第4話 AD300年②

 AD300年「緑の村 バルオキー」


「合成鬼竜、ここまで送ってくれて、ありがとう」

「なに、礼には及ばん。また、何かあれば呼べ」

 そういうと、合成鬼竜は飛び立っていった。


「宣伝かぁ。バルオキーで興味がありそうなのはだれだろう…… んー。爺ちゃんに聞いてみるか」

 合成鬼竜を見送った後、アルドはそう言って、一枚の看板を携え自宅に帰った。


「おかえり、お兄ちゃん」

「ただいま、フィーネ。あれ、爺ちゃんは?」

「おじいちゃんなら釣りに行ってるよ。多分、もうすぐ帰ってくると思うけど……」

 アルドが自宅に帰ると、フィーネが一人でリビングにいた。


「お兄ちゃん、その手に持っている木の板は何?」

「ああ、これか?」

 フィーネの疑問に、アルドは看板をくるりと回して絵を見せる。


「わぁ。かわいい。女の子と、お花と、こっちは木の魔物かな?」

 アルドが預かってきた看板は、モナが描いたものらしく、子どもらしいタッチでモナとマクマクが水色の花畑で遊ぶ絵が描かれていた。花畑の奥には、黄色のつんつんとした頭の人型が描かれているので、テリーだろう。

 看板の下のほうには、大人の字で「第1回 ホライ村祭り」の文字と開催日時などが書かれている。


「ホライで祭りがあるから、その宣伝をするために、看板を預かってきたんだ」

 看板を見て歓声を上げたフィーネにアルドが声をかける。

「お祭り…… お兄ちゃんも行くの?」

 看板からアルドに視線を移してフィーネが聞いた。その眼には、期待がこもっている。


「ああ。フィーネも行くか?」

「わぁい! お兄ちゃん、ありがとう!」

 フィーネが嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねた。



「ただいま」

「おかえり、爺ちゃん」

 フィーネが跳ねていると、釣り竿と木製の冷却箱を持った村長が帰ってきた。


「実は、爺ちゃんに相談があるんだけど……」

 村長がフィーネに釣った魚を渡し、一息ついたところで、アルドが切り出した。


「ふむ。何人か心当たりがあるから、わしのほうから声をかけてみよう。アルドとフィーネは同年代に声をかけてみると良いじゃろう」

 アルドの相談を聞き終わった村長は、そう答えた。


「同年代…… ダルニス、ノマル。あとは、ベネディトも月影の森にいるかもしれないな」

「メイさんには、わたしから声をかけておくね」

「ああ、ありがとうフィーネ」


「では、村の者に声をかけに行くかの」

 アルドとフィーネの会話が終わるのを待って、村長は2人を促した。



◇◇◇



「ベネディトは…… 月影の森かな」

 アルドは、ベネディトを探してバルオキーを出た。

 ベネディトよりも先にダルニスとノマルを探していたが、バルオキーの中で会った警備隊員によると、2人は王都に仕事に行っているらしい。

 王都ではエイミが祭りの宣伝をしているので、タイミングが合えば出会っているだろう。


「ダルニスは面倒見がいいから、祭りの宣伝から手伝ってくれてそうだな」

 アルドは自分のことを棚に上げて、幼馴染のことを思った。



 ベネディトを探して月影の森を歩いていると、小径を抜けたあたりで目的の人物を見つけた。

 ベネディトは、ちょうどプラームゴブリンを倒したところだったのか、斧を収める――と見せかけて、アルドに向かって流れるように構える。


「アルドか。背後に立つから誰かと思った」

「はは…… ベネディトはなにをしてたんだ?」

「? 木こりの仕事だが」

「木こりの仕事……?」

 ベネディトの周りには、丸太や枝など木を切り倒したような跡はなかった。代わりに、プラームゴブリンの持っている木盾や、アベストの持っている木製のこん棒は点々と落ちているが……


「アルドは、何をしに来たんだ?」

「あ、ああ。ホライで祭りがあるから、ベネディトを誘いに来たんだ」

「ホライか。腕がなるな」

 ベネディトはそういうとかすかに笑った。

 アルドは、若干の不安を覚えたが、深くは追及しなかった。



◇◇◇



「なんだか、ご機嫌だね!」

 フィーネが武器屋を訪れると、メイは「おーっす」と手をあげていった。

「こんにちは。メイさん。わかっちゃうかな」

「何かいいことあった?」

「お兄ちゃんが、今度ホライ村でお祭りがあるって言っていたの。メイさんも一緒にどうかな?」

 フィーネが嬉しそうにしゃべる。


「ホライで? いいね! アタシ以外にも誰か行くの? ノマルとかも興味あると思うけど」

「お兄ちゃんが、ノマルさんたちに声をかけるって言ってたよ」

「アルドが? じゃぁ、大丈夫か。祭りかぁ。なにもっていこうかなぁ」

 メイとフィーネは、そのまま祭りに関する話題で盛り上がった。



◇◇◇



「お兄ちゃん! 起きて!」

 フィーネの声とともに、シャッとカーテンの引かれる音がして、部屋が明るくなる。


「ん~。もうちょっと……」

 朝日から身を守るように、アルドは布団を体に巻き付けてもぞもぞと動いた。


「もう! 今日はホライ村のお祭りなんでしょ!」

「ん~」

「アルドあ兄ちゃん。だから 二度寝しちゃダメだって」

 フィーネの言葉に、アルドはググっと伸びをして起き上がった。



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