妄想ノンフィクション

核融合厨

第1話 合唱練習、魂の一貫

 俺の名前はN。とある中学に通う普通の中学3年生だ。訳あってクラス合唱の伴奏もしている。自分の中ではそれなりに音楽的な感覚はあると思っている。


 5時間目。合唱練習の時間だった。全校合唱の練習をしていて、テンポに違和感を持った俺は一言指揮のAくんに言うべく前にでた。前に出たところで、男声パートのA₂くんに「Nに指揮やってみてほしい」と言われた。俺はそれなりに音楽的感覚があると思ったので少し考えた後に引き受けた。人生で初となる指揮だ。



 俺が構え、合唱がはじまった。しかしすぐに俺はクラス内の違和感を覚えた。どうやら僕が人差し指と中指で指揮をとっているのが可笑しいらしい。


(なんなんだ?僕を嗤っているのか?あれ、指揮ってこんなに難しいのか?)


とにかく楽譜を目で追うのと腕を振るので必死だった。


 しかし次第に俺の刻むリズムとみんなの歌声が合わさってきて気持ちよくなった。テンポを刻む俺の人差し指と中指は空を切っているが、刹那、たしかにこの瞬間、俺の指は6拍子という概念を超えた。空を切っているはずの人差し指と中指は次第に寿司を握り始めた。このとき俺は全てを理解した。ああ、俺はこの瞬間のために、寿司を握るために生まれてきたんだ。



のせろよ、俺のワサビ《情熱》。


握るぜ、みんなのネタ《想い》。




 何が何だかわからなくなってとにかく必死に腕を振り続けているうちに合唱が終わった。

疲れに体を連れ去られそうになったときHくんが俺に声をかけてきた。


「お前、寿司、握ってんじゃん。」


 僕を嗤っていたうちの一人だ。しかしHくんは僕のへんてこな指揮でも、確かに、

トラディショナルジャパニーズフード、SUSHIを感じてくれていた。クラス全員に嘲笑われてもHくんだけは僕の指揮に寿司を感じてくれた。


 初めて他人に認められたと、確かに感じた。俺の握った寿司は、ちゃんと誰かの心に残ることができたんだ。


 

 そう、これは俺が伴走者から天下一の寿司職人になるまでの物語。まだまだ道のりは長いけれど、最高の一貫を目指し、俺の挑戦は続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妄想ノンフィクション 核融合厨 @sakasaka70

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る