第4話 AD300年①

 翌朝早く、アルドたちは合成鬼竜に戻ってきていた。

 アルドたちの傍らには、祭りを知らせる看板が置かれている。

 一体何時まで仕事をしていたのか、目の下にクマを作ったマーロウとテリーから託された看板は5枚あった。


「それにしても、祭りの開催まで、思ったより期間がないわね……」

「マーロウ殿は、できるだけたくさんの人に来てほしそうだったでござるが……」

「コノ時代の人が集マル場所デスト…… ユニガン、リンデ、バルオキー、ザルボーが良いト思わレマス!」

 悩むエイミとサイラスに、リィカがくるりとツインテールを回して答える。


「4か所か。ちょうど、ここに4人いるし、手分けして宣伝に行こう」

「良い案デス!」

「参加者の移動もあるし、ホライから遠いところから宣伝に行きましょ」


「であれば、AD300年「砂漠の村 ザルボー」がよかろう」

 アルドたちの話を聞いていた合成鬼竜は、そういうとザルボーに進路を定めた。



◇◇◇



 AD300年「砂漠の村 ザルボー」


「千客万来、満員御礼! シッカリ宣伝シテきマスノデ!」

 リィカは1枚の看板を抱えると、合成鬼竜からザルボーに降り立った。


「コノ村デハ、各個撃破が効率的ト判断シマス!」

 リィカは酒場のマスターに頼んで、祭りの告知看板を店の前に置かせてもらうと、村の中を歩いて宣伝することにした。

 ザルボーはあまり一か所に人が集まらないため、道行く人や各戸に声をかけていく作戦だ。


「おや、貴女はリィカさんではないですか」

 村の半分ほどを回ったところで、後ろから渋みのある声をかけられ、リィカは振り返った。

 大きい鞄、使い込まれてはいるものの、丁寧に手入れされている斧。シルバーグレーの長髪を背中で一つにくくった紳士が立っていた。


「ジルバーさん。お久しぶリデス!」

「お久しぶりです。リィカさんは、こちらにどのようなご用事で?」

「「炭鉱の村 ホライ」デ開催スル、お祭りの宣伝中デス」

「ホライでお祭り、ですか。私も参加できますでしょうか」

「是非トモ! 大歓迎デスノデ!」



◇◇◇



AD300年「港町 リンデ」


「ここは、拙者が宣伝してくるでござる!」

 サイラスはそう言って、一枚の看板をもって合成鬼竜を降りた。


「……ふむ。リンデであれば、船着き場、酒場、宿で宣伝するのが効果的でござろう。この時間であれば、船着き場からがよさそうでござるな」


 サイラスは船着き場に向かうと、手ごろな木箱に看板を立てかけ、声を張り上げた。

「「炭鉱の村 ホライ」で祭りがあるでござるよ!」

 サイラスの宣伝する内容にか、サイラス自身にかはわからないが、珍しいもの好きの商人や、子どもに引っ張られてきた家族、そこいらを歩いていた猫たちが寄って来た。


「お、サイラスじゃねえか」

 サイラスが宣伝を始めて少ししたころ、衆人が途切れたタイミングで鋭利な眼差しをサングラスで隠した、獅子のような男――ユーインが声をかけてきた。


「ん。祭り…… ホライか」

 ユーインが、サイラスの隣に置かれた看板を見て言う。


「良ければ、ユーイン殿にも来場いただければ、村人もきっと喜ぶでござる!」

 そう言ってサイラスは闊達に笑った。



◇◇◇



 AD300年「王都 ユニガン」


「じゃぁ、行ってくるわね」

 合成鬼竜がユニガンに着くと、エイミが2枚の看板をもって言った。


「看板が2枚あるし、一枚はお城の騎士団に置かせてもらいましょ。もう一枚は…… 酒場がいいかしら」

 ミグランス城の前に降り立ったエイミはそうつぶやくと、騎士団に足を向けた。


「騎士団に置いてきたほうの看板は…… なんというか、芸術が爆発しすぎてて、何が何だかわからなかったけど。……まぁ、詰め所にいた人には説明したし、大丈夫よね。きっと」

 騎士団に看板を置かせてもらったエイミは、城から出たところで立ち止まって独りごちた。

 よほど不安なのか、「うーん。いや、でも、詰め所にはラキシスも居たし……」とつぶやき続けている。


「次は酒場に行くとして…… その後は、どこで宣伝するのがいいかしら。宿も捨てがたいけど…… やっぱり、王都の入り口かしら?」

「おや? 君は、アルドの……」

 やがて、エイミの悩みがこれからの宣伝方針に移行したころ、後ろから声をかけられた。


 振り返ると、金色の長髪を後ろになでつけたアーチャーと全身鎧の少年――バルオキーの警備隊に属する2人がいた。

「あら、ダルニスとノマルじゃない。」

 王都でバルオキーの警備隊に会うとは思わなかったエイミは、目を丸くする。


「バルオキーの警備のことで、騎士団に報告があってな。オレだけでも良かったが、勉強になるだろうと思って、ノマルも連れてきたんだ」

 驚いた顔のエイミに察したのか、ダルニスが説明してくれる。


「エイミさんは、どうされたんですか? ずいぶん大きな荷物をもって悩んでいたみたいですけど……」

 続けて、ノマルが心配そうに問うてきた。


「ああ、これ? 今度「炭鉱の村 ホライ」で祭りがあるから、その宣伝をしているの。この看板は、酒場に置かせてもらおうと思ってるんだけど…… ユニガンは王都だけあって広いから、他にどこで宣伝をしようか悩んでいたの」

「ホライで祭りですか! 僕、行きたいです!」

「ふむ。どうせアルドがかかわっているのだろう。騎士団への報告が終わってからで良ければ、宣伝から手伝おう」

「ありがとう! 助かるわ」

 エイミとダルニス、ノマルは集合場所などを軽く話し合うと、まずはそれぞれの用事を済ませるべく一旦別れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る