ラトラと男子高校生の話

僕の友人が"ラトラ"に殺されたのはつい先日のことだ。下校途中、夕日に照らされたからだと対象的にできた道路の影から突如、うさぎ型の怪物が飛び出し、取り込み、友人を喰った。


藻掻く手を掴んだが、呆気なく手首からちぎれ、彼は恐怖で声も出ないまま取り込まれ、僕の手の中には彼の右手だけが残った。


「え?」


そのまま路上に1人取り残され立ち尽くす僕は何が起きたのかわからなかった。







あれから1年半ほど経っただろうか。今僕はラトラの基地にいる。


先日、先に潜っていた先輩からの信号が途絶え、急遽僕も招集されたのだ。

研究長室で


「先輩の遺体は…」


という僕に


「今回の招集の任務は、君の先輩の遺体を回収する時間を君に作ってもらいたい。通信のとだえたところは概ね予想がついているため、君には反対に行って欲しい。また、回収された遺体は修復不可能な状態だと予想される。予定通り、線路に置いて自殺という形で欠損させる処理をすることになった。非人道的かもしれないが1番証拠に残らない。」


と研究長が答えた。そして、


「君の潜入中に回収予定だ。回収が終わったら連絡する。直ぐに帰還してくれ。」


とも付け足した。


「分かりました。お世話になった先輩ですから、どうにか時間を稼ぎます。」


「危険なようならすぐに帰ってきてくれ。今、君の命の方が大切だ。」


「わかりました。」


僕は死ぬ訳には行かない。

潜入用のブーツを履き、銃や防具を装備する。


「先輩、僕が家族にあわせてあげます。」


小さく呟く。

お世話になったのだ。とても良く面倒を見てくれた。わからないことを聞くと快く教えてくれた。時々鬱陶しいこともあったが大好きな先輩だった。

少し無理をしてでも遺体回収は成し遂げなければならない。ラトラの攻撃パターンは把握している。大丈夫だ。


僕は、制服の中の生徒手帳を開く。

僕と幼馴染の写る写真を眺め、そっと撫でる。

死ぬ訳に行かない理由はもうひとつある。

パンケーキを奢る約束をしたのだ。

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[短編]どこかの誰かの話 岩瀬肯 @iwase_kou

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