第4話 検問

 しばらく歩いて、私は一つの結論を導き出した。そうだ、さっきの少年にここはどこで、帰り方を聞いとけばよかった、と。でも今はあの建物から随分離れたところに来たしまったし、あの演劇集団にはできればもう会いたくない。 

 少年からもらった袋には、銀色の硬貨十枚と銅色の硬貨二十枚が入っていた。硬貨は大きいのと小さいのがバラバラに入っている。いったいどこの貨幣なのだろう。見当がつかない。本当に使えるのかと不安になる。


 少しうなだれながら歩いていると、煉瓦で舗装された道に出た。どうやらあの建物は市街から離れたところにあったらしく、通ってきた道は砂利道だった。舗装されているということは、人の多い街が近いということだ。一時間歩いて、道に出れたのだからあの建物は街から離れた場所に作られていたということになる。先ほどの集団の奇行を思い出す。もしかしたら、街の人間とは疎遠な集団かもしれない。それなら離れたところにあるのも納得だ。

 とりあえず、道に出て人を探そう。道幅的には5m程。車二台が並んで走行できるような幅だ。さすがに道の真ん中を歩くのは危ないから、道の外側歩くとしよう。それにしても不思議なことがある。周りを見渡すと広い平野となっている。このぐらいの広さがあれば、高速道路が作れそうであるのに。家の一軒さえもない。あるのはどこかにつながっている道が一本。現代でもまだ開発されていないとは驚きである。

 それにしても暇だ。一人しりとりでもしながら歩こう。しりとり、リンゴ、ゴリラ、ラッパ、パンダ、だるま、ま...ぁ?ん?何か丸いふよふよしたやつがいる。しかも動いている。なんだこれは。初めてみる。叔父夫婦の家でいとこがやっていたゲームに出てきたモンスターに似ている。確か...あれは...。そうだ、スライムとかいうやつに似ている。しかし、日本にスライムは生息していないはずだ。ではあれは、クラゲの一種か。陸にクラゲとは珍しいこともあるものだ。きっと誰かが海水浴の帰りに捨てていったのだろう。命を弄ぶにも程があるぞ。正直埋めて成仏させてやりたいところであるが、クラゲには毒があると聞く。触れて死にでもしたら家に帰れなくなってしまう。よし、あのクラゲはそっとしておこう。ナムナム...。

 

 歩いて三十分経ったころ、ようやく町らしきものが見えてきた。ただし普通の街とは違う。街全体に壁が張り巡らせてある。道と同じ煉瓦素材で、高さは三十メートルあるかないか。日本でこのように壁で囲っている町は見たことないが、もしかしてここは日本ではないのだろうか。だとしたら少しまずいこといなる。パスポートは持っていないし、少年にもらった貨幣で日本に帰れるよう手続きは可能なのだろうか?ここが日本でないとするとあの集団はいったいどこに連れてきたというのだ。やはり引き返すべきか悩む。でもあそこには帰りたくない。むしろあそこに帰るより、街の人に助けを求めたほうがいいだろう。


 街についた。街に入るには大きな門の横にある受付で手続きをして入るらしい。すでに五人ほど並んでいる。少し待てば、順番が来るだろう。それまで受け付けの様子を眺めよう。観察を始めて私はすぐ既視感を覚えた。受付をしている人が鎧を着ていたからである。鉄製の銀色の鎧の上にチェーンメイルというものだったか、それを着ている。何とも重そうだ。兜もかぶり、腕には国の国章がついた青い腕章をつけている。ちなみに国章は日本のものではない。日本の国章は菊だが、腕章についている国章は、緑のリーフに囲われた獅子が描かれている。とにかく言いたいのは、受付の人が兵士のをしているということが。本当にこの街に入って大丈夫なのだろうか?もし街全体がをする集団であったら、あの演劇集団だったら。私は無事帰れるのだろうか。しかし、今は目の前にあるモノにしがみつくしかない。


 そんなことを考えているうちに、私の番が来たみたいだ。


「次!なんだガキか。ガキが1人で何の用だ。」


「街に入って家に帰りたいのですが」


「はぁあ?家ってお前、その服孤児院の奴らの服だろ。」


「孤児...ですか?」


 確かに、孤児ではあるが、一応叔父という保護者はいる。なぜ私が孤児だとわかったんだ?質素だが動きやすい立派な白いワンピースを着ているだけだろう。意味が分からない。


「あぁ、孤児の奴らはふつうここから出ないはずなんだけどなぁ。まあ、いい。お前金持ってるのか?銀貨五枚だ。」


「銀貨ってこれですか?」


 私は比較的大きな銀色の硬貨を差し出した。


「違う。その小さいほうだ。それは大銀貨だろ。」


 兵士は小さいほうの銀貨を指さした。小さいほうの銀貨は六枚程あったので五枚とって兵士に渡す。


「ちょうどだな。よし通っていいぞ。」


 兵士は金を受けとって、門の中を指さした。何はともあれ、やっと街に入れる。家に帰れるのももうすぐだ。



 待っててね、フォル。



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