第4話 大変だ!

 モナとマクマクを連れて村に戻ったアルドたちは、モナたちを家に送り届けてから、村長の家を訪れた。


「森を会場に、ですか。……今の住人の数ではちょっと厳しいですね」

 モナが森に入っていたこと、「マクマクの森」を祭りの会場に含められないか、ということを相談したアルドたちに、マーロウは困ったように返した。

「お客様が間違って炭鉱に入ってしまうのも危ないですが、森もこどもやお年寄りには危ないですから……」


 マーロウはひとつうなづくと、決意を込めた強い目でアルドたちを見据えて言った。

「安全確保のためにも、今回は村の中だけでの開催は変えられません」

 そこから、眉毛を少し下げて続ける。

「モナさんには、私のほうから説明しておきます」


「……そう「大変だ!!」」

 アルドがマーロウに同意を返そうとしたとき、村長の家の扉を破らんばかりの勢いで、テリーが転がりこんできた。


「テリーさん。そんなに急いでどうされました? なにか不備でも?」

 膝に手をついて、肩で息をするテリーに、マーロウが声をかける。

 数度、荒い呼吸を繰り返したテリーは、アルドたちに気が付き、ちらりと視線をやるが、すぐに上体を起こしてマーロウを見た。

「客人が来ているところ、割り込んで悪い。ただ、村長……」


 テリーは自分を落ち着けるように一息吐いた後、困った顔でつづけた。

「隣村で祭りの打ち合わせをしていたら、祭りの告知の手紙を頼んだ行商人が、途中で魔物に襲われて荷を落としちまった、って連絡が入って……」

「それは…… 行商人に頼んだものは遠方向けの手紙でしたし、もういまから手紙を出しなおしても間に合わないでしょう……」

「今回は、近くの村とだけでの開催に変更するしか……」

「いえ、でもそれでは……」



「オレたちが宣伝してこようか?」

 困り顔のまま黙り込んでしまったテリーとマーロウに、アルドが提案する。

「リハーサル、楽しかったし、たくさんの人に来てもらいたいわ」

「祭りは賑やかにやってこそ というものでござる」

「東西南北 老若男女 時代を問ワズ、人々は祭りニ夢中!デスノデ」

 エイミ、サイラス、リィカもアルドの提案を後押しした。


「あんたら…… ありがとう」

「アルドさん お祭りの宣伝をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 アルドたちの提案に、テリーとマーロウが頭を下げる。


「ああ、任せてくれ!」



◇◇◇



 マーロウとテリーの声かけで、ホライ村の住人が全員、村長の家に集められた。

 「緊急事態」ということだけで集められたのか、少しざわざわしている。


「急に集まっていただいて、すみません。」

 マーロウが集まった全員を見渡して、話を始める。


「アルドさんたちがいますので、最初から説明します。

 今日リハーサルを行った『第1回ホライ村祭り』は、主催および開催地はホライ村ですが、当日の屋台などは近隣の村にも協力を依頼しています。

 また、どれだけのお客様に来ていただけるかはわかりませんが、遠方にも祭りの宣伝をするべく、行商人に『祭りの告知の手紙』の輸送をお願いしておりました。

 ただ、その行商人の方が魔物に襲われてしまったらしく……」

 どこからか、息をのむ音が聞こえた。


 マーロウは一息ついて続ける。

「幸い、行商人の方は大きな怪我などされなかったそうですが、襲われた際に紛失してしまった荷に『祭りの告知の手紙』が含まれていたようです。

 遠方への宣伝自体は、ここにいるアルドさんたちにお引き受けいただけました」

「ああ、宣伝はオレたちに任せてくれ」

 アルドは、ホライ村の住人に向かって力強くうなづく。


「そこで、皆さんにはアルドさんたちが宣伝するときに使えるようなものを作るのに、ご協力いただきたいのです」

 そこまで言うと、マーロウは頭を下げた。


「あたしたちの村の祭りだからね。もちろん任せとくれ」

 レベッカが声を上げる。


「宣伝…… 祭り当日に、かまど屋に置こうとしているのと同じような看板がいいんじゃないかしら」

「壁にも掛けられるように、紐も付けたほうがいいんじゃないかな?」

 ヒルダとヘンリーが具体案を出す。


「マーロウの次に祭りに詳しいテリーには、もっと別の仕事があるだろう。看板くらいは俺が作るさ」

「ふむ、では、皆の夕食は酒場と宿屋で用意しよう」

「必要なら夜食も作るから、遠慮なくおいい!」

 ゴードン、酒場のマスター、宿屋の女将が自分たちにできる仕事を引き受けていく。


「この年寄りにもできることがあれば、手伝うさ」

「モナも、おてつだいするのー」

「マク―」

 モナとマクマクは元気よく手を挙げた。


「皆さん。ありがとうございます」

 快諾を即答した住人たちに、マーロウはもう一度頭を下げた。



◇◇◇



 看板を作る住人たちと別れ、アルドたちがマーロウとテリーから祭りの説明を受けていると、ゴードンがやって来た。

「ちょっと、テリーを借りていいか?」

「ええ、こちらはもう終わりますので、かまいませんよ」

「わりぃな」

 そういうと、ゴードンはテリーを連れて村長の家を出ていった。


 それから少しして、マーロウからの説明が終わったころ、テリーだけが帰って来た。


「申し訳ないんだが、あんたらにもう一つお願いをしてもいいか?」

「なんだ? オレたちで力になれるなら、なんでも任せてくれ」

 眉を下げて切り出したテリーに、アルドは快諾する。


「看板を作る材料のことで、師匠から相談を受けたんだが…… どうにも村にあるだけじゃ足りなそうでな。こんな時間に悪いんだが、あんたらに足りない分をとってきてほしいんだ」

「任せてくれ。みんなも、いいか?」

「勿論デス! 夜の森モ炭鉱モ、村人ニとってハ危急存亡デスノデ!」

 アルドの確認に、リィカが答え、エイミとサイラスも賛成の意でうなづいた。


「それで、何が足りないのかしら?」

「師匠と村にある材料を確認したんだが、足りないのは、この丸で囲んだ材料だな」

 エイミの質問に、テリーがメモを渡しながら答える。

 メモには素材の名前と個数が書かれ、いくつかは数が修正されたり、素材名ごと斜線で消されていた。

 メモの下部には大きく丸で囲んだ中に、

  ・木材:3個

  ・鉄インゴット:1個 = 鉄鉱石:5個、石灰:5個

  ・紐:1本 = ツタ:10本、綿花:10個

 と記載されていた。


「よし! まずは炭鉱から行こう!」

 メモを見たアルドはそう言うと、仲間たちとともに村長の家を後にした。



◇◇◇



「採掘ナラ、任セテくだサイ!」

 第2の炭鉱に到着すると、リィカは気合を入れて槌を回した。

 カァーン、カァーンとリズミカルな音を立てて鉱床に槌を振り下ろす。


「採掘すると、これぞ「炭鉱の村」という感じがするでござるよ」

「確かに、懐かしいわね」

 人一倍気合の入るリィカの隣で作業をしながら、サイラスとエイミが雑談する。


「ホライ再興の手伝いをしてた時は、ここにもよく来たもんなぁ」

「リィカの他にも、メイやノマルも採掘が得意だったわよね」

「ユーイン殿も上手でござったなぁ」

 アルドも雑談に加わると、一同は和気あいあいと思い出話に花を咲かせながら作業を続けた。



◇◇◇



 鉄鉱石と石灰を採掘したアルドたちは、一度村に寄って採掘したものを置いてから「マクマクの森」に来ていた。

 手には各々、村に寄った際にヘンリーからもらったランタンが握られている。

 夕方にモナを探しに来た時とは違い、鳥たちは眠りにつき、リーンと高い虫の声だけが聞こえる。

 村の明かりの届かない「マクマクの森」は、真暗闇だ。手元に持ったランタンの明かりだけが辺りを照らし、木々の影を作っている。

 エイミは、一瞬木々の間に恐ろしいものを想像しかけたが、慌てて小刻みに首を振って考えを追い出す。


「よし、採集ならオレに任せとけ!」

 アルドは、ワクワクとした顔でツタの取れる植物に近づいて行った。

 体がコツを覚えているのか、ランタンの限られた明かりで薄暗いにもかかわらず、アルドは手際よくツタを採集していく。


「アルドさんガ、水を得た魚のヨウデス!」

「炭鉱でのリィカ殿も、同じような様子でござった」

「ナント!」

「自覚はなかったのね」

 張り切るアルドの横、木材を採集しながら雑談する。


「木材の採集は、ベネディト殿が抜きんでていたでござるなぁ。やはり木こりだから、と言っていいのかは、大いに謎ではござるが……」

「ダルニスは目がいいのか、ツタや綿花を見つけるのが上手かったわね」

「ジルバーさんも、旅慣れテイテ器用デシタ!」

「懐かしいでござるなぁ」

 炭鉱の時と同様に思い出話に花を咲かせながらも、エイミは時折周りを見ては、何かを振り払うようにおしゃべりを続けた。

 サイラスとリィカは、エイミの様子にはあえて触れずに、会話を楽しんだ。



「これで、全部集まったな」

 どこか満足げな顔のアルドが、ツタと綿花を抱えて言った。

「村に帰りましょうか」

「すっかり、遅くなってしまったでござるな。」

 来た時よりも心持ち速足で、さらにはさりげなくエイミを真ん中に配して、アルドたちは村に帰った。



◇◇◇



「ありがとうございます。あとは看板づくりだけですので、アルドさんたちは宿でお休みください」

 アルドたちが看板の材料を集めて村長の家に帰ると、材料を受け取ったマーロウが言った。


「看板、オレたちも手伝おうか?」

「いえ、アルドさんたちには宣伝もお願いしていますし、早めにお休みいただきたいです」

「そうか。なら、お言葉に甘えさせてもらうよ」


 その日、炭鉱の村の家々には普段よりも遅くまで明かりがついていた。

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