第5話 小さなヒーロー
街に入ったはいいが、何をすればいいかわからない。先ほど第一街人に日本大使館はあるか、と聞いたところ、二ホンタイシカン?なんだいそれは。食べ物かい?と聞きか返されてしまった。日本語が通じるから日本大使館ぐらいあるのかと思ったが、ないとは。これからどうしようか。聞き込みをしている間に夕暮れになってしまった。早く泊まるところを見つけないと夜になってしまうだろう。ここは知らない国だから治安がいいとか悪いとかはまだわからない。誰かに宿かホテルの場所を聞いた方がいいだろう。おっ、ちょうど人がいた。あの人に聞いてみよう。
「あの、すみません。」
「うおっ!!!驚いた!脅かさないでくれよ!」
「す、すいません。」
「いったい孤児が何の用だ。あまり話しかけないでほしいのだが。」
「このあたりに安くて安心の宿はありませんか。今夜とまるところに困っていて。」
「は?安いところが安心なはずがないだろ。ひどいところだと店主が窃盗やならず者に加担して人さらいの斡旋みたいなことやっている奴もいるぞ。」
なぬ、ここでは安くて安心の謳い文句の存在する宿はないのか。ならばどうしよう。野宿は心配だな。ここは少し値の張る宿に泊まって明日を待つか?でももし明日なにも成果がなかったらどうしよう。
「それにお前は孤児じゃないか。孤児院に行けば済む話だろう。」
「孤児院?」
「あぁ、お前たちはそこが家だろ。宿に泊まるとかなにいってんだ?」
「...。」
兵士にも孤児がどうとか言われたが、この服は本当に孤児の服なんだろうか?そうだとしたら服も買っておいた方がいいのだろう。うーん...そうだ、その孤児院とやらに行けばお金がかからずに泊まることができるのではないだろうか。ただ、街の人が私を孤児院だと思っていても孤児院の人たちは私のことを知らないだろう。知らない人間がいきなり来ても迷惑だろう。行っても追い返されてはたまらない。もう少し詳しい話が聞きたい。
しかし、私が考えているうちに先ほどまで私に質問を返してくれていた人物はもういなくなっているようだった。まだお礼も言っていないのだが。いや、それよりも孤児院についての情報をもう少し集めなければ。肝心の孤児院を探そうにも夜が近いからか人がいなくなってしまった。困った、この時間になれば一番孤児院について知っていそうな孤児たちも孤児院に帰ってしまっているだろう。そのとき、
「お嬢ちゃ~ん、どうしたのかな?」
薄汚い恰好をして、腰に剣をさした中年の男が話しかけてきた。いやらしい笑みを浮かべて私に話しかけているようだ。なんだか薄気味悪いが、孤児院のことを聞いてみよう。
「すみません、孤児院を探しているのですが...」
「こじい~ん?あ~あの水色の屋根のとこか、おじさん知ってるよ~。」
「本当ですか?良ければ道を教えてください。」
「え~?そういうことならおじさんが案内してあげるよ。」
「いえ、結構です。道を教えていただければ自分で行けますので。」
なんだか話し方が気持ち悪い。道を聞いたら、すぐに逃げよう。
「いいって、いいって~。おじさん何でも知ってるから連れてってあげるよ~。」
「いったっ!あの腕をつかまないでください。」
「連れてってやるから、ついてきなよ~」
「自分で歩けるから放してください!」
「ちっ!メンドクセーガキだな!いいからこっち来いっつっって!」
「ちょっ!」
「まてっ‼」
「なっ?!」
変なおじさんに絡まれていると、憤った声が聞こえた。そちらの方を振り返ると10歳ほどの男の子が立っていた。私と同じような質素な服を着ている。ただ私のようなワンピースではなく半袖半ズボンを身に着けていて少し茶色く薄汚れている。
もしかしてこの男の子は孤児院の子だろうか?心なしか私の服と作りが良く似ている。
「ここらで悪いことするな!」
なんと威勢のいい子だろう。中年男に果敢に文句を言っている。
「はあっ?ここで何しようが俺の勝手だろうがっ。虎児は何されても文句言えねーんだよっ!」
「お前たちのようなクズがいるからこの街は腐りきっているんだっ!これでもくらえっ!!」
そういうと男の子は何やら中年男に茶色い球を投げた。その茶色い球からは赤い粉末が大量に噴出した。
「目、目がぁぁぁぁぁあああ!!痛い痛い痛いっ!!!」
直にあたった中年男が痛みに悶えている。中身は唐辛子かなんかだったんだろうか?
「何ぼさっとしたんだ行くぞ!!」
男の子は私の腕をつかみ走り出した。先ほど握られた腕がまだ痛むのだが。でも文句も言えない。多分、男の子は私を助けてくれたのだろう。さっきの男が私に何をするつもりだったのか知らないが、小さいのによくやる。
このままついていけば孤児院に連れて行ってくれるかもしれないし、大人しくついていこう。
まったく演劇集団といい、中年男といい、とんだ一日になったもんだ。
見放された少女は夢を見る Lopp @Lopp
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