第3話 かまど屋_レベッカ

「うーん。このマークはどこを指してるんだろうなぁ」

 村長の家を後にしたアルドたちは、スタンプラリーの台紙を手に話し合いを始めた。

 村長の家の隣――シルビアが生前、森から移植した花々の前で話し合っているため、さぁっと風が通り抜けるたびに、花弁の揺れる音と、かすかな花の香が漂ってくる。

 スタンプラリーの台紙は、線で4つに区切られ、それぞれに簡易的な絵が描かれている。


「花の絵は、この花畑をすと思ったけど…… 誰もいないってことは、きっと、違うのよね」

「これは、橋でござろう。こっちは石…… この絵はなんでござろう?」

 サイラスの疑問に、アルドも「う~ん」うなり、続けて「大きな笠をかぶった、肩幅のひろい、人……?」と自信なさげにつぶやくが、

「コノ村ニ、そのヨウナ人物ハ…… 該当しマセン!」

 リィカにバッサリ切り捨てられた。


 その直後、エイミが、ぱっと台紙から視線を上げていった。

「あ、このマーク、かまど屋じゃないかしら?」

「なるほど! では、さっそくかまど屋に行くでござる」



「あら、あんたたち久しぶり」

 アルドたちがかまど屋を訪れた時、レベッカは腰丈の看板に絵を描いていた。

 看板の上部には長い一本の横線が、真ん中には、短い横線が描かれている。

 下部に大きな二つ脚の机を描き足せば、「かまど屋」のマークの出来上がりである。


「このマークは、レベッカのところでいいのかしら」

「あたしのところであっているよ」

 エイミの差し出したスタンプラリーの台紙を受け取り、レベッカが答える。


「ああ、よかった。あたしのスタンプが一番だね」

 台紙を確認したレベッカが安心したように言ったあと、アルドたちに向きなおる。

「あんたたちの台紙も渡しとくれ。あたしは、奥でスタンプを押してくるから、そこらの鉱石でも見て待っとくれ」


 かまど屋には、この村でとれた精製前の鉱石が、種類ごとに分けて木箱に積まれていた。

 そのうちの一山を見て、リィカがくるりとツインテールを回す。

「良い石デスネ! さすが、コノ村デ採掘サレル鉱石は良質デスノデ」


「それだ!」

 リィカの感想に、アルドが手を打つ。

「この石のマークは鉱石が取れる場所…… つまり、炭鉱を指すんじゃないか?」


「お、気が付いてくれたね」

 アルドのひらめきに、スタンプラリーの台紙を持ったレベッカが家の奥から出てきた。

「あたしのところは、村長の家が近いからね。スタンプもあるけど、参加者へのヒントも兼ねているのさ」


 レベッカから一つ目のスタンプをもらったアルドたちは、次のポイントに向かうため、かまど屋を後にした。

「せっかくだし、次は石のマーク、炭鉱に行こうか」

「ここカラ近いノハ…… 第2の炭鉱デスネ!」



◇◇◇



 アルドたちが第2の炭鉱の前に行くと、そこには酒場のマスターがいた。

 酒場のマスターは、腰の後ろで手を組み、齢を重ねた人物独特の前傾姿勢でゆらゆら動いていたが、アルドたちに気が付くと、あいさつ代わりに手を挙げた。


「ご苦労さん! ここにスタンプはないぞ」

「ナント! 石のマークは炭鉱デハないノデスカ!?」

 開口一番にそういった酒場のマスターに一同は驚き、サイラスは「クワッ」と口を開いた。


 そのリアクションを見たマスターは、少し申し訳なさそうにして、

「いや、炭鉱であってはいるが…… この村にはあと二つ炭鉱があるからな」

 と続けた。


「というか、気になったんだけど、酒場のおやじがこんなところにいていいの? 祭りって、酒場はかき入れ時じゃない?」

「ああ、もちろん、祭りの当日は酒場で腕を振るう予定さ! おまえさんたちも是非飲みに来てくんな!」

 エイミの疑問に、酒場のマスターは「カカカッ」と笑って答えた。


「ここの担当は、テリーさ。ただ、あいつは今日、祭りの打ち合わせで昼から隣村に行っちまったから、代わりに来たのさ」

「なるほどな。よし、次は第1の炭鉱に行くか」

 アルドたちは酒場のマスターに別れを告げ、第1の炭鉱を目指した。

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