第2話 マーロウの依頼
「ホライか。久しいな。あそこで別れた猫は元気にしているだろうか……」
アルドたちは、合成鬼竜にマーロウから手紙が来たことを話し、連れて行ってもらえるように頼んだ。
「ホライの再興を手伝っていた時は、よく行ったよな」
「再興が軌道に乗ってからは、なかなか拙者たちが行く機会もなくなったでござるからなぁ」
「村のみんなは、元気かしら」
「便りガ無いノハ良い便リ! ト言いマスシ、キット無事息災、オ元気デスノデ!」
アルドたちを乗せて、合成鬼竜はAD300年「炭鉱の村 ホライ」を目指した。
◇◇◇
「久しぶりに来たけど、穏やかな村ね」
AD300年「炭鉱の村 ホライ」に降り立つと、エイミが思わず、というようにつぶやいた。
山々に囲まれた炭鉱の村は、最後に訪れた時と同じように穏やかな静けさと、少しの影を含んだ柔らかな光、石畳の足元からくるひやりとした澄んだ空気をたたえていた。
鳥たちのさえずりに交じって、かすかな生活音と、正午過ぎの日差しに温まった空気のにおいがする。
「マーロウに話を聞きに行こう」
なつかしさに大きく息を吸い込んで、アルドは仲間たちを促した。
「アルドさん、みなさん お久しぶりです」
アルドがノックをしてから村長の家の扉を開けると、マーロウ――初めて会ったときは、ともすれば頼りなさが目立つような青年であったのに、今では優しさの中に貫録を備えだした壮年の男性が、穏やかな笑みで家の奥から迎え出てくれた。
「久しぶり マーロウ。 手紙をもらったんだけど……」
「ああ! もう手紙が届いたんですね。」
炭鉱の問題が解決する前にはあった時差が解決されたことを実感するのか、マーロウは嬉しそうだ。
「祭りをすると聞いたでござるが」
食い気味なサイラスの問いに、マーロウはぐっと腕を引いて答えた。
「そうなんです! 村の生活も軌道に乗りましたし、アルドさんたちのおかげで、鉱山の問題も解決しました」
そのままの勢いで、ばっと両腕をひらき、力強く宣言する。
「なので! 今こそ村の歴史に新たな1ページを刻みたいと思いまして!」
「それで、祭りを開催したいってわけね」
「古今東西 人々は祭りニ夢中、集客効果もバツグン。デスノデ!」
エイミがふむっとうなずくと、リィカがくるりとツインテールを回して同意した。
「そうなんです。 ……ただ、村の住民は、祭り、それも村の外からお客様を呼ぶような祭りは、何分久しぶりで」
よほど不安なのか、マーロウは気合の入っていた腕の力を抜き、肩を落とした。
「それで、祭りの手伝いをしてほしいって手紙をオレたちにくれたのか」
「そうなんです」
マーロウはこくりとうなづいた。
「祭りは準備から楽しいものでござるからな」
「もちろん、オレたちにできることなら協力するよ。
それで、マーロウ、オレたちは何をしたらいいんだ?」
ワクワクとしたサイラスの声を聴き、アルドはマーロウに問いかけた。
「実は、祭りの内容は村人全員で話し合って、既に決めているんです。なので、アルドさんたちには、祭りのリハーサルに参加していただいて、村の外の方の意見をいただきたいなと思っているのです……」
「へぇ 楽しそうね」
「そういうことなら、任せてくれ!」
少し不安そうなマーロウに対し、アルド力強くうなづいて見せた。
「ありがとうござます。では、お祭りの概要を説明させていただきますね。」
マーロウはそう言ってから、思い出したように「あ……」とつぶやき、「少々お待ちください」と前置いて、小走りで奥の執務室に向かった。
執務室から戻ってきたマーロウは、数枚の厚紙を持っていた。
「今回のお祭りでは、村の中を回るスタンプラリーを予定しています」
そう言って、アルドたちに一枚づつ厚紙を配る。
厚紙はアルドの手のひらほどの大きさで、紐が通せるようにか、左上に小さな穴があけられ、炭鉱の村ホライ――炭鉱と「マクマクの森」を除いた、純粋な住居地だけの、簡易地図が描かれていた。
「せっかく外から見えたお客様ですから、この村の良いところを知っていただきたいのです。村の中に4か所ポイントがあるので、この台紙の裏に住人からスタンプを押してもらってください」
マーロウの説明に、エイミが手元の厚紙をひっくり返した。
「あれ? これ、場所じゃなくてマークが書いてあるのね」
エイミの疑問に、いたずらっぽく笑いながらマーロウは答える。
「ええ そんなに広い村でもないですから ゆっくり村全体を回りながらポイントを探していただけたらと思いまして。それに…… 私も全部の場所は知らないんですよ」
「じゃぁ、さっそく村を回ろうか」
マーロウの説明を聞き終わったアルドが、そう言って扉に向かおうとするが、「待って」とエイミが止める。
「リハーサルの準備が終わるまで、少し時間を置いたほうがいいんじゃないかしら」
エイミの心配に対して、マーロウはかぶりを振って、
「いえ、大丈夫ですよ。実は、アルドさんたちなら引き受けてくれると思いまして、住人の方には「アルドさんたちが見えたら、リハーサルの準備をしてほしい」と事前に伝えているのです」と答えた。
「合成鬼竜殿は、大きいでござるからなぁ。そういうことなら、さっそく祭りの事前演習を開始するでござる!」
⇒Nextお祭りのリハーサルに参加しよう!
◇◇◇
アルドたちが村長の家で祭りの説明を受けていたころ、モナともちょろけは「マクマクの森」を歩いていた。
マーロウから事前に「空に大きな船が来たら、祭りのリハーサルの準備をするように」と言われていたので、モナは合成鬼竜が見えてすぐに、走ってマクマクの森に入り込んだ。
偶然にもアルドたちが村に来る直前に、テリーは隣村に出かけて行ったので、モナを見とがめる大人もいなかった。
「そんちょーはたくさんのひとに、むらのいいところをしってほしいんだって!
モナは、たっくさんのお花をみてほしいなー」
意気揚々と進むモナの周りを、おろおろとした雰囲気のもちょろけがちょこまかと移動する。
時々、モナの前に回り込んでは「マクマク」と訴えつつ枝を振るが、モナが先に進んでしまうため、はた目には遊んでいるようにも見える。
モナともちょろけは、今回のお祭りで「スタンプをもって村の中を動き回る役割」を担当することになっていた。そう、炭鉱も森も危険があるため、「村の中」を。
そのため、もちょろけはずっとモナに「村に帰ろう」と訴えているのだが……
「モナ、おまつり、おかーさんにもみせてあげたいなー」
「マク…………」
立ち止まらずにつぶやかれた、モナの小さな声を聴いたもちょろけは、村に帰ることをあきらめて隣を歩き出した。
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