第37話 それが、過去と未来を繋ぐ因果

 黒く長い髪……色白のひょろっとした身体は女装されれば騙されそうなほど、整った顔立ちだが、それを否定するようなだらしない態度と言葉遣いは下手な男より猛々しい。


 何よりもその雑な振る舞いながらも、華麗な太刀捌きはそこに居る誰もが目を引くものだった。

 世界が次々と送り込むクリエイトを一匹、また一匹と引き裂いていく。


 「まったくもってきりがねぇよなぁ……たくっ」

 斬った分だけさらに沸いて現れるその化け物に悪態つく。


 後ろを見る……自分の負傷を悔やみ動けずにいる女。

 何故かそれに安堵する自分が居る。

 

 新しい世界で……お前と再び妬み憎まれ旅をする。

 目指す景色は最強への道のりかはわからない。


 それでも……お前と同じ景色をまた見る世界が……


 思いふけるキョウを横切りレフィに襲い掛かるクリエイト。



 「……邪魔をするんじゃねぇ」

 クリエイトの方も見ず、まだ知らぬ未来の景色を眺めるように遠い目で不敵に笑うキョウはここ一番のキレのある太刀筋で横切ったクリエイトを真っ二つにする。


 その生命が……当時存在してたのであれば……ここに居る誰かの変わりに、神奪戦争へ参加していた……それほどの実力がある。

 その太刀筋を見ているタリスとレフィは思った。



 ヒリカと半獣のマイトは二人で一匹を確実に相手にし、クリエイトを仕留めている。



 フーカの周囲に居る化物が一斉にフーカに襲い掛かるが……次の瞬間にフーカの周辺の化物が一掃される。


 アリスは護衛に勤め、イシュトも懸命に応戦はしているが……繰り返し湧き出るように現れるクリエイトの数……世界がイシュトの願いを拒んでいる事がよくわかる。



 「世界が創りし化け物を拒絶しろ……光の刃っ!」

 アスが叫ぶと手に光の剣が現れる。

 アスの言葉通りに創られた目の前のクリエイトを倒すために特化した剣。

 それで、アスも化け物を薙ぎ払っていく。



 青白い光が現れる……

 そこから現れる新しい人影……


 「おっさん……?」

 自分のためにその身を投げ、自分を受け入れてくれた男。

 ブレンが現れる。


 「……アス……」

 その再開に感動したいところではあったが……世界の繰り出すクリエイトにこの場で殺されることは、世界からの抹消に繋がる。


 周囲を見渡す……一部を除き苦戦を強いられている者たち……

 自分同等の力を持つ化け物、また自分以上の化け物を相手にしている者がほとんどだ。


 おっさんの顔を見て……思い出す。

 当初の自分の目的……生きる意味。

 創り出された剣が姿を消す……


 「……魔力解放……」

 周囲の者の身体が光輝く

 

 「……魔力増強……彼等の魔力を支援する」

 俺の魔力は誰かに暴力を振るうものではない……

 誰かの支え……誰かの幸せのために……

 おっさん……もう一度……そう願っていいんだよな?


 「……うん、お前らしい」

 まるで、心を読むかのようにそうブレンは頷いた。


 その近くで懸命に短剣を振るう、イシュトの側に青白い光が3つ現れる。


 「正義の旦那、応戦するぜっ!!」

 出現した矢先、現状を把握する前に目の前のクリエイトへ飛び掛る。


 「やだなぁ、野蛮だねぇ……まぁ、マリさんも仕方なく手をかしてあげる、高くつくよ、イシュト」

 少しだるそうにそう言いながら筋肉馬鹿に続きクリエイトとの戦いに応戦する。



 「私の能力はどちらかと言うと防御なんで、アリス様と協力して防戦に徹しますね旦那様」

 マルが嬉しそうにイシュトに微笑む。


 再びイシュトの側に青白い光が現れると……


 「魔女……魔女の使い……今回は貴様等に協力する、勘違いするな……わたしがお前たちを認めた訳ではない」

 シエルの暮らす未来のため……そのために今は協力しよう。


 レクス……彼もまた違う世界線の男。

 因果で召喚に応じたものの、彼が再び10年後に現れるには、改めて召喚される必要がある。

 主要武器であるギアブレードは、シエルに託してしまった。

 それでも、彼が秘める能力の高さは、並みの人間を凌駕している。


 手にした、一般の武器で目の前のクリエイト達を一掃していく。



 大罪人による異界の力を失った。

 もう次元を断つ能力を持たないイシュトだが……

 アスの支援を受けた事と、また同じようにアスの支援を受けるマリとマーキスの参戦により戦況が少しだけ回復するが……


 それでも無限に湧き出すクリエイトに……次第にそれぞれに疲れが見え始める。




 再び、青白い光が現れ少し離れた場所に現れた少年……誰の因果も感じられない男であったが……

 クリエイトに取り囲まれ震えていた。


 空中から数多の銃弾が振り落ちる。


 「ぼっちゃんに寄るな……化け物」

 また少し離れた場所に現れるメイド服の女性。

 真っ白な壁に叩き付けれた大盗賊の姿は何時の間にか消えていた。


 代わりに青白い光に呼び戻されたメイド服の女性。

 ハレは、震える少年を庇うようにその前に立つ。


 「ハレ……僕はっ」

 再び出会えた女に少年が叫ぶが


 「大丈夫です……例えぼっちゃんに嫌われようと、二度とあなたの側を離れたりしません」

 何時の間にか手にしたマシンガンを両手に持ち乱射する。



 強者が出揃う……それでも湧き上がるクリエイトの数は留まる事無く……

 疲労と魔力の消費が続く。


 そして再び……青白い球体が現れ……そこから一人の少年が現れる。



 イシュトも知らぬ少年……誰の因果があるのか……



 「……レイム?」

 かすかに過ぎる記憶……ナヒトがその名を呼ぶ。

 レジストウェルで出来損ないと呼ばれたナヒトとは相違し、

 レジストウェルで1000年に一度の最強の魔導師と呼ばれた男。


 不幸な事故でその命を落としたと聞いていたが……


 その因果は何処にあった?

 

 フーカが現れた時と同様にその場の空気が変わる。


 ナヒトがレイムと呼んだ男が天に右のてのひらを突き上げると、

 あらゆる場所に魔法陣が出現する。


 その魔法陣から光の柱が次々と天に向かい突きあがると、その光に取り込まれたクリエイトが次々と消滅していく。

 神とまたは、大罪人との因果が有り……送り込まれたのかもしれない。

 その真実はわからないが……


 アス同様にその高い魔力で周囲の支援をしながら……

 それでも有り余る魔力で周囲のクリエイトを一掃していく。



 「マイトッ!!」

 リィラの叫ぶ声。

 アスとレイムの支援により、クリエイト以上の力を得たマイトだったが、クリエイト一体でも厄介な中、二体を一人で相手にしていた。


 クリエイトから伸びた黒い帯がマイトの自慢の右腕と左手を縛り上げその動きを封じ込める。


 「アッ……ウッ……」

 戸惑うマイトだが、さらなる悲劇が目の前に広がる……

 リィラに近寄るクリエイトを目に必死に縛られた身体を動かし助けに行こうとするもその身体がリィラに近寄ることを許さない……


 「ウァーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 その叫び声がその真っ白な空間に響き渡る。


 「……アッ?」

 二輪の雑に詰まれた花が…マイトの左右を風に飛ばされてきたかのように横切る。


 その飛んでいったマイトの後方に青白い光が二つ現れる。


 現れた男と女は、マイトの腕をしまり上げていた黒い帯を、すぐに受け取った支援魔法により切り離す。


 「ヘイ……ケイ……」

 現れた……二人の名前を必死に呼ぼうとする。

 同時に二人の目に映る自分に恐怖をする。


 「最果ての村……マイト騎士団復活」

 ヘインがそう叫ぶ。


 「……マイト、早くリィラをっ!!」

 そんなヘインを他所に自由になったマイトに目の前のリィラを助けるように叫ぶ


 「アーーーーーーーーーーーーッ」

 マイトは獣のような雄叫びを上げ、自由になったその大きな爪でクリエイトの上半身を狩り取る。


 素早く自分の腕を縛り上げていた二体のクリエイトも消滅させると……


 ヘインとケイト………リィラを眺め……

 取り戻せた過去……消せない過去……


 そして……自分の醜き姿に……失ったモノ……


 「アーーーーーーーーーーーーッ」

 そして再びマイトの身体は眩しく輝く……


 大罪人が消滅したせいだろうか……

 そもそも、時間に限界があったのだろうか……

 どうしてか……願いが叶ったのだろうか……


 「マイト……?」

 リィラの声……


 「ごめん……ごめんなさい、僕はどうやって皆に償えば……」

 泣きじゃくるマイト……

 先ほどまで……化け物だった……身体。


 目の前に再びクリエイトが現れる。


 戦うための力を失った。

 

 カランッと短剣がマイトの前に投げ捨てられる。


 「戦って……マイト、10年後の私たちや自分の未来のために」

 そうリィラが嬉しそうに笑っていう……


 「ありがとう……」

 マイトはその短剣を手にする。

 過去に果たせなかった……後悔……


 「ヘインっ」

 そうケイラがヘインに何かを催促する。


 「マイト騎士団……ここに再結成、その最初の歴史を刻んでやろうぜっ」

 そうヘインは叫び


 「うん……」

 もう一度……皆で歩き出す。


 目の前に現れたクリエイトに3人で立ち向かった。



 バサリとクリエイトを斬りおとす。

 支援をされているとはいえ、主要武器を失ってもなお、その男の力は異常な程に高い。

 性格が故に、対人戦を好まぬ彼にこの神奪戦争という歴史の中に刻まれる事の無かった武勇伝。


 神奪戦争なんて関係なかったんだ……

 ずっと……彼女たちの側で助けになりたかったんだ。


 私と言う支えを必要とする彼女たちの側で……

 この世界で不利な立場で行き続ける彼女たち……

 そんな彼女たちの希望で在り続けたいと……

 

 そして……ただ一人……わたしは今、何故ここで戦っているのか?

 どちらかといえば、わたしはこの魔女とその使いを憎むべき存在だ。


 もちろん……理解している。

 わたしは、殺したいほど彼らを憎んでいない。


 私も彼も守るべきものは似ていた。

 ただ、守るものが違った……だからぶつかり合った。


 その結果に過ぎない。


 そして……今……彼が神に願う新しい世界は……

 きっと……彼女たちの助けにもなるのだろう。


 わたしは……再びその世界に訪れる事ができるのだろうか?

 わたしは……再び彼女たちに必要とされるのだろうか?


 クリエイトを斬る。


 「シエル……わたしはいつも君の側にいる……」

 少しだけ寂しそうにレクスは呟いた。




 何時間……いや何日……戦い続けていたのか。

 疲労で軽い立ちくらみを感じながら、イシュトは周囲を見渡す。


 さらに沸き続けるクリエイトを目の辺りにしながらも……


 大丈夫……まだ誰も欠けてはいない。

 そう安堵した瞬間……


 真っ白な空間が再び光輝いた。


 神を取り巻いていた虹色の光が解かれ再びその姿を現す。


 その瞬間……まるでその真っ白な世界が滅ぶかのように……

 世界が作り出したクリエイト達が消滅していく。



 「おめでとう……あなたの言う世界への書き換えは終わった」

 まったくおめでたくないように、神である少女はそうイシュトに告げる。

 


 「……で、この先、私の神である力を失う訳だけど……神の力と大罪人の因果を失った世界で、どう新たな世界を維持しようと言うの?」

 今はまだ神である少女がそうイシュトに告げる。


 全ては無駄であったとそう言いたそうにイシュトを見る。


 「これで……いいんだ」

 イシュトがそう神である少女に言う。


 「……世界に抗い、今この場に立ってくれている事、未来の世界にその想いを繋いでくれる事……皆に感謝している」

 その場にいる全員に向けイシュトが言う。


 「……俺の願いどおりお前たちは、その未来で果たす事のできなかった想いを存分に生きて欲しい」

 そうイシュトが言う。



 「……馬鹿なの?勝手な事ぬかさないで」

 そのイシュトの台詞に違和感をいち早く気づいたようにアリスが言う。


 「世界に抗い勝ち取った……未来だ、それだけの権利、あるだろ?」

 そうイシュトが返す。


 「……ふざけないで、その権利を持つ者にまるで、あなたが含まれて居ないみたいじゃない?」

 いつに無く不安そうにアリスがイシュトへ返す。


 人は後悔をする……

 そして人は学習する……


 その経験の中でこれまでに何を得た?


 幾度と繰り返された失敗と……感謝より増す怨みの数々……

 それでも自分が正義なのだと……そんな欺瞞と自己暗示を繰り返し……


 その犠牲に掲示した、そんな未来さえ実現できなければ……

 本当に俺の正義はなんであったのか……


 この俺という因果はなんであったのか……


 アリス……そしてその娘……

 そして、そんな俺と言う因果に縛られた者たちの想いを未来に託す。



 これまでに……沢山後悔した。

 そうならないように学習もした。


 本当に自分は馬鹿だと思う。


 それでも繰り返すのだ……進むべき未来を彼女たちに託すため。

 未来を託すため。


 今、此処にある因果を守るため……



 「アリス……愛している、娘……イリスを宜しくな」

 そうイシュトがアリスに告げる。


 「……なにを言ってるの理解できないわ」

 アリスが懸命にその言葉を否定する。


 「イリス……最後にの力で俺をアリスと出会う過去に戻してくれ」

 正義こうかいを繰り返す。

 その後悔を……何度でも繰り返す。

 それで誰かを救えるのなら……それが未来に残る因果になるというのなら……


 俺は過去に戻り……再び大罪人になろう。

 幾度だって繰り返してやる。


 神であるイリスはその最後の力で過去に通じるゲートを作り出す。



 「いやよっ!!」

 アリスが叫ぶ……似合わない涙を流し叫ぶ。


 「勝手に救われた事にしないでっ……私の願いに、私が望む幸せには、イシュト、あなたが必要、必要なのっ!!」

 長い年月……ずっとその日のために……彼女もまたこの世界と戦ってきたのだ。


 この歴史の因果……世界に逸脱しているはずの大罪人の存在が、この先の未来の世界には必要だという矛盾。

 

 それで……これまで俺のわがままで犠牲にした者たちを救えるというのなら……

 大事な仲間を救えるというのなら……

 愛する娘を最愛のアリスを救えるというのなら……


 俺はその後悔を繰り返そう。

 もう一度……お前を愛し愛されよう。


 その大罪を受け入れよう。



 「……馬鹿なの、本当にあなたは……私は諦めない……あなたのその自虐的な考え……その正義……あなたのくれた未来で、必ずあなたをそっから引きずり出すから……そして、その頬をひっぱたいて、一生コキ使ってやるわ……二度と、そんな後悔なんてさせてあげない……覚悟してまってなさい」

 アリスはイシュトの胸元でその涙を隠しながらそう告げる。


 「……あぁ、待っている……」

 そうイシュトはアリスに告げ……一人ゲートに向かい歩き出す。


 この先にある俺の未来かこがどんなに残酷なものかを知っている……

 それが、どんなに愚かな行為かも知っている……


 それは……一度経験し学習したのだから……


 ようやく、そんな世界から抜け出せるチャンスを捨て、

 再び……振出へ帰る。


 愚かな選択だ。


 だが、そこから産まれる因果……それが俺の大罪せいぎだ。



 「魔女の使い……感謝する」

 魔王の異名を持つアス……ゲートへと向かう途中、隣を横切ったアスがそうイシュトを呼び止める。


 「俺が……国一つ滅ぼし、それまでに手がけたこの力の罪は消えない……それでも……俺はもう一度……この力で誰かを救いたいと思う」

 アスがそうイシュトに言葉をかける。


 「あぁ……お礼を言うのは俺の方だよ、ここに辿り着く架け橋を作ってくれたのは君だ」

 そう言って初めて互いに笑い合った気ががした。




 「……今回は素直に感謝します」

 メイド服のハレの横を通り過ぎる。

 ぼっちゃんとの再開……それに素直に感謝を示す。



 「……そして、来る日に……10年後の世界にあたしがあなたに出来る事があるのでしたら、必ず力になりましょう」

 どっちの性格が本当の彼女なのだろう。

 少し疑問に思ったがイシュトはありがとうと返し再びゲートに歩き出す。




 「魔女の使い……」

 レクスの横を通り過ぎる。


 「……貴方のその自分を貫く生き様に賞賛する……私にもそのような生き方ができれば良かった」

 そうレクスが言葉にする。


 「……俺もあなたを賞賛していた……その正しい正義とそれに担うだけの力に……」

 そうイシュトが返す。


 「貴方が作った10年後の世界に、もしも私が再び踏み入れる事が出来たのなら……貴方とはライバルとしてではなく、友として……語らえる日があればと願う」

 そうレクスが言葉にする。


 「……あぁ、お互いに正義を語りつくそう」

 レクスの求めた握手に応じ、再びゲートを目指す。




 「私やキョウ以上の馬鹿を久々に見た……」

 タリスの身体に寄りかかるように座っているレフィの横を通る。


 「感謝する……あんたを見ていたら私たちのような馬鹿が生きてもいいのかなと少しだけ思えてくる……10年後の世界……そこで貴方たちと同じ景色を眺めていられると信じている」

 そうレフィがイシュトに言葉を送る。


 「あぁ……本気であんたにだけは勝てる気がしない」

 そうイシュトは返すとゲートを目指す。




 「ありがとうございます」

 マイトの横を通り過ぎる。


 「……僕がここに皆と居られるのは貴方のお陰なんだとそう思います」

 頭の整理は追いつかない……ただ……

 消せない過去を引きずりながらも、やり直せるチャンスを与えられた。


 「……いいや、君がここに居るのは、君の強さだよ」

 イシュトがそう返す。


 「何が出来るかはわからない……それでも僕も10年後の世界で貴方のために出来る何か……この恩を返して見せます」

 そうゲートへ向かうイシュトの後ろ姿に話しかける。




 「自己犠牲……実に魔女の使い、貴様の出した正義らしい答えだの」

 フーカが通りかかったイシュトに言う。


 「……そう険しい顔をするな、割と我も賞賛している……言葉だけでその答えに辿り着く者はそう多くない……」

 そうフーカが笑いながら言う。


 「あぁ……俺もあんたの自分を貫く力強い言葉は結構身にしみていたよ」

 その言葉に少しフーカは気をよくするように笑う。


 「……だがな、魔女の使い、自己犠牲できれいに貴様の正義を語り終えることは賛同できぬな……貴様のその賞賛されるべき正義、それは貴様自身を救って初めて、人は貴様の正義に賛同し自分もそんな正義の味方になりたいと評価する……後、一歩だ……10年後、きっとこの馬鹿が我をこの世界に召喚する……よかろう、10年後の未来、我がその一歩を手助けしてやろう、魔女の使い」

 そうフーカは嬉しそうに語る。


 「頼もしいな……」

 因果……彼女、彼らに未来を託す……

 



 「イシュト……し…しょう……」

 ヒリカ……


 「私……あんたをそうさせないために……ずっと……もうこんな事を続けさせないために……私はっ!!」

 ヒリカが必死に叫ぶ。


 「あんたの後悔をずっと……側で見てきた……あんたが裏切られ絶望する姿をずっと見てきた……それを誰よりもその身で学習したあんたがどうして、それをまた繰り返すんだっ」

 呪い……大罪人に深く関わったその呪いは……アリスたち同様にずっとこの世界が書き換えられる姿を見届けてきた。

 その中、幾度も失敗と裏切りを繰り返されるイシュトを見てきた。

 これまでに、語られていない悲劇を誰よりも見届けてきた。


 それをまた初めからやり直す?そんな馬鹿な話があるのだろうか。


 「ありがとう……ヒリカ……そして……許して欲しい……俺は、過去に戻り、きっと……再び君を犠牲にする」

 大罪人になるため……俺は再び、多くの者を犠牲にする。

 いろんな者を不幸にし……その大罪を背負うことになる。


 その後悔と大罪こそが……未来を繋ぐ因果に変わる。




 ゲートを潜る。


 今、涙ながら別れを告げた白い髪の少女が不思議そうに振り返り、ゲートを通り現れたイシュトを不思議そうに見ている。


 「……本当に過去に来たんだな」

 周囲を見渡しそう実感する。


 そして簡単なやり取りをする……そして、幾度目だろうその言葉をアリスへ告げる。


 「……アリス、君をこの世界の呪縛から解き放つため……世界の終わりから君を助けに来た正義の味方だ」

 繰り返される……因果。

 

 これから、長い長い……悪夢が始まる。

 どんな結末が待っているのか……俺は知っている。

 それでも……俺は……望んでそれを受け入れるしかない。


 未来に送った彼等の因果を繋ぐため……


 俺は、お前たちを犠牲に……再び大罪人に成り下がる。


 これが今の俺に成し得る最大限の正義なんだ。





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 「よっとっ」

 マコは自分の身体と同じくらいのリュックを背負うとそのリュックの重さでお尻からドシンと尻餅をつく。


 「いたたた……」

 置いてけぼりにされた、今……自分の知らないところで何が起きているのか。

 彼は知ることができない。


 この世界から神が消える最後の日……イシュトがマコに託した願い。

 それだけが、今のマコを動かしている。


 もともと、マコはアリスの本体が作り出した幻影とは関係がない。

 アリスの幻影が、故郷である廃墟を拠点とする際に、見つけた子供だ。

 

 そんな、マコにイシュトは、イリスと言う娘を探して欲しい。

 もし、アリスよりその少女を見つけたら、できれば一緒に居てあげて欲しいと頼まれた。


 「イシュトと約束した……イリス、マコがお前を見つけてやるからな」

 何処にいるかもわからない……何処に向かえばいいのかもわからない……

 それでも、マコはイシュトに託された願いを叶えるため、誰かもわからぬ人間を探し旅を続ける。




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 神奪戦争終了した10年後……



 オーガニストにある魔道具店。


 魔法道具と言えばレジストウェルという国の特権とも言われていたが、

 突如、開店した小さな店。

 店番にはミレーナと言う女性と10歳になったばかりの可愛らしい娘であるキノ。

 工房には、ブレンとアスが忙しくも楽しそうに働いている。


 ブレンとアスは……神奪戦争から年を取らずに10年後の世界に送り込まれたため、周りが10歳年を重ねているが、彼らはあの日のままだ。

 元々、ブレンとミレーナは年の差のある夫婦ではあったが、少しだけ年上になったミレーナであったが、自分とアス以外は、もともとミレーナが年上であったと世界の記憶が改ざんされていた。


 そんな魔法具店に二人の若い女性が訪れる。


 「この間、買ったランプの魔力が切れちゃって」

 そうきゃっきゃと騒ぐと、キノの顔が一気に不機嫌になる。


 魔法道具、ブレンとアスが懸命に開発する魔術回廊によって様々な道具を作っている。

 その動力源は魔力で有り、それらの補充はアスが担当する。


 彼女たちは、突如店を開いた店の好青年のアスに会うことが狙いだ。


 魔力を補充するため、工房から姿を出すアスに、女はきゃっきゃと騒ぐと、

 キノは立てかけてあったほうきを手に持つと、頭上で器用ぐるぐるとまわし、アスと二人の女性の間に割って入る。


 「不用意におにーちゃんに近づくなっ!!」

 ホウキの先を女性二人に向ける。


 「こら、キノ……お兄ちゃんのお仕事の邪魔をするんじゃないよ」

 そう、ミレーナがキノを叱る。


 そんな様子をブレンは優しく笑いながら見ていた。




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 「あれーーー、魔力0のナヒト君じゃないのぉ?」

 性質の悪そうな3人組がナヒトの前に現れる。


 10年後の世界……

 自分と同い年であろう3人組だが、ナヒトからしてみると10歳年下であるとも思え複雑である。

 彼が懸命に爪あとを残した歴史ではあったが……

 神が居なくなった世界……改ざんされた世界。

 そこで残された、彼の歴史はやはりナヒトを崇めるものや、恐怖するような話ではなく、彼が召喚した者による歴史だった。


 そして、そんな彼女も敗北した歴史が語られている。


 それはナヒトにとって屈辱で不本意な歴史ではあったが……

 

 探している……彼女を召喚するための宝石……

 再び……彼女に会うために。


 その宝石を求めて訪れた店から出た矢先、絡まれた。



 「他力本願で……歴史に名を刻んだとか調子こいちゃってんじゃねーのぉ」

 煽る男の言葉を聞き流す。

 

 「それに……なにこのきたねぇーマフラー」

 ナヒトのまいているマフラーに手を触れる男。


 「がっ……」

 温厚に済まそうとしたナヒトだったが……

 不意に掴まれた首に男が声を出せなくなる。


 「汚い手でこれに触るなっ」

 命より大事なもの……ナヒトは間違いなくこのマフラーをそれと言える。

 それに軽々しく触れた男の首を掴み……そう言い聞かせ、解放する。


 「うわっ……」

 3人の男はそのナヒトの威圧的な目に臆して逃げ出した。


 「お前と再び会うためなら……近道などいらない……例えこれから更に10年後の未来になろうと……僕はその過程で得た経験でお前に肩を並べるに相応しい男になってみせる」

 そっと、そのマフラーに右手を添え、そう言い聞かせた。




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 ミストガル……こちらにも数年前から現れた小さな医療所。

 魔法医学が進行する中で……薬草などの医学で経営をしている。

 成り立っているのか不明ではあったが……

 

 王家の家計を捨ててまで……10年間知識を積みあげてきた。

 センという男。


 今日も一人もこない客に、早いが店を閉めようとした矢先、

 バンっと扉が開かれる。


 「セン、センって医者はここに居る?」

 一人の女性が、別の女性を担いで現れる。


 センが客の方に目を向ける。


 正直……この日はこないのではないかとすら思っていた。

 王家を捨てた全ては無駄になるのではとさえ思った。


 「セン……レフィ、レフィを救ってくれっ!!」

 10年前のままの姿のタリスとレフィ。

 もちろん、彼の記憶には……自分だけが年老いたという記憶は無い。

 10年前にタリスと約束した記憶すら曖昧な記憶にすりかえられている。

 それでも……まるで自分の使命であったかのように、彼の顔は真剣なものになり……


 「奥のベットに運べ、すぐに手術に取り掛かるっ!」

 まるで、この日のために準備していたというばかりに手際よく、薬草を取り分けセンは準備に取り掛かった。



 その……診療所の外。

 長い黒い髪の男が退屈そうにあくびをして……


 「大げさだねーーー、ほっときゃ、2、3日でケロっと回復してるだろって」

 そう呆れたように言う男。

 その男の手にはロープが握られており、そのロープの先にはそのロープに縛られた一人の男。

 魔法治療医学のトップクラスの人間が彼の手により拉致されている。

 彼女たちが信頼を寄せる男に取り合えず託すが、もしも彼の手に負えそうにない場合の保険をキョウは立てていた。



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 小さな小屋。

 そんな場所に不釣合いなメイド服の女性。


 ハレは少年に黒焦げの料理を出す。


 「なぁ……ハレ、もう少し火加減考えろよ」

 少し呆れたように少年が言う。


 「安全を考え、火はよく通すべきです」

 真顔でハレが答える。


 「……だからって、これじゃかえって身体に毒なんじゃ」

 そう呟く少年に。


 「……作り直します」

 料理を下げようとしたハレの手を遮り、


 「……これでいい」

 そう少年が言って料理を食す。


 その少年の隣に置かれたノート。

 さきほどまで、懸命に何かを書き綴っていた。


 「その……ぼっちゃんの物語、結末はあるんですか?」

 そうハレが少年に尋ねる。


 「……あぁ……」

 そう言って、少年が生唾を飲み込み何かを強く決意する。

 不意に何かを持った手を後ろに隠す。


 一度、命を落としたハレの記憶の一部は欠落している。


 彼のノートの内容は知らない。


 もちろん、今から少年から送られる言葉を今のハレは知る余地も無い。




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 アクレアにある古びた教会

 白い髪の少女……16才にまで成長したシエル。

 

 彼女は難しい顔をしながら力む。

 懸命に魔力をコントロールしている。

 背中からエメラルド色の魔力が羽根状に広がり、彼女は自由に空を飛びまわる。


 レクスが彼女の身体に取り込ませた、魔具のギアブレード。

 その力を体内に取り込んだ彼女は、まだ能力の半分も使えないまでも、

 少しずつ器用に力を使っていた。


 今はこの力を借り、仕事を引き受け教会に貢献している。


 でも、最終的な目的はやはり……ナヒトと同じ。

 レクスを再び召喚する。


 「レクス……もう一度、レクスがこの場所に帰ってこれるよう……今度は私が、リースと皆を守るから」

 そう胸の中に居る誰かに呼びかける。




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 「マイトっ!」

 金髪のきれいな女性……

 懸命に素振りをしていたマイトに話しかける。


 「リィラどうしたの?」

 ようやく、その存在に気づいたように手を止めて顔を向ける。


 「お腹空かせてるんじゃないかって思ってっ!」

 両手に拳をつくり、両脇に当てながら30度ほど腰を曲げた角度で逆ハの字でマイトを見上げるリィラ。


 「あっ……そういえば」

 言われて気がついたように、マイトのお腹がぐぅと鳴いた。


 「まったく……集中するとすぐ回りがみえなくなるんだからぁ」

 まぁ…それがいいところだけどと聞こえないように付け足す。


 取り出した籠からサンドイッチを取り出すとそれを二人で食べ始める。



 「もーらいっ」

 不意に現れた手にサンドイッチが一つ取られる。


 「あっえっケイトさん?」

 急に丁寧な口調でリィラが言う。


 「いいよ、私にもため口で……」

 そう言いながら、むしゃむしゃとサンドイッチにかぶりつく。


 「それより、わたしも諦めてないから……サンドイッチより大事なものうばっちゃかもよ」

 意味ありげにケイトがリィラに笑いかける。


 「ねぇ、マイトっお昼休憩終わったら、私と稽古しようよ」

 そうケイトがマイトに話しかける。


 少し面白く無さそうな表情をしながらも……どうしても気になってしまう。


 「サンドイッチ食べます?」

 疎外感がたっぷりの男性にリィラがたまらず話しかける。


 「……邪魔だったかな」

 ヘインが寂しそうに呟いた。



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 「よいしょっと」

 大きなリュックを背に男が立ち上がる。


 10年間ずっと旅を続けてきた。


 未だに見つからない女性。


 「イシュト、アリス……俺が必ず見つけるからな」

 「イリスを見つけて、二人の元に必ず送り届けるからな」



 因果は続いている。



 イシュト……その因果はきちんと未来に繋がってる。



 アリスとイリスと……俺とイシュト……

 

 お前とまた……この世界で……


 えっ……どうして?


 そうだな……


 「イシュト……お前の作ったハンバーグがもう一度食べたい」

 そうマコは呟き、イリスの居場所を求め、新たな場所に向け歩き出した。


 



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 世界の最果て……


 全ての始まりと終わりの場所……


 全ての闇は消え去り……空から黒い水が流れてもいない。


 この世界から怨みが消えた訳じゃない。


 それを受ける大罪人が消えた。



 泉はかつてのアリスの記憶と同じで泉はきれいに透き通った色をしている。


 そこから少し離れた場所にある祭壇……

 そこにアリスとマリ、マルティナとマーキスの4人は居た。


 10年後の未来……

 今……ここにある記憶が正しいものであるのであれば、

 この身体は過去の自分が生み出した幻影で、本当の自分は最果てのあの場所で、

 大罪人と一緒に燃えて消えている。


 だが……自称正義の味方は、その神の最後の願いで、

 自分と因果のある者をこの10年後の世界によみがえらせた。


 だが……その因果を結ぶための大罪人が不在となった世界で……

 その願いは、10年後のこの世界に届く事はないはずだった。


 この世界を確立させるための因果……

 自称正義の味方……その男の長い歴史の中の後悔……この世界への大罪……

 それが、この10年後の世界を造りだせる唯一の手段。


 そして……私たちがここに居る理由。


 「本当に馬鹿……一緒に存分に後悔したはずじゃない……一緒に学習してきたはずじゃない……」

 泉の中央……自分の結界を足場にアリスはそう天につぶやく。

 今より遥か過去に戻ったアイツはきっとこの場所に愚かにもまた世界に囚われているのだ。

 

 私たちがここに居られるのは、あの馬鹿が愚かにも過去に戻りその自己犠牲を成功させたから……彼が望んだこの世界は造られた。


 祭壇を離れ、マリ、マルティナ、マーキスの元へ戻る。

 再び、祭壇を振り返る。


 かつての私は……ここであの馬鹿と出会い、あの馬鹿に恋をする。

 今の私からすれば……あの馬鹿は、当時の私ではなく……この世界の私たちしか見ていなかったのかもしれない……そう思うと少しだけ複雑に思えてしまう。


 知っている……


 「姫ぇ……?」

 祭壇を振り返り泣いているアリスを心配そうにマリが呼びかける。


 知っている……

 あの馬鹿はその結末を知っている未来……

 守れないとわかっている私たちを、諦める事無く懸命に救おうとしてくれた事。

 こんなに捻くれる前の私を、本気で愛してくれた事……知っている。


 あの日の記憶のように……また彼が祭壇から現れるんじゃないか……

 そんな期待を何処かでしていたのだろう。


 涙を拭い、再びアリスは正面を向き直す。


 「長い……旅になる、みんな、ついて来てくれるかしら」

 そうアリスが告げる。


 「……この世界から、私の愛する人を救い出すため……力を貸して」

 そうアリスが3人に告げる。


 「はい、お供します」

 彼女なりに感傷に浸っていただろうマルティナが涙ながらに言う。


 「……数多くの強者を見てきたが、本気で惚れた、憧れた男は正義の旦那あんただけだぜ」

 そうマーキスが言う。


 「……イシュト、あんたはすでに、私たちファミリーの一人だかんな……一人かっこよく犠牲になろうなんて、マリさん許さないからな……地獄に落ちようがなんだろうが、今度は私がそこからあんたを救うよ……待ってな」

 そうマリが祭壇に向かって言った。


 方法などわからない……

 それでも、その馬鹿をきっと……この私たちの居る世界に連れ戻す。


 そして、あの馬鹿を……この私に心配させた馬鹿を一発ひっぱたいて……


 その後は私に生涯愛され……その生涯わたしを愛しなさい……


 


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 そして、世界は遥か過去に巻き戻る……



 


 闇に沈む……


 記憶が朦朧とする中……


 前方に闇を照らす一つの光が見える。




 僕に救いを求める手……




 辞めろ……


 辞めろ……これ以上後悔するな。




 あぁ……お願いだ、僕に君を救わせてくれ。


 僕は……助けたい。




 僕は僕に関わる全てのモノを助けたいんだ。




 それができるのであれば……


 僕はもう一度後悔をしよう。


 僕はもう一度学習をしよう。





 だから、何度だった繰り返す。


 何度失敗しようと繰り返す。




 さぁ……新しい世界の始まりだ。




 記憶は淀んでいく。


 


 世界の怒りに触れた僕の身体はもう限界だ。


 これが最後になるかもしれない。


 それでもいい。


 僕は僕の化身をそこに送る。




 それが、僕がこの世界と神に触れ授かった、


 唯一、今を抗う力だから。




 あぁ……光が見える。


 僕は懸命に手を伸ばし、闇へと抗った。




 それが……過去ぼく未来なかまを繋ぐ……因果せいぎ



 


 神ノイルセカイーーーーー【完】-------

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