけ孤立してるよな。コラボしてくる奴は多いけど。
:男性Vtuberとのコラボも多いよな。ただし下ネタや明らかに媚び売ってくる奴とは二度としないと発言してたけど。
:軽く炎上したけど、すぐ収まったよな。女性人気があるのもでかい。
:こういうのって逆に同性から「気持ち悪い」とか言われそうだけどな。
:ハッキリ言うからねあの人。それで女性からの人気がすごい。
:やっぱ同性からしてもスカッとするんだろうなぁ。あとカッコいい。
:いいよねサキさん。俺叱られたい。
:俺も。
:俺は逆に攻めたいな。ああいうの堕とすのゾクゾクするわ。
:でもお前童貞じゃん。
:しっかし、同じように始めた他の新規との差よ。
:まぁしゃーない。他の新規のやつパッとしないし。
:面白いやついる?一度全員の見たけど切ったわ。
:なんかどれもこれもありきたりなんだよなぁ。
:サキさんがドストライクすぎた。
:個人的にだけど、アカネはアリだと思う
:あのボーイッシュ?
:でもあいつ基本無口じゃん。
:ゲーム配信なのに必要な事以外喋らないのもなぁ……。
:でも声とかイラストは良いんだよなぁ。男っぽさが良い。
:わかる。
:とりあえずサキさんを馬鹿にした雹夜だけは許さん。絶対特定するぞ。
:……にしてもコイツ、ほんとに何の情報も出てこないよな。
:おい、やばいぞ。紅雹夜配信始めたぞ!!
謹慎解除 配信開始。
「皆さんこんばんは。本日から、また配信を始めたいと思います。よければお付き合いください」
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