第5話 「少女との再会」


公園を囲うように転々と置かれ煌々と輝く街灯の中、その夜もブランコにひとつの小さな影はあった。


「あ、おねえちゃん!こんばんは」


「うん。ことはちゃん。こんばんは…

今日もここに居たんだね?」


私の言葉に彼女は笑顔で反応する。出会った頃と何ら変化はないようだ。


「おねえちゃんおねえちゃん!今日ね?駅の方にお昼にお散歩に行ってたんだけどね?きれいなドーナツが売ってたんだよ!!おいしそうだったなぁ…」


駅前のドーナツ屋さん。

たしか最近できたばかりの店だ。その見た目や味が評判を呼び、電車通学の女子生徒や家が駅の近くの生徒の間ではよく話に上がっていたりもする。

私も甘い物には目がないため興味はあるものの、なかなか時間が取れないのと駅までは家から2kmほど離れている為移動が面倒であり、未だに食べることは出来ずにいた。

彼女もまた、私達と同じように甘いものが好きなのだろう。


「そうだね。いつか食べられたらいいね…。

私も食べたことないから食べてみたいなー。」


「いつか食べられたらいいね」

その言葉は彼女の現状を知っているからこそ告げた言葉でもある。

彼女は食べ物を口にすることは出来るのだろうか?


もしも食べられたとして味は…?食感は…?

感じることが出来るのだろうか。


「おねえちゃん!今日は交代しよ!

おねえちゃんがのっていいよ!」


ブランコから降り私を座らせ後ろに回って揺らす。子供ながらに少々私の気分が暗かったことを読み取ったのだろうか。


「ふふっ…。楽しいね?」


ことはちゃんに揺らされ夜風を浴びながら身体は動く。その風は冷たく心地良かった。


「おねえちゃんならあそこに連れて行っても大丈夫かなぁ… 」


ブランコを押しながら呟くことはちゃん。その表情は無邪気に微笑み嬉しそうに見えた。


「ことはちゃん。あそこってどこ?楽しい所?」


「うん!私のひみつ基地!まあ…この公園にいたおじいちゃんに教えてもらったんだけどね…

『お前が好きにしていいぞ?』って。」



「えー…?それ私に教えてもいいの?」


「…うーん。おねえちゃんならいいかなーって…」


少しブランコを止めことはちゃんに目を向ける。

可愛らしく頭を抑えて考える。


「…あれ?西園寺じゃん。一人で何してんの?」


ことはちゃんを見つめていると横から声がかかる。


そこに居たのはいつもの制服ではなくトレーニング用のシャツに身を包んだ

「クラスでよく話しかけてくる男子」であった。

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